233: 弥次郎 :2022/02/23(水) 22:14:27 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「The Wild Arrows」3【改訂版】
「オペレーション・アヴェンジ」はイギリスから見て南方、つまり欧州大陸だけを守ったわけではなかった。
欧州最後の人類の生存圏であるブリテン島は合計で4つのハイヴに包囲されている形であるからだ。
特に東方、H08 ロヴァニエミ・ハイヴから出現したBETA群の進路は西を向いていた。
すなわち旧スウェーデンやノルウェーを乗り越えて、人類の生存圏であるイギリスめがけて進み始めたのだ。
スカンジナビア半島からブリテン島本島までの間は北海という巨大な海が横たわっている。
しかし、BETAにとって海というのは侵攻の速度を落とす要因とはなっても、侵攻の妨げとなりうる要素たりえない。
ただ、人類からすれば距離の防御を得られるほか、水中のBETAに対してはほぼ一方的に攻撃できることからある程度は歓迎できることでもあった。
ともあれ、防衛線はスカンジナビア半島の沿岸を艦砲を主体として攻撃するのと、爆雷投射によるBETAの漸減。
そしてブリテン島本島における上陸地点での水際防御という形で実施されることになった、はずだった。
だが、この従来の常識に合わせたプランに対し、大西洋連邦は戦力の供出と新たな防御の展開案を提示した。
即ち、戦力を二か所に展開してのBETAの駆逐、である。
一つはスカンジナビア半島西岸に接近、艦艇およびAFによる艦砲射撃による漸減、および艦載機に排除である。
光線級による被害が懸念されたのであるが、ここで提示したのがC.E.世界産のアンチレーザー爆雷であった。
日本列島においても活用されたそれは、重金属雲などとは比較にならない効果を発揮できる。
空母と戦艦などを要する艦隊を送り出しても光線級による被害を出さない自身があると、大西洋連邦軍は豪語したのだ。
そしてもう一つが、水中での迎撃である。
これについてはイギリス側、EU側はピンとこなかったのであるが、要するに水陸両用機による海中での迎撃であった。
確かに戦術機の中には水陸両用のA-6 イントルーダーという機体が存在している。しかしながら、これは基本的に「水中行動ができる」だけだ。
イントルーダーの仕事となるのは母艦から発して強襲揚陸を行い、その火力による支援を主眼としているのであり「水中戦闘はできない」のだ。
しかし、MSや水中用MTなどが充実している大西洋連邦軍は水中でBETAに対して一方的な迎撃ができるというわけである。
無論、爆雷投射のラインとはある程度距離を保つ必要がある。とはいえ、水中行動機の存在の有無は切れるカードの枚数に直結した。
そして、半信半疑ながらもEUは前面での、スカンジナビア半島西岸での防衛を抜けてきたBETAの排除の担当を依頼。
これに大西洋連邦海軍は大喜びであった。何しろ、C.E.世界においては海軍の出番というのが実に乏しかったためだ。
無論、今後海を主軸にしてくる侵略者がいないという保証がないために予算などは出てはいたのだが、基本は宇宙や大気圏内が主眼。
その為に海軍というのはどうしても優先順位というものが下げられざるを得なかったという事情があったのだ。
ともあれEUは異様にテンションの高い彼らに半分引きつつも、ある程度成果を出してくれればと考えていた。
しかし、そんなEUの打算的な配置は見事に功を奏することとなる。
C.E.地球での憂さを晴らすがごとく、大西洋連邦海軍は奮戦。フォビドゥン系列を主軸に、海域制圧用型のトリロバイトまでも投入して迎撃を実施。
その容赦のない迎撃、いや殲滅は海の表面をBETAの体液で真っ赤に染め上げるほどで、味方であるはずのイギリス海軍を恐怖せしめた。
234: 弥次郎 :2022/02/23(水) 22:16:11 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 β世界 客観1999年9月14日 スカンジナビア半島西岸上陸地点
スカンジナビア半島西岸の天気はビームおよび砲弾、時々ロケット。そんな有様であった。
ラピュータから株分けされたユニットが沖合に停泊しており、そこから36センチ対空砲による砲弾の嵐が押し寄せてくるBETAの群れに次々と突き刺さっていくのだ。
同時並行で対空ビーム砲による水平射撃も放たれることで、多少の地形や大型種などもまとめて蒸発させていく。
光線級による迎撃ももちろん放たれているが、アンチレーザー爆雷によるアンチレーザーフィールドの形成もあって、悉くが失敗している。
それらに加え、イギリス海軍艦艇による砲撃も続行されており、大地を埋め尽くさんとするBETAの群れを上陸地点よりもっと内陸で処理しつつあった。
そして、確保された上陸地点には上陸艇などを活用して戦術機やMSなどが順次展開、大雑把な砲撃の撃ち漏らしのBETAの排除に取り掛かっていた。
入り組んだフィヨルドの存在していることもあり、海中に飛び込まれたり、あるいは稜線の陰に隠れて見逃してしまうということもある。
とはいえ、後方には目の色を変えてBETAの撃破を担当する大西洋連邦海軍が控えているわけであり、ついでに言えばEUの海軍も控えていた。
そういう意味もあり、この防衛ラインは張りつめた緊張感ではなく、程よいそれに満ちた状態で戦闘が継続されていた。
「抜けてくるのは小型ばっかりだな……」
その小型種のBETAを掃討するために開発されたA-10AサンダーボルトⅡのコクピットで、アドリアヌス・デ・ブラーン少尉はぼやく。
いや、実際のところ、それなのはありがたいことなのだ。36㎜ガトリングを両肩部に装備するこの戦術機は特性上突撃級などに弱い。
防衛線向きの機体であるがために機動性は優れているとは言い難く、突撃級などに有効な自衛火器は突撃砲の120㎜に限定されてしまうためだ。
そしてその大型の装備と干渉するために突撃砲は手持ち分しかなく、尚且つリロードにも副腕が使えないというハンデが付くのだから。
それよりも、とアドリアヌスは大西洋連邦軍から派遣されてきたMSという兵器に目を向ける。
(反則だろ、あれは……)
自分が36㎜を撃ち込む先、戦車級のほかにも突撃級や要撃級が混じっているライン。そこでMS---ウィンダムは迎撃を行っていた。
文字通り、飛び回りながらのすさまじい軌道をしながらだ。舞い踊るとはまさにあれのことかと思うほどに。
光線級の射線に入らない程度の、しかし、突撃級や要撃級に引っかからない丁度良い高度を飛び回っている。
片手で光学兵器を、もう一方の手で光学兵器の近接格闘武器を持って、ものすごい勢いて排除している。
射線に出るなど本来ならば自殺行為なのであるが、そんなことは問題ないとばかりだ。
お陰で抜けてくる戦車級以下だけに注視できるのでありがたいのであるが、やはり目はそっちに行ってしまう。
『なんか、調子が狂うな』
『楽だし助かるし……役割分担で来ているのはいいことなんだけど……』
同じくサンダーボルトⅡの衛士たちは、なんとも複雑な声で通信を交わす。
前衛のMS達が大型中型の数を減らし、撃ち漏らした小型種を自分たちが掃討して、蹴散らす。
それが理想的であるというのはよくわかる。MS達は機敏に飛び回り、一撃必殺といえる光学兵器で次々とBETAを蹴散らしてくれるのだ。
だからこそ、本来ならば危険の伴う強襲上陸からの防衛線構築、しかる後に押し寄せてくるBETAの排除という流れをスムーズにできた。
更には後方から信じられない量の艦砲射撃による援護もある。これで勝てないという方がおかしいくらいか。
だが、なんだか複雑だ。勝てているのに、あまりうれしくない。
(と、いけないな……)
そろそろ36㎜の弾数が心もとなくなってきた。
主兵装のガトリングモーターキャノンは追加弾倉ありとはいえ、撃っていればいずれ弾切れとなるのは必然だった。
「こちらメテオ5、そろそろ36㎜が減ってきた。後退を進言したい」
『メテオ7も同じくです』
『普通ならまだ続行するところなんだけが……どうなるかな?』
『こちらHQ。交代要員が向かっている。到着次第、帰投し補給と簡易整備を受けよ』
『メテオリーダー了解。聞こえたか?後続が来るまでしばらくここを支えるぞ!』
『了解!』
何とも余裕のある指示だ。基本的にBETAの大規模侵攻を受けているというのに、こうまで余裕があると違和感さえある。
何時もの間引きならば、常に先頭で消費する弾薬やBETAの動きに気を配り、薄氷の動きさえ必要とされるのに。
「腕がなまるな、これは」
そう呟きながらも油断なく武器を前方に向け続ける。楽であるからと言って油断は許されないのだから。
235: 弥次郎 :2022/02/23(水) 22:17:33 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
アドリアヌスらメテオ中隊が補給のために後退し、代わりの部隊が前線に到着したのと時を同じくして、大西洋連邦軍は前線の押し返しを開始した。
それは、前線のラインを維持している間に先遣隊に続く後続部隊の準備が整ったためである。
MSや遊撃戦力として飛び回るネクストなどだけではない。内陸侵攻も可能なランドクラブの用意が整った、ということでもある。
グランディーネも少なからず艦載能力はあるのだが、やはりランドクラブには劣るところがある。
当然、そこに艦載されているのは陸戦戦力であり、ついでとばかりに乗せられてきたEUの戦術機群であったりする。
実は、上陸作戦と並行し、AFから発艦したネクストや可変飛行MSが旧ノルウェーから旧スウェーデンまで長距離侵攻攻撃を行っていたのだ。
V.O.B.などを装着して絶大な火力を展開できたそれらは、光線級をものともせず大地ごとBETAの群れを蹂躙していたのだ。
それにより、濁流のごとき侵攻をしていたBETAの流れに停滞や空白が生じ、前線を押し込む余地が生まれる。
そして、それを観測して確認できたために、前線部隊はより奥地へと踏み込んでいくのだ。
内陸へと前進する部隊の目標は旧ノルウェーとスウェーデンの国境である。
未だに健在であるスカンジナビア山脈のぎりぎりのラインまで押し返しつつ、本隊はオスロを目指す。
正確にはオスロという都市が存在しているオスロフィヨルド周辺を制圧・奪還することが目標なのである。
その立地はとても重要だ。巨大なフィヨルドによる良港が存在するわけで、そこの制圧・奪還は今後の北欧戦線の流れを大きく変える。
入り組んでいるどころか虫食いの西岸よりも、遥かに船舶の出入りなどがたやすく、おまけに大量の物資の揚陸にも向くのだから。
陸路、空路、海路の3つから攻め込んだEUおよび大西洋連邦軍の攻勢に対してBETAは物量を活かしきれずに前線を下げざるを得なかった。
斯くして、9月14日の夜にはオスロ周辺のBETAの掃討を完了、さらには拠点化まで完了させることに成功したのであった。
- β世界 客観1999年9月15日 夜明け前 オスロ仮設拠点
『緊急速報、緊急速報。BETA群接近。数は推定数万。地下からの振動を探知ことから地下侵攻と並行してと思われる。
当直機は直ちにスクランブル。管制に従い対処せよ。繰り返す……』
「スクランブル!?」
「BETAの反撃か!早すぎるぞ!」
「回せー!他の衛士もたたき起こせ!」
しかし、BETAは何も諦めたわけではなかった、ように見えた。
明けて15日の未明、仮設拠点が設営されたオスロに突如として大規模な集団が押し寄せてきたのだ。
それも当時はまだ未確認だった大型種「母艦級」を前面に押し出すという大攻勢だった。
これまで受けた大攻勢に対する反撃と言わんばかりのそれは、地下から懐の内側に突如として集団を送り込むという反撃をとってきた。
これに慌てたEUであったが、散々テレポーテーションに苦しめられていた大西洋連邦および企業連合軍の戦力が対処できた。
ご丁寧に探知がしやすい地上と地下からの侵攻であり、懐に潜り込んだとはいえ、あくまでそれだけにすぎない。
既に日本列島においてその存在が確認されていたということもあり、地中へ振動を感知するセンサーの敷設は最優先で行われていたのだ。
加えて、通常の戦術機ならばともかくとして、MSにとってみればBETAなど数しかない相手にすぎない。
母艦級も戦術機の攻撃ならば容易くはじくとしても、生憎とMSなどがその枠には収まらない。
実弾もそうであるし、ビームなどの光学兵器ともなればいかに固い外皮と言えども貫通され、ダメージを受けてしまうのである。
斯くして、多少の犠牲者と施設の破損こそ発生したものの、侵攻してきたBETAの排除は数時間とかからず完了。
このオスロ仮設拠点はこのまま堅守され、オペレーション・アヴェンジ完遂を以て最前線基地として稼働を開始することとなる。
- 融合惑星 β世界 客観1999年9月22日 イギリス近海 アヴァロン級群体型AF「ラピュータ」
「というわけで、オスロ防衛はそれから作戦完了の日まで続いた。
新種の前にしたときは本気で死ぬかと思った……あっけなくMSが処理したがな」
「どんなふうに?」
「近接長刀みたいのを装備したMSがな、まとまってとびかかって……全身をやたら滅多に串刺しにしたんだよ。
勿論、他のMSも集中砲火を浴びせまくっていく。動きが止まるまで何度もな。あれはもうBETAの方がかわいそうになったくらいだ」
「うわぁ……」
その様子が想像できたのか、話を聞いていたカミラらは顔をしかめる。
236: 弥次郎 :2022/02/23(水) 22:18:42 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
「ともあれ、BETAも数を吐き出したが、それ以上に撃破したせいなのか、最後には何も送り出してこなくなったな。
それでもって戦線は安定。防衛ラインが引かれて、作戦完了となった」
「北欧戦線にくさびが穿たれたわけか」
「ああ、まったくどでかいものを撃ち込んだもんだ。
これで北欧での戦いはスカンジナビア山脈という要害を生かした防衛線に完全に変わっちまった。
聞いたところじゃ、戦略も戦力配置もまるっきり変わることになって大わらわなんだとさ」
ため息とともに、アドリアヌスは締めくくった。
「まあ、流石にそこまで戦力を置けないから、現状は大西洋連邦軍に任せている形なんだけどな。
とにかく、数が足りなさすぎる。一方面だけならばともかく、多方面で快進撃をしすぎた弊害って奴か」
「でしょうね。あとから聞いた範囲だと、オランダとベルギーの解放も完了して防衛線を構築したって話だし。
ついでに、近いうちにスペインとポルトガルも解放予定だっていうんだから……」
「とんでもない物量だな、まったく。うらやましい限りだ」
結果的に言えば、アドリアヌスが経験したことも、これまでの二人と同じようなことであった。
圧倒的な力を持つ友軍と共に戦い、圧倒的な楽をさせてもらって、見事に勝利を勝ち取ることができたという形になる。
ただ、戦闘はともかくとして、その後の戦略という意味では大きく想定を超えてしまったということまで共通してしまっているか。
「私たちみたいに『出戻り組』がいるといっても、その数には限界があるし、まだ軍隊として動かすには問題あり。
かといって、いつまでも他国に戦線を任せきりじゃ面子もつぶれる。厄介な話ね」
「国連軍や米軍は駐留を打診しているって話だが、当然跳ね除けられたそうだしな」
「そりゃそうよ……上から下まで反発しているわ。今更何をしに来たって」
「同感です。僕のいた中隊、元国連軍や元米軍所属もいましたけど、その人達さえ怒っていましたしね」
そう語るワイルド・アロー小隊の面々も、全員が出戻り組だ。のちに跳躍者と呼ばれることになるが、そのように呼称されていた。
その数は衛士だけでも十数万人を軽く超える。BETAとの交戦の最中に死んだと思ったらいつの間にか、というパターンが散見されている。
各国の衛士だけでなく、国連軍や米軍の兵士だって混じっていた。にもかかわらず、上部組織は末端の兵士たちを見捨てた。
戻るための輸送艦や輸送機にそんな余裕はない、という理由で。
「あー、そろそろやめにしません?なんか悪いことを考えると気分良くないですし」
「……そうだな」
そこで流れを切ったのはシャルルだ。彼自身、思うところは山ほどある。特に米軍と国連軍に対しては。
けれど、いつまでも文句を垂れてもしょうがないのだ。
「じゃあ、最後に小隊長のカーザ大尉、お願いします」
「そうだな……」
最後の衛士、ヴィットーリオ・デッラ・カーザ大尉は椅子の上で一度腰を据え直す。
小隊を編成する中で元々の階級が一番高く、年長ということもあって、小隊長に抜擢されている。
何しろヴィットーリオはミンスクハイヴ攻略作戦に参加していた衛士なのだ。ヴォールク・データの得られた戦いといえば、衛士ならば多くが知っている。
本人としては常識が古いから、と固辞したのであるが、簡単に階級は下げれないので、そのままとなってしまっているのだが。
「じゃあ、俺の話でも始めようか。
俺が配備されたのはオランダ戦線。海に飛び込んでくるBETAを海を背後にして数を減らす戦線だった。
ま、流石にF-5じゃ前線ははれないってんで後方組だったが……それでも内陸に踏み込んだ。ちょうど、ゾイデル塩原だった」
それは、かつてのBETAへの戦線の名残。
アムステルダム北部に広がる、かつての干拓地の成れの果てだ。
オランダはオランダ人が作った、と言われるように、元々海だった土地を干拓し、陸地として国土を広げたのがオランダだ。
それ故に大地といっても大地は海面より土地が低い場所がざらにあり、人々の生活は常に水と海水とに近い距離に存在していた。
逆に言えば、その海水を押しとどめている堤防を一度破壊すれば、膨大な量の水が流入し、一気に物が押し流されるという寸法である。
オランダ本土が放棄された際に行われたこれと、その後のBETAの地形の平坦化により、今は塩の台地が広がっている場所でもある。
「風情のない場所で女っ気もない場所だった。それ以上に……」
あそこは常識外の世界だった。
至極真面目な顔で、ヴィットーリオは口火を切った。
237: 弥次郎 :2022/02/23(水) 22:19:22 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はこちらをお願いいたします。
サクサク改訂していきますよー…
最終更新:2022年02月28日 11:08