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憂鬱SRW 融合惑星編 マブラヴ世界SS「The Wild Arrows」4【改訂版】
- C.E.世界 融合惑星 β世界 客観1999年9月14日 旧オランダ ゾイデル塩原 最前線
旧オランダからのBETA侵攻は、優先的に排除すべきものであった。
カレーやカーンなどと比較すれば遠いにしても、それでもイギリス本土に近いのが旧オランダだ。
衛星によればBETA侵攻が始まったと確認されたときにはすでに入水が確認されており、その阻止は急務と言えた。
故にこそ、大西洋連邦軍は用意していたカードを切ることとした。すなわち、テレポーテーションアンカーによる強襲である。
地上の戦力をゆっくり動かすよりも早く、衛星軌道上から直接放り込むことで即座に戦力を展開させるという手法だ。
無論のこと必要な後方支援が到着するまでは半ば孤立だが、それでも当座の間だけでも進行を受け止められるというのは大きいのだ。
オランダに限らず、フランス北部においても先遣隊を派遣するために行われた。
先行してテレポートによって直接叩きこまれた質量弾によってBETA先頭集団は圧殺することもできた。
同時に、宇宙から急遽駆け付けた連合の部隊が即座に展開することとなった。
そして、彼らに任された任務はそれにとどまらない。あとからくる上陸部隊のための上陸地点の確保。
さらに言えば、BETAとの最前線を欧州大陸内部に押し込むことにある。
『広いな……ここが栄華極まりしオランダの姿か』
『BETA侵攻を阻止するため、最後の最後に堤防を決壊させて海水を流入、本土全体を飲み込む濁流を起こした、と。
そのおかげで撤退までの時間を稼ぎ出したって話だ』
『そして、その後はこの有様……悲しいもんだ』
そんな会話がされているのは、ゾイデル塩原に展開したMS中隊の一つ---ウィンダムを主力とするローグ中隊だった。
背部のジェットストライカーの推力により圧倒的な速度で塩原をかけつつも、その銃口はその先、カメラがとらえているBETA集団に向いていた。
先頭に突撃級、中衛に要撃級、そしてさらに後方に光線級や要塞級という後衛により構成される集団。一言で言えばそれは醜い集団だった。
傍若無人に、周りに一切目をくれず、ただただ目の前の標的めがけて襲い来る津波のような敵。
『まさに侵略者っていうか、敵対的って感じだな』
『侵略者の尖兵……意志も希薄で、まるで命令を受信して動くロボットですね』
『有機体なんだろ?』
『だからと言って意志があるとは限りませんよ』
ともあれ、と中隊長は命令を下す。
『各機、全火器使用自由。栄えある一番槍ってやつだ。
シミュレーションではBETAなんぞ俺たちの敵じゃない。ぬかるなよ!』
『了解!』
β世界客観1999年9月14日午前9時21分、ゾイデル塩原にて戦端が開かれた。
のちのオランダ奪還までの一連の戦闘が始まったのだ。
塩原を飛ぶウィンダムたちの砲火は、遠距離からすでに開始された。
接触から1か月の間もあれば、大西洋連邦軍もBETAについての情報を受け取り、解析し、確かめる猶予を得られる。
そして、シミュレーション上においてはその能力の「低さ」というのは一般に認識されることとなった。
確かに頑丈な外皮や外殻を持ち、移動速度などでも恐ろしいと言われているBETAであるが、C.E.世界という基準からすればさほどでもないのだ。
『撃て!』
そして、一斉に火砲が火を噴いた。
伸びていくのはビームの光条。そしてそれらは、戦闘を突っ走る突撃級のみならず、集団の中衛まで丸ごと貫通する一撃となった。
勿論、一発撃って終わりではない。可能な限り数を減らすべく、次々とビームライフルの一撃は放たれていく。
打つたびにあっけないほどに簡単にBETAが沈み、その火力でもって数はどんどん減っていく。
『存外、柔らかいな』
『楽ができそうだが……』
事実として、ウィンダムによる射撃によりBETA集団は一方的に排除されていた。
全高などの点から戦車級などは射撃から逃れられていることもあるが、全体としては数が一気に減らされていく。
それでもBETAは一撃で動かなくなる味方の死体を乗り越え、前進を重ねてくる。あるいは、射線が開けたことで光線級がこちらを捉え始めていた。
『食らうなよ!』
『わかっていますって!』
当然、そのBETAの動きは理解している。回避運動をしながらも、ウィンダムの反撃は的確に光線級を排除していく。
理論上は低出力レーザーにすぎないことから装甲を破ることはないとはわかっている。だが、当たるのも間抜けな話だ。
BETAの必死の反撃を潜り抜け、MS達はさらに前進していく。
293: 弥次郎 :2022/02/24(木) 19:12:01 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
だが、どんどん前進していく中で、中隊の端のポジションにいるパイロットが即座に異変に気が付いた。
BETAの集団の動きが変化した。ひたすらに直進していた動きから、進路を変えた。正確に言えば、直進から包囲へと動いたのだ。
『中隊長、BETAの集団、こちらを包囲しにかかってきています!』
言いながらも、射撃は包囲を作ろうとするBETAの排除を優先していく。
うっとおしいほどの数。確かに高威力のビーム兵器などで排除できても、それ以上に押しつぶそうとしてくれば流石に困る。
『ああ、こっちでも確認している。平押しだけじゃないか……いや、それ以上に』
中隊長とて知っている。BETAは如何なる能力故か、高度なコンピューターや精密機械を探知して、優先的に襲ってくるのだと。
それならば、MSに誘引されてしまうというのも無理からぬ話だと思う。MSの挙動を管理するコンピューターは精密機器の塊だ。
それこそうんざりするほどの量と質の物が詰め込まれ、その挙動を管理し、制御するために働いている。
BETAの動きはこちらを包囲、それこそ集団の端が大きく迂回し、左右、そして後方に回り込んで囲い込むような動きだ。
こちらは飛行できる以上、迂闊に高度を下げなければ憑りつかれることもないだろう。
(だが、それじゃあ困るわけだ)
なぜMS隊が即応として出されたのか。
それは後方に展開中の砲戦MAなどの展開までの時間を稼ぐためだ。
テレポーテーションアンカーで下ろされてきたといっても即座に動けるわけではない。
地形やこの融合惑星の重力や大気の流れ、あるいは惑星としての形状など、あらゆるデータが効果的な砲撃には必要となる。
そして大量に消費する弾薬の積み下ろしと準備なども済ませたうえで、ようやく事前準備が完了する。
『各機、踏み込みすぎるな。どうやら、俺たちにご執心のようだ』
下手に動きが取れなくなると、今度は砲撃に呑み込まれることになる。
なればこそ、動きは慎重にならざるを得ない。
『ピーター、航空戦力の支援は?』
『すでに要請してあります。包囲が狭まっても我々だけなら耐久出来ますが、効果的な空爆を期待するならば……』
『やむなしか……しばらく排除を続けた後、後退する。航空支援が出るまでは粘っておけ。うまく釘付けにできるようだしな』
『了解』
『後、他のMS隊にも伝えておけ。まあ、独自に判断しているだろうしHQもそう指示を出しているだろうがな』
そして、その中隊長の判断は正しかった。
旧オランダのさらに内陸からBETAの集団が前進。展開しているMS隊をも飲み込まんとする物量を展開してきたのだ。
その数は光学観測によれば40万を下らない数。それだけの量と勢いを伴っていた。
確かに耐えることはできたかもしれないし、戦い続けることもできただろう。だが、それは効率的とは言えない。
それしかないならばやるしかないといえば、やるしかないだろう。だが、そんなものに固執する理由は一つとしてない。
『HQより展開中のMS隊全体に通達。これより、空戦MS隊による空爆および砲戦MAによる砲撃を実施する。
各隊は射線及び爆撃エリアより至急離脱せよ』
そして、その通達がなされてからきっちり5分後。
展開を終えた砲撃型MAによる斉射射撃、およびTMSを主軸とする空爆が実施。押し寄せてきたBETA群を丸ごと飲み込み、焼き尽くした。
294: 弥次郎 :2022/02/24(木) 19:12:56 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 β世界 客観1999年9月14日 旧オランダ 上陸地点
「派手にやりすぎだろう、あれは……」
小隊を任されているアドリアヌスは、呆然とその様子を見るしかなかった。
彼だけではない、他の衛士も、通信越しにそれを確認する通信兵たちも、あるいは報告を受ける後方の司令部も、呆然としていた。
焼き尽くす。まさにそれだったのだ。
上陸を果たした自分たちの後方、相乗りしてきた機動要塞(AFというらしい)は爆音とともに砲撃を放って前線に弾を放り込んでいく。
さらに前方、戦術機を超えるサイズの大型兵器が展開しているのが遠目にも見え、これまた爆音と爆炎を前線に創り出していく。
上を見上げれば、航空機とは少し違う奇妙な造形の飛行物体が飛び回り、空爆や対地射撃を繰り返しているのも見える。
それに対してBETAの光線級が必死に反撃している様子までも、だ。
それらを統合してわかることは、これまでのBETAとの戦いとは比較にならない戦闘、いや最早蹂躙が起こっているということだった。
『フロートリーダーより、HQ。作戦内容についてだが……』
『こちらHQ……ただいま、大西洋連邦軍との間で作戦内容についての照会を行っている。現在地を確保し、待機せよ』
『待機?』
『大西洋連邦軍が想定以上の働きをしているため、事前の戦力配置が意味を成せていない。
迅速すぎる対応でこちらが置いて行かれている状態だ!』
「おいおい…置いてけぼりにされるってどういうレベルだ」
フロート大隊の大隊長とHQの通信が聞こえてきたが、それもまた常識外の内容だ。
友軍が強すぎて、こちらの出る幕がなくなっている、とは?理解がまるで追いつかない。
『事前の想定を超えているってことでしょうか?』
『いや、そこも含めて打ち合わせていたはずだぞ。急な侵攻とは言え……』
『どうだろうな……まさか、大西洋連邦軍が強すぎてって話じゃ……』
あり得る話だ、と一人頷くしかない。
前線からこちらに抜けてくるBETAの群れはほとんど確認できないし、問い合わせても同様だ。
それに加え、機動要塞からは次々と大西洋連邦軍の戦力が現れて、最前線めがけてすさまじい勢いで向かっていく。
何から何まで、全てが常識外といっても過言ではない。この状況も、友軍の奮戦も、そしてBETAとの戦いの流れさえも。
「いや、本当にどうするんだコレは……」
そんな言葉は空しくF-5のコクピットブロック内に響いていた。
味方が強すぎてやることがない。BETAもこちらに押し寄せてこない。それどころか前線が果てしなく遠いところまで押し上げられた。
欧州連合軍に属するフロート大隊は、この後大慌てで駆け付けた大西洋連邦軍の輸送機が来るまで、待機をする羽目になったのだ。
295: 弥次郎 :2022/02/24(木) 19:15:24 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- 融合惑星 β世界 客観1999年9月22日 イギリス近海 アヴァロン級群体型AF「ラピュータ」
「そしてやってきた輸送機に拾われて前線に行ったはいいんだが……もうあらかた片付いていてな。
ああ、翌日には母艦級にもぶつかったんだが、これまた簡単に処理されていた」
つまるところ、言い訳が立つ程度の活躍にすぎなかった、とアドリアヌスは締めくくる。
実際、そうならざるを得なかったというのが正しいか。
旧オランダ方面軍は進撃よりもオランダの確保と堅守を主眼としたために、作戦行動のほとんどをそこで終えてしまったのだ。
アドリアヌスの言う通り、母艦級による地中侵攻も行われたのであるが、新種の出現以上の効果は発揮しえなかった。
「それは……なんといえばいいのかしら……」
「遠慮なく言っていいぞ。全く役に立てなかった。そういう結果になったんだ」
言葉に詰まるカミラにアドリアヌスは半ば笑いながらいう。
一応はオランダ領奪還の一翼を担った、ということになっている。
だが、実態としては大西洋連邦軍におんぶにだっこだ。その後にBETAの進撃が止まるまでオランダを守った以外は碌に働いていない。
「でもまあ、余裕はあったからな。
大西洋連邦軍の奴らと話をしたり、実機を見せてもらったりと、いろいろと経験はできた。
それで分かったことは……」
一息入れる。
「あんな光景が異常でなくなるほど、大西洋連邦ってのは、そして地球連合は多くの戦いをこなしてきたってことだ。
それこそ、俺たちが必死にBETA共と戦っている以上の激戦を、潜り抜けているんだってな」
「異常が異常でなくなるほどの……」
「呆れるくらいの侵略者が押し寄せてきたんだとさ。
それだけじゃない。人間の間でも馬鹿な連中が湧いて世界規模でテロを起こしたり、犯罪を起こしたり、仲間割れしたり……」
はぁと深くため息をついて、呟くように漏らす。
「俺たちは、まだ狭い世界で、小さく生きている。
けど、それだけじゃいられない。そう思う。
聞いたこともあるだろ?この世界は、もう元の世界じゃないってのは」
「融合惑星、でしたっけ?」
「パッチワークみたいな、継ぎはぎだらけの惑星になっているんでしたっけ?」
その言葉に、アドリアヌスは頷いた。
「そうだ。俺たちの暮らす世界の外に、また地球みたいな世界がたくさん広がっている。
あげく、この世界にも地球があるっていうんだからな」
まるで出来の悪いフィクションだ。しかし、まぎれもない現実だという。
「俺たちは、身の振り方を考えなきゃならないってことだな。
勿論、BETA共をぶちのめしてから、だがよ」
それは紛れもない本音だ。
これまではいつ破れるかわからない平穏にしがみつき、されども戦いに赴いていた。
米軍も国連軍も尻尾を撒いて逃げ出し、自分たちだけでBETAの空前絶後の大群と戦うとなった時は特にそうだった。
けれど、今は違う。状況が、世界が大きく変わったのだ。良い方向かどうかはまだわからないにしても。
「というわけで、俺の話は終わりだ。さて、次といこうか」
次。それは、話す順番というわけではない。
それは時系列的に見て次、ということ。つまり、自分たち小隊を含むEUの今後を、特に軍事面での話に移ると、そういうことだった。
296: 弥次郎 :2022/02/24(木) 19:16:33 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
一先ず改訂は終わりですかねぇ…
第五話は改訂箇所がないので、次の投下は第六話となります
最終更新:2022年02月28日 11:09