614: 弥次郎 :2022/02/26(土) 23:17:07 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「食べたい、止められない」




  • 特地 企業連拠点 リンクス専用ラウンジ



「ジャンクフードが食べたい」

 その声は、特地の連合の拠点、リンクス専用のラウンジに生まれた。
 吐き出したのは、日企連所属のアマツミカボシだ。
 魂というか、心からの気持ちのこもったその声は、極めて切実で、必死ささえ感じ取れた。
机に肘をつき、顔を手のひらに埋めた彼は、迸る感情のままに言葉を生み出していた。
時間はちょうど休憩時間、分かりやすく言えば午後三時のおやつの時間。丁度小腹がすいてきて、何か口に入れたくなる頃合いなのである。

「ミカ君もですかー……私もですー……」

 そして、その声に賛同するのは有澤重工所属の鴨川桜子だ。
 彼女はべたりと机に突っ伏し、口から魂が抜けているかのような状態でぼやく。
 彼らの姿は、とてもではないが企業の抱える高位戦力にはとても見えない。
戦場では一騎当千の働きをし、圧倒的な暴力ですべてを焼き尽くす山猫の姿は、ここにはない。
ここにいるのは、まるで体重管理のために絞りに絞った食事メニューと生活を強いられていて、精神的に来ている年相応の人間だ。

「あ゛ー…ジャンクで、健康に悪くて、あのいかにも!な味が……」
「油マシマシ…砂糖たっぷり…塩まみれ…」

 無理もない話だ。
 彼らリンクスは、間引き・休憩・訓練・教導というローテーションをずっとこなしている。
どれ一つをとっても力を抜いていいわけがなく、精神的にも肉体的にも酷使される。
 無論、ちゃんとバックアップによるメンタルケアや肉体のケアを受けているし、食事も管理され、体調管理などはしっかり行われている。
されども、きっちりと厳正な管理を受けるがゆえに、その分のストレスが発生してしまうのである。
健康になるための行動が不健康を呼ぶ、ストレスを抑える行動がストレスを呼ぶという、ある種本末転倒的なモノだ。
無論のこと、アマツミカボシも桜子も我慢をしているし、代用の間食などを食べるなどして紛らわせている。
普通ならば、ありえないかもしれない。何しろ、アマツミカボシなど銀の匙を加えて育っているいわゆるお坊ちゃまだったりするのだし。
桜子にしても、一般家庭出身ではあるにしても、途中からその手の英才教育を受けるようになったのだ。
即ち、そういった庶民が味わうようなジャンクな味というものをほとんど知らないままに育つのが普通なのである。普通ならば、だ。

(転生者ってこういう時に不便ですよねぇ……)
(あの味が忘れられない……まさにソウルフードなんだよなぁ)

 そう、彼らは転生者。
 時代と輪廻の輪を超えてもなお、その記憶を引き継いでいる者たちである。
 いわゆる現代、21世紀という時代を生きた人々が多いがために、そのころの文化風習が根底に染みついているのである。
これは転生を経ても変わることのない、魂のアイデンティティーとさえ言えるかもしれない。
もし彼らがリンクスのような立場でなければ、砂糖たっぷりの炭酸飲料と油と塩いっぱいのポテチなどをかっ食らっていたことであろう。
当然、椅子に座ってお上品になどではない。寝っ転がって貪り食うのである。袋ごと傾けて口に放り込むなどグッドだろう。
あとはPCとスマホとTVがそろっている環境ならばなおのことグッド。自堕落最高。おこもり最高である。
ネットサーフィンしながらサブスクでアニメ見ながらぼりぼりとやりたいところである。

615: 弥次郎 :2022/02/26(土) 23:18:03 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

「でも、桜子さん……僕たちは食べられないですよね」
「……ですよねぇ」

 しかし、そんなのは立場や環境が許さない。
 そもそも、リンクスというのは体調管理の面で食べるものをきっちり管理されている。こっそり食っても科学の目は逃しはしない。
いや、食べてしまえば(精神的充足な意味で)勝ちなのでその後のお小言を聞き流せばよいだけなのだ。
 だが、問題となるのは如何にしてそれを調達するか、なのだ。ここにきているのは仕事のためであるため、過度な私物の持ち込みは許可されていない。

「誰かに頼んで買ってきてもらう……のは無理ですね」
「迷惑かけちゃうのは駄目ですよ」

 そう、一般の要員向けのPXは用意されているので、そこに行けば買うことはできる。
 さりとて、決済は現金ではなくて生体情報と連動するカードか端末で行われることになっている。
これにより、いつどこでだれが何をどれくらい買ったかの記録が残ってしまうわけである。
だから、自分たちが風体を変えて買いに行ったところで即座に顔が割れてしまい、善意から買い物が拒否されるのは十分ありうる。
無理を言って誰かに買ってきてもらうのも手段としてはあるが、それはそれでリンクスの健康を損ねかねないとその誰かもお小言を食らうことになる。

「あー…食べたい、食べたい……けど不謹慎と言われそうだしなー…」
「言うばっかりじゃなくて、食べる方法を考えましょうよ……」

 しかして、桜子をなだめるアマツミカボシにも考えがあるわけではない。
 どう考えても行動には人の目が付くわけであるし、どこかで必ず足が付くことは必定。
 仮に自分達が食べたいといったところで、出されるのは厳正に管理されている「おいしいがおいしくない」ジャンクフードだ。
 自前で作る、というのも一瞬頭をよぎるが、それも結局食材が必須なわけで、調理する場を用意することも合わせると無理がある。

「どうにかして……あ」

 ふと、アマツミカボシの頭に考えがよぎる。
 確かに、連合内において調達することは極めて難しいかもしれない。
 だが、逆に言えばそこの外側にコンタクトをとって調達してもらえば、問題なくありつけるのではないか、と。
そのわずかな可能性に気が付くことができたアマツミカボシの鍛えられた脳みそが回転を始める。
この現環境において、欲しいものを手に入れ、ありつけるかどうか---本能的な要求をかなえるべく、フル稼働を開始したのだ。

「……駄目だな」

 だが、その考えを数秒で棄却する。
 平成世界の兵士たちの慰労も兼ねて、双方から料理などを持ち寄ってパーティーというのを考えた。
 しかし、タイミングが悪すぎる。今は戦時だ。不謹慎と取られかねない。それに相手方に話を通すにしても、結局誰かの目に触れることになる。
それに相手もこちらをもてなそうとして相応のモノを用意するだろう。そこにポテトチップスなどというものが介在する余地はない。 

(せめて、あっちの世界で買ってきてもらうリストに入れておくくらいはしようか……)

 自分たち以外にも、この手のジャンクフードとか食べたがる人はいそうだし、と端末をポチポチ捜査して、上申書にちょっと書き足しておく。
自分達でさえそうなのだから、夢幻会の上層部の人間などどれほど食べたがっていることだろうか、などと考えながら。

616: 弥次郎 :2022/02/26(土) 23:19:15 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • 特地 企業連拠点 オフィス



 企業の重役も兼ねる大空流星のオフィスに、桜子とアマツミカボシの姿があった。
 その用向は普段の教導の状況や間引きの報告などを受けるついでに、先だっての上申書の内容について聞くためであった。

「なるほど、平成世界の食べ物を食べたい、と……」
「ちょっと魂に潤いが欲しいかなって……」
「根詰めているので、癒しが欲しいです」

 後輩二人の嘆願は真剣だった。
 流星とて、二人がふざけて書いて提出していたわけではないことくらいはわかる。
実際のところ、前線だけでなく後方においても重要な仕事を任せている関係上、リンクス達傭兵はかなりの負担を強いられているのだ。
前線で戦うのと、後方で教導任務に就く。さらに自分たちのトレーニングも行う。そして合間に休息などをとる。
見事に負担がかかるな、と改めて思うしかない。実際、流星自身もかなりハードワークを強いられている。
彼らリンクスを統括する立場であり、同時に一人の兵士としても前線で戦っているのだから。

(余剰戦力が乏しい中での動員をした弊害か……)

 これは連合全体でもいえることだ、と流星は口の中でつぶやく。
 融合惑星の出現とそこへの派兵。さらにMDシナリオの進行への対処。そしてこのファンタジー世界への対応。
精鋭戦力はもちろんのこと、通常の戦力も予備戦力も動員されて駆けずり回っている最中だ。
というか、普段は各地に張り付けている戦力から余剰を引っ張ってきて対処しているので、ぎりぎりのラインといえる。
 だが、どの戦線もスポットも重要個所であるからこそ、手が抜けないのだ。
 この特地にしたって、抜かれれば大洋連合のど真ん中に直行だ。
 故にこそプレッシャーや負担が増している。それも、夢幻会メンバーですら許容しかねるほどに。

(本来ならばタケミ君にも休暇を取らせるべきところだったのに出てきてもらっていますし……)

 せっかくの慶事の直後にもかかわらず、タケミカヅチと篁唯依には来てもらっている。
 それ以外にも、それぞれの事情などを取り上げていけばきりがない。

「……わかりました」

 その言葉に、リンクス二人は敏感に反応した。

「何かしらの理由をつけて、あちらから買い付けましょう。
 せっかくですから本国へのお土産も兼ねて」
「それってつまり……!」
「はい、食べられますよ。ジャンクな食べ物。
 あっちの世界に貸しはあっても、借りは何一つありませんからね。こちらの我儘は聞いてもらいましょう」

 直後、流星は耳をそっと手で覆う。

「ひゃっはあああああああああああああああああああ!」
「やったぜぇぇぇぇえええええええええええ!」

 予想通り、二人の叫びがとどろいた。
 こりゃあ相当溜まっていたな、と苦笑するしかない。
 幸い、このオフィスの防音はばっちりなので、よそに迷惑が行くことはないだろう。

「ただし……ちゃんとリンクスとしての対面は守ってくださいね」
「もちろんです!」
「ちゃんとします!」
「それじゃあ、業務に戻ってください。はしゃぎすぎないように…」

 そして元気よく退出していく二人。オイオイ大丈夫か、と思うがこれでもいいか、という諦めがついた。
 これくらいのことで元気とやる気を取り戻してくれるなら安いものだ。

「……まあ、私も食べたかったですしね」

 何があるだろうか、と思わず楽しみになるのは流星もまた同じなのであった。
 戦いは好きだが、こういう楽しみも欲しくなるのは、まるで子供の様だ。
 だが、悪くない。そう思うことにした。

617: 弥次郎 :2022/02/26(土) 23:19:58 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
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今日はもう寝ます。
返信は明日。
ジャンクフード!食べずにはいられない!

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最終更新:2023年10月15日 00:50