396: ホワイトベアー :2022/02/25(金) 11:04:52 HOST:157-14-173-202.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
日本大陸×ワールドウィッチーズ
第一話 夢幻会の憂鬱

欧州を主な舞台とした第一次ネウロイ大戦集結からはや20年の月日が流れ、平和な日々により大戦が残した凄惨な傷跡はすでに癒えつつあった。

大陸を挟んだ反対側に位置する欧州の異国より伝わった小規模な怪異との戦闘の報も世界の安寧を揺るがすことはなく、世界の大半ではいまだ平穏な日々が営まれていた。
しかし、かすかに立ち昇り始めた暗雲は確実に世界に影を落としており、それを察していた人間たちも少ないながらいた。

複数の亜大陸と大陸を領土とする世界最大クラスの列強であり、太平洋地域のほぼ全域をその勢力圏としておいている大日本帝国。
安土桃山時代、徳川家がまだ松平家だった時から徳川家に仕え、江戸幕府開闢後から現在に至るまで日本の政治と経済に非常に大きな影響を有している世界最大規模の秘密結社である夢幻会メンバー達もそうした少数派の一員であり、彼らはやがて来る脅威に対抗する為、人類の力の強化と拡大を急務としていた。



1936年 大日本帝国 帝都 東京 某所



「世界情勢がだいぶ違いますが、原作通りヒスパニア戦役はおきてしまいましたか...」

「まあ、世論が好景気に沸き、介入に否定的な現状で我々ができる事はあまりありませんがね」

「小規模な正規軍の派遣はおろか少数の義勇軍を送るのも難しいですからね。せいぜい、物資のレンドリースが手一杯でしょうな」

「カールスラントのコンドル軍団やロマーニャのヒスパニア遠征軍が現地に到着。ブリタニア、ガリア両国も派遣軍の編成に入っていますし、無理に介入する必要もないでしょう」

ヒスパニア戦役の勃発と今後の対ネウロイ体制について話し合うために開かれた会合では、ヒスパニア戦役への本格的な介入は世論の反対もあり不可能と早々に結論がくだる。

「しかし、ヒスパニア戦役が原作通り起きたという事は扶桑海事変相当のネウロイの攻勢もある可能性が高いと言うことですか」

「その通りなんだが、中華帝国と扶桑皇国が存在している以上、原作とは東アジアの情勢が違いすぎる。正直、原作知識はワザップの情報と同レベルと考えた方がいいだろ」

扶桑皇国と中華帝国、それは多くの転生者にここがストライクウィッチーズの世界ではなく、それによく似た並列世界であることを認識させる原作との大きな相違点である。

原作ストライクウィッチーズでは満州と中国、朝鮮半島など東アジア一体は過去のネウロイとの戦争で荒漠した地域と設定されていた。
しかし、この世界では大陸の住民のバイタリティーは原作よりも高かったようで、
幾度に渡るネウロイとの戦闘を経ても人類は大陸の防衛に成功し続け、現在でも満州と朝鮮半島を除いた東アジア地域は中華帝国と言う、始皇帝から数えて幾度目かの王朝が支配する統一国家が存続し続けていた。

また、原作では日本相当の国家であった扶桑皇国は、
こちらの世界では史実と違い成功した豊臣秀吉の大陸出兵により朝鮮半島や満州を支配していた親豊臣勢力と大阪冬の陣で敗北し、大陸に逃げ延びた豊臣勢によって建国された国家であり、
満州を中心にレナ川より東側の地域やモンゴルの一部、朝鮮半島北部を支配する大国であった。

397: ホワイトベアー :2022/02/25(金) 11:05:25 HOST:157-14-173-202.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
当然、こうした複雑な関係もあって日中扶の関係は余り良くはなく、19世紀末から20世紀初頭のネウロイの脅威が余り存在しなかった期間は何度か戦争がおきていたが、第一次ネウロイ大戦を契機として現在では一応の協力体制にある。

「それで、両国の状態は?」

会合の開かれている部屋の上座に座る、胸に国会議員である事を示す菊が描かれた議員記章がついている背広を着た男性、現内閣総理大臣榊是親は口を開いた。

「両国ともにオラーシャ国境付近の軍の警戒度を1段階あげ、ウラル地帯の極東国際ネウロイ監視航空団が異常を感知した場合に即応可能な体制に以降しております」

「もし仮に怪異共の侵攻が実際におきた場合、両国はどれだけ対抗できる?」

政治家の男性は手に持っていた資料を机に置き、軍人等が集まっている方を向いた。

「兵力的には扶桑皇国・中華帝国ともに人口が多いだけあって現役兵力だけでも十分多い部類ですし、兵の練度も扶桑皇国は言うに及ばず、中華帝国も扶桑皇国には劣りますが十分なモノを持っています。」

「扶桑皇国はすでに大戦末期から冷戦初期レベルの国産兵器を配備しております。中華帝国も我が国が輸出している兵器やライセンスを与えた兵器で武装しておりますので、コアを持たない小型種や中型種程度のネウロイ相手ならウィッチと連携を取らずとも十分渡り合えるでしょう」

「航空陸戦両魔導戦力は両国ともに十分な兵力を有しており、練度もノウハウともに我が国の魔導部隊を上回っております。
また、我が国ほどではないですが、学生以下の軍務に属していないウィッチも多く抱えておりますので、戦争が長引けばどうなるかはわかりませんが、短期的で崩壊することはないでしょう」

「ウィッチが扱うストライカーユニットも日扶中ネウロイ対処協力協定に則り我が国が供給している倉崎の36式戦闘脚や三菱の36式戦闘装甲脚、
扶桑皇国の新型戦闘脚であるキ43式戦闘脚、キ44戦闘脚九六式戦闘装甲脚などの新型ストライカーユニットの配備が両国で開始されており、何事もなければ37年7月までには扶桑・中国両国にて既存のストライカーユニットの8割を代替できる予定です」

「有事の際を見越して我が国が提案していた使用弾薬の共通化や規格の統一もほぼ完了しております。また、原作とは違い大陸には中国と扶桑が我が国の戦略爆撃に備えて幾重にも張り巡らせた鉄道網もありますので継続戦闘能力も原作より遥かに向上しております」

次々と上がる報告を纏めれば、アジアにおける人類側の戦力は原作とは比べ物にならないまでに引き上げられているとの事であり、場の空気も少し緩む。

しかし、安心はできない。

何せ、彼らが相対するであろう存在はその一切が謎に包まれ、原作では強力なランドパワーを誇った欧州列強を連続で撃破し、北欧やイベリア半島などの一部を除いた欧州全域を支配した化け物なのだ。
幾ら東アジアの戦力が通常戦力、ウィッチ戦力ともに向上しているとは言え、ネウロイがそれに合わせて強化されている可能性も0と言えない以上、安心できる筈もなかった。

しかも、日本は対ネウロイ戦にもっとも適しているウィッチの運用において、大きな問題を国内に抱えていた事も彼らの頭を悩ませていた。

「万全とは言えないが扶桑と中華帝国の準備は十分と言うことか。となると今、我々が解決を目指すべき一番の問題は我が国の魔導戦力を取り巻く問題だな」

男性はため息をついたあとに、メガネを外して眉間を揉む。会合の空気も先程までとはうって変わって重いものに変わる。

「科学技術が発展しすぎたおかげと言うべきかせいと言うべきか悩みますが、
第一次ネウロイ大戦時にネウロイに通常兵器で対抗できてしまったせいで、国民の大多数はウィッチであるとは言え、妙齢の婦人や年端もいかない少女が前線に立つことに否定的ですからね...」

政治家の男性の言葉に、彼の近くに座っていた近衛が苦笑いで返す。

398: ホワイトベアー :2022/02/25(金) 11:07:52 HOST:157-14-173-202.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
日本では太古の昔から、少なくない数の自身が生まれる前に21世紀の日本と言う国で生きていた別の誰かの記憶と自我を持った、所要、転生者と呼ばれる人間が継続的に生まれており、安土桃山時代には転生者であった松平家当主元康を纏め役とした夢幻会と呼ばれる転生者達の互助組織が誕生。

江戸時代に入ると徳川家に強い影響力を有していた夢幻会は日本全土の政治・経済に大きな、こと幕政や幕府直轄領、親藩や一部有力譜代潘に関しては支配的な影響力を有するほどに成長し、以後、彼らは自らの生活環境を21世紀の頃では当たり前にあり、今ではどれだけ富や名声、地位を築こうとも手に入れられない快適なものに少しでも近づけようと科学技術の発展を猛烈に進め、これを妨害する勢力から護り抜いてきた。

その甲斐もあって、大日本帝国の科学技術は他国と比べると極めて進んでいる。
具体的には第一次ネウロイ大戦が勃発した1910年代には冷戦初期レベルの兵器を運用可能とするレベルまで科学技術が発展していたのだ。
日本の科学力の高さは第一次ネウロイ大戦時はネウロイの能力が低かったことも相まって、日本軍はウィッチがおらずとも通常兵器のみでネウロイに十分対抗いや、圧倒できた。できてしまった。

第一次ネウロイ大戦での戦訓と経験は、ただでさえ魔法力と言うどうしようもない才能を前提として成り立つがゆえにシステム化が難しく、システム化やマニュアル化を重視する日本軍とは致命的なまでに相性が悪い魔導兵を重視する理由を大きく損なわせてしまう。
そうした軍内部の事情が、女性は家庭と言う保守的な考え、護るべき女子供を戦場に立たせるべきでないと言う本来なら褒められるべき高い倫理観などと融合。
日本国内では、後方勤務まだしもウィッチを戦闘員として扱うことには否定的だと言う考えが世論の大多数の賛同を得ていた。

「空軍内部でも何度も意識改革プログラムを行ってはいるのだが、非転生者やストライクウィッチーズを知らない転生者の殆どがウィッチの前線での運用に否定的だ」

「陸軍も同様です。一応、教育の充実や意識改革のおかげで、ウィッチの能力が有用である事は認る人間も多くなってはきてますが、やはり女性や少女を前線に立たせる事に賛同的な人間は少ないですね」

「海軍は国外の事情を知っている人間も多い事や
士官学校や海軍兵学校の入学可能年齢や入隊可能年齢以上と但し書きが付きますが、他の軍より感情的なシコリはマシではあります。それでも消極的否定派が大多数ですが」

近衛の言葉に続く形で、会合に参加していた軍人たちは疲れた表情を浮かべ、どこか諦めを含んだ口調で報告を上げていく。


「彼らの言い分もわからない訳ではないです。
幾ら能力があるからと言って、うら若き女性を率先して戦場に立たせる事に賛同する人間は少ないでしょう。しかも、彼らの多くは現在の通常戦力で十分ネウロイに対抗できると考えているのですから」

これから現れるネウロイの驚異を知らなかったら、私だって反対しますよ。
そう言いながら、辻は苦笑いを浮かべ、ため息まじりであるが反対派に理解を示す。

他の参加者たちも内心では大多数を占めるウィッチ戦力化反対派の考えも現段階では間違いではない、いや倫理的・道徳的な事も含めれば正しい事はわかっていた。
それでも、ストライクウィッチーズの原作知識によって、この世界とよく似た並列世界におけるネウロイの脅威を知っている以上、彼らにウィッチ部隊を整備しないと言う選択肢は存在しなかった。

「それはそうなんだが、幾ら帝国軍の兵器が冷戦中期から後期レベルだからって、レーザー攻撃が可能でコアを破壊しない限り無限に再生可能な大型ネウロイに対抗できるかと聞かれた難しいぞ」

「せめてコアの位置が固定なら対抗策もあるんだが、完全なランダムっぽいしな...」

「原作ではコア持ちが登場したのが38年以降で、レーザー攻撃可能なネウロイは扶桑海事変ではヤマ以外登場しなかったはずだ。なら、最悪何とかなるか?」

「第一次ネウロイ大戦で投入した兵器が原作と違うし、東アジアの情勢も原作とだいぶかけ離れている。ここはアニメの世界じゃないんだ。原作通りレーザー攻撃可能なコア持ちが山以外登場しないなんて保証は何処にもないぞ。」

「そうだよなぁ。となるとやっぱり魔導兵の増強が一番なんだが...」

「いっその事、大陸でのネウロイへの対処は扶桑と中国に任せて俺らは後方支援に徹するか?」

「それができればいいんだが、政治的にも外交的も難しいだろう。それに、介入しなかった結果大陸にネウロイの巣ができたら洒落にならん」

いつもの如くああでもないこうでもないと議論は活発に行われるが、結局、これまでに開かれた会合の時と同様に堂々目振りを続けていき、時間だけが進んでいく。

399: ホワイトベアー :2022/02/25(金) 11:08:30 HOST:157-14-173-202.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
「この際、戦前から魔導兵の数を増やすべきと言う考えを転換するべきでは?」

そんな中で、嶋田が発した言葉はそれまで騒然としていた会合参加者たちを静寂へと導いた。

「どういう事ですか?」

同じく海軍から参加している者以外から《お前は何を言っているんだ?》と言う視線を集めていた嶋田に辻が聞き返してくる。

「政治的にも時間的にも今から正規の訓練を受けた魔導兵を大規模に増やすのは不可能です。
ですので、戦争がおきた後に平均的な能力を持つ魔導兵を育成できる促成教育体制を築き上げる。原作でリベリオンが行った事の真似をしようと言うだけですよ」

嶋田の提案は感情的な事は置いておけば、一番現実的なものであった。実際に、多くの出席者達はどうしたものかとお互いに顔を見合わせたり、一人考えを巡らせていた。

「確かに。仮に今から新兵に正規の訓練過程を受講させるとなるとしても終了するのは1939年だ。扶桑海事変相当のネウロイの攻勢には間に合わないな。しかし、ネウロイの侵攻までに策定は間に合うのか?」

海軍軍令部総長であり夢幻会の纏め役の一人である伏見宮博恭王は嶋田をまっすぐ見つめて問う。

「一からではなく既存の即応教育教程を母体にしつつ、今の訓練生達でデータを取りながら行うので問題ないでしょう。」

「なるほど...。仮に貴官の方針を採用したとして、促成教育教育期間はどの程度に抑えられる?」

「試算ではありますが、一年程での教程終了を予定しております」

嶋田の返答を聞いた伏見宮はしばし考え込むと、榊是親に視線を向けた。
榊もその視線の意味をすぐに察するが、しばし考え込んだ後に口を開いた。

「...それしかないか。何か他に意見のあるものはいるか?」

異議や異論は出ない。参加者もこれが一番現実的な結論と理解していた。

「では、嶋田中将を責任者とした陸戦・航空ウィッチ促成教育研究に賛成なものは挙手」

えっ? と驚いた表情をする嶋田を残して、その場にいた全員が手を挙げる

「あの、海軍航空ウィッチはまだわかるのですが、空軍航空ウィッチや陸戦ウィッチも海軍の私が責任者なんですか?」

「うむ。榊くんとの相談の結果、君を次の統合参謀本部議長に任命する事が内定していな。その前の功績としてこれぐらいは必要だろう。
君は海軍海兵隊や空母航空団での勤務で陸戦ウィッチや航空ウィッチ双方と関わったこともあるしな」

「安心してください。陸軍でも優秀なウィッチ上がりの参謀をつけますので」

「こちらは航空ウィッチ上がりの教官を送るから頑張ってくれ」

困惑気味に質問した嶋田に宮様、東条、畑と海陸空三軍の代表たちがイイ笑顔で答え、山本と南雲は書類地獄に落とされるだろう親友に合掌、その他の参加者たちも「嶋田さんなら安心だ」と次の議題に移ろうとしていた。

「」

「文字通り国を護るために戦う事になるウィッチやウィザードの明日を決める重要な仕事です。頑張ってください」

混乱している最中に辻から言われた言葉が最後のきっかけとなり、その後、不幸だァァァと言う叫び超えが夜の帝都に響くことになった。

その後も彼らの会合は夜遅くまで続いていく。
全ては来たるべき戦乱において、帝国の国民たちの被害を最小限に抑えるために・・・

400: ホワイトベアー :2022/02/25(金) 11:09:04 HOST:157-14-173-202.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
解説
魔導兵
日本での魔法力を有し、魔導学や魔導工学に基づいて開発された術式や兵器を主装備として戦う兵種を指す言葉。欧州のウィッチに相当する。

世界的に見れば魔法力の発現する確率は女性の方が高く、男性で魔法力を発言するものは極めて少ない。
しかし、日本では古来より(女性が大半であることは変わりないが)男性の魔法力発現者(以後ウィザード)も少なくない人数が確認されており、現代でもウィッチより少ないが一定数が陸軍や海軍陸戦隊に属している。

現在確認されているウィザードは飛行魔法に適応している者がおらず、機械化航空歩兵はウィッチのみだが、陸軍や海軍海兵隊等の陸戦部隊ではウィザードもウィッチと同様に魔法力を活用する兵種として運用され、その為、魔力を有する兵士は女性のみをさすウィッチ(魔女)ではなく男女問わない魔導兵と呼ばれる事が多い。

余談であるが、日本は人口比でみると他国と比べると僅かながら魔法力の発現者数が多く、上記したとおり他国ではまずいないウィザードも部隊運用できるだけ確認されている。
それに加えて、日本人のウィッチやウィザードは他国と比べると平均的に魔法力の量が高く、あがりを迎えるのが30代前後と遅いなど、魔法力との親和性が高い。

夢幻会の研究機関はこの日本人の特異的な特徴は、現在までに確認された転生者が日本人のみで、過去の転生者が残したと思われる痕跡や遺物が日本に集中している事実と何かしらの因果関係があるのではないかと考えている。

401: ホワイトベアー :2022/02/25(金) 11:12:50 HOST:157-14-173-202.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
以上になります。
ワールドウィッチーズの世界観を追いかけるのは困難を極めましたが、ようやく第一話を書き終えることができました。
wikiへの転載はOKです。

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最終更新:2022年02月28日 11:41