458: 弥次郎 :2022/03/08(火) 20:04:13 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」
- P.D.世界 地球 アーブラウ領 アラスカ-エドモントン間 某所
「セントエルモス」一行は、ミレニアム島を発してから北進、アーブラウ領のアラスカを経由し、アーブラウ首都エドモントンを目指した。
一直線にエドモントンまで向かうことを選ばなかったのは色々と理由があった。
一つは人の生活圏を避けてエドモントンに可能な限り接近することで、戦闘の余波による被害を減らすため。
GHは確実にこちらへの攻撃をためらうことはないわけで、万が一人の多いところでの戦闘となれば周囲への被害が大きくなる。
GHの軍勢は撃退できました、だけど周囲が焼け野原になって人がいなくなりました、では悪評が付いて回ることは避けられない。
もう一つは太平洋を北上する際に光学迷彩によって衛星監視の目から逃れて航路を推測させずに懐に飛び込んだ後、さらに目を避けるためであった。
太平洋を渡る際に光学迷彩で監視衛星を逃れたとはいえ、堂々と北米大陸に乗り込めば、即座にGHが湧いて集まってくることは必定。
故にこそ、意図的に迂回と遠回りをすることによって、可能な限り発見を遅らせる必要があったわけである。
実際、人の生活圏や都市部を回避して航行することにより、GHの偵察部隊と会敵した時には、すでにエドモントンを指呼の距離に収めていた。
そしてもう一つが、自前の戦力にあった。
宇宙から地上に移行したこともあり、地上戦闘に、それこそ寒冷地での戦闘に慣れさせる必要があったのだ。
まあ、これは全域対応型ではない戦力全般に言えたことでもある。地上での運用ならば地上での運用に合わせるのが普通なのだから。
何しろ、市街地近隣での戦闘、ついでに言えば市街地への突入さえも行うことが前提となっているため、その為の慣熟訓練などに抜けは許されない。
流れ弾一つで大規模な被害が発生するのが市街戦というもの。ましてや、エドモントンはアーブラウの首都なのだ。
ここで迂闊な被害を出しては、今後の火星連合とアーブラウの関係にまで響いてしまうことは確実。
クーデリアの進める国家戦力において、このアーブラウ突入は極めて重要であり、繊細な案件であった。
無論のこと、市街地への被害を考慮してギャラルホルンが行動するとは限らない。
相手がルールを破ったならば、枷が一つ外されることは確かでもある。さりとて、積極的に破りたいとは言えない。
ついでに言えばそうだからと言って被害を出して許されるわけでもないのだし。
ともあれ、そういった事情からオルガら鉄華団などは実機演習を繰り返していたのだった。
そして、その光景を停泊しているエウクレイデスの展望デッキから眺めているのはクーデリアと蒔苗らだった。
「訓練は順調かの」
「ええ。予定に向けて調整も順調とのことですから」
予定、すなわち、アーブラウの次期代表選挙の場に突入するという計画。
ギャラルホルンが敷いた防衛線を強行突破し、市街地に影響が小さいMTなどの突入隊を送り込むという、作戦とも言い難い行動。
少数での潜入も検討されたのだが、すでに市街地がGHによってガチガチに警備が固められていることや蒔苗が高齢ということもあり却下。
何より、疚しい謂れはないのだから正面から行った方が受けが良いという判断をクーデリアが下したこともある。
「なんとも大胆なものよ」
「そうでもありませんよ。こそこそするのは性に合わない、とおっしゃったではありませんか」
「だが、ここまで堂々としすぎていては、被害が出てしまうのではと懸念しておるのじゃよ」
「それについては問題ありません」
クーデリアが目で合図すると、フミタンがエドモントン内の新聞や雑誌などをいくつも並べた。
ここ数日の、アーブラウ内部の情報を載せたものが中心だ。時系列ごとに並べられていくそれは、ある日を境に急に内容が変わる。
それは、セントエルモスがGHに補足された日だ。そのころにはすでにエドモントンを直近に収めていた。
そして、大慌てというのも隠さずにアーブラウ政府は首都に戒厳令などを発令、戦端が開かれることを前提に住人の避難を行っていた。
459: 弥次郎 :2022/03/08(火) 20:04:53 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
「我々を補足できなかったことで、選挙は実施が決定しておりましたからね。
その後で我々がすでに移動と突入準備を整えていることが判明し、選挙をいまさら中止とするわけにもいかなくなった。
亡命先から逃げたことは分かっても、どこに行ったかまで知り得なかった彼らの落ち度でもありましょう」
そして、このギャラルホルンが明確にアンリ・フリュウを後援できるのがこの時しかない、というのもある。
そもそもギャラルホルンがここまで経済圏の一つの代表選挙に戦力を投じるのは異例のことだ。
その理由としては晴れてテロリストと認定されたクーデリアがエドモントンに訪れるから、ということに他ならない。
もしここでスケジュールをずらそうものなら、今度は手を変えられてしまう。
そもそも前代表であった蒔苗が職を追われたのは半ば以上に冤罪だ。その無罪の証明をするという名目で乗り込まれるとギャラルホルンは止められない。
アーブラウの治安維持機構にしても、疑惑でしかない蒔苗の身柄を強引に拘束することはできない。
だからこそ蒔苗の代表選への立候補は止められはしなかったし、正式に受理されているのである。
つまり、何が何でもこのタイミングで蒔苗とクーデリアを捕らえる必要がある、というわけだ。
そんな強気な物言いのクーデリアに、蒔苗は笑みをこぼした。
「ふぉふぉふぉ、言いよるわい」
「アーブラウ内のスケジュールや選挙に関わる制度や慣例・慣習を私たちにすべて吐き出したあなたが言いますか?」
つまるところ、共犯なのだ。クーデリアと蒔苗は。
互いがやっていることが決して綺麗などということは決してない。
だが、それが政治家だ。裏も表も知り尽くし、知略と策謀を巡らせ、国家としての利益を勝ち取ろうとする生き物。
クーデリアは経済圏との国交樹立と国家承認を得るため。
蒔苗は火星やコロニー群の独立に伴うあらゆる損失を埋め合わせ、時代に置いて行かれないようにするため。
先の時代を行く地球連合に追いすがり、他の経済圏を追い抜いていくために。
「ともあれ、あとはセントエルモスの戦力と、地球連合の監察軍の働きによりますね」
一頻り笑った後、クーデリアは表情を引き締め、空を見上げながらいう。
既にアーブラウ首都のエドモントン突入まで3日とない。GHにはすでにこちらを補足しており、エドモントンの周囲を軍勢でガチガチに固めている状態だ。
航空偵察によれば相当な数のMSやMW、そして何やら大型兵器まで動員している様子が確認されている。
更には砲陣地やら防御陣地など、かなりの数が揃えられており、とてもではないがこちらを歓迎している様子ではない。
まあ、砲と火力でドンパチ歓迎してくれるであろうことは確かなのだが。
無論、強引に力押しでルートを開くこともできるだろう。セントエルモスを構成する艦艇やその戦力は十分すぎるほどに用意されているのだし。
だが、連合は念を入れて火星に配置していた監察軍の投入も決定した。
一点突破というのも不可能ではない。だが、ここで肝要となるのは相手の、ギャラルホルンの対処能力を飽和させることにある。
それ故に、突入戦力を主眼とするセントエルモスと、数を以てギャラルホルンを飽和させる監察軍。棲み分けはすでに完了している。
「あとは、本番だけですね」
全てが決まる日は、間近。
この太陽系という狭くも広い世界の潮流がどう変わるか、あるいは世界がどう進むかの分水嶺が差し迫っているのだ。
460: 弥次郎 :2022/03/08(火) 20:06:12 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- P.D.世界 地球 アーブラウ領 エドモントン郊外 ギャラルホルン駐屯基地 士官用個室
火星連合及び地球連合の戦力がエドモントンの直近まで迫っていることが発覚してから、ギャラルホルンの駐屯地に平穏はなかった。
ほんのわずかな距離に近づかれるまで衛星による捜索も、偵察部隊による偵察でも発見できていなかったのだからなおさらだ。
地球から逃げたのではないかというギャラルホルン内部での楽観論は吹っ飛び、大慌てで直近の大戦争に備える動きが生じていた。
そう、戦争だ。厄祭戦以来、ギャラルホルンが抑止力となることで押さえられていた300年の平穏が破れ、ついに戦争が起こるのだ。
いや、もうすでに始まっていて、その決戦がこのエドモントンで起きるというだけかもしれない。
(いつ始まってもおかしくなかっただけだろうしな)
これだけの戦力をよくもかき集めた、と思うと同時に、これだけの大軍を指揮し、管理し、作戦を行えるかが不安視される。
(これがあのラスタル・エリオンならばうまくやったやも知れないが……)
ラスタル。アリアンロッド艦隊の前司令官。最精鋭にして最大戦力と言えるアリアンロッドを率いるあの男ならば、大軍を指揮することも可能だろう。
あれだけの艦隊を回し、治安を維持し、ギャラルホルンとしての行動を実行し続ける能力に関しては本物だ。
今回の作戦指揮は代理を介しているとはいえ、自分の父であるイズナリオ・ファリドが行っている。
贔屓目抜きにしても、統制局トップと実働艦隊の司令官では比べるまでもない能力差があると思っていた。
だが、まさかあれほどの男が、政争一つであっけなく死ぬとは思いもよらなかった。
自分の野望の最大の障害になると思った、目の上のたん瘤とさえ思っていたあの男が。
(だが、そのラスタルはいない。そして能力に劣るあの男は……)
事前に空かされている情報---戦力配置などを鑑みるに、典型的な防衛戦になると推測されている。
つい先日まではどこから来るかわからないということもあってエドモントン市街地全域を軍勢で囲っていた。
しかし、その火星連合の空中艦艇が発見され、そのまま接近してくるという情報が入ると、速やかに戦力配置を変え、防衛線を引き直した。
ここまではいい。正直なところ、教本通りの、訓練課程において教わる通りの動きとほぼ同じであるのが少々あれだが、正攻法ではある。
しかし、正攻法というのは、得てして正攻法に負けるものだ。
例えば、ギャラルホルンは最大と呼べるだけの戦力をかき集めている。それに対してそれ以上の数をぶつけられては負けるのが普通だ。
(例えば、あの観艦式の戦力がそっくり現れれば……)
観艦式で目撃されたのは、MSやMSを超えるサイズの機動兵器、さらにはMAに酷似した兵器など数千数万ともいえる数だった。
それが全部とは言わなくとも、大半が出てくるだけでこちらの用意できた戦力を軽く上回ってしまうだろう。
作戦司令部では現在確認できていないことを理由に参戦はないだろうという見解が示されているが、マクギリスはそう思っていない。
あの非常識の塊の地球連合が、こちらの常識で推し量れるような生ぬるい戦略をとるだろうか、と。
だが、そんなことを言う義理はもはやギャラルホルンにも養父にも存在していない。
この後に起こるであろう決戦では、自分達にはすでに連合との間で取り決めがされている役目があるのだから。
(……?)
そこまで考えた時、マクギリスはふいに気持ち悪さを覚えた。
吐き気だとか、怖気だとか、寒気などというものではない、もっと根本的なモノだ。
まるで、生きている体そのものが、魂が拒否しようと、逃れようとする類いの、もっと---
「なるほど」
刹那に、その意味を理解できた。
ギャラルホルンが、今の世界が生きていることが、気持ち悪いのだ。
300年前にアグニカ・カイエルらギャラルホルンの先達たちが何とか延命したこの人類の文明。
しかし、そこから前進することもなく、改善することもなく、ただただ生きて、同時に徐々に死んで腐り果てて行っている世界。
なぜ、生きている?
何のために存続している?
この世界を回している人間は、一体何を思って行動しているのだ?
「やっと、分かった気がする」
ずっと不思議だったのだ。世界を憎む感情がどこから来たのかを。
境遇が悪いとか、育ちが悪かったからとか、怖気の立つようなことをされたからなどではない。
生きていない、とっくに死んでスカスカになった死体が未だに動いていることに、耐えられなかったのだ。
「だから、俺は生きる」
その決意を、マクギリスは吐き出す。それは、血のように熱く、鉄のように硬かった。
461: 弥次郎 :2022/03/08(火) 20:07:02 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
いよいよエドモントン編、スタートです。
ゆっくり進めてまいりますねー
マッキーがちょっとオベロンしているけど誤差です()
462: 657 :2022/03/08(火) 20:17:07 HOST:119-229-164-90f1.kyt1.eonet.ne.jp
おつです
某奈落の虫「その気持ち超わかる、しかもこいつの処理を結果的に押し付けられてるのも俺達似てるよな!」
この後マッキーはバエル確保に動きそうですね・・・
最終更新:2024年03月05日 21:33