564: 弥次郎 :2022/03/10(木) 21:35:30 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」3
- アーブラウ領 エドモントン郊外 ギャラルホルン陣地 前衛
セントエルモス旗艦であるエウクレイデスを発艦したネクスト3機が行ったことは至極単純だ。
それぞれが音速を軽々超える速度で、それこそMSやレーダーでの観測を振り切る速度でギャラルホルンの砲陣地に飛び込んだのである。
それこそ真正面から、反応させる余地など一切与えることのない速度を発揮していた。そこから至近距離に入った時点でトップから0へと。
慣性や発生するGなどをコジマ粒子やテスラドライブで押し殺したネクストは、次の瞬間には光を放った。
それは、収束したプライマルアーマーの爆発の光---すなわちアサルトアーマーであった。
コジマ粒子を収束させたPAの出力を一気に引き上げ、蓄えられた膨大なコジマ粒子さえも動員し、放出する攻撃。
物理的作用も含め高熱と圧力を伴った爆発は、それへの反応に送れたギャラルホルンの兵士やMSなどを、陣地ごと吹き飛ばす。
いや、最早地面ごとといった方が正しいだろう。市街地への影響がない範囲と計算された半径数百メートルが吹っ飛ばされた。
『効果範囲、想定通り。散開だ』
中央を担当したセントールの合図とともに、3機のネクストはそれぞれ飛び上がった。
標的となるのは雑多なMSなどではなく、大型砲やダインスレイヴといった少々厄介な兵器の類。
事前の観測と走査でマッピングは完了しているので、それを表から削るのが役目だ。
当然ギャラルホルンのMS---グレイズらの反撃が飛んでくるが、それに捕まるほどネクストはのろまではない。
だが、セントールらの懸念は別なところにあった。
『カチカチの防衛陣は、得てして懐に入り込まれると弱い。それにしても指向性地雷や迎撃用の火器がないのは少しおかしい気がする』
そう、この手の陣地に特有の対機動兵器の地雷や自動の迎撃システムというものが存在していないのだ。
地雷などがないことはまあわかる。何しろ首都たるエドモントンの市街のすぐ外だ。迂闊に敷設すればこの先に被害が出かねない。
これだけの砲陣地を形成している時点で不発弾などの可能性もあるだろうが、それでも対MSクラスとなれば馬鹿にならないと判断したか。
だが、迎撃があくまでも間接的であるにしろ人力によるコントロールが主体というところが、なんともちぐはぐなのだ。
『自立迎撃(セントリー)システムの技術ハードルは高くはないはずだ。けれどこの太陽系ではほとんどない。MAを除いてね』
大型砲の一つをブレードで切り裂きながら、明星はつぶやく。
そう、カラール自治区の開拓の中において発見されたMA「ハシュマル」は自立行動を可能とするレベルのAIを搭載していたのだ。
それこそ、連合野企業連が標準的に用いるAIと遜色ないレベルで発展していたことが確認されたほどだった。
なのになぜ、現代において確認されていないのか?技術がロストしているのかもしれない。
『まあ、そこら辺についてはまた後。目の前の戦闘に集中しましょう』
『了解』
十数機を超えるグレイズのライフルが火を噴くが、明星のジュピターソンはその嵐の合間を瞬時に潜り抜ける。
同時に、肩部のKPバイトユニットが立ち上がると、MS隊の潜む大型シールドへと瞬時に『噛みつく』。
プライマルアーマーを内側に向けて指向展開することで対象をがっちりと固定してつかむのだ。
肩部から発射された4基のそれは、それぞれが一枚ずつシールドを保持する。同時に、バイトユニットを介してコジマ粒子のコーティングが瞬時に為された。
もうこれは、コジマ粒子の恩恵を受け、ナノラミネートコーティングを破壊する鈍器となったのだ。
そうなれば、やることはただ一つ。
『食らいなさい!』
瞬時に振り回された。4枚のシールドはまるで嵐のように高速回転し、集団を吹き飛ばす。
MSの集団が、その頑丈なはずの装甲を破壊され、融解され、圧倒的な質量差により吹っ飛ばされていく。
飛ばされた先には砲陣地やらMWやらが控えており、それらはなんら止まることもなく激突、雪崩のように崩れていく。
565: 弥次郎 :2022/03/10(木) 21:36:46 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
それらは一瞬の暴威。されども、しっかりと打撃を与えていた。その周囲の惨状がまさに証拠と言える。
目立って動く戦力が見当たらなくなったことを確認すると、ジュピターソンは次の標的に移る。
『次のポイントに移動するわ』
『流石、手が速い』
そしてマルチブレードからKPビームライフルを放つ。狙った先には、弾薬などが山積みになっている。
そこに興奮状態にあり尋常ではない高熱を発するコジマ粒子を圧縮した弾丸が激突すれば?当然の如く、大爆発が起きる。
『くそ、ポイントD44がやられたぞ!』
『敵の動きを止めろ!』
『無理だ、速すぎる!』
飛び立ったジュピターソンを狙い執拗に攻撃が飛ぶが、いずれも躱されるか、バイトユニットにより浮遊するシールドによって悉くが弾かれた。
弾かれるどころか、発射した弾丸がコジマ粒子によって溶解し、効果をなしていないレベルだった。
『次は……ダインスレイヴ!』
こちらに照準を定める大型の電磁投射砲を捕らえた。
セントエルモス戦隊の砲を狙っていたようだが、待ち構えていたようだった。
だが、稚拙だ。堂々と姿を晒した時点で、その射手はその能力の半分も生かせない。
瞬時の判断で、頂戴していたシールドが投げつけられた。慌てた動きで随伴のグレイズの射撃や割り込むことによって弾かれる。
それはそれでいい。なにしろ、それに目が行っている間に十分に移動ができる。人間はどうやっても自分に迫るものに目をとられがちなのだから。
『な、後ろに……!』
『遅い!』
マルチブレード「薫月」を振りかぶったジュピターソンはとっくにダインスレイヴを装着したグレイズに肉薄していたのだ。
とっさの反応はできたが、生憎と動きは遅すぎた、あまりにも。元々の速度差に加えて発射機の重量のウェイト、覆しようがない。
周辺の護衛機ごと切り裂いて、全てが形を失って、崩れ落ちた時にはジュピターソンは次へと飛び上がっていた。
そして、ネクストだけではない。
エウクレイデスを発艦したTMS「アーガトラム」により構成された攻撃機隊は、指定されたポイントへの攻撃を開始していたのだ。
腹に抱えていた破城槌を兼ねたセントリーガン「ホウセンカ」を放つ。高高度から加速しながら物理的な破壊は衝撃を各所にばらまく。
どうしても通信量が増大する指揮所を的確に狙ったそれは、そこに存在した人員や施設を丸ごと圧殺する。
さらに、突き刺さった状態から展開されたセントリーガンは、その周囲へと自立攻撃を開始した。
短距離パルスレーザーの出力はナノラミネートコーティングでさえも危うい高熱を発し、MSの装甲を次々と穿っていく。
MSで受けられた方はまだ幸せだっただろう。何しろ、ソフトスキンの対象など瞬時に溶けてしまったのであるし。
さらにアーガトラムの攻撃は続行される。抱えていたロケット、あるいはビーム砲、実弾兵器。あらゆる火力が定められたポイントのオブジェクトを焼き払う。
それは大量にいるMSをチマチマ狙うというよりは、もっと根本的なモノを狙っていた。
即ち、「ホウセンカ」の潰した指揮所のような、戦闘や戦争を継続するためのウィークポイントだ。
武器弾薬、予備人員、動けない砲台、ミサイル発射装置、あるいは単純な防壁など。それらがまとめて焼き払われていく。
それらの攻撃は、総量としては大きな被害ではないと言えた。
セントエルモス戦隊のアプローチした市街西部の防衛陣地の一部を点で攻撃したに過ぎないのだから。
MSはまだまだ残っているし、MWなどもまだ動ける部隊は多く残っていたのが実際の所である。
しかし、それでも士気という面では大きく低下していた。理解できない攻撃でいきなり味方が死んでいけば、嫌でも人間に心理ダメージが入る。
指揮系統が乱れたことで戦闘行動の続行はともかくとして、集団としての行動に支障をきたして居る部隊だってある。
なによりも、狙いすました攻撃によってその砲陣地は発揮可能な火力を大きく減じていたのだ。
それは、弾薬の消費と合わせ、ギャラルホルン側の攻撃オプションが減ったことを意味する。
そうすれば、今度はセントエルモス戦隊の艦艇の出番がいよいよ回ってくることになる。
566: 弥次郎 :2022/03/10(木) 21:37:45 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」指揮所
「よし、いったんネクストとTMSは下げろ。
これより砲戦に移行する。間違っても市街地には打ち込むな!
それと各艦は艦載機の準備だ!規定通り砲撃を行った後、機動兵器による敵戦力の排除を進める!」
下地はできた。あとはそこを確固たるものとして、突破を仕掛けるのみである。
「ヴォルト級およびブラシッカ・ラパ、カルダミネ・リラタも無人機を下ろし始めろ。
MS隊は砲撃と合わせて前進、弱くなった防衛線を荒らしまわれ!然る後に本艦も前に出るぞ」
「ジュピターソン、カノプス、バクティ、着艦しました!」
「鉄華団およびタービンズのMS、カタパルトより発艦。続いてマホロビ、発艦します!」
「アーガトラム各機着艦態勢に入ります!メカニック班は収容準備を」
忙しげに指示を飛ばしながらも、ブラフマンはギャラルホルンの動きに注視していた。
順次砲撃が開始され、形を半ば失った砲陣地やMSなどが吹っ飛ばされていくのを黙ってみているはずがない。
こちらは明確にMSの展開を始めているわけで、そうなれば他からMSを動かして補填するなどをしてくるだろう。
あるいは、事前の偵察で確認されている大型兵器らしき何かを動かしてくるのかもしれない。
(いずれにしても、要注意だな)
何が出てくるかはわからない。よって現場での対応力に任されるところが大きくなる。
そう考えを巡らせる中で、砲撃を続行するエウクレイデスは徐々に前進を開始した。
それに追従するのは突入部隊の護衛を務めるVACやヴァンツァーを搭載したRFトロイホース級全域航行艦も含まれていた。
「戦術指揮官!」
「どうした?」
「衛星軌道上の艦隊から連絡です。ギャラルホルン艦隊の排除が完了。これより降下部隊を発進させると」
「了解した。タイミングとしてはばっちりだな……」
空からの、宇宙からの戦力の投入。これにより一気にアドバンテージを得て、勝利へと持ち込む。
強い意志の元、ブラフマンは指揮を続行した。
- アーブラウ領 エドモントン郊外 ギャラルホルン陣地 指揮所
「くそ、油断していた……!」
「落ち着け、マクギリス。気が付けただけでもマシだ」
「だが、相応に被害は出たぞ……!」
指揮所で歯噛みするのはマクギリスだ。
そう、単に防御に徹するのではなく、砲陣地の正確な測距や偵察を行っていたということを見破れなかったのは痛手だった。
そして、何度も衝撃が発生し、いくつもの部隊との連絡が途絶えてしまった後には、機能を半ばマヒした防衛陣地が残されていたのだ。
「これでは相手に一方的な攻撃を許すことになる。少なくとも、内部に突入される危険が高まった」
「だが、陣地そのものが吹き飛んだわけではないだろう?」
「ああ……だがいつまでもつかわからん。前進してきている戦艦の砲撃は一点を狙い続けている。
つまり、突破口を開こうとしているわけだ。時間を与えれば、やがて突入に最適な状況を作られるのは避けえない」
加えて、大量の、それこそ数百も展開した機動兵器への対処も必要だ、とマクギリスは漏らす。
MSだけではない、MTと呼ばれるカテゴリーの兵器だ。それが整然と列を作り、無表情なままに前進してくる。
567: 弥次郎 :2022/03/10(木) 21:38:16 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
「あれは?」
「あれはカラール自治区への偵察で見た覚えがある。あれでもMSを撃破するだけの能力のあるスペックがあるぞ」
「数は上でも、質は負けていないわ」
「だが、奴らの目的は時間稼ぎだ。突入さえしてしまえば勝ちなのだからな」
気炎を上げるカルタをなだめつつも、ガエリオはモニターに映る数に眉をしかめる。
輸送艦タイプから降ろされたそれらは膨大を通り越している。そして、あれは無人機が多くを占めているとのこと。
つまり、最悪自爆してでもこちらの動きを阻害し、本命の動きをサポートすればいいのだ。加えて、如何に質が優れていても数によって疲弊は起こる。
武器弾薬推進剤も減るわけであるから、実際のところMSで排除するのには時間がかかってしまうわけである。
「どうする?」
「仕方がない。敵の機動兵器はぎりぎりまで惹きつけて迎撃する。飛び出していったところで今度はこっちが釣る瓶打ちにされる。
各隊に通達しろ、無駄に前に出て戦うなとな!」
「了解!」
オペレーターたちはマクギリスの指示を素早く伝達していく。
指揮を中継する前線指揮所が潰されているといっても、LCSを中継するドローンなどを展開させているので指示は飛ばせる。
少なくとも、完全に無秩序な状態に陥ることは避けられるであろう。
「ファリド特務一佐、衛星軌道上の艦隊から通信です!」
「内容は!」
「エドモントン上空での迎撃に失敗、撤退する、と……」
やはりか、とマクギリスは呻く。主力の多くを地上に下ろした弊害もあるのだから、あまり期待はしていなかった。
とはいえ、作戦が終わるまで時間を稼いでくれればとは思っていた。
「よく粘ってくれたと伝えてくれ。ほかに動きは?」
「上空より飛来物多数!これは……MSです!大気圏を超えて、MSを投入してきました!」
「向こうの狙いはこれか……こちらを包囲するつもりね!」
果たして、カルタの分析は正しい。
それは前面に出てきた母艦の援護のためもあるが、予備戦力としてエドモントンを囲って防衛している部隊への陽動も兼ねていたのだ。
先頭の発生する箇所を分散させることで、出来るだけエドモントンへの被害を抑えようという連合側の意思だ。
「マクギリス、このままでは……」
「わかっている」
つまり、ここで求められるのは数だ。
予備戦力も動かしているが、各所に展開している地球連合と火星連合の戦力の方が多い。
だから、ギャラルホルンとしては温存してあるアレを出す時が来たと言える。
(アレを出すのは正直……いや、今更か)
アレの危険性を訴えて、改造と運用を止められなかった時点で同じ穴の狢だ。
まあ、止めたところであの男が戦力を惜しむはずもないだろう。
それに、ギャラルホルンが積極的に禁忌の技術に手を出したという汚名の証拠でもあるのだし。
いつまでも温存せずに、逆に出場させたうえで撃破させてしまった方が、犯罪者の「処理」にも役立つだろう。
そういう意味においては、地球連合の戦力の強さは当てにできてしまうくらいなのだし。
「最低限の防衛戦力を除いてエドモントン防衛の全MS隊は全機西部防衛ラインへと集結、例の部隊を出す。
相手の本命はあくまでも蒔苗の突入だ。これさえ防げば何とでもなる。総員に伝えろ、これからが正念場だと」
そして、自分たちも、とマクギリスとガエリオはアイコンタクトをとる。
降伏する手はずは整っている。だが、それを極めて自然に行わなくてはならないのだ。
二重の戦い。うまくプロレスをしつつ、ゲームから離脱できるか。正念場を迎えようとしていた。
568: 弥次郎 :2022/03/10(木) 21:38:51 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
激戦は続きますよー
マッキー、決死の演技である。
573: 弥次郎 :2022/03/10(木) 22:09:45 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
誤字修正
566
×「衛星軌道上の艦隊から連絡です。ギャラルホルン艦隊の排除が完了。これより降下部隊を発振させると」
○「衛星軌道上の艦隊から連絡です。ギャラルホルン艦隊の排除が完了。これより降下部隊を発進させると」
601: 弥次郎 :2022/03/10(木) 23:28:53 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
追加で誤字修正を
565
× 飛び立ったカノープスを狙い執拗に攻撃が飛ぶが、いずれも躱されるか、バイトユニットにより浮遊するシールドによって悉くが弾かれた。
○ 飛び立ったジュピターソンを狙い執拗に攻撃が飛ぶが、いずれも躱されるか、バイトユニットにより浮遊するシールドによって悉くが弾かれた。
最終更新:2022年03月11日 10:26