44: ホワイトベアー :2022/03/04(金) 22:47:36 HOST:115-179-80-59.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
第5話 天国と地獄と

《番組の途中ですが、臨時ニュースをお届けします。
本日13時、扶桑皇国においてネウロイが確認され、扶桑皇国と戦闘状態になりました。扶桑皇国陸軍省の発表によりますとネウロイはオラーシャ帝国・扶桑皇国国境付近の複数の航空基地をほぼ同時に攻撃をうけたとの事です。
この攻撃を受け、扶桑皇国政府は国家有事法を発動し、陸海空全軍の警戒レベルをあげることを発表。あわせて予備役の動員が開始されたとの情報も入っております
また、わが国を含めた東アジア協力機構の臨時会合の開催を要請、本日夜7時から漢城の東アジア協力機構本部において臨時会合が開催される模様です。こうした事態に際して榊首相は・・・》

戦争が始まった事を知ったのは、私が組織間の隔たりを超えたウィッチの親善を目的と称した海空軍航空ウィッチ合同合宿で函館を訪れていた時であった。

夜、なんとなしに見ていたアニメが中断され、臨時ニュースで扶桑皇国がネウロイに奇襲された事が放送されていた。私が見ていたチャンネルだけではない。全てのテレビのチャンネルが同じ内容を同じように放送している。
しかし、この時はまだ私達にとって戦争は遠い国の出来事、テレビの中の物語に過ぎず、私も含めた多くの人間の懸念が合宿が中断されるのかどうかであるなど誰もが他人事であった。

今回の合宿の責任者であった嶋田海軍中将の判断もあり、最終的に私たちは当初の予定通りに合宿を満喫することができた。

合宿が終わり、基地に戻ってきた頃には帝国議会において東アジアへの軍の派遣が議決され、帝国にも本格的に戦争の空気が漂い始める。
ネウロイが相手である以上、派兵される部隊には陸空のウィッチ部隊も当然存在しており、私たちにも戦争の足音が聞こえ始めていた。


「きっついわね」

課題と授業の波状攻撃に敗北寸前まで追い込まれ、力なく机に倒れていた穴拭智子の口から力のない言葉がこぼれる。

「死ぬ、空を飛ぶ前に死んでしまう」
「書類はもういやだ書類はもういやだ」
「教官たちは全員どのつくSでしょ」

彼女だけではない。教室にいた全ての少女たちが大なり小なり似たような状態になっていた。
戦争が始まったことを私たちに実感させたのは訓練内容の大幅な変更・短縮であった。
本来なら1年かけて行う教程を半年で終わらせ、飛行教程に入ろうという控えめに言って考えた人間の顔を拝みたい教程編成になったおかげで私たちは地獄を見ていた。

「それでも早く飛べるようになったんだから感謝するべきなのかな」

「んなわけないでしょう。空への憧れから目が曇ってるわよ」

どうやら声に出ていたらしい。裕美が呆れた顔をして突っ込みを入れてきていた。

「やっぱりそう思う?」
「当たり前でしょ。こんな鬼畜なカリキュラムを組むような人間に感謝するとかマゾヒストのすることだわ」

確かにそうだ。ただでさえキツイカリキュラムの内容が二倍マシになっている。死にはしないが死ぬほど辛い内容だ。当然、カリキュラムの中には地上訓練も存在しており、体力訓練や射撃訓練はもちろんベイルアウト時の事も考えたサバイバル訓練など多様な訓練が存在していた。
それでも私は本来の予定より早く空を飛べるようになったことが嬉しかった。

45: ホワイトベアー :2022/03/04(金) 22:48:19 HOST:115-179-80-59.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
1937年7月 オラーシャ帝国 ブラーツク周辺空域
ブラーツク、シベリアでも最大クラスの発電所を持ち、3万人近い人口を持つこの都市は、まさに今、ネウロイの侵略を受けようとしていた。

空では飛行機を模しているのだろう銀色の害虫(ネウロイ)どもが徒党を組んで攻め寄せ、私たち国連極東ネウロイ監視航空団の残党と元々プラーツク基地に配備されていたオラーシャ陸軍航空隊が必死の迎撃を行い、
地上では戦車でも模しているのか?四つ足のGモドキ(ネウロイ)の侵攻をオラーシャ軍と民兵たちが決死の抵抗で食い止めている。
周囲の道路や鉄道はネウロイの支配下に落ちていることから事実上包囲され、さらに彼らを護るべきオラーシャ軍が機能不全に陥っており援軍の見込みは0という絶望的な状態でだ。

幸いな事は少しばかり時間があったことから大半の女子供をイルクーツク方面に非難させされたが、それでも2000近い非戦闘員の非難が間に合っていない。

最悪最低の日というものは常にその下があるようだ、銀色に光るくそったれの害虫にオラーシャ帝国から拝借したDP28を向け、7.62×54mm弾をたらふく喰らわしてやりながら、エルケ・ブレーメルは心の中でそう毒づいてしまう。
カッシャーン、ガラスの割れるような音とともにネウロイが消え去る。

『後ろをとられた!! だれか助けてくれ』

それとほぼ同時に耳に付けている魔導インコムから助けを呼ぶ声が聞こえる。足を止めずにさっと周りを確認すると、左方に二機のネウロイに追い回されているI-16を発見した。周りの友軍機や航空ウィッチも自分や自分の両機をカバーするので必死なようでカバーに入れてない。

「確認した。カバーにはいるからそれまで我慢だ」
『わかった!!だが、そうは持たない』

一度思いっきり高度を上げつつ、弾倉を予備のものに変える。そして、くだんのI-15より高い位置までいったら、太陽を背にした状態でI-16を追い回す二体のネウロイのちょうど真ん中に落ちるように一気に急降下をかけ、引き金を引く。

「いっちょあがりってね」

カシャカシャーン
二体分のネウロイが霧散する音が聞こえてくる。

『助かりました。中尉、基地に生きて帰れたら一杯おごらせてください。そして熱い夜を共に過ごしましょう』

そのまま次の獲物に向かっていた私に、助けたI-15のパイロットから感謝の通信が入る。
先ほどまで死にかけていたというのに、口が軽い。だが、悪い気はしなかった。こんなに絶望的な状況ではこういった人間も必要だろう。

「夜はともかく、お酒はありがたくいただくわ。だから、生き残ってとびきり上手いウォッカを用意しておきなさい」

おう、こりゃあ生き残らなきゃ。そういうとお互いに再び戦闘にもどっていく。こうしている最中にも空にいたはずのネウロイは減っており、味方航空機の数はそれよりも減っている。敵の羽虫達がうようよいる現状ではいつまでもおしゃべりを楽しめるほどこの空は優しくはない。

『こちら第82戦車中隊、敵の攻撃が激しい。支援をくれ!! はやく!!』
『このままだと防衛線が突破される‼ もういい、俺たちごと砲撃してくれ』
『後の事なんて考えてる場合か!? いいから撃ちまくれ!!』
『こちら第21市民中隊、負傷者が多数いる。援軍を!! 援軍を!!』
『防衛線を死守しろ!! ブラーツクにはまだ逃げそびれた子供や女性がいるだぞ!!』
『戦車が吹っ飛んだぞ⁉』
『クソったれめ!! BT-7じゃ歯が立たない!!』
『援軍は⁉ 援軍はまだ来ないのか?』

無線からは実に悲惨な声がインカムを通して私の脳に届く。
空ではやや不利程度で戦況が進んでいるが、地上ではそれどころでは済んでいなかった。
何せ、森林の中で数・質でまさるネウロイを相手に近接戦をしなければならないのだ。不利どころの話ではない。
空の死闘がそうでないと思えるほどの絶望的な、一種の虐殺に近い戦闘であった。むろん、虐殺するのはネウロイ側で虐殺されるのはオラーシャ軍だ。

46: ホワイトベアー :2022/03/04(金) 22:49:17 HOST:115-179-80-59.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
ネウロイが攻撃を開始してきた時点で、この防衛線には各地から敗走してきた部隊をかき集めるだけかき集めたオラーシャ正規軍約2万5千と18歳から65歳以上の男性を総動員したブラーツク民兵約8千の計3万3千の将兵と戦車350両、火砲540門が配備されていた。対するネウロイ側は中型210、小型2500、数だけ見れば圧倒的にオラーシャ帝国側が有利だ。だが、いまではどれだけの人数が生きていることだか・・・

それでも、第4派までの攻撃を防ぎ切り、今様におこなれている第5派の攻撃を受けても防衛線を何とか維持できているのは、皮肉なことにネウロイを相手に近接戦を挑む理由でもある森林がネウロイ側の衝撃力を消滅させているからだ。オラーシャ人風に言えば母なる大地が助けてくれているとでも言うのだろうか?

むろん、私たち航空部隊も地上部隊の戦闘を黙って見ているわけではない。彼らを狙う飛行型ネウロイは真っ先に撃破するし、
ここまで一緒に逃げ延びてきた二人の地上攻撃ウィッチとその護衛を中心にした航空ウィッチ隊とTSh-3、DI-65hからなる対地支援部隊などが航空支援を行ってはいた。
もっともその効果もどれだけのものだろうかはわからないが・・・。

そんなもの思いにふけっていた罰か、いつの間にかネウロイに背後をとられ、機銃の射線に入ってしまった。

「しまった!!」

とっさにシールドを張る事で何とかしのぐが、それでも不利な状態であった。
あまりやりたくはないが、しょうがない。私は履いている戦闘脚の魔導ブレードを同じ方向に回し、トルクを一方向に限定、そのトルクを利用して急制動をかけて敵の後ろに回り、ネウロイを穴だらけにする。

ーー秘技 ツバメ返し

たまたまできた扶桑の友人に教えてもらった曲芸技がこんなところで役に経つとは・・・
人生とはよくわからないものだ。

『中尉、10時方向に敵の増援がありますがどうしますか』

貴重な探査系の固有魔法を持つ02からの通信を受け、そちらを《視る》と確かに新しい航空ネウロイがひいふうみい・・・ 20機近くはいた。しかもそのうち8機は中型爆撃機型だ。やつらの目標は基地か防衛線上の部隊かはわからないが、ろくでもないことは確定している。

「第一小隊は各員、燃料と残弾を確認せよ」
『02、予備弾倉ワンマガ、燃料僅か』
『03、同じく』
『04、燃料僅か予備弾倉0』

この状態であの規模のネウロイを相手にするのはギリギリすぎる。
かと言って補給の為に一度基地に帰投してしまったら、目標がどちらであれ爆撃を阻止するのは不可能だ。

「タワー、こちらで20機近い敵の増援を発見、うち双発爆撃機型を8機確認したが燃料・弾薬共にビンゴに近い。そちらで対応できるか?」
『こちらタワー。それは確かか?』
「うちの探査魔法もちが発見して私も《視た》それでも信じられないか?」
『・・・わかった。予備戦力として待機させている第138戦闘航空隊を時間稼ぎに回す。貴隊は至急帰投し、補給を行ってくれ』

47: ホワイトベアー :2022/03/04(金) 22:50:03 HOST:115-179-80-59.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
第138戦闘飛行隊、旧式のI-15を装備した部隊か。私たちが到着するまで耐えられるか?
いや、不可能だろう。

「了解した。・・・そういうことだ。すまない02から04は私と一緒に帰投する。すぐ落として戻ってくるからそれまでこの空域を頼んだ」
『わかった。なあに、ここにいる野郎どもはいい女をいくらでも待てる色男揃いだからな。安心していってこい』


基地に戻るが、すでに第138戦闘飛行隊は飛び立った後であった。
私たちはすぐに機体を簡易整備台にセットすると、即座に整備員たちにより戦闘脚への燃料補給が開始される。その間、簡単な食事と弾薬の補充を終わらせる。
幸い、飛行場の真上まで敵に侵入されるまでには事態は悪化しておらず、この間だけは張りつめていた意識を緩める事ができる。

「燃料補給、完了しました」

整備兵の言葉を受け、わずかな休憩は終了を迎えた。
急いで基地を飛び出し、ネウロイ達の迎撃に向かうと滑走路を目指す。

『中尉、ストップだ。滑走路をあけておいてくれ』

管制塔からのその言葉は、地上部隊がいる方面から発せられているであろう連続した爆発音や耳をつんざくような甲高い音と同時に私の鼓膜に届いた。

時間をおかずに輸送機であろう、太い胴体を持ち、レシプロとは別のエンジンを搭載している4発の、見たこともないほどの大型の航空機が4機、いや5機、次々と滑走路に着陸してきた。
こんな機体を保有している国はあの国ぐらいだろうが、それでも国籍識別表示を見る。
やはりというべきか、そこには地上を照らす太陽のマークが描かれていた。

48: ホワイトベアー :2022/03/04(金) 22:53:40 HOST:115-179-80-59.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
日本大陸×ワルパン第5話は以上になります。
日本軍が派遣された理由はまた次回ですが、政治的理由で本来なら見捨てるつもりだったのに急遽派遣されることになりました。
なので地上部隊は動いておらず、航空部隊のみの派遣となっております。

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最終更新:2022年03月11日 10:38