391: 名無しさん :2022/03/02(水) 00:36:55 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
近似世界 1950年代
“どこまでいっても列島人”
1950年代初頭
アメリカ カリフォルニア州
ロサンゼルス近郊、ルート66で有名なサンタモニカから東に少し行った所にある砂漠の近くの街、サン・バーナーディーノ。
交通量は多いものの、人口10万人ちょっとの閑静な街の一角にある、とあるレストラン。
近年店をリニューアルし、経営や作業に新機軸を取り入れたことが話題となったレストランだが、そこの経営者兄弟は慌てた様子で店の支度に取り掛かっていた。
「はい、はい……わかりました…それでは」
電話を取っていた弟が、緊張というよりは恐縮した面持ちで受話器を置く。
「兄貴……本当に来るってさ」
「なんてことだ…」
厨房から出てきた兄も、その言葉を聞いてある種の戦慄を覚えた。
それは、明日にも来店する“ビッグ”な客についての話だったからだ。
翌日
兄弟の店は、物々しい雰囲気に包まれていた。
駐車場は黒塗りの厳つい車に埋め尽くされ、店の内外にはそれ以上に厳ついスーツとサングラスに身を包み、これ見よがしに銃を持つ男達にて固められていた。
彼らはアメリカ合衆国シークレットサービス。
大統領や政府機関、そして来訪した各国要人を護衛する警護作戦局のエリート中のエリートだ。
その中に混じっている、ある意味場違いな雰囲気の文官は、サン・バーナーディーノ郡長にカリフォルニア州知事である。
これでも一レストランにとっては錚々たる面子だが、彼らはこの場においてはあくまでも主役ではない。
彼らの後に入ってきた東洋人こそが、この場における最大の存在感を持った人間だ。
彼は、日本人。
海軍出身の政治家であり、WW2の頃から各方面より派閥問わず高い支持率を維持している大宰相。
そして現時点で日本のトップに立つ男……大日本帝国連邦首相である。
今年中頃に起こった朝鮮事変(半島北部から勃発した共産革命、史実の朝鮮戦争に相当)への対応について協議する為に来訪したと新聞に書いてあったものの、まさか自分たちの店に来るとは思っていなかった兄弟は、厨房よりその姿を覗き見ていた。
日本軍だか日本警察だかのエリート警護部隊を引き連れ、政府要人や随行員と共に来店したその首相は、物珍しい…もしくは感慨に耽るように店内を見渡すと、手近な席に座ったのだった。
392: 名無しさん :2022/03/02(水) 00:38:40 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
「全員分の注文取り終わったよ、兄貴」
「よし、じゃあやるぞ」
シークレットサービスの黒服達に、何か危険物を隠し持ってはないだろうかと隅々まで探り回られた後の厨房で、兄弟達はいつもと同じように調理を始める。
特別なモノではなく普段出しているような料理がいいとは日本側たっての希望だが、そもそも兄弟達の店は速い安いで売っている安価な大衆レストランである以上、国賓を歓待するような料理を作れないので、いつも通りにするしかない。
数十分後。
兄弟の作った料理は、その簡素さにも関わらず意外と好評であり、そこは一先ず安心していた…していたのだが……
「(何故こんなことに……)」
兄弟達は今、件の首相の前に立たされていた。
にこやかな笑みを浮かべている日本国首相。しかし、その大帝国の元首としてのオーラは、大衆レストランの料理人でしかない兄弟達には少々気圧されるものがあった。
『本日は、どうもありがとう。
アメリカの文化を体験でき、とても良い経験となりました』
「お気に召した様で幸いです」
兄弟はなんとか笑顔を保ちつつ、差し出された首相の手を取り握手に応じる。
社交辞令とはいえ光栄な事だ、今日の出来事を売り文句にすれば更なる集客も望めるだろう。
そう考えていた兄弟だったが、次にその首相より飛び出た言葉は思いもよらぬものだった。
『ところで、貴方達の店は全国展開……いえ、我が国に進出する予定はありますか?』
「え、いや…自分たちの為にやってる店ですので、そのような予定は…」
それを聞いた首相は、握手の手を離して身を正す。
『そうですか…。それでは一つ、これはあくまでも非公式、オフレコで。なおかつ公人ではなく一人の日本人の戯れ言として聞いてほしいのですが……』
そう言うと、少し近づいて切り出した。
『何れ貴殿方の事業は広く、それこそ
アメリカそのものを体現するかのように拡がるものである、と私は感じています。そうであるならば、我が国でも是非とも
アメリカの文化を味わいたい……貴殿方の店で。これは私のみならず、私の友人達もそう思っている筈です。もし、貴殿方が店を広く展開するとなれば……公人たる私が直接何かをする訳にはいきませんが、私の友人達が最大限便宜を図るであろうと思います』
ここで、日本人の随行員が首相に耳打ちする。
『おっと……どうやらそろそろ時間のようです。それでは、今日は本当にありがとうございました。』
そういって、その首相は店を後にしたのだった。
「…………」
「兄貴?」
「いや……何でもない」
その場に残された兄弟……モーリス・マクドナルドとリチャード・J・マクドナルド、“マクドナルド”兄弟は、しばらく軽い現実感の喪失の感覚を感じながら立ち尽くすのであった。
393: 名無しさん :2022/03/02(水) 00:41:57 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
数年後、ニューヨーク
「GATT(関税及び貿易に関する一般協定)の発足に従い、日本およびCOPS諸国への市場参入には成功しましたが……それでも尚、数々の非関税障壁により我が国の企業は苦戦を強いられ───」
「非関税障壁ね……要するに、我が国の製品ではメイドインジャパンに太刀打ちできないという事なんだろう」
ニューヨークの摩天楼のとある一角では、アメリカ合衆国の影の支配者である財界の大物達が集い、これからの事を話し合っていた。
その表情は一様に、苦虫を噛んでいるような難しい様子を見せている。
自由貿易の広がりによって世界中の市場に参入できるようになったは良いが、しかし同時に、莫大な利益を生み出す工業製品ではどう逆立ちしても日本製品に敵わないことが、改めて明らかになったからだ。
とはいえ、全うな市場での勝負以外で日本に喧嘩を売る真似はできない。もしそうなれば
アメリカは叩き潰されることになる。
先の大戦での中独の如く物理的にか、今の借金浸けの英の如く経済的になるかは知らないが。
「しかし、現時点の日本市場において躍進している企業が幾つかあります」
「ほう、それは?」
我が国にも、日本に対抗できる産業が存在したのか。
そんな希望を胸に、日本相手に苦戦する企業家達が一斉に注目した。
そして、魔境である筈の日本市場を生き抜くそれら企業の名前が発表される。
「えー……マクドナルドにコカ・コーラ、ペプシコーラ、KFC、ピザハット、ドミノピザ、ミスタードーナツ、サブマリンズ(サブウェイ)……」
「特に、マクドナルド・コーポレーションは……共同経営者のマクドナルド兄弟が日本展開に力を入れていて…日本政府とのコネがあるという噂も……実際に日本の政財界の大物が多数来店しており……」
「……………………そこまでして太りたいのか!!日本人は!!」
394: 名無しさん :2022/03/02(水) 00:43:08 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
以上となります。
以前に来たレスで良いなと思ったので書いてみました。
最終更新:2022年03月11日 11:11