634: 弥次郎 :2022/03/11(金) 18:45:01 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」4
- アーブラウ領 エドモントン郊外 ギャラルホルン陣地 前衛
戦列歩兵というのは、一見すれば狂気の沙汰である。
派手な格好をさせた兵隊を横に何列も並べ、ひたすらに前進させ、敵を銃の有効射程に収めたら銃を構えて発砲させるというものだ。
その間当然反撃は飛んでくるが、その死体を乗り越えて前進が命じられる。逃げ出せば督戦している兵士に切り殺されるのだ。
ではなぜ、これが採用されていたのか?
まず一つ目に、当時の銃の有効射程が意外と短く、おまけに当てにくいという事情があった。つまり、距離の防御が働き意外と当たらないのだ。
少なくとも歩兵の用いるライフルは安定して当てにくいし、おまけに装弾も時間がかかる。
戦国時代においても鉄砲は当初は脅しや目くらましという方が期待されていた程度には精度などに劣っていた。
そして二つ目に、威圧効果が大きいからというものがあった。派手な格好、膨大な数の兵士、居並ぶ銃火器による威圧を相手に与えるのだ。
というのも、当時の兵士というのは大概の場合徴兵された兵士ばかりで訓練も最低限を受けた程度である。
つまるところ、士気は極めて低いのである。望んだというよりは強制されているわけで、そもそもやる気というものがない。
そんな状況下において戦場にでている兵士たちを最も蹴散らすのに必要なのが何か恐ろしいものということだ。
そこで、死を恐れずにひたすらに前進してくる兵士を見せつけることで、相手の兵士たちの士気をくじくというわけである。
士気が崩壊すれば、恐怖が臨界点に達すれば、人間というのは生き延びようと行動してしまう。つまり、相手の軍隊としての行動を止められるのだ。
つまり、当時としてはこれが最も効率的且つ有力な手法だったというわけである。
そして、エドモントンの西部にあるギャラルホルンの防衛陣地に向けられている戦力は、まさにそれであった。
MTや無人化されているMSの集団による集団進撃だ。重装甲型の盾となるMTを先頭にして、膨大な数が迫りつつあったのだ。
当然の如く、ギャラルホルン側からの反撃はある。生き残っている砲台やMSによる射撃が襲い掛かっていく。
だが、それに往時の勢いはない。事前の攻撃により脅威となりうる大型砲台のほとんどが排除されているからだ。
『この……!』
『食らいやがれ!』
グレイズのライフルやバズーカが、あるいはMWに搭載されている火器が次々と火を噴いていく。
最初の攻撃でダメージを受けたとはいえ、まだまだ生きている兵士は多くいるためだ。
だが、それらは前衛を担当するMT「レイヴェル」の分厚い装甲とバリアにより十全に防がれてしまっていた。
無人機のそれらは、決して恐れを知らない。命じられたままに前進し、攻撃し、敵を制圧するという目的を果たさんと行動する。
『畜生、何で効いていない!?』
『銃火器では歯が立たない……接近戦を仕掛けるしかないか?』
『馬鹿言うな、あの弾幕を抜けろっていうのか!』
ギャラルホルンのMS隊は、陣地のシールドや防御用の塹壕に籠り、そう叫ぶしかない。
何しろ、ただ前進してくるだけではない。レイヴェルの後方に配置された射撃型のMTである「イーゲル」などの制圧射撃が飛んできているのだ。
市街地に影響がないように手加減されているというのはわかるが、それでも容赦のないものが飛んできている。
635: 弥次郎 :2022/03/11(金) 18:46:03 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
そして、着実にギャラルホルンの兵士たちはその恐怖に汚染されていった。
膨大な群れが押し寄せてきている。こちらの攻撃を全く受け付けない敵の軍勢が、確実に、どうしようもないほどに。
戦列を揃え、前進し、その存在感を刻々と高めている膨大な軍勢。しかして、それでも士気が挫けていないのはさすがギャラルホルンというべきか。
エリート教育を受けているという自負と経験が、未だに彼らを支えていた。そして、指揮官の存在も。
『やってやるさ……おい、準備は!』
『いつでも!』
『援護しろ!』
確かに弾幕は厄介。だが、懐に潜り込めば攻撃が通用する可能性はある。
グレイズの小隊が大型のシールドを構えて集合し、さらに近接格闘戦装備のグレイズ、さらにパワード・グレイズまでも集まる。
シールドによる密集陣形で攻撃を凌ぎつつ、至近距離に飛び込み、制圧する構えだ。
『いけ!』
そして、ファランクスは一気に全身を始める。同時に、それを援護するように陣地から火力が投射されていく。
ありったけの重火力、バズーカなどを主軸とした火力の集中は無人機の集団に突き刺さっていく。
だが、同時に反撃も苛烈だ。4足型のレイヴェルの上部に据え付けられた機関砲が火を噴き、他のMTの火力もそのファランクスを阻止するべく動いた。
『ぐぐぐぐ……』
『まだかよ!』
『これでも……急いでいる……!ぐっ!』
エイハヴ・リアクターとナノラミネートコーティングの合わせ技による高い耐久性のシールドは、確かに機能を発揮していた。
だが、それでも耐久力に限界はある。普通のシールドならば簡単に砕けるような射撃を受け続けているのだから、やがて限界が来る。
『ガァッ!?』
そして、レールガンの一撃がついにシールドごとグレイズを貫通した。
即座に陣形が建て直されるが、そのグレイズは実質脱落状態だ。地面を転がっていったが、果たして無事だろうか。
だが、そんな余裕は彼らには存在しない。ひたすらなまでに射撃を凌ぎながらも愚直に進むしかないのだから。
『今!』
そして、至近という距離、MSにおいてはクロスレンジに十分に踏み込んだところで、ファランクスは一気に解かれる。
シールド持ちの合間を潜り抜け、格闘武器を、バトルアックスを引き抜いたグレイズが一気に前衛のレイヴェルにとびかかったのだ。
遠心力とエイハヴ・リアクターから供給される潤沢な電力でもって駆動するMSは、正しくその力をアックスに伝播させる。
MSの体重も加えたその一撃は、並のMSであるならば装甲がナノラミネートコーティングがあろうとも砕けるレベルだっただろう。
『……嘘だろ』
だが、繰り出したアックスは、レイヴェルの展開していたバリアにより見事に空中で受け止められていた。
光の膜の様なものにがっちりと食い込んで、しかし、それ以上は刃が通らないという異常な光景。
やがて、負荷に耐えきれなくなったのか、アックスがへし折れる。それを、グレイズのパイロットは茫然と見るしかなかった。
『な、なんだっ……!?』
そして、接近してきた敵にレイヴェルがいつまでも無反応なわけがなかった。
前腕部に物理的なシールドとバリア発生装置を備えているレイヴェルは、そのシールドの上からのぞくように機関砲が搭載されている。
さらに、そのシールドを構える腕部のほかに設置されている副腕にはクロスレンジでの格闘兵装として、ビームスパイクが装備されているのだ。
そしてそれは、一瞬で突き出されると、的確にグレイズのコクピットを一瞬で貫通した。
まさしく蒸発。
とたんに力を失ったグレイズは、なんの感慨もなくレイヴェルにより吹き飛ばされ、地面を無様に転がるしかなかった。
『嘘だろ……』
『この……化け物がぁ!』
636: 弥次郎 :2022/03/11(金) 18:46:44 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
今度はパワード・グレイズ達ががその火力を叩きつけた。
ガトリングと肩部のミサイルが放たれ、さらには別な機体が対艦大型ブレードで斬りかかる。
通常のライフルなどを超える火力のそれを、この至近距離でならば。あるいはアックスを超える質量の子の武装ならば、と。
だが、無情にもその攻撃はシールドなどでまとめて受け止められてしまう。あるいはナノラミネートコーティング装甲を超える装甲によって。
『馬鹿な、ありえない……!』
『下がれ、反撃が来るぞ!』
硬直しかけたパワード・グレイズだが、声を受けてとっさにバックステップ。繰り出されたビームスパイクをシールドを犠牲にして何とか逸らす。
追撃のように機関砲が放たれ、バランスを崩しそうになるが、何とか致命傷を受けるのは避けることができた。
偏に増設された装甲のおかげであろうか。
『危ない……!』
だが、これでわかる。白兵戦も射撃戦も、どちらも挑むには相手は危険すぎる。
『後退するぞ!シールド!』
『りょ、了解!』
そして、再び密集陣形に戻るとシールドを構えた機体を殿にして一気に下がっていく。
追撃は当然放たれるが、搭載されているAIは無理な追撃を行わないことを選ぶ。敵機の撃破は確かに命じられていることである。
さりとて、優先事項は前進と制圧であり、逃げる敵への追撃まではそこまで優先されていることではない。
だからこそ、ひたすらに前に進むことを選んだのである。これまでと同じように、地面を踏みしめ、一歩一歩確実に。
さらにMT達の集団の射撃はさらに継続し続ける。砲撃で開けられた穴をさらに広げるように、あるいは制圧するために。
その制圧エリアは徐々に徐々にと拡大していき、空を行くエウクレイデスの艦砲もあり、いよいよ防御陣地を貫通しようとしていた。
ここで、MTの動きが変化する。前進する動きとは別として、左右へと大きく展開していくのだ。
シールドを搭載したレイヴェルが先頭を切り、翼を開いていくように。それは、内部に通路を作る動きだ。
外側からの攻撃を防ぎ、尚且つ内部に安全圏を構築するための、入念な動きそのもの。
そしてそこに加わるのが、展開してきたエウクレイデスを発艦したMS隊だ。
鉄華団、タービンズ、さらには火星連合軍のMS達が、それぞれの武器を持ち、担当エリアを決めて展開していくのだ。
そこには、改修を重ね、より強大な力を発揮できるようになったガンダム・フレーム機も含まれていたのだった。
- アーブラウ領 エドモントン郊外 ギャラルホルン陣地 指揮所
「まずいわ、防衛線が抜かれる!」
「この後には最終防衛ラインがあるが……阻止は難しいか」
そしてその動きは指揮所でも確認されていた。
密集陣形に襲い掛かっても簡単に蹴散らされる様も、火力を集中させても効かない様子も、敵戦力の動きも含めてだ。
当然のこととして、指揮所にいる人間はその動きの意図についてももちろん理解できた。
「突破口を作ろうとしているな……空中艦艇から突入部隊を下ろして、そこから一気に通り抜ける気だ」
「戦力の殲滅よりも遥かに楽なわけか」
「まだ増援はつかないの!」
カルタの叫びは必死だった。
確かに、最低限の防備を残して西側に戦力を集めて、撃破された戦力の穴埋めを図っている。
だが、そのカルタの叫びにオペレーターの一人が返答する。
「降下してきたMS隊との戦闘により、足止めを受けています!このままでは予定の半分も到達できません!」
「重火力の運搬に手間取っているようで、展開が追い付きません!」
そう、これまでの戦訓から地球連合のMSなどにダメージを与えるには高火力が必要と判断されていた。
だが、必然的にその装備は重くなるし、嵩張ってしまう。そうなれば、MSとしては機動力や展開力を落とさざるを得なくなるのだ。
最大火力たるダインスレイヴに関してもそうだ。宇宙でさえも動きが鈍間になるというのに、まして地上となれば酷いものとなる。
637: 弥次郎 :2022/03/11(金) 18:47:29 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
そんなところに軌道上から投入されたMSによる妨害が入れば、思った通りの動きができないのも当然のことだ。
「くっ……このままでは……!」
「とにかく、到着したMSで包囲を敷くしかない。急がせろ!」
「相手の本命もそろそろ来るぞ…!」
相手のやろうとしていることは、エドモントン市内へと貫通する安全な回廊の構築だ。
蒔苗の移送を行う必要がある地球連合と火星連合の動きは、全てそれの達成のためなのだから。
だが、相手も当然危険は承知の上でだろう。押し寄せてくるMSを撃退しながらも、護衛対象が通過しきるまでの時間を稼がねばならないのだから。
逆に言えば、この時に抑えられなければ相手に目標達成を許してしまうということになるわけである。
「ここで前線の士気が崩れては困る……我々も出るぞ」
「ああ。そうするしかないな」
「ちょっと、それじゃあ指揮は誰が!?」
「父上にでも投げておけ!仮にも総指揮官だろうし、その手の人間くらい控えさせているだろう!」
マクギリスらしからぬ乱暴な言葉にカルタは目を白黒させるしかない。
だが、状況的にここからが正念場、いや、決定的な場になる。
そんな中においてMSの戦力をいつまでも温存するなど馬鹿らしいにもほどがあるというわけだ。
「それに、現場でも直接指揮は取れる。前線部隊くらいは何とか受け持ってやるさ。
特別戦力とかち合わないようにうまくやれよ、ガエリオ」
「お前もな……急ぐぞ」
「ちょっ……カルタ、お前も行くぞ。何のための戦力だ!」
「わ、私は……ええい、仕方がない!」
逡巡したカルタだが、背に腹は代えられない。
オペレーターに指示を飛ばし、前線指揮に移ること、指揮所での指揮を執る人間を引き継ぐことを通達させた。
それは前線と後方の両方に対してだ。さらには、精鋭戦力である兵力も繰り出すということも伝えさせ、鼓舞する。
「ならば、地球連合の者どもに地球外縁軌道統制統合艦隊の力、見せてくれるわ!」
半ばやけっぱち。けれど、強い意志のこもった言葉とともに、カルタは格納庫へと向かう。
あえて衛星軌道上での迎撃を行わずに地上に下がって待ち受けることになったフラストレーションをぶつける相手が欲しかったのだ。
だが、そんなカルタと引き換えに、マクギリスとガエリオはいよいよ本番と気を引き締めていた。
ここからはうまく立ち回らなくてはならない。うまいところ戦って、奮戦敵わず蒔苗の市街地突入を阻止できなかったという形にする必要があるのだ。
「うまくやれよ……」
「ああ。相手もわかっているだろうが、どこに目があるかわからないからな……」
小声で二人は会話を交わす。
いよいよ戦場。命のやり取りをする場である。そこでの八百長というのは、中々に危険だ。
だが、こんな組織のためにここで死んでしまったりして心中するつもりなど毛頭ない。
この後のことも含めて、部下ともどもうまく生き残らなくてはならないのだから。
斯くして、エドモントン攻防戦は最終局面へと移ろうとしていた。
638: 弥次郎 :2022/03/11(金) 18:48:49 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
割りと頑張らせてみました。
最終更新:2024年03月05日 21:31