33: 弥次郎 :2022/03/14(月) 18:24:05 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」6
ギャラルホルンの特別部隊の出撃。
それは総指揮官たるイズナリオらギャラルホルン司令部にとってみればまさに切り札だった。
砲陣地を含む防御陣地での遅滞戦闘、通常のMS隊やMWによる足止め、そしてそれでもなお破られたときに備えた三枚目のカード。
だが、ギャラルホルンとしてはこれらを使わないに越したことはなかったのも事実だ。
それは倫理と道徳などを無視し、人道にもとる方法によって用意された戦力を用いることへの、なけなしの良心の呵責だったかもしれない。
ともあれ、諸般の事情もあり、それらは最後に切られた、ということである。
ギャラルホルンが大量に送り出した阿頼耶識対応型のMS隊。
それらは、一斉に襲い掛かってきた。防衛陣地に転がる友軍の残骸を飛び越え、獰猛な獣のように。
『何!?動きが全然違う!』
『阿頼耶識?まさかギャラルホルンが……くっ!』
KP兵器を用いるタービンズのMSの射撃はP.D.世界のMSにとっては致命的。
されども、当たらなければどうということはないのである。そして、その言葉の通り、その黒いグレイズは異常な反射を以て距離を詰めてきた。
牽制や弾幕を張っても、まるでその隙間を縫うように潜り抜け、接近し、反撃してくるのだ。
勿論距離を詰められまいと後退するが、相手も気持ち悪いほどの速度で追いかけてくる。
『まずいわね、コンデンサーの残量が……!』
アジーはモニターに映る表示を見ながらも焦りを隠せない。
コジマを用いるMSであるが、コジマ粒子を精製するコジマ機関ではなくコンデンサーを背負う百錬改は、戦闘を経ると徐々に粒子残量が減る。
戦闘に参加し始めてからそれなりに時間がたっている状態で、尚且つ新型への対処のためにその消費は激しくなる一方だった。
『アジー!適当に撃つだけじゃだめだよ!鉄華団との訓練と同じように……!』
『……そうね!』
そう、タービンズMS隊は阿頼耶識を用いるMSとの戦闘経験があるのだ。
相手はこちらの攻撃に瞬時に対応し、正確に動いて回避したり、反撃を仕掛けてくる。
だが、それは逆に言えば正確すぎるし、鋭敏に反応しすぎるということ。
『統制射撃、照準、前方敵MS集団F!』
『了解!』
そして、百錬の脚部に装着されたオプションのミサイルポッドからKPミサイルが放たれていく。
当然ながら、それはグレイズの射撃によりある程度の距離を持って撃墜されてしまった。それはそれでいい。
重要なのは、その行動に移った後に待ち構えることだ。
『いっけー!』
連射モードに切り替えたKPビームライフルの動きが、あえて少し外したところを狙い連射される。
コジマ粒子の煙幕を抜けたグレイズの集団は当然ながらそこを避け、前進を選んでくる---
『読めていたよ』
だが、抜けた時にはすでに先頭の一気にコジマ粒子の弾丸が突き刺さって貫通した後だった。
置き打ちされたのだ。最初は当たらないと判断して処理の外に置いた弾丸が、ミサイルによって新しい意味を得て直撃を得たのだ。
当然、それによって撃破されたグレイズを置き去りに、それでも迫ってくる。今度はランダム回避を加え、反撃も頻度を増してきた。
そして、ついに先頭の一機が信じがたい跳躍力を見せつけ、一機に躍りかかってきた。
こちらの射撃の合間をぬった、正確無比なものだ。
『けど、正確すぎるね……!』
こちらもブレードを引き抜いて相手のアックスを迎撃する構えだ。少なくとも、エーコはそのように見せた。
アジー機は射線がかぶるためにこちらを狙えない。そのようにポジション取りをしてきたのだから。
『ターァッ!』
だが、恐れずにアジーの百錬改はブレードを叩きつける。本来ならば、パワー負けしていたかもしれないだろう。
しかして、生じた結果はグレイズのデバイスの想定したものとは全く違うものだった。
実体ブレードに接触したアックスの刃が、いやアックスそのものが、そのままブレードによって切り裂かれていくのだ。
『!!?!?!?!?!?!?』
34: 弥次郎 :2022/03/14(月) 18:24:49 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
そして、そのままに、適切すぎる姿勢で飛びかかってきたゆえにそのグレイズは空中で止まることができず、その勢いのままにブレードで切り裂かれた。
『KPブレードで助かった……』
そう、コジマ粒子の恩恵を受けているのは何も射撃武器だけではない。格闘兵装もコジマ粒子による攻撃特性を得ているのだ。
だからこそ、ナノラミネートコーティングを施されたアックスであろうとも、質量で負けていなければそのまま押し切れるのだ。
相手は速度と質量で押し切れると判断して飛びかかってきたのであろうが、見た目ではわからないこともあるということだ。
だが、まだ一機撃墜したに過ぎない。
『っ!次』
ラフタは次に迫るグレイズに牽制の射撃を入れた。
一連の動きを見ていたためか、相手は即座に回避に移り、一時的に距離をとった。
その回避運動は先読みできたので、一機を射撃によって仕留めることに成功する。
しかし、相手は一時的に距離をとった。なぜか?持久戦狙いか、いや、そうではないようだ。
『物量とか勘弁してよね……』
別なグレイズらがそこに合流してきた。
見るからにデカイグレイズまでも1機混じっているのが見えた。おそらく、同じく阿頼耶識を用いているのだろう。
2機撃墜するだけでもかなり苦労したというのに、さらに上乗せで来るとは。おまけに、さらなる新型までも。
こちらの機体コンディションは良いとは言えない。コジマコンデンサーの残量は徐々に徐々にと減っていくのだ。
『タービンズMS隊、援護する』
『え?』
その声とともに、後方から大質量の何かが飛んでいった。
『なにあれ……』
それは、とてつもない巨体、MSからでも見上げるサイズの物体であった。
飛んでいった先、当然の如くそれらの直撃を回避するためにグレイズやグレイズ・ギニョールは飛び上がるなどして回避した。
だが、それらは織り込み済み。次の瞬間には数十を超えるビームの光条が伸びて、回避運動をとろうとするMS群をまとめて絡めとり、撃破した。
『嘘、一瞬で……?』
そして、振り返った先には、さらなる巨体があった。
サイコガンダムMk-2RF。地球連合が用意した、超大型MSだった。
機体各所と腕部に搭載されたビーム砲が一斉に放たれることにより、全く逃げ場のない壁を作り上げていたのだ。
『わぁ……デッカ』
『IFFは味方……増援だね』
『救援が遅れてすまない、アレの始末に時間がかかってしまってな』
『アレって…MA?』
サイコガンダムMk-2のパイロットはそうだ、と返事しながらも深くため息を吐く。
『見境のない破壊をまき散らすのをコントロールするためにMSによる操縦を行わせているようだった。
おまけにやたらと動きが良かったからな、ひょっとしたら阿頼耶識を搭載しているかもしれない』
『うへぇ……』
『過去の厄祭戦の戦力まで使うとか、ギャラルホルンは正気なの……?』
『わからん。そうでもしなければ勝てないと追い詰められたのかもしれんな』
タービンズには理解しがたいことであった。だが、実際にそうなのだから困るしかない。
ともあれ、と次の集団に備えて動きを作るサイコガンダムMk-2のパイロットはタービンズの二人に告げる。
『ここは受け持つ。補給に戻った方がいい』
『ごめんなさないね』
『ありがと、危なかったわ』
その提案はとてもありがたいものであった。
確かに倒せないこともない阿頼耶識対応のMSだが、倒すのは正直黒牛そうだった。
通常のグレイズに搭載したものでさえ厄介だったのだから、あの大きな新型の場合どれほど厄介だったことか。
そして、撤収していくタービンズのMSの代わりに戦場を睥睨するサイコガンダムMk-2を狙い、次々と戦力が押し寄せてくる。
『ここは、通さん!』
咆哮と共に、サイコガンダムMk-2は攻撃を開始した。
35: 弥次郎 :2022/03/14(月) 18:25:53 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
そして、特別部隊が押し寄せたのはそこだけではない。
防衛線を突破しようと試みていた戦力、大量の無人機であるMTやMS、そして鉄華団のMS隊にも襲い掛かっていったのだ。
だがMTなどの方は対処はできていた。それこそ集団戦闘により、逃げ場がないほどの火力を叩きつけているためだ。
耐久性に優れるナノラミネートコーティング装甲を持つMSとはいえども、弾が当たれば衝撃を受ける。破壊はされなくともバランスなどは崩れるのだ。
そして、そのMT隊による大量の弾幕を受けているMS隊を上空から巨大な機体が狙いを定めていた。
『阿頼耶識で動きはすばしっこいみてぇだが、逃げられると思うなよ!いけぇ!』
『攻撃開始!攻撃開始!』
そう、ユージンの操るファンタズマ---マボロビだ。
KPビームキャノン、KPミサイル、KPビームガン、さらには拡散プラズマビーム砲などがその体には備えられている。
大量に表れた特別部隊に対して行われたのは、大量の火器によるトップアタックだ。MSは歩兵の様なものと言える。
如何にその歩兵の身体能力が優れていようとも、所詮は歩兵レベルでの話。もっとスケールが大きければ、大した差とはならない。
ファンタズマ・リグと合わせた飽和攻撃は、一瞬で大量のMSを飲み込んでいく。中には回避をしたり、迎撃を試みようとした機体もいた。
だが、本来必要だったのは飽和攻撃に対してその領域から逃げるという選択であり、攻撃性があらわになったデバイスには選びにくい選択だった。
『よし……けど、どんだけ繰り出してくるんだよ畜生め』
ユージンとて分かる。阿頼耶識を使っているということはギャラルホルンはそういうことを、かつてのCGSの様な事をしているということだ。
実際はもっとひどいのであるが、この時点においてはそういう認識が正しいと思われている。
ともあれ、スコアをあげながらも全くユージンは喜んでいられない。つまり、自分は同じような境遇の相手を殺しているということだから。
『腐ってやがる……!』
こみ上がるのはとてつもない怒りだ。人を人とも思わない所業。
腐りきった大人たちが、よもやギャラルホルンにまでいるとは思わなかった。
地球連合の、アルゼブラの、あるいはセントエルモスの大人たちを見てきて見直していただけに、ユージンの怒りは殊更大きかった。
何故そんな大人たちと同じようになっていないのか。そういう失望と怒りがごちゃ混ぜになっていた。
『聞こえるかユージン!前線でミカたちが数でごり押しされている、援護に向かってくれ!』
『……了解だ。誰も死なせるかよ!』
だが、その怒りは団長たるオルガの声で一気に冷える。
冷静に。未だに自分は戦場にいる。しかも、ギャラルホルンのふざけた真似を目撃している仲間がいる。
それどころか、苦戦して援護が必要なくらいになっている?最悪の場合、死ぬかもしれない?
(上等だ……!)
ならば、抗ってやる。
まだ自分達にはやることが、やりたいことが、山ほど残っているのだ。
そう常々言われて教育されたし、自分たちもそう思うようになっていた。大人になって、寿命を迎えるまで死ねない。
仲間たちと共に一緒に生きるのだ。その邪魔をするなら、なんとしてでも抗ってやる。
『いくぜ、ハロ!』
『了解!了解!』
そして、ファンタズマとファンタズマ・リグの集団は一気に加速。
鉄華団の担当しているエリアまで直行していった。
36: 弥次郎 :2022/03/14(月) 18:26:51 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- アーブラウ領 エドモントン郊外 西部戦 鉄華団担当エリア
グシャリとメイスがやっと一機を叩き潰した。
しつこく、それでいて素早く、これまでとは比較にならない反応を見せるグレイズにさすがの鉄華団も苦戦を強いられた。
無論、倒せないということはない。阿頼耶識による反応速度などがあるとしても、鉄華団にしてみればそれ以上の相手と訓練をしたことがあるからだ。
だが、それが相手の方が数的に多い集団となると話は少し変わる。一対一、一対少数ではなく、少数対大多数なのだ。
こちらは包囲されている状態であり、死角をカバーし合っているとはいえ、次々と襲い来るグレイズは一筋縄ではいかない。
『こいつら、動きが気持ち悪い……!』
『阿頼耶識だよな、これ……』
『三日月、デカイのがいったぞ!』
『了解!』
バルバトスがグレイズとのつばぜり合いをしているところに、グレイズ・ギニョールがそのバトルアックスを叩きつけようと迫る。
だが、その間に割って入るようにフラウロスEのドライバーキャノンが放たれる。あたりはしなかった。
そのギニョールはフラウロスの射撃を感知するや直前まで行ったモーションを強引に修正し、飛び下がって回避したのだ。
その隙に、三日月は強引にメイスで鍔迫り合いの拮抗を破り、吹っ飛ばす。そこから滑らかに姿勢を直したグレイズが再度襲い掛かってくるが、それは読めている。
腕部の機関砲でとっさに牽制射撃。あえて見えるようにはなったそれを、敵は律義に避けてくれる。
それでいい。これは別に当てることを狙っていない。むしろ、はずして回避してもらうことが優先だからだ。
『明弘!』
『おうさ!』
そして、接近しようとするバルバトスに視線が釘付けになっていたところに、強引に割り込む形でグシオンがハルバードを叩きつける。
勿論、直前になってグレイズはグシオンの動きに気が付き、回避しようとしていた。だが、それはギリギリ間に合わない。
大質量のハルバードにより、装甲の一部がごっそりと持っていかれる。
だが、それでも止まらない。その状態から強引にバランスを保ち、片腕だけになりながらもバトルアックスを振りかぶる。
しかし、すでにチェックメイト。バルバトスのメイスが今度こそグレイズを地面へと叩き伏せた。
『これでまた一つ……!』
『明弘、後ろ!』
『くっ!』
間髪を置かず、ギニョールの一機がグシオンの背後に現れる。移動してきたのだが、その速度が段違いだ。
完全に背後をとられたかに見えたが、グシオンとて阿頼耶識を搭載しているMS、その存在も動きも感知していた。
だから、即座にスラスターユニットに複合されていた隠し腕ユニットが起動、ビームサーベルを強引に割り込ませた。
片方が殴りつけるように振るわれたアックスを強引に受け止め、もう一方の腕で頭部へのカウンターを放つ。
だが、相手もさるもの、とっさにアックスを手放すと同時に、姿勢をあえて崩してビームサーベルの刺突を紙一重で回避した。
そこにフラウロスEからの援護射撃が飛んでくるのを見もせず感知すると、大きく跳躍して後退していった。
『くそ、埒が明かない……!』
『同感……相手がしつこい』
次の瞬間にはライフルの射撃の嵐が襲い掛かってきて、さらにかぶせるように肉薄してきた。
『おら!』
あえて装甲でライフルの弾丸を受け、相手のソードの一撃を弾く。弾いたが、それを見越したのかぐるりと一回転すると鋭い蹴りを放ってくる。
それに空いた腕を強引に割り込ませ、上にかち上げる。当然バランスが崩れるはずだが、なんとバク転することで強引に姿勢を直した。
さらに息をつく暇なく、次のグレイズが迫っていた。悪態をつきながらも、二人は対応するために次の動きを組み立てていく。
37: 弥次郎 :2022/03/14(月) 18:28:10 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
そして、そんな二人を援護していたフラウロスの所にも、グレイズらは寄ってくるのだ。
遠距離射撃戦を得意とするフラウロスだが、その火力を十全に発揮するには近距離におけるガードが必要となる。
その役目を負っているのがチャドとダンテの二人であった。
だが、その二人だけでなく、砲手のシノさえも自衛に回らなければならないほどに数が多かった。
『こいつら、なんて動きだ……!』
『KP兵器が無かったらやばかったな……!そら!』
果たして、チャドの言葉は正しい。鉄華団仕様のドラクル・ロディはコジマコンデンサーとテスラドライブの並列搭載の高級機。
つまり、同じ阿頼耶識搭載MS同士であっても、プラスアルファがあるということになる。そして、戦闘経験には大きな差があった。
致命傷を与えるために接近してくるならば、その動きを読んだうえで、KP兵器でカウンターをしてやれば確実に撃破できるのだ。
とはいえ、それでも油断ならないのだから、相手の数の暴力は恐ろしいというべきか。
『見え見えだぜ、オラ!』
飛びかかってくるグレイズ。通常のMSなら反応が追い付かないであろうそれは、しかし、シノにしてみれば遅い。
瞬時に武器の持ち替えが間に合わないと判断するや、前腕部のKPクローを展開、通常よりも伸びたリーチを生かし、相手の腕ごとブレードを破壊する。
しかし、相手もさるもの、破壊されながらバランスをとり、もう一方の腕にあるシールドを叩きつけようとしてきた。
すげえな、とシノは感心する。自分とて、今の動きがすぐにできたわけではない。ものすごい訓練の果てに得たものだ。
それに追いつくような動きをしてくるとは。間違いなく阿頼耶識だ。だけど、中身まではわからない。
どんな奴が乗っているかも、どんな思いで戦っているかもわからない。ひょっとしたらヒューマンデブリかもしれない。
(けど、悪いな)
死ねないのはこっちとて同じだ。同情したいが、こういう場だ、しょうがない。
刹那の思考の後、シノのフラウロスはあえてその刺突を真っ向から受けた。
ガキン!と、衝突する音がした。PAとシールドが激突する、物理的な音。コジマ機関搭載型ゆえにフラウロスEはPAを有しているのだ。
その出力はグレイズ程度の出力の打突程度で揺らぐことはない。開発されてから100年以上改良され続けたコジマ技術は伊達ではない。
そして、そんな時間があるならば、フラウロスがそのプライマリウェポンを向け、引き金を引くには十分すぎる。
刹那に、そのグレイズはKPビームライフルの一撃を受けて撃破された。
『おい、シノ!悠長に処理してないで援護!』
『おうよ!』
ダンテの声に反応し、フラウロスはドライバーキャノンを三連射。ダンテに接近するグレイズ目掛け浴びせる。
相手は砲が自分の方を向いたとみるやすぐに回避に移った。だが、そんなのはわかっているから、シノは瞬時に照準を合わせ直す。
それでもなお、回避しようとするのが見えるが、生憎と逃がすつもりはない。
『持ってけよ、散弾!』
放たれたのは、通常弾ではなく散弾、それもフレシェット弾だ。一定距離を飛んだ後に、炸裂して銃弾をばらまくもの。
回避先を先読みし、さらに回避されることを見越したその三連射は、流石の阿頼耶識であろうとも回避できない壁を形成したのだ。
それを食らえば、流石のグレイズも動きが止まる。一つ一つは確かに小さい。されども、各所に突き刺さればあちこちで一斉に損傷が発生。
そうすれば、操縦系は無事でもMSそのものは無事では済まないのだ。
『とどめだ!』
そして、動きが硬直したグレイズを逃がさずにダンテのドラクル・ロディのKPビームアックスが叩きつけられ、ついにとどめを刺された。
38: 弥次郎 :2022/03/14(月) 18:29:45 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
『やっとひと段落か……?』
しつこく絡んできた一機のギニョールを三日月との連携で屠ったのち、明弘は荒い息をついた。
まだ戦闘自体は続いているが、自分たちの担当エリアにギャラルホルンのMSの姿が見えなくなっていた。
あるのは大量の残骸ばかりであり、いずれもが動かぬままに倒れ伏している。駆けつけたユージンのマボロビの援護射撃のおかげもある。
やっと一息つけるか、と思うが、どうにもそうもいかない。機体が、乗っているグシオンがまるで興奮しているかのような状態なのだ。
(これがガンダム・フレームの意識って奴か……?)
明弘も、自分の乗機についてのレクチャーは受けてある。このMS自体が意識を持ち、自己で判断を下していることもだ。
そして、その理由が少し前に会敵したMAという殺戮兵器にあることも。元々ガンダム・フレームがそれを討伐するためのものというのも聞いている。
(自分が倒すべき奴を見て興奮していた……のか)
以前の自分なら信じられなかっただろうな、と明弘は思う。
だが、学問を学び、セントエルモスの大人たちと交流し、知見を広めた今ならば信じられる。
セントエルモスには100%機械の体を持つ人員もいたのだ。元々人工知能という彼女は、普通の人間のような感情や情緒を備えていた。
それと同じようなものが組み込まれていて機体制御を行っていると考えれば理解できるのだ。
いわば、このガンダム・フレームにとっての仇敵といえる。自分だって、宇宙海賊相手に感情の抑えが効かなくなりそうなことがあった。
つまりグシオンがまるで興奮しているかのような状態なのは、それと同じなのだろう。
300年も前に作られてなお、命じられたことを忘れずに、今もなおその為に動こうとするのは機械であっても何とも律儀というべきか。
『お前ら、生きているか?』
その時、LCSで通信が入る。
その声は聞きなれたオルガのモノだ。
『無事だよ』
『こっちも何とか大丈夫だぜ』
『問題ない』
安どの色が声に交じり、情報が通達されるとともに口頭で説明が始まる。
状況が変化したので、それを伝えるためか。
備え付けの経口補水液のボトルに手を伸ばし、それちびちびと飲みながらも耳を傾けた。
『よし。お前らの活躍もあって、周囲の制圧が完了した。いよいよ突入部隊が市街地に突入する。
こっちは今、地上に降りたところだ。蒔苗の爺さんとクーデリアと一緒にな』
阿頼耶識を介して、戦場のマップが認識される。
エドモントンの西部の防衛線に空けられた穴はかなり大きく広げられている。そこにMTなどが並び、完全に回廊としているのだ。
市街地の方にはMWが山ほど控えていたようであるが、当然のごとくこれらは排除されている。あとはもう、一直線だ。
そして、上空からの砲撃支援を行っていたエウクレイデスは着陸しており、さらに戦力を吐き出している。
そこにはエイハヴ・ウェーブを発しないMWやMT、あるいはタンク脚部のヴァンツァーなどを揃えたストライクワイバーンズが含まれていた。
『各員はいったん補給に戻ってくれ。連戦させちまったからな。まずは自力飛行できるユージンからだ。
後から輸送機が来るまで他の奴らは現状を維持。相手の動きがあまり見えなくなったみてぇだが、油断するなよ。
あっちこっちから増援がまだ駆けつけてきているようだからな』
『了解!』
『了ー解』
やっとひと段落。通信に乗った多くの仲間の声には安どが混じっていた。
『…了解』
明弘もまた、連戦から解放されると分かり、ようやく深く落ち着いて息を吐き出すことができた。
だが、同時に教官であったセントールの言葉が思い出される。死神は何時もそういう時を狙っている、と。
いよいよ終局が近づく中で、しかし、戦いはまだ続いていたのだった。
39: 弥次郎 :2022/03/14(月) 18:30:27 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
原作第二期で夜明けの地平線団の阿頼耶識持ちに無双していたじゃん?と思う方もいるかと思います。
ですが、ギャラルホルンの特別部隊って最低でも原作鉄華団クラス、個体によってはアイン君並に反応してきます。
あの気持ち悪い反応と反射を生かしてくるので、流石に……ギニョールなんてグレイズ・アインそのものですしね。
さて、いよいよ戦闘も終盤。
マッキーは?ガエリオは?カルタ様は?タワケ様は?
そこら辺をまとめて話にしようかなと思っております。
最終更新:2024年03月05日 21:31