214: 弥次郎 :2022/03/15(火) 22:35:16 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」7
MT隊による最終防衛ラインの突破が確認され、さらには展開したMSやACによる突破通路の完成が報告され、セントエルモス戦隊はついに突入部隊を送り出した。
大量のMTによって構築されいる物理的な壁は、それだけでなく、広域に展開するバリアとMTの攻撃力も備えたもの。
それは単なる通路というよりも、通過を邪魔するものを配乗する攻撃的な回廊やトンネルといった方が良いであろう。
観測している側のギャラルホルンも絶句するしかない、とてつもない物量を用いた豪華な戦術と言えた。
無論のことギャラルホルン側もこれの意味は分かっている。
残っている戦力を投入し、これの突破し、通過するであろうVIP---クーデリアや蒔苗の身柄を抑えるように指示を出した。
だが、その回廊は何もMTによる壁一枚というわけではない。すでに展開済みだったMSやACも周囲に展開しているし、何ならば着陸しているエウクレイデスの援護もある。
すでに前線で戦力が枯渇気味にあるギャラルホルンにとっては、戦闘開始時の戦力をおかわりしても突破は難しいであろう。
だが、そんなことは理解しているとしても、ここで引っ込むわけにもいかないのがギャラルホルンであった。
殊更に、本人の敢闘精神が半端ないくせに地位と家柄が邪魔をして長らく前線から遠ざけられていたとある女傑にとっては。
『続け!ギャラルホルンの戦士たちよ!このカルタ・イシューに!地球外縁軌道統制統合艦隊に続けぇ!」
統一されたカラーリングと独特のペイント、そしてラタトスクの紋章を描いたグレイズ・リッターを先頭に吶喊する集団があった。
そう、名乗りの通り、カルタ・イシュー率いる地球外縁軌道統制統合艦隊のMS隊である。
開戦以来戦い続け、友軍が次々と撃破される中において疲労と戦意を失いかけていたギャラルホルンの兵士たちの中にあって、その戦意は高かった。
バラバラならば容易く退けられる、しかし、量と質を合わせれば?そのようにカルタは考えていた。
『動けるものは火器とシールドを集めて集合せよ!敵の首魁がくる好機だ!』
部下たちと合わせ、残存の戦力に集合を呼びかける。
必要となるのは、肉薄するための防御と数だった。
最悪の場合、クーデリアらは殺害することになってしまってもよいわけで、その為の誰かが肉薄するだけでよいのである。
それが如何に堅牢な防御陣であろうとも、強引に突破できればそれでよいというわけだ。
(ここで首級をあげねば、我々の面子は!矜持は!すべてが地に落ちる…!)
カルタとしても当然、ギャラルホルンの苦境を理解していた。カルタなりにではあったが、これまで良いようにされてきたことは知っていた。
このままではギャラルホルンの存続さえも危うくなり、これまでの秩序体制が崩壊してしまいかねない、とも。
そして、それを挽回するチャンスが眼前に迫っていることは、カルタの行動をいやでも後押ししていた。
(あの男とガエリオの分も、私がやらねば!)
そう、ここまでくるにあたり、地球連合の戦力の足止めのために二人はカルタと別れていた。
戦力が減ったのは業腹であるが、あの男に任されたというのは悪い気持ではない。
そもそも、あの状況で誰かが足止めをしなければこうして肉薄するチャンスさえなかったわけなのだから。
だが、それは知らずと焦りを生み、余裕を奪っていた。乾坤一擲の賭けに出るしかない状況とは、得てしてチェックメイトが近い裏返しでもあるのだ。
つまり、ここで組織的な反撃に失敗した場合、ギャラルホルン側の士気は挫けかねない。それも、致命的に。
それに、冷静に考えれば、突入部隊の護衛というのは並のものではない。市街地に入るまでに万難を排しているのだし。
それに、市街地に入らなければMSなども容易く動員できるわけで、その戦力は精鋭にして数も多い。
つまり分が悪いどころの賭けではない、というわけなのである。
215: 弥次郎 :2022/03/15(火) 22:35:55 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
とはいえ、それをやるしかないのも事実。
そして、突入回廊を目視でとらえた時、当然相手も反撃を繰り出してくる。
まさしくなタイミングで、突入部隊の本命がエウクレイデスから発進していったのだ。
だが、それを理解しているから、回廊を形成するレイヴェルが、あるいはほかのMTが、MSが射撃の壁を放ってきたのだ。
『亀甲の陣!』
『全速突破!』
それに対し、カルタらギャラルホルンの攻撃隊が選んだのは集団防御であった。
シールドを持ったグレイズらが先頭に立って集団を形成、それらが回避運動と反撃を混ぜながら突撃していくのだ。
突撃に参加できない戦力、大型砲やダインスレイヴを持った兵力は、後方からの援護射撃に徹することになる。
決死の作戦だからこそ、誰もが一縷の望みを託し、必死に援護する。
『進め、すすめぇ!怯むな!』
無論脱落者は出る。シールド持ちには火線が当然集中することになるし、そうでなくともウィークポイントを狙う攻撃は来る。
あるいはシールドごと吹っ飛ばすような巨砲の反撃も飛んでくる。殊更にエウクレイデスの艦砲のレンジでは。
だが、果たして集団は数を減らしながらも、突破回廊に接近していった。
『見えた……!』
そして、グレイズ・リッターのセンサーは捕らえた。
半透明の光の膜の向こう、壁のように重なるMTのさらに向こう側、回廊の中を移動していく戦力を。
『かかれ!』
そのカルタの叱咤の声とともに、集団は一気に肉薄。
前衛がついに崩壊しながらも、ついに標的を捕らえる距離にまで詰め---
(えっ……?)
そして、突然すべてがはじけた。
体を襲うのは浮遊感。自分の体が、MSが、まるで重力などないかのように空を舞っている。
カルタは、そして地球外縁軌道統制統合艦隊を含む突撃部隊のパイロットたちは、殆ど残らずそれを味わっていた。
理解できない。
瞬きを一つした次の瞬間に、光景も何もかもが大きく変化してしまっていたのだ。
地上を疾走していたはずなのに、敵の集団目がけて襲い掛かろうとしたはずなのに、いったいどうして?
(あっ……?)
やけにスローに見える世界で、その答えはコクピット内のモニターに表示されていた。
空を飛ぶ特徴的なフォルムの何かが、地面にめがけて攻撃を放っているのだ。光る砲身から、すさまじい勢いで弾丸が発射される。
それは吸い込まれるようにMSによるファランクスへと襲い掛かり、シールドもMSも何もかもを貫通し、そして地面へと突き刺さった。
当然、それだけの威力を伴う弾丸が着弾すれば、エネルギーは周辺へとまき散らされる。
(まさか……)
そして、急速に世界の速度は戻っていく。
刹那に、身体をすさまじい衝撃が襲い、カルタの体はコクピット内で激しくシェイクされる。
当然、シートに固定されていても体はコクピット内に激突し、耐えがたい鋭い痛みが走る。液体のような感触がするあたり、血も出たのだろうか。
だが、それで終わりではなかった。アーガトラムはレールキャノンで吹き飛ばしたのちに、ビームマシンガンの斉射を放ったのだ。
当然、空中に打ち上げられてバランスも何もないグレイズなど、いい的でしかなく、次々と打ち抜かれていく。
(ああああ……ああ……あああああああああああ!)
悲劇的にも、カルタはそれが見えてしまった。
そして、自らのグレイズ・リッターにもビームの弾丸が突き刺さり、MSを粉々にしていく。
216: 弥次郎 :2022/03/15(火) 22:36:37 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
だが、幸運なことに、生きたままだった。コクピットへの直撃は避けられた。
そしてそのまま、地面に体ごと叩きつけられる。
「ごぼっ……!あが……」
半ば瀕死。全身に打撲、あるいは出血は数えきれず。さらに叩きつけられた衝撃で頭がよく回らない。
満身創痍となったMSのコクピットの内部で意識を保っているだけでも奇跡的とさえ言えた。
「あっ……ああ……」
もはや意味のある言葉は口からこぼれてこない。あるのは、生存本能がわずかに動かす呼吸音と、言葉の様なものばかり。
その上で、カルタは突き付けられた。
自らの敗北を。
こんな状況に陥った状態で、さらに上乗せのように叩きつけられたのだ。
自分達は、あっけなく敗北してしまったのだと。お前らの力などこの程度なのだと。
ここに、カルタ・イシューという人間は完膚なきまで敗北を味わうこととなったのだった。
- アーブラウ領 エドモントン 突入回廊内部 MT内部
VIPの輸送にも使われる護送車のようなMTの中に、衝撃が走る。
それはシートにベルトによって固定していてもちょっと体が浮く程度の、それなりの衝撃だ。
「あら、衝撃が……」
正装を纏うクーデリアは、しかしそれらに驚きはしても取り乱しはしなかった。
正面に座る蒔苗の秘書などは動揺を隠せていないようであるが、クーデリアからすればまだまだぬるい。
少なくとも目の前に、至近距離で複数の銃を突きつけられている状態よりは死から遠いであろう。
仮にもMTという防御に優れた兵器の内部にいて、尚且ついざというときの乗員保護機能まであるのだから、びくびくする必要はないのだ。
「近いところで着弾したようじゃの……」
「ですね……」
蒔苗の言葉に頷きながら、アンジェラへと視線を送る。
頷いたアンジェラは一瞬で戦術ネットワークへと接続、周囲の戦闘の状況を確認した。
「……どうやら、ギャラルホルンのMS隊が突入回廊に集団で吶喊してきたようですね。
それをTMSのアーガトラムが上空から砲撃で吹き飛ばし、殲滅したようです」
「集団で…?」
「いわゆるファランクス……密集陣形での突撃ですね。シールドを並べ、射撃を集団で受け止めることで攻撃を凌いだようです。
ですので、その陣形やシールドごと吹き飛ばす選択をしたようです」
「そうでしたか。なら、問題ありませんね」
「うむ……」
平然と報告を受けるクーデリア。
蒔苗もそれに合わせているが、戦場がほんの少し先にある状況において、あまつさえ余波が届くこの状況で余裕を崩さないクーデリアには目を見張るしかない。
一歩間違えれば死ぬかもしれないというのに、何も恐れていないかのようなのだ。それだけ身を守る戦力を信頼しているのか。
はたまた、自分が死ぬことさえも今後のことも含めて織り込み済みであるというのか。
それが表情に出たのか、クーデリアは小さくこちらに微笑んで見せた。
それは、一瞬首筋にナイフが突きつけられたかのような、そんな恐怖を伴っていた。
今外で起こっているような戦闘によって生じる恐怖とは、また違うベクトルと質を持った、恐怖(テラー)。
(慣れるものではないの……)
この少女---否、火星連合代表の恐ろしいところだ、と蒔苗は思う。
老獪だとか、深慮遠謀があるのとは違う。彼女はまだ若い。政治家として走り出したばかりとさえ言える年齢。
大学こそ出ているとしても、少なくとも自分ならば議員の秘書や事務員などをやらせて政治のイロハを叩き込む頃合い。
それを経ていないということは、政治についてまだ理解が浅いということになる。
だが、それを裏返せば、蒔苗のような政治家でさえも時にとらわれてしまう政治の慣例や慣習に惑わされず果断に決断ができるということだ。
そして、その決断を後押しする圧倒的な力が、政治にしろ、経済にしろ、軍事にしろ、存在している。
下手をすれば戯れで自分の権勢もあっけなく失墜させられてしまうかもしれないという、未熟故の恐怖がある。
それを無意識か、あるいは意識してか、使いこなしているのは天性の才というべきものなのだろうか。
いずれにしても、彼女が稀有な才覚を発揮して火星連合という組織をけん引しているのは間違いない。
「蒔苗様、間もなくアーブラウ首都エドモントン市街地に入ります」
「うむ……あとは議事堂まで一直線じゃな」
クーデリアの秘書の片割れ、翼の生えた異形の少女がアナウンスする。
当然市街地にはMWもいるだろうが、この調子では足止めにすらならないだろうと蒔苗は思う。
MSの自転で十分圧倒していたのだ、MWで負けるなどということもあるまい、と。
そして、最後の防衛線を張る歩兵やMWなどを圧殺し、いよいよ突入部隊は市街地に入り、議事堂への道をまっすぐに進んでいった。
218: 弥次郎 :2022/03/15(火) 22:37:56 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- アーブラウ領 エドモントン ギャラルホルン総司令部
「突破されただと、前衛は何をやっていた!」
統制局局長にして今回のエドモントン工房における総指揮官であるイズナリオ・ファリドの声は凄まじい怒気をはらんでいた。
それも当然だ。ギャラルホルンのほぼ総力を挙げて最精鋭の戦力を集め、禁忌の戦力さえも投入して、決戦へと挑んだのだ。
これ以上にない最高戦力を揃えたという自負はあるし、数の面でも負けないほどにかき集めた。
更には地上というホームグラウンドに引き込んでの迎撃戦という、圧倒的な有利の状況で挑んだのだ。
にもかかわらず、敗北寸前。
かき集めた戦力は悉くが敗北し、蒔苗とバーンスタインは市街地への突入に成功した。
こうなった以上はあとはエドモントン内で阻止することになるのだが、それも失敗しているとの報告が上がっている。
一応軽微という形で戦力を置いているにしても、既に事はアーブラウの政治的問題に入りつつあるのだ。
如何にアンリ・フリュウの要請があっても、ここから先に強引に介入しすぎれば、ギャラルホルンの意義さえも問われることになる。
イズナリオも、自分の叫びが八つ当たりという自覚はある。
「他の戦力は!?市街地には入れる戦力は!?」
「すでにMW隊を投入しています!しかし、地球連合の戦力により悉くが排除されています……残るはプルーマやMWのみです」
「時間を稼がせろ、なんとしてでも!」
部下の怯え切った声に、さらに苛立ちが加速する。
選挙さえ始めてしまえば何とでもなる。無論、蒔苗の派閥の妨害もあるだろうが、非常時ということで何とかしないと間に合わなくなる。
市街地にMSを乗り込ませることはさすがにできない。そうなればMWやMAと共に発見されたプルーマが頼りでしかない。
「他のMS隊は!?」
「各戦線で地球連合軍の戦力による足止めを受けています!ほとんどが撃破されている模様で、西部以外からも市街地に侵入が!」
「ええい、あれだけのMSを用意してやったというのに!」
ガンダム・フレームという300年前の骨とう品のMS。しかし、調べれば高性能ということもあり、信頼のおける部隊に任せていたのだ。
モニターで確認できるが、その部隊は何とか抵抗はしているものの、最早自分たちのお守りでいっぱいといったところか。
(くそ……このままでは!)
ギャラルホルンの敗北が決定的になる。それは、自信の権威の失墜も意味する。
いや、それ以上に、この先に待ち受けているのはラスタルのようなセブンスターズからの除名だけの問題ではない。
ギャラルホルンの権威の失墜および経済圏からの引責を求められることになるのである。
現状、経済圏の内、オセアニア連邦以外の3つの経済圏は地球連合及び火星連合の排除を命令している。
それは現状の政治体制や秩序を乱し、崩壊させかねない勢力であり、これを排除することがギャラルホルンの仕事に該当するためだ。
だが、これに失敗し、火星連合や地球連合との関係を構築することを公約としている蒔苗が当選してしまえば?
その責任は必然的にギャラルホルンのものとなる。ついでに言えば、現状のトップであり今作戦の最高権力者の自分にも降りかかってくる。
最悪、ギャラルホルンというものが経済圏から不要と判断され、解体されるかもしれない。そんな未来が予測できた。
というか、ドルト・コロニーでの騒ぎの時に各経済圏から釘を刺されたのだ。失態が続けば目こぼしもできなくなる、と。
その結果がエリオン家のセブンスターズからの追放と功績の取り消しなどだ。それで何とか落着させた。
次は本気だ。その恐怖は間違いなくあった。一応の保険はある。だが、それに頼るなど業腹だ。
「こうなっては仕方がない……地球連合や火星連合の兵士を人質にしてでも動きを止めろ!」
「総指揮官、しかしそれは……!」
「うるさい!もはや手段を選んでいる暇はないのだぞ!」
「それではギャラルホルンの権威に傷が…!」
「この状況の時点ですでに終わっている!今更の話だ!」
なぜ誰もこの苦境を理解しない?なぜ必死にならない?なぜ非常にならないのだ?イズナリオの怒りはいよいよ頂点にたどり着こうとしていた。
そして、押し問答をしている中で、ついにオペレーターの一人が報告をあげる。致命的な、決定的な報告を。
「地球連合の突入部隊、エドモントンのアーブラウ国会議事堂に到着!防衛ライン、突破されました!
議事堂に蒔苗とバーンスタインが入った模様です!」
その宣告に、さしものイズナリオも言葉を失った。ついに戦局は決定的となり、結果がもたらされたのだから。
だが、蛇足に見えるかもしれないが、重要な戦いは未だに続いていた。
それこそ、今後の世界の動きに影響を与えるかもしれない、そんな戦いが。
219: 弥次郎 :2022/03/15(火) 22:39:01 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえずクーデリア達はゴールイン。
カルタ・イシュー、フルボッコにされました。一応、生きています。
物語はいよいよ佳境。一気にケリをつけに行こうと思います。
政治的なアレコレはちょっとすっ飛ばすかもしれませんがご容赦くださいませ。
最終更新:2024年03月05日 21:30