580: 弥次郎 :2022/03/18(金) 18:02:05 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」9
- アーブラウ領 エドモントン郊外 西部戦 鉄華団担当エリア
問題のギャラルホルンの部隊は、意図的に誘引されていた。
すでに戦場における勝敗は決まり切っているモノであり、あとは処々の後始末にすぎないからだ。
そして該当のギャラルホルンの部隊--フギンとムニンの紋章を描いたMS隊は通常のグレイズであるとの観測情報がとられた。
それ故に、西部戦線にいる鉄華団にエンゲージさせ、対応させることが決定したのだ。
彼らにとっては連戦の後の戦い。これも一つの経験となるだろうとの判断だ。
確認されているのはグレイズにより構成された一個中隊規模の戦力でしかなく、数字の上の有利はあれども全体としてアドバンテージは鉄華団のMS隊にある。
まあ、連合としても殲滅が目的というよりは撃退すればそれでよいので退路も用意してあった。
それはともかく、そのMS中隊---イオク・クジャン率いる部隊は彼の指示の元、エウクレイデスめがけて進撃を続けていた。
目的は言うまでもなく、敵首魁もしくは敵首脳部の捕縛乃至殺害にあった。市内に突入されたので、その代わりに母艦を狙う、というわけである。
それがどの程度戦局に影響するかはさておき、であるが。
実際、このタイミングでの吶喊には戦術指揮官たるブラフマンも、そして戦術AIもその意義が破綻しているものとしか判断していなかった。
戦場はほぼ決着しつつあり、ギリギリ飛び込んだところで突入部隊を阻止できるかどうか微妙なところ。
他の部隊の攻勢の援護としては微妙なところだ。つまるところ、意義が見いだせないし、存在しないかもしれない。
『あるとすれば……何かとんでもない隠し玉がある可能性だ。それが何なのかまではわからない。
ともあれ、突入回廊に接近させるのは阻止をしてくれ。任せたぞ』
『了解です』
ブラフマンとの通信を終え、明弘は改めて敵集団をカメラでとらえる。
陣形も何もなく突っ走ってくるのが見える。先頭のグレイズは通信用アンテナがあることから指揮官機らしいことも。
(武装分析は……)
即座に分析がかけられる。だが、光学と熱源から得られた分析結果は通常のグレイズと大差がない。
共有されている情報と変わらず、取り立てて通常とは違うところがあるとも思えない。
先頭の指揮官機が構えているのはレールガンらしいことを除けば、殆ど通常装備もいいところだ。
『シノ』
『こっちの分析でも異常なし……かえって不気味だな、何にもねぇのにここまで堂々と接近してくるなんてな』
『阿頼耶識を使っているんじゃないか?』
散々相手にしてきたしな、と分析するのはダンテだ。実際苦戦させられたことを考えれば、見た目だけでの安易な判断は危険が過ぎる。
『それなんだけどなぁ、ダンテ。阿頼耶識対応型のグレイズはリミッターを解除しているのかリアクター出力が高い。
具体的に言えば、熱源パターンが通常と違うんだ。けど、そうじゃねぇんだ』
シノのその言葉とともにその熱源データが共有された。なるほど、殆ど差異がない。
フラウロスEのセンサー系は砲撃機ということもありグレードは高い。そのセンサー系さえごまかせるものがあるのかどうかは疑問なところだ。
あまり肯定できるとは言い難いが、通常のグレイズの集団のみで突撃してきたと、そういう風に見える。
『とりあえず、試してみるか……シノ!』
『おうよ!』
『フラウロスを中心に『流星号だ!』……流星号を中心にパターンE-12で迎え撃つ』
明弘の言葉とともに、鉄華団のMS隊は陣形を変更する。
MA形態で砲戦の構えとなるフラウロスEを最後方に、チャドとダンテをその護衛、フロントにバルバトスとグシオンが並ぶ。
フラウロスの火力を最大限生かしつつ、接近戦でのバルバトスとグシオンの力を活かせる体制だ。
581: 弥次郎 :2022/03/18(金) 18:03:05 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
対する相手のMS隊の動きに変化はない。まだこちらを射程に収めていないためか。
『シノ、3連射。炸裂弾。相手の反応を見る程度で良い』
『任せろ』
そして、フラウロスのドライバーキャノンが3連射で火を噴く。
明弘の指示の通り、あまり精密に狙わず、相手の反応を見るための射撃だ。
相手はこちらの砲撃を見たのか、慌てた動きで回避に入る。というか、先頭の指揮官機を後続が強引に引っ張って回避させた。
着弾し炸裂するが、しっかりと距離をとられたためか、その程度では流石にダメージとはならなかったようだ。
『阿頼耶識……じゃねぇな』
『ああ。どう見ても普通のパイロットだな』
『俺と三日月でこのまま仕掛ける。援護は任せるぞ』
『了解!』
何しに来たんだ、という思いを強くしながらも、鉄華団は動いた。
まずはフラウロスEからミサイルの飽和攻撃、続けてチャドとダンテの牽制射撃が飛んでいく。
これに相手が対処をしている間に、グシオンとバルバトスは左右に分かれ、挟み込むような形で接近していく。
相手もこれに応じて左右にMSが展開し、ライフルを構えて発砲。だが、スピードに乗ったグシオンとバルバトスを捕らえるには至らない。
『……!?』
だが、その時指揮官機のグレイズがレールガンをバルバトスへと向けた。
反射的に跳躍による回避、そして、着地からのバックステップを挟んで連射されたそれを回避していく。
『下手に動くとあたりそうだな……』
三日月の分析は果たして正しい。指揮官機---イオクの放つレールガンははた目にも照準がずれているし、修正も一々仰々しかった。
焦らずに射線をよく見たうえで回避することを三日月は選んで、そのように接近を続ける。
『邪魔だよ』
接近するバルバトスを止めるためか割り込んできたグレイズがアックスを振りかぶってくるが、あまりにも遅い。
ギリギリまで惹きつけ、それを紙一重で避けると肩から強めにタックル。姿勢を崩したところに、メイスを思いっきり叩きつけてやる。
当然その隙を狙って射撃が来るが、その隙をグシオンが逃さず、250㎜レールガンで吹っ飛ばす。
それに思わず視線が動いたところに、隙を晒したグレイズにバルバトスのワイヤードハーケンが射出され、その切っ先によって瞬時に身体がズタズタにされた。
『貴様ァ!』
立て続けに撃破されたことに激高したギャラルホルンのパイロットが接近を選ぼうとするが、三日月はあえて逃げる。
腕部の機関砲で牽制しつつ、大きく跳躍したのだ。それに合わせてライフルを構えるグレイズだったが、それは余りにも悪手すぎた。
『頂き!』
三日月からの合図を受けたフラウロスのドライバーキャノンが、そのグレイズを吹っ飛ばした。
砕けるというよりは消し飛ぶというレベルで、グレイズの胴体が吹っ飛んでいってしまうレベルだ。
その間に、バルバトスは残っていたシュツルムファウストを一気に敵集団目がけて解き放った。
強力な武器というのはわかるのだが、如何せん格闘戦の方が手っ取り早く、結果的に残っていたのでもったいないと全部ぶつけたのだ。
『まだ来るかな……』
着地しながらもメイスを構える三日月の予想は、果たして正しい。
爆発と爆炎の向こう側から、シールドの残骸を投げ捨てながら迫ってくるグレイズが2機現れたのだ。
『あれ、何やってんの?』
『……わからん』
だが、それを引き寄せるように後退しながらも、三日月はその後ろの光景に目を白黒させていた。
グレイズの指揮官機を左右からグレイズが抑えているのだ。前に出ようともがいているのを、力で抑えているように見える。
582: 弥次郎 :2022/03/18(金) 18:03:47 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
一先ず接近するグレイズをそれぞれ叩きのめしているグシオンとバルバトスをよそに、フラウロスのシノは判断を強いられた。
『何やってんだよアレ……味方を拘束して盾にしてんのか?』
『どっちかというと……後ろに下げている、のか?』
『なんでだ?』
シノとチャドは呆れたように会話するしかない。
確かにグレイズ指揮官機は戦場から、鉄華団から距離をとろうとしているかのように引きずられている。
盾にしながら逃げている、というよりは、まるであの機体を逃がそうとしているための様だ。
実際、他のグレイズがシールドを構えながらも射線に割り込む形で反撃をしてくるのだし。
とりあえず、と一度構えなおしながらもシノはつづけた。
『あいつが尻尾をまくるならそれでよしだろ。別に殲滅しろってわけじゃないしな』
『そうだな……ほかに敵影もないなら、アレに集中していいだろう』
『まかせた、シノ』
『応よ!』
ダンテからも太鼓判を押され、フラウロスは次の砲撃を放つ。
狙うのはこちらに反撃してくるグレイズ---なのだが、そのグレイズを容易く貫通し、後方の指揮官機を抑える一機までも巻き込んだ。
ありゃ、とシノが目をむく間に、指揮官機は高速を振りほどくと、武装を構えてこちらに吶喊してきた。
『三日月!』
『任せて』
射撃体勢のため四肢を固定しているフラウロスを守るためにチャドとダンテのドラクル・ロディがシールドを構えて射線に割り込む。
同時に、そのグレイズ指揮官機に対して、ライフルによる牽制射撃が飛ぶ。それを、避けない、というか避けていない。
オイオイマジかよと思うシノだが、その機体はまっすぐ揺らぐこともなく突進してくる。回避運動しないとかどうかしている。
だが、その動きは急速に割り込んできたバルバトスによって強引に遮断されてしまう。
足を狙って放たれたワイヤードハーケンが絡みつき、強引に持ち上げ、吹っ飛ばしたのだ。
そして、空中に投げ出されたためなのか、指揮官機は茫然と動きを止めたまま。
『しつこいんだよ、お前』
そして、飛びあがったバルバトスのメイスが、綺麗にヒットして指揮官機を華麗に吹っ飛ばした。
それはいっそ見事なほどに。四肢のパーツをまき散らしながらも、かろうじて胴体部分だけは形を保ち、飛んでいき、地面を転がる。
『イ、イオク様!』
『回収しろ、逃げるぞ!』
そして、それはすぐさま他のグレイズによって大事に抱えられ、撤収していった。
まるで、残るグレイズらもまとめて逃げていく。こちらに一切意識を向ける余裕さえもなく、一直線に。
『何だったんだろうな……?』
『わかんない』
だよな、と三日月の言葉に頷きながらも、明弘は報告する。
『こちら鉄華団。該当のMS集団の撃退に成功。残存したMSは撤収していった。追撃は必要でしょうか?』
『こちらブラフマンだ。追撃はいかなくていいな。もう突入部隊が市街に入る。
鉄華団のMS隊は回収機でエウクレイデスまで戻ってきていいぞ』
つまり、決着か。その言葉に、深くため息を吐く。長い戦いがようやく終わりを迎えようとしているのだと。
無論、この後の選挙からが本番なクーデリアや、議事堂につくまでの護衛を務めるオルガたちもいるので、まだまだ続くわけだが。
ともあれ、鉄華団のMS隊は難局を乗り越え、自らの仕事を成し遂げ終えたのだった。
これが、将来の惨事の始まりであったことなど、この時は誰も知る由はなかったのだが。
583: 弥次郎 :2022/03/18(金) 18:05:32 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
タワケに一話使ってしまった…まあ、いいかな。
あと2話くらいですかねー…
最終更新:2024年03月05日 21:29