715: 弥次郎 :2022/03/19(土) 21:53:03 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」10
エドモントン郊外でのギャラルホルンと地球連合・火星連合の間の戦闘は、終局へと向かっていった。
火星連合・地球連合合同軍に対して決戦を挑んだギャラルホルンだが、その戦力の多くを失い、軍事定義上の全滅に匹敵する被害を受けていた。
つまり個々の戦力による場当たり的な反抗はともかく、組織的な抵抗はもはや絶望的と言える状況であったのだ。
それを受けて総指揮官であるイズナリオ・ファリドが戦力の撤収の準備を指示し、それが密かに実施されていったこともプラスしている。
加えて、地球連合・火星連合合同軍が目標としていた、蒔苗とクーデリアの議事堂への突入に成功したこともある。
後は選挙の結果を待つだけであるわけで、それ以上無駄な戦闘を行う理由は何一つとして存在しない。
元々エドモントン市街地の直近での戦闘ということもあり、被害が発生するリスクも背負っていたのだ。
ここで余計な欲を出して被害を拡大させてはアーブラウから何をいわれるか分かったものではないのだし。
そういった双方の思惑から、次の戦場は政治へと舞台を移したのであった。
- P.D.世界 地球 アーブラウ領 エドモントン 国会議事堂
たどり着けないだろうという大半の予想を覆し、蒔苗は議事堂内の本堂に入ることができた。
五体満足、なんら負傷もなく、堂々と正面から入場したのだ。
続けて護衛役と侍女らを引き連れて入場したクーデリアともども、どよめきを以て蒔苗は歓迎を受けた。
「馬鹿な!」
だが、その中にあって代表選における蒔苗の対立候補であるアンリ・フリュウは思わず叫んだ。
真っ青を通り越し真っ白な顔で、体を震わせながらも、彼女はたどり着けるはずのない蒔苗を指さしていた。
「どうやってここに!」
「正面から、堂々と入らせてもらったわけじゃよ」
「裏口もありましたが、ここは蒔苗氏の古巣。こそこそする必要は全くありませんでしたからね」
蒔苗の言葉に続いて、クーデリアはにこやかに言葉を放つ。
「私を止めるために色々とご準備をなさったのでしょうが、あと10倍は持ってきていただかなくては勝負にもなりませんわ」
「……ッ!この、テロリストをつまみ出しなさい!」
ヒステリック気味にアンリが叫ぶが、動く者はいない。正確には動こうとする者がいたのだが、その前にクーデリアが動きを止めたのだ。
「あら、それは心外なことですね。
私は火星連合の代表。火星連合暫定政府首相であり、今回は火星連合地球派遣全権特使としてこのアーブラウを訪れております。
元より、蒔苗氏が代表を務めておられたときからこの来訪は決まっていたこと。多少のズレこそあれど、予定通りのことですわ。
アーブラウなどが未だに火星連合との間で国交や国家承認を経ていないのならば、私がテロリスト呼ばわりされるのも無理からぬ話ではありますが」
「そういうことじゃ。それに、儂の公約にもバーンスタイン火星連合代表には深くかかわっておる。つまみ出そうというのは儂が許さんよ」
それとも、と蒔苗はぎろりと睨みつける。
「候補者には同伴者を伴う権利が認められておるじゃろう?それを無視してつまみ出そうというのかの?」
「そいつはテロリストなのよ!それを同伴者など認められないわ!」
「そのテロリスト認定は所詮後付けじゃ。それを言い出せば、対立候補の支持者や支援者をでっち上げでもいいから適当な罪を着せれば追い出せるわけじゃ。
来ることが決まっていた人間をそう難癖付けて排除してよいならば、良い前例とはならんわい」
ぐっ、と言い返せなくなり黙り込んだアンリ。
それに満足した蒔苗は、この場を取り仕切る議長へと振り返った。
「些か遅れることとなったが、問題はあるかの?」
「…規定に則るならば、多少の遅延は問題とはなりません。事前の連絡などを本来はしていただきたかったですが」
「それは申し訳ないことをした。じゃが、投票までにまだ猶予はあるじゃろう?少しばかり意見調整などをしたいところ」
「まだ時間はありますので、ご自由に」
「議長!」
だが、アンリの言葉は無視された。
公平を期するためには、蒔苗の要求は通されるべきものだからだ。
アンリ・フリュウは非常時を理由に投票を早めるようにせっついていたが、候補者が来ないと断定するには早すぎていた。
そして現状、候補者たる蒔苗が到着したならば、それに付随する諸権利は認められるべきものだった。
斯くして、アーブラウ代表選はいよいよを以て始まろうとしていた。
716: 弥次郎 :2022/03/19(土) 21:53:42 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
控室に戻ったアンリは、すぐさま通信を繋ぐ。相手は当然、イズナリオ・ファリドだ。
『……私だ』
「どういうこと?蒔苗もバーンスタインも議事堂についてしまったわよ!」
『……』
詰問に対して帰ってきた返答は沈黙だった。
「何とか言いなさいよ!」
『こちらも総力を挙げた。だが、地球連合と火星連合を止めることは叶わなかった……』
「そんな……ギャラルホルンの総戦力をかき集めたと言ったじゃない!」
『そうとも!それこそ禁忌の技術にも手を出して、戦力を編成して待ち受けていた!
だが、それらを容易く蹴散らされたのだ!』
信じられないアンリではあるが、それが事実だった。
かき集めたギャラルホルンのほぼ総力、さらに禁忌の技術である阿頼耶識を用いた特別部隊。おまけに復活させたMA。
現状用意できる最大限の戦力をここエドモントンへと集結させて、万全の体制で待ち構えていたのだ。
『ギャラルホルンとしてはこれ以上の軍事的なオプションは取れない。
政治に介入するのはさすがに問題がありすぎる。選挙についてはそちらで対応しろ』
「なっ……それは!」
それは事実上の降伏。
実際、すでに市街地に、あまつさえ議事堂に入られた時点でギャラルホルンができることはなくなっているのだ。
何しろ、ギャラルホルンは治安維持組織であって、政治的な組織ではない。経済圏への政治的介入を許されていないのだ。
そして規則に則りアーブラウの代表選は投票に向けた動きが始まっている。
無論、ここでなりふり構わず蒔苗やクーデリアを排除することは決して不可能ではないことだ。
ただしそれをやった瞬間に終わりを意味することは明白だ。それは明白に犯罪であり、テロそのもの。
真っ先に疑われるのはギャラルホルンか、蒔苗の対立候補であるアンリだ。火星連合と地球連合が包囲している状態でそれをやれば、命の保証はない。
『蒔苗の公約などに対するカウンタープランはあるのだろう?
そもそも、蒔苗の公約が受け入れられるとは思いにくいのだが』
「あなたに言われずとも……!」
確かに、蒔苗の公約はとても受け入れられないものと判断されていた。
火星連合の承認と国交樹立、通商条約などの締結。さらには火星連合を通じての地球連合との通商などが挙げられている。
だが、それは連合との間に結ばれ、これまでの安定した世界を作っていたエドモントン条約に反するものである。
地球連合という組織との接触やらを今の安定のために半ば無視している現状、それを破ることは経済圏全てに損害が出る話だ。
『ただ、オセアニア連邦が判断を覆したほどなのだから、警戒することに越したことはない』
唯一の引っ掛かりがそこだ。経済圏同士で統一されていた意思を裏切る形でオセアニア連邦が火星連合承認の方向に動いた要因があることになる。
それこそ、巨大な経済圏がこれまでの火星連合の独立に始まる騒動で被った損害を無視してでも、それを承認する利があることになる。
「まあ、ならば堂々と選挙で勝ってやるわ。
ただし、その後のギャラルホルンの権威失墜や経済圏からの追求は避けえないと思いなさい!」
『わかっている……』
「まあ、貴方くらいならば亡命先など用意できそうなものだけどね。アーブラウでも亡命は受け入れてやってもいいわ」
『……』
最後に嫌味を一つ言うと、アンリは通信を切った。
元より、あの男にはアーブラウに来てもらわなくてはならない。
破れかぶれになって口を滑らされても、自分には不都合なことしかないわけであるのだから。
最悪、責任をとらせて口封じをしてしまえばいいとも考えた。結局のところ、ギャラルホルンでも経済圏の意向には従わざるを得ないのだし。
(ともあれ、選挙よ……)
まあ、順当に勝てるはずだ。
蒔苗の公約に対してどのように反撃し、議員たちを引き込むか。それに考えを巡らせつつ自派閥の議員たちを呼び出すことにしたのだった。
717: 弥次郎 :2022/03/19(土) 21:54:13 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- アーブラウ領 エドモントン 国会議事堂 控室(蒔苗)
「---以上が儂の公約となる。まあ、半分はこちらのバーンスタイン代表を通じての援助もあってのことじゃがな」
他方、蒔苗派の集まる控室では、蒔苗が改めて自派閥の議員たちに自らの公約を説明していた。
傍らにはクーデリアもおり、蒔苗の説明を補足する形で火星連合の立場や行動指針を補足で解説していた。
聞き終えた議員たちには、迷いが少なからずあった。
魅力的な政策ではあるのだ。火星の経済植民地やコロニーの独立により発生した損害を補填するだけの利益もある。
先んじて火星連合を承認し、国交を結び、エドモントン条約の体制からの脱却を図れば、閉じている世界からの脱却ができるのだ。
国家利益というのは正直なところとったもの勝ちだ。フライングもなければオフサイドも存在しない。
厄祭戦からの復興が遅々として進んでおらず、おまけに鈍足の進歩と発展しかない情勢においてはまさしく先を行く一歩となりうる。
だが、逆を言えば、これまでの安寧を捨てるということでもある。
確かに火星の独立やコロニーの独立による損害を補填し、新たな一歩を踏み出せるという意味では大きい。
とはいえ、その変革や国家としての体制の変化で生じる損益というものがあるのも確かな話でもある。
経済規模というものが違いすぎる地球連合との交易を火星連合を通じて行うのはまあわかる。
しかしそれは、数歩間違うだけでも利益を搾取される側になりかねないということでもあるのだ。
発展をしていけるかどうかは自分たちの努力次第と言えば聞こえはいいが、保証がされるわけでもない。
彼らとて議員だ。その後援組織や集団、あるいは国民の声を無視し得るものではない。
もしもこの政策を選択したことによって反発や反対の声が大きくなれば否応なく責任をとらざるを得ない。
その時に被害を被るのは自分たちだけでなく、アーブラウの国民も含めてだ。国家が傾くことさえ引き起こしかねない。
今までの安定か、それとも未来への躍進か。
確かに蒔苗を支持する派閥と言えども、完全に盲従しているわけではない。意見を出すし、意見を飲むときもある。
政治的な駆け引きという分野における利害関係も含めての派閥であって、抑圧されている集団ではないのだ。
そこも含めて話し合うと蒔苗とその派閥の議員たちをよそに、クーデリアは黙してそれを眺めているだけだった。
まるで自分がやるべきはすべて終えた、というような振る舞い。
「あの、バーンスタイン代表?」
「なんでしょう?」
「私、エド・カリスと申します。今回は蒔苗先生をお連れ頂いたということで大変感謝をしております」
「お気になさらず。私たち火星連合の都合もありましたので」
優雅に紅茶を傾けていたクーデリアに、一人の議員が近寄っていき、挨拶を交わした。
彼は気になっていたのだ、火星連合がどうアーブラウと関係を持とうとしているかを。求めるところはなんであるかを。
一応説明は受けてはいたが、それ以上に踏み込んで知りたいと思っていた。だからこそ、行動に移したのだ。
「では、何か御用が?」
「はい。バーンスタイン代表が火星連合の承認と国交を求めてきた、というのは伺っております」
「確かにその通りです。本来はハーフメタル資源の規制撤廃に始まる交渉の予定でしたが、今では変化しておりますが」
「バーンスタイン代表は、その先に何を見ていらっしゃるのでしょうか?」
その問いは、その場にいた多くの議員の意思の代弁でもあった。
問われたクーデリアも、そういえばそこまで話していなかったか、と納得した。
火星連合が地球連合に求められ、そして、今度はアーブラウも求められることになる「その先」。
それについて知りたがるということは、やはりこれまでの提示した案や政策の意図に疑問を覚えたのだろう。
「……それについては、追ってお話ししましょう。蒔苗氏の投票前の最後の演説、その際に私の口から直接お話します」
「そう、ですか」
「申し訳ありません。これについては……重要な局面で明かした方が良いと判断しておりますので」
「すまんな、カリス。儂としても話しておきたいのじゃが、ここは堪えてくれ」
「先生までそう言われますか……」
「実際に聞いて納得せんなら、別に儂に投票せずとも構わんのでな。頼む」
「……わかりました」
そこまで言われるなら、とカリスは返答を待つことにした。
その内容の如何によっては、とも考えることになった。同時に、興味がそそられた。それほど重要な要素とは何なのかと。
そして、いよいよ選挙の時間は迫っていた。アーブラウの今後を決定づける、重要な選挙が始まるのだ。
718: 弥次郎 :2022/03/19(土) 21:54:47 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- P.D.世界 地球 アーブラウ領 エドモントン 国会議事堂
そして、場所は再び議事堂の本堂へと戻った。
各派閥は意見の交換を終え、改めて席に座り、始まるのを待っていた。
定められた手順に従い、アーブラウ代表を決定するための選挙の実施が宣言され、改めて候補者の確認が行われる。
与党の候補として蒔苗・東護ノ介前代表。
野党側の候補としてアンリ・フリュウ。
その他の候補は立候補がなく、事実上の一騎打ちとなった。
事前の選挙活動はすでに完了している段階であるため、あとは投票前の候補者の最後の訴えの後に、投票が行われる手はずとなっている。
通常であるならば、議会で多数派を占めた派閥や党の推した議員がそのまま代表として選出されるのが通例だ。
しかし、今回に限ってはそうもいっていられない。
火星連合を認めるか否か。地球連合との付き合いをどうするか。国家の今後を占うものであるからだ。
殊更にエドモントン条約を結んで以来の、P.D.世界の外側との折衝などをどうするかを含めて決定する場。
何しろ候補者の掲げる政策や公約はその点においては真っ向から対立しているのであるから、なおのことだ。
最初に壇上に上がり、演説を行ったのはアンリ・フリュウだった。
彼女は当然のことながら、火星連合を承認しないという主旨の政策を打ち出すことを宣言した。
火星経済圏を乗っ取り、コロニーの独立を煽るなどして多大な損害を経済圏に与えた勢力は国家として認めることはできないと。
まして、今回のように力によって蒔苗を傀儡とする形で送り込んで政治的に介入してくるなど許されることではないと強く強調した。
火星連合を名乗る組織については他の経済圏、そしてギャラルホルンとも共同して対処し、元の秩序への回帰を行うとも。
あからさまにクーデリアを人質にするようなことを匂わせたのだが、そのクーデリアは笑みを浮かべるだけだった。
ついで、壇上に上がったのは蒔苗・東護ノ介。同時にオブザーバーとしてクーデリアも伴っていた。
こちらも予め公表していた通り、火星連合の承認と国交樹立、さらには地球連合との国交などを進めるという方針の政策を掲げた。
すでに火星を含む圏外圏は一つの政治体系を持った組織として成立しており、最早コントロールを取り返すことは不可能だと断言した。
火星での経済的な搾取は焦げ付きが目立っていたし、無理に絞ったところで上がりが減って、将来的には真っ赤になることも想定されていたとも。
つまるところ、現状維持を続けたところで、それは破綻の先延ばしにすぎないと断じたのだ。
そもそも、このような事態に陥ったのは10年前に締結されたエドモントン条約の不履行が原因であり、これは経済圏やギャラルホルンの怠慢だと指摘。
これまでに発生した損害、そしてこれから生じる損害、さらには先んじて外交を結ぶであろうオセアニア連邦に先越されることによる損害。
火星連合や地球連合との協調を以て、未だに厄祭戦の影響を引きずり、これらを補いつつ発展した方が良いと述べた。
加えて、これまでのギャラルホルンの失態や政治的な介入も加えて並べ、このままの秩序体制では危ういとさえ断言した。
その後を受けたのがクーデリアだった。火星連合の承認と国交樹立の利益というのはすでに述べられており、それについては触る程度。
クーデリアがメインとして訴えるのは「その後」のことであった。すなわち、蒔苗の述べた政策の先にあるビジョンや目的についてだった。
勿論、これらがアーブラウをはじめとした経済圏と火星連合の相互利益を目的としているのは間違いない。
719: 弥次郎 :2022/03/19(土) 21:55:47 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
では、なぜそこに地球連合という銀河を超えたスケールの国家連合がかかわってくるのか?そこについて明かしたのだ。
「我々は遠くない未来に、接触を持つのかもしれません。地球連合とは異なり、我々を害し、攻撃し、侵略してくる存在と」
そう、外からの侵略者の存在だ。実際に地球連合が戦ったその侵略者の資料を初公開する形で、クーデリアの演説は続く。
ELS、バジュラ、ダークブレイン、宇宙怪獣、アインスト、フォーリナー、フェストゥム、ザ・データベース。
インスペクター、ゾヴォーク、ヴォルガーラ、ギャラクシー船団、ネウロイ、ダークレジオン---その他数えきれない敵。
このまま内に引きこもっていたところで、いつ現れるかわからない侵略者が慈悲を見せるわけがない、と。
その為には、これまでの負の連鎖を断ち切り、制度や政体を改め、大きく進歩をしていかなくてはならない。
「エドモントン条約の締結はそのためのモノでもありました。地球連合が、そして私たちの暮らす太陽系が、安全に暮らせるようにと。
ですが、その意図は理解されず、あまりにも長い時間が過ぎてしまった。だからこそ、致命的になる前に、立て直さなくてはなりません」
もはや蒔苗の演説を超えているが、それも無理もない。
当時のアーブラウ上層部などしか知らないような、そんなトップシークレットの大々的な開示なのだから。
「私は火星の苦境を救うためと行動し、地球連合と接触するに至りました。
しかし、事はそれだけで納まることではありませんでした。
火星の搾取体制から脱却し、自ら力を蓄え、外の敵に備え、準備をしなくてはならないのだと、理解したのです」
それが一年足らず前のことだと思うと、本当に背筋が寒くなる話だ、とクーデリアは思う。
だが、それが実際なのだ。一つ間違えば宇宙怪獣あたりが突如現れ、この太陽系は蹂躙されていたかもしれない。
自分だって、アーブラウの人々を、経済圏の人々をとやかく言える立場であるとは言い難い。
それでも、先に気が付けた人間として、他の人間に周知しなくてはと思うのだ。
「荒唐無稽というのは簡単でしょう。
ですが、すでにこの世界には外からやってきた異星人もいるのです。
それを恐れ、見なかったことにして、忘れようとしても、その存在は消えない。
なればこそ、それに相対して、自ら立ち向かっていかねばならないのです」
だから、選べ、とクーデリアは突き付ける。
「今からでも準備をはじめ、手を取り合い来るべき脅威と向き合うか。
それとも、目先の安寧と幸福だけを求め、怠惰に暮らし、腐り落ちていくか……」
ですが、とここでクーデリアは表情を朗らかに切り替えた。
「私はこれを強制しません。求めるところは火星連合の承認とアーブラウとの間での国交樹立などだけですから。
ですが、地球連合も火星連合も、そういう要素を以てあなた方を見るということを、お忘れなきように」
あとはあなた方の意志一つです、と締めくくり、クーデリアは壇上から降りる。
最後はもはや投げたともいえる態度だ。脅しをかけておいて、最後は自由にしろとは無茶苦茶すぎるかもしれない。
だが、それは強力な束縛だった。自由にしたという名の、強力な動きの牽制と言えた。
「では投票に移ります」
演説などが終れば、ついに投票が始まる。
誰もが迷い、考え、悩みながらも、その票を投じていく。
そして、結果が示されることとなるのだ。アーブラウの国家の今後を決める投票により選ばれたのは---
「当選、蒔苗・東護ノ介」
その結果は、確かに示された。
自派閥からの若干の離反者こそいたものの、野党からも得票を得た蒔苗が勝利を収めた。
そして、その結果は即座にアーブラウへと、そしてエドモントン周辺の戦場へと、伝達される。
それは、このエドモントンでの攻防戦の行方を、決定的とする情報の発生であったのだ。
720: 弥次郎 :2022/03/19(土) 21:56:35 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
なんとか投票と開票まで完了……
次で後始末をして、やっと区切りですねぇ
最終更新:2024年03月05日 21:28