7: 弥次郎 :2022/03/22(火) 21:00:06 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」11
空に撃ちあがる信号弾は「停戦命令」であった。
アーブラウ政府が打ち上げたそれは、すなわち、エドモントン攻防戦の終結を告げるものとなった。
そもそもの原因である、テロリストと目されたクーデリアと蒔苗が議事堂に到着し、目的を達したが故の終結の宣言。
これを受け、地球連合および火星連合軍は直ちに戦闘を停止。合わせて、負傷者や兵器の回収や戦場に出場させていた戦力の撤収に取り掛かった。
意外なことかもしれないが、ギャラルホルンもまたこれに即座に応じることとなった。
理由としては、総司令部がいつの間にか逃げ出しており、やむなくファリド特務一佐など現場でも高位の階級の人間が支持を通したためであった。
捨ておかれた、あるいは置いてけぼりにされたことを嘆くギャラルホルンの兵士たちもいたが、多くはそれに従うこととなった。
元より地球連合・火星連合軍との戦闘で戦力はほぼ枯渇状態にあり、組織的な抵抗さえもおぼつかない状況だったためだ。
例外的なのは阿頼耶識出力デバイスを搭載したMSなどであったが、こちらは速やかに撃破、あるいは操作室の制圧で鎮静化された。
エドモントン市街地の外だけでなく、内側でも多少なりとも戦闘が発生したこともあり、その掃除については迅速に行われることとなった。
特に地球連合・火星連合が急いだのが、禁忌とされていた技術---阿頼耶識に対応したMSやそれを利用したMW、あるいはMAとその子機の回収作業であった。
MAについては言うまでもない。雑に使うだけでも、一つの都市を焼き払うなど容易いほどの暴力の塊であるのだ。
ましてギャラルホルンが修復して動かせたのだから、迂闊に流出すれば厄祭戦再びとなりかねないのであった。
また、阿頼耶識に対応したMSに関しても、その「中身」が明らかになったこともあり、改修が急がれることとなった。
当初こそ少年兵が出てくるかと思われたその「中身」は、なんとおぞましい生体ユニットであったのだ。
しかもそれが本来ならば阿頼耶識に適合しない成人を用いているということもあり、秘匿しなくてはならなくなったのである。
非人道的すぎるこの技術が流出すれば、ただでさえ悪用されている技術が余計に危険なものとなってしまうのだ。
そういう事情もあり、確保されたギャラルホルンの人員は多くがそのまま身柄を拘束され、地球連合の預かりとなることとなったのである。
ついでにだれがどの程度事情を知っており、誰が何の目的で指示を出していたのかといった、具体的な内情の調査も並行して行われることになった。
特に阿頼耶識対応型の機動兵器群に関わっていた人間は、あまりにも危険な情報や知識を知りすぎている。
迂闊に逃がせば、とんでもないことにつながってしまうというのは火を見るよりも明らかな話であり、その予防が必須だったのだ。
他にも、ギャラルホルンが設置していた膨大な量の兵器や防衛陣地などの後始末も存在していた。
戦時ということでエドモントンの市街地の外に用意されたそれらは、平時では全く不要なものにすぎない。
少なくとも、ボロボロになった兵器の残骸の後始末やら放置されている武器弾薬なども回収し、安全の確保が必要だったのだ。
特に実弾などが使われたエリアの不発弾処理や砲弾の回収などは急務とさえ言えた。戦場にした以上、少なからず責任というのが存在したのだ。
戦闘が終わったということもあり、これらの作業はエドモントンの衛星軌道上で待機していた専門部隊も参加して実施。
数週間をかけ、念入りな作業が行われ、今後のためにも備えて安全確保が行われることとなったのである。
ここには鉄華団の年少組も訓練を兼ねて参加させられていたことを記す。
8: 弥次郎 :2022/03/22(火) 21:00:42 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
さらに、エドモントン以外でも調査と後始末は続いた。
エドモントン攻防戦の敗北は瞬く間に地球圏、そして圏外圏へと届けられた。
それこそ、あらゆるネットワークや人のつながりを経由し、尾ひれ背びれもついて、脚色されたり誇張されるなどしてまでだ。
そして、経済圏にとっては---少なくともSAUとアフリカンユニオンにとってはギャラルホルンが役目を果たしきれなかったということだ。
今回ギャラルホルンのセブンスターズの一家が政治家の一人と癒着していたアーブラウも含め、ギャラルホルンはその存続を許されなかったのである。
斯くして、ギャラルホルンの解体が経済圏の意思の一致を以て決定され、処々の手続きを経て実行に移されることになったのである。
形骸化し、硬直し、果てには腐敗していたギャラルホルンの、ようやくの「死」ということになるのだった。
だが、これらを経て競争となったのが、ギャラルホルンの抱えていた遺産や技術などであった。
ギャラルホルンはMSなどをはじめとした戦力を有し、その為の工業力や技術を独占してきた。
多少なりとも経済圏はそのおこぼれに預かっていたわけであるが、ギャラルホルンが解体され、それらが宙に浮いたのである。
分かりやすく言うなれば、その「遺産」の分け前をめぐっての争奪戦が始まったのである。
ここで問題となるのが、エドモントン攻防戦で投じられた禁忌の技術だ。
言うまでもないことだが、それらの技術などは独占のため、ギャラルホルンの本拠たるヴィーンゴールヴに存在している。
それらが研究・開発・分析された場所がそこだとマクギリスの証言から発覚した直後から、連合は即座に接収に動くこととなった。
そして、エドモントン攻防戦から1日と経たず、ヴィーンゴールヴへの地球連合による強襲は行われた。
公海上に存在していたその巨大拠点を包囲するように多数の艦艇がテレポーテーションアンカーにより軌道上から降下。
そのまま接舷・上陸を果たし、歩兵を含めた戦力の展開により実行制圧に乗り出したのであった。
ここにはエドモントンからついて来ていたマクギリスとガエリオの姿があり、彼らの存在と通達によって、速やかにヴィーンゴールヴは降伏することになった。
ギャラルホルンのセブンスターズ、あるいは貴族階級の人間はチェックの上で私財の持ち出しなどが許され、ヴィーンゴールヴから退去。
地球連合が用意した別な海上拠点へと一時的に住処を移すことになった。
そして、人がいなくなったそこを家探しすることになったのである。それこそ、MS・技術・資料あらゆるものを接収したのだ。
そこにはもちろん技術者---殊更にMAや阿頼耶識に関わった人員の拘束や聴取なども含まれている。
如何にしてあれだけの戦力を用意し、実戦に投入したのかの調査を行わなくてはならないためだ。
その結果として、問題の阿頼耶識やMAの研究のほとんどはこのヴィーンゴールヴ内で行われ、外部には秘匿されていたことが確認された。
阿頼耶識対応型MSを増やした方法---度を越した人体改造による出力デバイス化の施術、否「加工施設」もここに存在していた。
データからするに2000人以上の被検体が集められ、それらを用いて実験と研究を重ねたようである。それこそ、人倫も何もない方法で。
そして確立された技術による「加工」であれだけの戦力を揃えられたということである。
ついでに言えば、それをコントロールするためにも、医学的・薬学的な施術がデバイスには施され、戦闘に適合した加工を施していたことも発覚。
通信を繋いだ際に聞こえた獣のごとき咆哮は、まさしく本能の叫びだったというわけである。
それらの技術については大部分は残されていたが、一部は消えていた。すなわち、持ち出されていたのだ。
さらに連合にとってはよろしくないことに、MAや阿頼耶識の技術者の漏洩も確認されることとなった。
連合が追跡していたコジマ技術---Kマテリアルボックスについては発見されたが、すでに技術の吸出しが行われたことが確認された。
これらの行先や逃亡先については不明であり、引き続きの調査が行われることとなった。
9: 弥次郎 :2022/03/22(火) 21:01:35 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
ここに来て経済圏も連合に遅れる形でヴィーンゴールヴの接収に乗り出そうとしたのであるが、当然の如く連合から却下された。
意外と早くにここにたどり着いたのは、ここが本拠点だからというほかにも、経済圏に亡命したギャラルホルンの人員が関係していると推測された。
何しろ、ヴィーンゴールヴが抑えられ、解体が宣言されたことで各経済圏に駐留していた戦力が宙ぶらりんとなったのだ。
ギャラルホルン亡き後の世界を鑑みれば、彼らが経済圏のところに吸収されてしまうのは無理からぬ話だ。
少しでも分け前を勝ち取ろうというのが経済圏の思惑であり、自然な行動と呼ぶべきものだった。
恐らく各地の駐屯地や基地なども事実上の占拠と制圧を受けていることだろう。
海上で発生したにらみ合いについては多くを語るまい。一つ言えるのは、武力が多い方が脅し合いで勝つのは自明の理ということである。
ただ、希望する者で問題がない人々については経済圏への帰国や帰属なども認められることとなった。
さて、こうして3週間以上かけて念入りに行われたヴィーンゴールヴの家探しであるが、最終的には何とも不可解な最期を迎えた。
即ち、突如としての自爆と自沈が発生したのである。
元凶というか、スイッチとなったと思われるのが、最下層の調査が完了し、残っていたガンダム・フレーム「バエル」を動かした時であった。
マクギリスが疑似阿頼耶識デバイスでバエルを起動、持ち出しを行おうとした直後、なんとヴィーンゴールヴの自爆・自沈機能が起動したのだ。
バエルの機動のためか、それともほかの条件があったためなのか、表にはなかったバックドアからのコントロールでシステムが起動したのだ。
リミットまでは時間があったために、またほとんどの区画の調査が完了していたということもあり、人的な損失はなかったのが幸運か。
しかしながら、多くの疑問が残る結果となったのは事実だ。
高々バエル一機を守るにしては過剰な防衛システムと判断されるのも当然の話だった。
こういういい方は失礼かもしれないが、所詮はガンダム・フレームを使ったMSの1機だ。
如何にアグニカ・カイエルがこのバエルを用いて伝説的な働きをしたとは言えども、それはあくまでも過去の話だ。
アグニカの魂が宿る、などと噂されているからこんな仕組みを作ったのだとは冗談にしてもきつすぎる話である。
では、他に何か条件があったのか?
手掛かりになるのはバエルの間に安置されていたMS---ガンダム・フレームであった。
回収されたバエルに何か痕跡が残っていないのか調査が行われ、一つ奇妙なプログラムが発見された。
何のことはない、相互の位置確認プログラムとそれに連動する電子回路であった。
奇妙なことは、バエルの間のプログラムとそれが連動する仕組みになっており、ガンダム・フレームの数を常にチェックしていることだった。
振り返ってみると、バエルを動かした際、他のセブンスターズの各家の保有するガンダム・フレームは0だった。
正確には、持ち出されていたり、記録上は存在していてもガワだけ同じの別物に置き換えられていたりとしていた。
そしてその相互の位置確認---いや相互監視プログラムはそのバエルの間のガンダム・フレーム間で働いていた。
仮説となったのが、このガンダム・フレーム7+1機が何かの鍵になっていたというものだ。
つまり、このガンダム・フレーム8機がすべて持ち出されるようなことがあれば、何らかの理由でヴィーンゴールヴを沈める必要があったということ。
それが一体何のためなのかまでは判然としないが---ともあれ、沈んでしまった以上はそれ以上の追求は不要と判断された。
あらかたのデータの吸出しや物品や書類の回収なども回収が完了しており、すでにヴィーンゴールヴ自体に用はないためだった。
深い海溝に落ちていったことと合わせ、もはや浮上することはないと、そういう判断がされた。
10: 弥次郎 :2022/03/22(火) 21:02:51 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
さて、そのような外での動きをよそに、アーブラウ内でも大忙しであった。
即ち、国家承認や国交樹立とそれに伴う処々の条約の締結、国家間の条約や規約の照らし合わせ、申し合わせなどを行うことになったのだ。
その項目数はそれこそ山ほどある。火星連合とアーブラウ間だけでなく、地球連合とアーブラウ間でのものもあったためだ。
殊更、加盟国や加盟する惑星の数が圧倒的に多いがゆえに、後者の項目はそれこそ天文学的数に及んだ。
ただ、地球連合としてはそこまで急ぐわけでもないため、火星連合とアーブラウ間の交渉を優先させることになった。
また、これまでの搾取体制についての清算も行われることになった。
アーブラウは補填金を支払い、火星連合はこれを除くこれまでの搾取などについての遡行請求などを行わないと決定。
EM経済協定によりかなりの搾取を受けていた火星側からすればこれでも足りないほどであるが、それを言い出すときりがないのだ。
なればこそ、補填金を支払い、すっぱりと終わらせてしまうことが肝要だった。
反対に火星連合側は火星連合独立時に事実上併合・制圧したことで被ったアーブラウの損害を補填することとなった。
これについては火星連合を通じた地球連合からの技術や交易における優遇措置などで代替とし、将来的に完了させることも。
さらに火星連合領となっている自治区などの徴税権など各種権限を正式に火星連合へと委譲し、これを遡及して請求や要求しないことも。
つまるところ、完全に火星連合領内に存在した事実上の植民地を手放し、火星連合を承認したと、そういうことになる。
これと同様の交渉や条約の締結などはオセアニア連邦でも実施されることになり、オセアニア連邦とも国交が樹立された。
しかし、万事うまくいかないのが常というもの。
SAUやアフリカンユニオンは交渉の席を設けはしたものの、火星連合の承認などは認めないと言ってきたのである。
まあ無理もない。SAUにしてもアフリカンユニオンにしても、これまでのクーデリアや地球連合の活動で損害を受けてきた側であるのだから。
その点ではオセアニア連邦やアーブラウと同様であるのは確か。さりとて、その補填などをこれまで火星連合が得たすべてで払えと宣ったのだ。
つまるところ、火星連合を明け渡せと、そういったのである。
これについては思わずクーデリアも苦笑した。互いの戦力差などを見せられてもなおそれが言えるのは大したものだ。
彼らの抱える戦力など、吸収したギャラルホルンの残党くらいであり、素のままであれば火星連合単独でもどうとでもなるほどだ。
しかし、クロードやローなどと協議したクーデリアはあえて双方を挑発した。その気になるならば受けて立つ、と。
そして付け加えるのだ。その時にはほかの経済圏---オセアニア連邦やアーブラウも敵に回すことになると。
つまるところ、これは火星連合にとって必要な「外敵」なのである。
安全というものは確保すべきだが、同時に緊張感などの維持のために「敵」というものは必要になる。
経済的な植民地支配からの脱却を成功させたとはいえ、そのまま平和ボケされては困る話だ。
無論外敵というものも存在する。侵略者などいつ訪れるかわからず、どのような質であるかも不明だ。
だが、それでは困る。そんな程度の脅威では、一般人の緊張や敵意を集めるには足りなさすぎるのだ。
もっと直接的で、もっとわかりやすく、適度にいなせる脅威というものが。火星連合のヘイトを稼いでくれる「何か」が。
その役目を背負ってくれるのがSAUとアフリカンユニオンというわけである。
友好国だけでなく、敵対国もいてくれた方が、非常に都合がよいのだ。為政者であるクーデリアにとっては。
ついでに言えば、これにより経済圏間でも対立構造が発生し、いい具合にヘイトコントロールをしてくれることになる。
いざとなれば火星連合が介入することもできるわけで、それはそれで非常に都合がよいというわけである。
結果として、SAUとはアフリカンユニオン一応の外交ルートや基本の条約こそ結ばれたものの、相互を仮想敵とする関係が構築された。
これらの交渉などを数か月かけたクーデリアは、その後に火星へと凱旋。
改めて火星連合がスタートしたことを内外へとアピールし、新たな国家としてこの世界に生きていくことを宣言した。
斯くして、角笛の響きは黄昏へと消えていった。
世界は終わり、新たに始まる。
300年前にその歩みを止め、生きながらも死に、腐敗していた世界は、新たな息吹と共に動き出したのだ。
11: 弥次郎 :2022/03/22(火) 21:03:23 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
やっと未来編鉄血世界の第一部完、ですかねぇ。
少し充電期間を置きます。
気が向いたら外伝とか挿話とか書くかもですが…まあ、未定ですね。
最終更新:2024年03月05日 21:27