628 :ルルブ:2012/02/14(火) 20:00:03
ヤン・ウェンリー回想録
(3次SS ミラ氏・yukikaze氏に敬意をこめて~)

~第三次ランテマリオ会戦前夜・帝国軍、崩壊セリ~

第三次ランテマリオ会戦前夜、量はともかく質的に帝国軍は著しく疲弊していた。
まずはその理由を説明しようと思う。

バーラトの和約を放棄して始まった戦争、一年戦争(何故かニホンの政界はこう名付けた)で帝国軍は緒戦こそ損害比率で優位に立ち、第二次ランテマリオ会戦ではカイザーラインハルト指揮下の8個艦隊に連合軍二個任務部隊10個艦隊が敗北。
帝国軍は2万隻の艦艇を完全喪失し5万隻近い艦艇を損傷したが、連合軍は10万隻に及ぶ艦船を喪失。更には戦略目標である自由惑星同盟中枢部の安定化にもガンダルヴァ恒星系制圧にも失敗した。
だが、これはカイザーラインハルトの最後の戦術的、戦略的勝利となったと私は考える。

この一連の敗北を受けて、連合軍最高司令部は戦略を変更。大型戦艦、機動鎮守府、外洋艦隊整備計画にて竣工する最新鋭艦隊の大規模な火力戦、国力差、電脳技術差を利用した消耗戦を同盟領駐留ローエングラム王朝帝国軍に強いる事とした。

所謂、『同盟領消耗戦』である。

帝国軍は再建した部隊6個艦隊と従来の駐留艦隊4個分を失い、アイゼナッハ上級大将、ミュラー上級大将など名だたる将官、750万人を戦場で、或いは後方で失っている。一方、連合軍は無人艦艇を中心に15万隻、10個艦隊近く失ったが、人的損失は10万人前後にとどまった。この差こそ一年戦争での最大の勝利と言える。
一方的な人員的な喪失はバーラト会戦以来、勝者である筈の帝国軍は、敗者である筈の連合側から一定の打撃を与えられ続けた。その極めつけと言えよう。この年、宇宙暦801年5月から11月にかけて戦争の趨勢は決した。

当然である。
古来より将兵を鍛えるには時間がかかる。まして百戦錬磨の精鋭を作るには10年単位での訓練、100年単位での国家戦略が必要であり、つまりは国家間の底力を試されるのだがローエングラム王朝にはそれは無かった。ゴールデンバウム王朝からの富の簒奪を持って帝国軍を再建したが、これとて一時的なものでしかない。(この項はメルカッツ提督のインタビューにある「リップシュタット戦役」を参考にされたい)
もしも仮定の話だが、アムリッツァで敗北した我々同盟軍が連合との接触が無ければこの様な事態は無かったはずだ。寧ろ、状況は逆転し、帝国の質・量に疲弊し崩壊寸前の同盟は押し潰されたと考えられる。が、歴史の皮肉か、古代の帝国たちは、たかが数年の新興帝国による銀河系の覇権樹立など認めなかったのだ。

そして帝国軍は帝国領全域から第一級の戦力5個艦隊を再編・増援し、ガンダルヴァ恒星系に9個艦隊13万隻を集結させる。

※『が、内実は実戦から10年単位で遠ざかった退役兵や国内治安維持の為の2級部隊、訓練を繰り上げ卒業させた新兵、辛うじて801年を生き延びた敗残兵、奇しくも第一次ランテマリオ会戦の同盟軍と同様の新旧艦艇の混合であった』

※『カイザーラインハルトや上級将校はともかく、下級将校や中堅、一兵卒は801年の同盟領消耗戦を勝って過ごしたとは考えていなかった。3人に1人が戦死するか後方へ移送された姿を見れば誰もがそう思うであろう。まして、本国防衛の任でも、対貴族の独立闘争や利権獲得などではなくただ単に上からの命令で戦うのだ、士気維持は極めて難しかった。実際、帝国軍の捕虜たちの間では反皇帝の流れは大きかった。
寧ろ国土奪還に燃える自由惑星同盟軍や征服後の銀河帝国内での利権獲得、連合内での発言権向上、連合構成国への格上げを狙える連合諸国の方が遥かに士気の面で勝っていた。』
※著者ダスティ・アッテンボロー『革命戦争回想録、801年編、802年編』より抜粋。

イゼルローン要塞の重要性から、イゼルローン方面の艦隊を2個艦隊分まで減らす事で行った大胆な戦略である。過去のイゼルローン攻防戦‘だけ’を考慮すれば正しかったのであるが・・・・ある種の視野狭窄が、我々に地球時代の太平洋戦争時のコレヒドール要塞の故事を思い出させる事となった。
そして我々連合軍だが、非正規艦隊(予備兵力)75000隻、6個艦隊と南部軍10個艦隊13万隻、中央軍10個艦隊18万隻、同盟各地の義勇軍25000隻(第4任務部隊への更なる増援)の合計41万隻、26個艦隊がランテマリオ第8惑星軌道に集結した。これと並行して、北部軍(イゼルローン攻撃軍)10個艦隊12万隻がイゼルローン方面を牽制、突破を図る。

こうして舞台は整った。

629 :ルルブ:2012/02/14(火) 20:00:40

帝国側はカイザーラインハルトの自尊心の結果と思われる、同盟領内部での艦隊決戦に拘り、艦隊決戦の勝利を積み重ねた上での連合屈服を望む。
かたや我が同盟、いや、連合は同盟領での大規模消耗戦の最終段階・大戦略の単なる一環としての敵軍撃破を望んだ。これが第三次ランテマリオ会戦前夜の両軍の戦略目的、戦術状況である。

「戦略目標」
帝国軍。41対13と数で圧倒する連合軍の殲滅。
連合軍。フェザーン回廊、イゼルローン回廊の掌握と帝国軍機動戦力の拘束、或いは撃破。
あくまで戦術的な問題。戦略面においては既に国力比率は2130億対400億。
電脳化、省力化、無人化、ランチェスターの法則を考えると実質の国力比率は5対1はなく、125対1。

こうした上で第三次ランテマリオ会戦の幕は開ける。

続く。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年02月25日 00:33