559: 弥次郎 :2022/03/28(月) 00:15:07 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「ゴート・ドールは踊らない」



  • ストライクウィッチーズ世界 主観1944年10月上旬 大西洋上 エネラン戦略要塞 軍事区画 第203講堂



 大西洋上に浮かぶエネラン戦略要塞の軍事区画、その講堂の一つに、ウィッチ---の卵たちが集められていた。
片翼とも呼ばれる、未だに技量や訓練が半ばであり、半人前にとどまっているウィッチたちばかりであった。
必然、その年齢層はぎりぎり10代に入るかどうかというところ。10歳を超えていない者も含まれている。
 彼女らに共通するのはそれだけではない。彼女らの国籍がすべてブリタニアということである。
人種こそいろいろと混じっているように見えて、実のところ、集められるウィッチやウィッチの候補生たちをかき集めた結果であった。
総勢にして40名余。ウィッチの需要が各戦線において高まっている中において、この人数が集められているというのは非常に稀有だ。
 それこそ、年齢や技量を差し引きすれば統合戦闘航空団(Joint Fighter Wing)の2,3つは編成できる頭数だ。
あるいは一方面を担当できるほど、というべきであろうか。

 そして、前置きなく講堂の前側のドアが開く。
 遠慮会釈のない、力で押し開けられたドアの向こうには、一人の魔女の姿があった。
 流れる銀髪、全てを見通す碧眼、そしてその小さな体躯にただならぬ風格と魔力を漂わせ、闊歩する。

「ひ、ひぇ……」

 ウィッチたちの中には、それだけで怯えてしまう者もいた。
 まあ、無理もない。ただでさえ多感な年齢、尚且つウィッチとしては戦力とならなくとも能力を備えた少女たちだ。
彼女たちには入ってきた魔女が、ただの年齢が近いだけの少女ではないと、本能的に理解できてしまっていたのだ。
 そして、その魔女は講堂の前方の教壇につくなり、声を張り上げた。

「ブリタニアのウィッチの卵たち。ようこそ、エネラン戦略要塞へ。
 私がこのエネラン戦略要塞を拠点とする『ティル・ナ・ノーグ』の最高顧問にして、諸卿らの教育を担当するリーゼロッテ・ヴェルクマイスターだ」

 まだ声変わりしたての少女の声。
 しかし、その声には圧倒的な力がこもっていた。
 外観年齢にまるで似つかわしくないような、歴戦の、あるいは風格の伴った力強さが存在している。

「一先ずは、着任を歓迎するとしよう。
 卿ら前途有望な若人たちを磨き、鍛え、成長させるのは私にとっても大きな喜びとなる。
 私が率いる『ティル・ナ・ノーグ』はこれまでに多くのウィッチ、魔導士、あるいはウォーザード達を送り出してきた。
 そして彼ら彼女らは今、最前線において戦い、あるいは後方で教育に携わるなどして、ネウロイとの戦いを支えている。
 卿らも、それらに恥じぬ働きができる人材になってもらえるよう、私を筆頭に総力を挙げる。卿らもそれについて来てほしい」

 以上だ、と言葉短く切り上げると、リーゼロッテは一度髪をかき上げ、その上で指示を出す。

「現状、『ティル・ナ・ノーグ』にも人類の対ネウロイ戦線にも余裕というのは乏しい。
 故に、迅速な戦力化を目指す。各員、あらかじめ配られていた指令書に従い、最初のカリキュラムに取り掛かってくれたまえ」

 ウィッチたちから戸惑う声が上がるが無理もない。
 だが、そんな余裕など残されていないのが実情なのだ。
 ただでさえ、ティル・ナ・ローグは通常の業務を行うほかに、ブリタニアの尻拭いの手伝いをやる羽目になったのだから。
プライオリティーとしては一段下げたいところであるが、幼い彼女らを適当な教育で放り出すのはさすがに良心が痛む。
散々悪事を働いたことがあるにしても、彼女とて愛情を持つくらいはあるのだ。加えて、ここで適当にやれば前線にさえ迷惑をかける。

(その元凶になったブリタニアのゴミムシどもめ……!)

 そもそも悪いのはマロニーら、ブリタニアに巣食っていたゴミムシ以下の、存在することさえ許しがたい一派の暴走だ。
 その一派のせいで、この世界だけでなく、地球連合までも否応なく巻き込まれてしまったのだから。

560: 弥次郎 :2022/03/28(月) 00:15:45 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 だが、彼女らに、少なくともここに来ている彼女らには罪はない。
彼女らはまだ幼く、力もない。大人の失態のせいで、皮肉にもウィッチ懐疑派とでもいうべき派閥のせいでウィッチが必要になったのだ。
彼女らもまた振り回された側であり、被害者でもある。そんな彼女らに八つ当たりなど、いい年こいた大人のやることではないのだ。

(すでに落とし前はつけることが決まっている。それに、従うだけだ……)

 吹きあがる個人としての感情は別だが、そこは抑えなくてはならない。
 馬鹿をやった派閥と同じレベルにまで墜ちるなどまっぴらごめんな話だし。
 ともあれ、一度仕切り直したリーゼロッテは廊下を進む。彼女らを無駄死にさせないように心を鬼とするのが、自分たちの仕事なのだから。


  • エネラン戦略要塞 軍事区画 第303講堂

「303……303……こっちかな?」

 一人のウィッチが、廊下を進んでいた。
 表示されている看板を一つ一つ確かめながら、手にしている指令書に書かれているカリキュラムを受ける講堂に向かうために。

(ハァ…なんだか、すごい人に会っちゃった)

 ブリタニアから派遣された自他ともに認める半人前のウィッチ「ステファニー・H・レッドフォード」は内心感嘆のため息を漏らしていた。
「ティル・ナ・ノーグ」の最高顧問たるウィッチ「リーゼロッテ・ヴェルクマイスター」。話には聞いたことがある。
彼女自身も言っていたように、多くのウィッチや魔導士を教育し、戦場へと送り出せる能力を叩き込んできたという人物だ。
 当然、ブリタニア本国でも噂になっていたのだ。これまでの常識を覆すような知識と技術を持つウィッチが地球連合にはいるのだ、と。
ただ、噂が独り歩きしているところもあって、どういう人物なのかはとても評価も含めばらばらだった。
とても恐ろしい魔女だとか、あるいは人を人とも思わない非情な人間だとか、あるいは不老不死なのだとか。

(でも、かっこよかったなぁ……)

 若干ミーハーな節のあるステファニーにすれば、ここに来て実際に会うまではそういう噂を鵜呑みにしていたのだが、それは今日ひっくり返った。
 かっこよいのだ。リーゼロッテの姿はどうしようもないほどに、かっこいい大人、あるいは完成されたウィッチに見えた。
一挙手一投足が洗練されていて、美しくも華麗で、それでいて力強い。お伽噺で効いたような英雄のようにさえ見えたのだ。
 そんな人なんだから、悪い人じゃない!と単純にもステファニーは考えていた。ブリタニア本土での噂をすっかり忘れて。

「あ、あった!」

 目的地である第303講堂の表示札を見つける。耳をすませば、内部から音はほとんどしない。どうやら一番乗りだろうか?
とりあえず、ここで最初のカリキュラムに向けた説明を軽く受けて、即座に研修に入るとのこと。
一番早く来たのだから、褒めてもらえるかもしれないと、そんなことを思いながらも元気よく扉を開けた。

「ふむ、卿が一番か、ステファニー・H・レッドフォード」

 反射で、ドアを閉じたくなった。
 開けた先、第303講堂にはなんとそのリーゼロッテ・ヴェルクマイスターの姿があったのだ。
 いきなりの邂逅に、そして驚きやら何やら感情がごちゃごちゃになって、ついでにリーゼロッテの空気に至近距離で当てられ---

「きゅう……」

 パニック寸前となったステファニーの脳は意識をシャットダウンすることを選んだ。
 倒れ込む感覚がするが、なぜか地面に倒れる感触はない。だが、そんなことを感じる余裕は、ステファニーにはなかった。
ある意味で前途多難な始まりとなった彼女らの、連合側が呼ぶところの「ゴート・ドール(羊人形)」の少女たちの研修は始まったのだった。

561: 弥次郎 :2022/03/28(月) 00:17:34 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
人員に限りがあるので、最高顧問たるリーゼロッテさんも分身を教導に派遣しています。
何しろ本国というかC.E.世界がアポカリプスを迎えていますしね。

あと、ティル・ナ・ノーグでの教導やオーバーロード作戦などで活躍したリーゼロッテさんには、
ストパン世界側で噂話が発生して、尾ひれ背びれがくっついております。

返信は明日にします。
もう寝ます。
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最終更新:2023年11月03日 10:31