718: 弥次郎 :2022/03/29(火) 18:15:00 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「ゴート・ドールは踊らない」2


 「ゴート・ドール」。
 これは、ブリタニアから送られてきたウィッチの候補生たちをさす言葉である。
 どちらかというと、ウォーロック暴走とそれに伴う空中空母撃沈事件など諸般のやらかしの補填のため、彼女らを送り付けてきたブリタニアへの当てつけである。
おのれの意思で来たとは言い難く、状況もよく把握していないままに、生贄としてささげられた少女たち。
これを生贄の羊とどう違うのか、ということである。彼女たちに政治的な動向を伝えたところで、どうにでもなるわけでもないのだし。
彼女たちは満杯になっている本国の養成課程の代わりに、国家間に設置された課程に送られたという情報を吹き込まれている。
 さりとて、何度も言うように彼女らに罪があるわけではない。

 ブリタニアにしても、補填を行うための材料がこうした兵力や資金の供出という形しかなかったのも事実だ。
第501統合戦闘航空団へ戦力などを供出していたストパン世界各国相手ならばともかくとして、地球連合相手の補償などできようがない。
両国間の通貨レートは経済規模の違いが元々あったためにひどいものであったし、今回の事件をきっかけにさらに悪化した。
当然ながら被害を受けたアイガイオン3番機と撃墜されたその護衛である航空火力プラットホーム「ギュゲス」9番機の補填も不可能だ。
ブリタニアにとってはそんなものを建造する能力などもとよりなく、賠償するだけの方法があるわけではないのだし。

 というか、ブリタニア首脳部が把握していないところで国家レベルのプロジェクトが進行しており、それが『大戦果』を挙げたという時点ですでに大問題なのだ。
文民統制にあるまじき行為の果てに生じたものであるし、各国や連合から供与されていた物資や資金の横領などもあったことから、内外への信頼はガタガタ。
ブリタニアという国家が崩壊せずに、ちゃんと国体を維持し続けているという時点でほぼ奇跡の様なものであり、他国が黙認しているのも状況が状況故だ。

 まあ、そういう数えきれない事情もあり「ゴート・ドール」という呼び名をされるのをブリタニアは甘んじて受け入れるしかなかったのである。
下手な口答え一つで、ストパン各国や地球連合をその気にさせてしまうのは余りにも危険が過ぎたのだし。
故にこそ、ブリタニアの外交筋の紳士たちは各国からの嫌味ともいえるその言葉に耐えるしかなかったのである。
 最も、ブリタニアの政治に限らず国体においては事件後にかなりのメスが入り、半ば粛清じみたことが行われたのだが、ここでは割愛するとしよう。

719: 弥次郎 :2022/03/29(火) 18:15:56 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • ストライクウィッチーズ世界 主観1944年10月上旬 大西洋上 エネラン戦略要塞 軍事区画 第303講堂



 ステファニー・H・レッドフォード候補生の最初のカリキュラムは、最高顧問たるリーゼロッテ直々の「魔導理論」であった。
魔導、魔法に関わる基礎的な理論を叩き込む授業ということになる。この世界における魔法、すなわちエーテルの特性を学んでもらうことになるのだ。
そもそも、ストパン世界においてこの手魔力に関する研究というのはあまり進んでいないのが実情。
適齢期の女性のウィッチのみが使えるもので、あがりを迎えると使えなくなる、という曖昧な認識でしかないのだ。
 だが、そのエーテル=魔力を自在に操るには、その空間に満ちているエーテルの特性を学び、自ら能動的に制御する必要がある。
その基礎知識こそが、この「魔導理論」というわけである。

(む、難しい……)

 けれど、その学習を言うのはストパン世界の人間にとってみれば初めて聞くような言葉と理論の羅列であった。
 そも、リーゼロッテはエーテル理論を学び、この世界の魔法を学び、体系化したのだが、その理論は大の大人さえも苦しめた理論だった。
シティシスに出向していたウィッチ関係の装備を卸すメーカーの技術者たちでさえも追いつけないのだ、ある意味では無理もない話。
 とはいえ、それが実際に戦場でエーテル=魔力を使うウィッチがわかりませんでは困る。
 その気になればあらゆることに、それこそ攻撃にも防御にも回復にも、あるいは探知や捜索などにまで応用が利くのだから。
 ついでに言えば、リーゼロッテとて鬼ではなく、分かりやすいレベルからスタートしているので優しいほどだ。
まあ、吶喊で仕込まなければならないというのもあるので、急ぎながらも丁寧にという、最も苦しいやり方ではあったが。

「……ということで、エーテルは空間中においては基本的に物理的な気体のようにふるまう。
 本来は無秩序的で自由闊達に動いているが、これに自分の魔力を用いて働きかけることで、自在に変化させることができる」

 自らが執筆・編集したテキストを読み上げつつも、リーゼロッテは講堂にいる全員に見える位置に置かれたアクリル板で構築された箱に近づく。
その箱はしっかりと封がされており、中に何かを閉じ込めている、というのがウィッチ候補生たちにはなんとなく分かった。

「例えばだが、この中には濃度E=50の、一般的な空間の2倍量のエーテルを閉じ込めてある。
 諸卿らにはなんとなくわかる、というものだろう。だが目に見えない以上、これを観測するのは難しい。
 そこで、外部からこのように……」

 徐に近づいて、リーゼロッテは指をパチンと鳴らした。
 直後、その指から放たれた魔力が内部のエーテルへと干渉を行う。

「うわ」
「色が……?」
「魔力でちょっと働きかけてやるだけで、色を付けることができる。」

 リーゼロッテの言葉通り、透明なアクリル板の中には薄い黄色に染め上げられたエーテルが渦巻いているのが見えた。
本来ならば無色透明な魔力を意図的に見えやすくなるように性質を変化させたのだ。

「今日、ウィッチたちが魔法と呼ばれる現象を引き起こせるのは、これと同じ原理による。
 魔導士も同じようなものだが、エーテルに働きかけ、通常ではありえない現象を引き起こす。
 魔法とは基本的に、存在するエーテルと、それに働きかける魔力と、それに必要な干渉・作用術式を必要とする。
 この三点は、この後もずっと使う要素だ。覚えておくように」

 そして、講堂の前方に据えられていた黒板の方にリーゼロッテが手を伸ばすと、チョークが数本浮き上がり、その内容を速やかに板書してしまう。

「訓練を積めば、干渉・作用術式や装置を抜きにして魔法の行使が可能となる。
 一般的にウィッチが使い魔などを介していることも、その気になれば使い魔などをなしにしても可能なことになる」

 このようにな、といったん区切ると、咳ばらいを一つ。

「今の箇所は何度となく振り返ることになる。忘れることのないように。
 では次に移ろう」

 そして、講義は続けられていく。
 絶大な力を持つ魔女から、まだ半人前のウィッチたちへ、少しでも力を持つ戦力となれるようにと、願いを込めて。

720: 弥次郎 :2022/03/29(火) 18:16:32 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • エネラン戦略要塞 軍事区画 食堂


 幼いウィッチ候補生たちだけでなく「ティル・ナ・ノーグ」で訓練を受ける人員はすべからく食事を必要とする。
殊更、軍事訓練というものを積んでいるので、体力の消費や栄養の消費はとてつもない量になってくる。
ウォーザードを目指している大人の候補生たちですら午前だけでもくたくたになるのだ、ウィッチ候補生たちならばなおさらであった。
 だからこそ、栄養バランスなどを考慮して作られた食事をしっかりと食べる必要があるのだ。
 食べないという選択肢はない。食べなければ、午後からの講義に体がついていかなくなるゆえに。
そのため、監督官が付き添う形で食事が行われていたのだ。どちらかと言えば、疲れ果てた彼女たちを介助しているのだが。
 そんな中にあってステファニーは元気に食事を食べていた。

「ムグムグ……はむっ」

 ここの食事はおいしい。少なくとも実家よりは、とステファニーは考えていた。
 最初は座学を受け、次には実戦講義を受け、その後にまた座学を受け、と潜り抜けた彼女は余りにもお腹がすいていた。
それこそ、皿ごと食べつくさんとするがごとき勢いと迫力があった。

「ステファニー…元気だねー…」
「そういうミネバ、全然食べてないじゃん」

 ステファニーと同じウィッチ候補生のミネバ・ドーリーは、ぐったりとした様子で、見るからに疲労困憊状態。
用意されている食事に手は付けているものの、その食べていくペースは決して良いとは言えなかった。

「お腹はすいているんだけどね……」
「体が受け付けない?」
「疲れて食べる気がわかないんだよね」

 それでもパンをちぎり、口に運んでいるのは体が栄養を欲しているためか。
 ステファニーが周りを見れば、ミネバのように少しずつしか食べられない者もいれば、自分のようにがっついている者もいる。
誰もがいきなりの濃い講義につかれ、それぞれ反応していると、そう見えたのだった。
 予想していなかったわけではない、とステファニーは思う。花形とさえ言える航空ウィッチの競争率は尋常ではない。
それだけ有名で、華々しく、それでいて求められるところが多いのだ。空を飛び、戦うというのはそれだけ難しい。
まして、ネウロイが進化していることが確認されたことで、その対抗馬のウィッチに求められるところは増え続けているのだ。
半人前の自分ですら知っていることなのだから、もはやこれは常識だろう。

「それだけ求められることが多いっていうけどさー……いきなり挫けそうになったもんだよ」
「でも航空ウィッチってそういうものでしょ?」
「そりゃ、そう聞いていたよ。ここで勉強して訓練すれば、晴れて航空ウィッチになれる。
 本国のところじゃないけど、選んでる余裕なんてないし……夢に近いってさ」

 それでもあんまりだよ、とミネバは愚痴をこぼす。
 夢を見ていた、憧れを抱いていた。だからこそここまで来た。けれど現実はそんなに甘くなかったということか。

「リーゼロッテ先生も…」
「うん?」
「リーゼロッテ先生もそう言っていたよ。夢には近づけるって。
 でも、それを現実にするには結局前に進んで努力するしかないって」
「へぇ…先生っぽいこと言うんだね……」

 先生だもの、というしかない。

「近道をする分、その分の苦労はしょい込むもの。楽をして得られる方法も、結局はどうしても苦労を重ねるって。
 最終的にその人が進んだ道が一番の近道になるんだって…」
「よくあの先生のことを慕えるね……」

721: 弥次郎 :2022/03/29(火) 18:17:18 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 ミネバのその問いかけは、半ば呆れを帯びたものだった。
 最初はすごい人が先生になると、ミネバは思っていたのだ。
 けれど、いざ勉強が始まってみればそんなことは頭から吹っ飛んだ。吹っ飛ぶほどの内容が押し寄せてきたのだ。
加えて言えば、その教育方法は厳しいというしかなく、全く未知の分野ということもあり苦労しっぱなしだったのだ。
その元凶であるリーゼロッテに苦手意識の一つや二つ持ったところでおかしい話ではなかった。

「そう、かな……?」
「そういうもんでしょ!なんであれだけ詰め込んできたのか、さっぱりわかんない!」
「でも、質問すればちゃんと答えてくれたよ?」
「うっ……」
「わからないところは後から聞きに行けば詳しく教えてくれたし、資料だってくれたし、他の先生に引き継いで教えてもらえたり」
「そ、そういうことがやりにくいから苦労してんの……」

 純粋すぎる…とティル・ナ・ローグに来てから知り合った同年齢のウィッチに、ミネバは若干げんなりせざるを得なかった。
いや、もちろんステファニーは何も間違ったことをしているわけではないのだ。ズバリ正論というか正攻法というか、正しい選択。
 実際に、講義だけですべてを教えきれると考えていないリーゼロッテを含む講師たちは、その手の補足説明やら質問を受けて回ってフォローしていたのだ。
つまるところ、そういう面においてはウィッチ候補生たちのやる気の問題ということになってくるのだ。

「どうして?」
「いや……教官とか講師の人……みんな、怖いじゃん?」
「?」

 そう、ミネバら他の大多数のウィッチ候補生にとって、連合の教員というのは異性も混じっていることもあり、近寄りがたいのだ。
ここら辺はリーゼロッテの集めた、その手の実戦などを経験してきた実力者たちを集めたというのも大きい。
つまり、同性で年齢があまり離れていない相手から教授を受けてきたウィッチ候補生たちにとっては、あまりにも慣れていない相手ばかりなのだ。

「ああ、そういう……怖い?」
「……うん。特にリーゼロッテさんとか」

 ウィッチの世間は案外狭い。試験にパスすれば、部隊内で完結した生活を送り、行動するのも女性ばかりだ。
教育を受けるのも、訓練を受けるのも、講義を受ける相手もほとんどが女性ばかりというもの。
 だから男性への耐性がないのだ。接する経験が乏しいというべきか。
 しかし、同じ女性であるリーゼロッテまで怖いとは、いったいどういう風の吹き回しか?

「なんか……明らかに人間じゃない、というか」
「?」
「ダメだ、うまく説明できないね」

 そんな具合に、昼食時は過ぎていく。
 ちなみにであるが、昼食休憩の後には午睡、すなわち昼寝休憩時間が用意されていることをここに記す。

722: 弥次郎 :2022/03/29(火) 18:18:15 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。

昼寝するのとしないのとでは割と学習効率とかに差がでるそうです。
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最終更新:2023年11月03日 10:32