202: 弥次郎 :2022/04/02(土) 22:16:08 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「ゴート・ドールは踊らない」3


  • ストライクウィッチーズ世界 主観1944年10月上旬 大西洋上 エネラン戦略要塞 軍事区画 第107屋外演習場



 このストパン世界におけるネウロイとの戦いは、最新のドクトリンでは諸兵科連合を構成することで対処している。
 即ち、ウィッチだけが対処するのではなく、その他の兵科の兵力も合わせて対処を行うことで、最大限の能力を発揮しようということである。
何しろ、ウィッチの数には限りがある。ほかの兵科だって同じことが言えるわけであるが、ウィッチはさらに少ないのだ。
航空ウィッチを集中運用する統合戦闘航空団でさえも20名余いれば多いくらいであることから、全体から見ればどれほど少ないかはわかるだろう。
無論、航空ウィッチでなければ、陸戦型ストライカーを用いる陸戦ウィッチならば数はまだ増えるのだが、それでも稀少なことに変わりはない。
 そして、その数的な問題や少女兵を用いることによる倫理的な問題の解決を図ったのが魔導士であったりするのだが、それは一時置いておこう。

 重要なのは、他の兵科との連携を行う、ということであり、ウィッチも当然ながらそれに従うということである。
ウィッチだけで対処しきれるほど生ぬるい数で収まるはずもないし、他の兵科や兵器では対処しきれないネウロイも存在する。
そういうこともあって、よほどの状況でなければ、ウィッチの戦闘は連携を前提としなければならない。
無論、これが最初から実行に移せていたというわけではないのだが、ともあれ、そういうことになっているのである。

 そして、このエネラン戦略要塞における実戦訓練では、当然ながら諸兵科連合を前提とした訓練を行う。
個人技だけで勝てるほど生温い相手ではなく、かといってがむしゃらに戦えばいいわけでもないのだから、当然のこと。
身につけさせた個人技を集団での、軍団での戦闘の中でどう生かすかという、そういう命題を突き付けられるのである。
 実際の戦場と同じ、いやそれ以上に苛烈な戦場を再現し、放り込むことで容赦なく慣れさせる。

「敵発見!」
「怯むな、撃ち返せ!」
「10時の方向、敵3機接近!」
「フォイヤー!」

 ネウロイを模した仮想敵の砲撃の中、ウィッチと同等のシールドを張りながらも前進するのはMPF-002G/Kを擁するカールスラント陸軍のウォーザード達。
その主砲、8.8センチ主砲を構え、大地をホバーで疾走し、射撃しながら前進する姿はまさしく人サイズの戦車そのもの。
戦車と異なるのは、敵の砲撃に対して柔軟に動き回ることによる回避を行うことであろうか。
飛び上がったり、地形をうまく使って跳躍して的を絞らせなかったり、あるいは稜線に隠れたりと柔軟に動く。

「しつこいな、あいつら……」

 敵の攻撃の着弾でできた窪みに突っ込み、身をかがめながらグランド・リッターを纏うウォーザードの一人が呻く。
そう呻きながらも、右肩越しにバックパックに搭載され、右手でコントロールを担う8.8センチ主砲ではなく、30㎜アサルトライフルだけを出して牽制射撃を放つ。
主砲にこそ威力は劣るにしても、この30㎜という砲弾の連射は生半可ではない。カールスラントの対空砲ですら2センチだ、それ以上の砲弾がハイペースとは恐れ入る。
事実、地面を突っ走ってくる小型はこれだけで撃破できるし、中型までならば集中射撃で撃破乃至擱座させることもできる。

「まずい、航空機型だ!」
「どこに、数は?」
「5時方向距離700m!数は4……じゃない6!高度は……なんて低空だ!?」

 複合演算宝珠によるレーダーと索敵および諸元解析能力は、即座に使い手にその情報を伝える。
 そして、そのネウロイを模したドローンは果たして視界に映った。

203: 弥次郎 :2022/04/02(土) 22:17:03 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

「対空!」
「ヤヴォール!」

 彼らがとったのは至極単純、移動しながらの陣形変更。1機を他の3機でカバーする形だ。
 4機編成の1機は、3.7cm FlaK 43を片側二門合計4門も搭載した対空型仕様だ。
 その名前の通り3.7センチ砲のため、8.8センチよりも口径こそ小さいが発射レートや砲門数が違う。
加えて言うならば、その為の射撃管制ソフト(FCS)が搭載されているため、対空仕様は決して伊達ではない。

「発射!」

 そして、対空砲が火を噴いていく。
 さらには僚機のMG42や30㎜アサルトライフルと合わせた対空射撃が襲い掛かる。

「くっそ……!」

 当然だが相手も素直には当たってくれない。回避運動を交え、反撃の銃撃やビームを放ってきながらこちらを至近距離に収めようとしてくる。
相手が先に命中を得るか、こちらが撃墜できるか、そのチキンレースになっていった。
 だが、他の敵がこちらを向かって襲ってくることも考えれば早期に決着をつけるべきだった。

「なら、とっておきだ」

 故に、グランド・リッターの8.8センチ砲には手動操作で特殊な砲弾が装填された。
 それは、対空炸裂砲弾。空を飛べないがゆえに空の敵が脅威となることを見越して開発された、強力な対空砲弾だ。

「諸元入力、完了。フォイヤー!」

 果たしてそれは、敵機の位置に迫るや、定められた通りに炸裂し、抱えていたエーテルエンチャントを施した散弾をばらまく。
それはもはや炸裂というより、そこで生じた大雨にも等しい。回避運動の先に先読みして撃たれたそれにより、ネウロイの群れは撃墜された。

「…!?警報!」
「直上にはいられました!」
「シャイセ(畜生)!」

 即座に散開し、襲い掛かってきた爆弾を回避する。
 だが、それが相手の狙いだ。対空陣形は間隔が広くなりすぎると、弾幕の密度が薄くなり、突破されやすくなる。
果たして、想定される相手の射程に、こちらはばっちりと納まってしまう。

「捕らえました、いって!」
「鴨打だ!」

 しかし、救いの手が現れた。
 上空から襲い掛かろうとした標的ドローンを、ストライカーユニットを装備した航空ウィッチたちが瞬時に撃墜する。
編隊を組んでの統制射撃、それによる弾幕による瞬時の排除。それが完了して上空をフライパスし、次なる標的を求めて飛翔していく。

「助かった……」
「ありがとよ、ウィッチのフロイライン!」
『次はポイントF-9に。突破を試みる地上戦力の支援を』
「フラワー7了解!」

 手を振る彼らに返事として手を振りつつも、フラワー7---ステファニーはCPの誘導に従い、広い演習場の空を飛ぶ。
 本来の戦場の何分の一かのサイズしかないにしても、行われていることは本番さながら。
標的となるドローンたちも、資料で見たネウロイ以上の恐ろしさを伴っている。
ただの的ではなく、姿かたちも真似て、攻撃手段も再現して反撃もしっかりしてくるというのだから、

「フラワー小隊、続いてください!」
「了解!」

 だから、撃破しても油断することなく動きを継続していく。
 演習はまだ、続いているのだから。

204: 弥次郎 :2022/04/02(土) 22:18:45 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • エネラン戦略要塞 軍事区画 執務室

 演習区画で訓練という名のほとんど実戦が行われている頃、エネラン戦略要塞のブレインたる区画でも戦いは続いていた。
 その報告を、ブリタニアからの要望が届いたこととその内容の報告を秘書であるフラワー・ルビーから受けた時、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターは顔をしかめた。

「羊が増える、と?」
「はい。ブリタニア本国から追加で航空ウィッチを30名、陸戦ウィッチを60名ほど教育してほしい、と」
「航空ウィッチに加えて陸戦ウィッチまでもか……ここは託児所ではないんだがな、一応」
「加えまして、ウォーザード候補生もおよそ100名の受け入れを求められました」

 その報告をするルビーもまた、あまり良い表情をしているとは言い難い。
 リーゼロッテの言うところの「羊」、すなわちブリタニアから送られてくるウィッチたちをさす。
 このストパン世界の各国からも「生贄の羊」という意味も込めて「ゴート・ドール」と呼ばれる彼女らは、さらに増えるということになるのか。

「……こちらはブリタニアのウィッチやウォーザードだけを教育すればいいわけじゃないことは伝えてあるな?」
「はい、当然です」

 そう、ティル・ナ・ローグにおいては教導を受けているのは何もブリタニアのウィッチたちやウォーザードだけではない。
カールスラント、スオムス、オラーシャ、扶桑、リベリオン、ロマーニャ、ヴェネツィア、ガリア、ヒスパニアと多方面から教導を請け負っているのだ。
それもウィッチだけでなく、魔導士やウォーザードの候補生も含めて、だ。
他にも技術者やメカニック、あるいはその手の作業要員などを含めているので、ここには数万人もの人員がいることになる。
 そんな彼らが学習し、訓練を積み、寝食などの面倒も見ているのはすべて連合の予算などで成り立っている。
教育を行う人員に関しても、地球連合が抱えている人材の中から選抜されて派遣されてきて、ここで教鞭をとっている。
 それらを踏まえたうえで、近況と合わせ、リーゼロッテのは深くため息をつく。

「正気か?」

 そう、控えめに言ってもティル・ナ・ローグにストパン世界各国がその教育能力に期待しているのは過剰なレベルとなっている。
その元々の元凶となったのは、オーバーロード作戦において動員されたYPFおよびMPFを擁するウォーザード部隊の活躍があってのことだ。
あるいは、並んで戦線投入された新装備を持ったウィッチたちが通常よりも高い活躍を見せたことも絡んでいるかもしれない。
シティシスにおいてそれだけの戦果を出せたのだから、と各国はあらゆる人材を派遣してその技術や戦術などを学ぼうとしてきた。
 そのやる気については評価できるし、各国へのテコ入れもできるから最初は歓迎していたのだ。
 だが、かといって特定の国だけを贔屓はできないのだ。こちらにも限界というものがあり、各国からの受け入れ要請をある程度断っているのだから。

「どうやら至極真面目な話なようで……具体的には反ウィッチ派閥の不安があるとのことで」
「……マロニーの置き土産か」

 ブリタニアの事情は理解している。反ウィッチ派閥の大粛清が行われたのは記憶に新しい出来事だ。
 だが、それ故にまだ問題は残り続けている。ウィッチを戦場に送り出すことに忌避感や嫌悪を覚える派閥が、未だに行動を続けているのだ。
 一応は大々的なメスを入れることにより、その手の連中は排除することに成功はしている。
 多大な損害---現役の将官から尉官までも含んだ人員の事実上の追放---を飲み込んで動いているのだから。

「とはいえ、元々組織的に動いていない状況であれだけのことができたのだから、個人レベルで妨害などがあっては困るという判断です。
 また、ブリタニア本国におけるウィッチやウォーザード、魔導士の教育体制についてもダメージが大きいため、このままでは限界があるとのことで」
「ブリタニアは連合王国制だろう?加盟している国の教育機関にでも預ければ……ああ、そういうことか」

205: 弥次郎 :2022/04/02(土) 22:19:35 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 その解決策をリーゼロッテは指摘しようとして、同時に理解する。
 元々地球型惑星上に存在したストパン世界は、このF世界においては平面上に押し込まれている。
 それ故に、ブリタニア本国は世界の端っこにある島国という位置づけとなり、他の連合加盟国と物理的に離されてしまったのだ。
 そして、現在のところブリタニアから後方国である扶桑皇国などとのコンタクトはアフリカを経由しなければならず、そこも決して安全ではない。
そういったリスクなどが付きまとうがゆえに、大西洋上に展開しているエネラン戦略要塞の価値はとても大きかったのだ。
 自ら納得したリーゼロッテの合点を、ルビーは肯定した。

「はい。遠隔地に派遣し、教育させ、戻ってこさせるまでのコストやリスクは目をつむりにくいのです。
 また、ここでの教育は質が良く、最先端技術なども学べることもあって、ブリタニアにとってはまさしく命綱なのでしょう」
「それに、連合加盟国に出向させて教育するのも、本国というか盟主としての体面を考慮すれば、押し付けにしたくはない、と」

 どこまでも政治が付きまとうな、とリーゼロッテは嘆くしかない。
 無論、軍事とは政治の一環であり、外交手段の一つであり、国益を守る戦力である。

「だが、同じ事情は他の国にも言えることだ。
 遠隔地にわざわざ派遣しているのはリベリオンや扶桑も同じであるし、本土失陥している国からも多数受け入れているのだぞ?」
「そのうえで、だそうです。ブリタニア国内の疑心暗鬼は、今もなお根強いようですし」
「……」

 しばし呻いたリーゼロッテは、報告を受けながらも続けていた作業を一旦止める。
 ブリタニアの懸念はわからなくもない。ウィッチを容認して戦場に送り出すしかない状況なのは理解はしているのだろう。
 だが、理解と心情としての納得は別問題だ。まして、そんな動きを行うほどの心情になったのだから、その感情のままに自棄になることもある。
その結果として将来有望なウィッチが害されることなど、この先の戦いを考えれば痛手になることは確かだ。

「……受け入れはしたい、が連合とて余裕があるとも限らんしな。C.E.世界はまさしく大戦争だと聞くのだし」
「はい。人的な余裕が本国にあるとは言い難いです。無論、無理を言っても却下される立場ではないとは思いますが……」
「難しいところだな」

 果たすべき課題は多い。状況も悪い。余裕も乏しいうえに、現状の維持でもかなり贅沢な部類。
 そんな状況下においては、誰かが負担を背負う必要がある。連合か、現地のティル・ナ・ローグか、候補生たちか、はたまた各国か。
 しばし黙考し、考えを巡らせたリーゼロッテは、やがて言葉を吐き出した。

「フラワー……少し試したいことがある」
「なんでしょうか?」
「まあ、私の思い付きの様なものだ。
 だが、うまくいってくれるならば悪いことにはなるまいと思ってな」

 一先ずは、と言いながらリーゼロッテは立ち上がる。
 その瞳は、強い意志を宿していた。

「一先ず、幹部級には話を通しておかねばなるまい。意見も聞きたいからな……次の会議までに準備をしておきたい」
「承知し致しました」

 一先ずは他の意見だな、とリーゼロッテは思う。
 誰にとっても良いものとなれるかどうかはこれから。そのためにこそ、動きは止めない。
 苦しいからこそ、少しでも苦しさを乗り越えようとしなくてはならないのだ、と。

206: 弥次郎 :2022/04/02(土) 22:20:17 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
戦闘シーンも書く、ストーリーも書き進める。
両方やらなくちゃならないのがSS作者の辛いところだな。
SSを書き続ける覚悟はいいか?(ry

とりあえずリーゼロッテさんの案については次回になります。
ある程度のタイムラインというか流れは決めているので、あとは如何にうまくSSに落とし込むか、ですねぇ
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • ファンタジールート
  • ゴート・ドールは踊らない
最終更新:2023年11月03日 10:34