732: モントゴメリー :2022/03/29(火) 00:13:28 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
FFR社会の情景——Appuyez trois fois——

Appuyez trois foisはフランス連邦共和国(FFR)で採用されている射撃法である。
オランダ語に訳せばTik drie keer、英語ならばTriple Tapとなる(兵士たちは単純に「trois fois(3回)」と呼ぶこともある)。
その名の通り3連射した弾丸の同一点に着弾させる技法だ。

この射撃法が考案・普及した原因は拳銃弾の威力不足であった。
第二次世界大戦後に発足したFFRであるが、拳銃弾に関しては戦前から使用している7.65x20mm Longue弾を引き続き採用した。
この弾薬のエネルギーは約300JとOCU陣営の標準拳銃弾である9㎜パラベラム弾の6割ほどであり、威力不足であるという指摘は当時からなされていた。
しかし、未だ混乱収まらぬエストシナ植民地ではこの弾薬を使用するMAS41短機関銃が戦中から変わらず歩兵火力の一翼を担っていた。
なので弾薬を変更するためにはこのMAS41も同時に更新しなければならないが、当時のFFRにそのような余裕は存在しなかった。
何とも情けない話であるが、「予算」という人類史上最強クラスの敵にはOCUでさえ敗北することは珍しくないのだから仕方がない。
それでも、FFR軍上層部は事態を悲観的に見積もってはいなかった。
なるほど確かに7.65x20mm Longue弾は9㎜パラベラム弾と比較すれば威力不足であろう。
しかし、歴とした拳銃弾である。急所に当てれば一発で相手を倒せるし、一発で倒せないならば数発叩き込めばいい話である。
この思想を基に、MAS41の後継短機関銃は生産性と共に発射速度を追求したものとなった。
また、威力不足には「反動が小さく扱いやすい」という利点の裏返しでもある。
これによる命中率の高さと高発射速度により弱点は十分に補えると判断されたのである。

そしてその想定は正しかったように見えた。少なくとも戦後20年ほどは。
当時の、「暗黒の30年」当時のFFRの仮想敵筆頭はエストシナのセクト共とアフリカ州の反政府勢力であったからだ。
それらの勢力はろくに訓練も施されていない素人たちであり、銃火器はともかく防弾装備などは正規軍とは比べ物にならないほど粗末であった。
よって、7.65x20mm Longue弾でも当たれば確実にダメージを与えられたのだ。
逆に言えばOCUやBC、アメリカ合衆国などの列強や先進国の正規軍では防弾装備は飛躍的に強化されていたので最早通用しなくなっていたのだが……。
しかし、それでもFFR軍は楽観的であった。
正規軍同士の戦闘では主役は小銃や砲迫火力であり、短機関銃は補助的な役割でしかない。
拳銃に至っては「士官の服装の一部」みたいなもので、戦闘ははっきり言って考慮の他である。
それに、少なくとも20世紀中はOCUやBCと事を構える予定はない。ゆっくりと新型弾薬に更新すればいいのである。
「予定がない」のであって、「余裕がない」わけではない。断じてそうではないのである……。
よって、国内の敵の防弾装備が向上するなどという事態が起こらない限り、7.65x20mm Longue弾で全く問題はなかった。
そして、そのような事態が起こる可能性は非常に低いと考えられていた。
如何に「海峡の向こうの味覚障害でかつ紅茶中毒患者」であったとしても防弾装備などという正規軍でも貴重なものをばら撒くことはないだろう…。
そう考えられていたのだ。
しかし、その想定は崩壊した。

733: モントゴメリー :2022/03/29(火) 00:14:04 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
1970年代になるとアフリカ州の反政府勢力たちの装備が急激に充実してきたのである。
その現象の理由はOCU、元凶はBCであった。
OCUから端を発したパワードスーツの開発競争により各国の歩兵装備の重量制限が緩和された。
それにより防弾装備もより強固なものに更新されることになり、「お古」となった従来品をBCがFFRアフリカ州にばら撒いたのである。
(流石にエストシナのセクト共には供給しないだけの分別はあったが)
反政府勢力のアジトから見つかったこの正規軍クラスの防弾装備を検査し、真相へとたどり着いたFFRでは上は大統領から下は前線の二等兵まで怒髪冠を衝く勢いであった。
特に戦後世代である若手~中堅たちは血涙を流さんほど憤り、いつの日か必ずノルマンディーの無念を晴らすとリシュリューに対して新たに誓った者が多数出た。

兎にも角にも対抗手段を急いで用意しなければならい。そうでなければアフリカ州の平定計画は、遅延を通り越して破綻してしまう。
正攻法として拳銃弾の更新であるが、「暗黒の30年」後半に入ったばかりのFFRには荷が重かった。
特にこの時期は北米動乱に介入したばかりであり、軍備に振り向けられる余裕など最早残っていなかった。
さらに言うなら、仮に予算措置が即決したとしても、新規弾薬の開発・選定、さらに生産には年単位の時間がかかる。
その時間を支えられる「何か」が必要であった。
そしてその何かは、「一分間20発射撃」の時の様に前線の兵士たちの(戦艦リシュリューへの)献身と忠誠心から生み出されることになる。

きっかけは、一人の兵士がある映画の見たことだった。
日本で作られたその映画では、主人公が「2発の銃弾の全く同じ場所に命中させる」という超絶技巧で悪人を倒していた。
それを見た兵士は天啓を得たのだ。
——そうだ。例え7.65x20mm Longue弾でも同じ箇所に当てれば防御を打ち破れる!!

早速その兵士は休暇を切り上げ部隊に帰還、実践してみた。
なんと鹵獲品を用いた試験では、2発当てたとしても防御を突破できない事例が見られた。
しかし、彼は諦めなかった。2発でダメならば3発当てるだけの話である。
この後猛訓練で鍛え上げられた彼と彼に感化された彼の部隊は、実戦でその戦法を試し成功してしまった。
この報が大々的に宣伝された結果、FFR軍全体に急速に普及していくことになる。
もちろん、Appuyez trois foisの習得難易度はかなりのものであるが彼らはそれを見事に克服した。

『フランス人に不可能という言葉は似合わない』

特に「我らが指揮官」への忠誠心と信仰心に満たされたFFR国民には不可能という概念は存在しないのである…!!

「暗黒の30年」が30年で終わったのは奇跡であると後世言われることがある。
そしてその「奇跡」には、Appuyez trois foisの功績が少なからず含まれているのは紛れもない事実であった。
そしてこの射撃法は、新弾薬が導入された21世紀にも引き継がれている。
これを用いれば、拳銃や短機関銃でパワードスーツに対処することも可能であったからだ。

734: モントゴメリー :2022/03/29(火) 00:15:57 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
取り敢えず以上です。
ウィキ掲載は自由です。
急いで作ったので解説と後書きは明日作ります()

最近は平安武士メソッドで殺伐としていたので
「人間賛歌」でお送りしました。

753: モントゴメリー :2022/03/29(火) 19:14:30 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
というわけで改めまして。
解説でございます。
この話は以前ここで「FFRの拳銃弾はどうなるか?」という話題が出た時にスタートいたしました。
素直に9㎜パラベラムを使うのでは?とここでは言われましたが、FFRの皆さんに確認したところ
「戦前から引き続き7.65x20mm Longue弾だぞ」
と返されました。
MAS41が使用不能になるリスクは冒せないし、ボッシュどもの弾薬使うのは嫌だとのこと。
(そもそもアメリカから7.65x20mm Longue弾導入したのも「ドイツ製は嫌だ」という理由だったし…)
じゃあ威力不足どうするのよ、と思い調べたところ犯罪者が.22ロングライフル弾使用の短機関銃で警察の防弾チョッキを貫通したという話を見つけました。
「一カ所に多数の弾丸が集中した結果」とのこと。
.22ロングライフル弾(約150J)でそれができるなら7.65x20mm Longue弾(約300J)ならばもっと簡単にできるはずです。

で、「ダブル・タップ」という射撃法とその上位版である「トリプル・タップ」というものの存在を発見。
実際に人間が行えるものならば、我らが指揮官への信仰心に満ち満ちたFFR国民には必ずできるのです(ガンギマリ)。

そして肝心の「3発当てたとして本当にボディーアーマー貫通できるの?」という問題ですが。
史実アメリカの規格であるNIJ規格(NIJ Standards)ではクラスIIIA(.357 SIG、.44マグナム対応)だと7.62x25mm トカレフ弾に貫通される危険があるそうです。
7.62x25mm トカレフ弾(約700J)でこれならば7.65x20mm Longue弾を3発同一箇所に叩き込めば確実に貫通できるでしょう。
(300×3=900J)

なお、クラスIIIAは対拳銃弾としては最高レベルです。これより上は対ライフル用が2つあるだけです。

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最終更新:2022年04月04日 19:08