724 :YVH:2012/02/15(水) 19:10:22
 アルフレット・フォン・ランズベルク伯爵。
原作では、へぼ詩人と呼ばれ黒狐に駒として利用され、最後は主君に逃げられたショックで
精神異常を起こし、歴史に消えていった銀河帝国の青年貴族。

だが、「大日本帝国」彼の祖国よりも長い歴史を持つ古(いにしえ)の帝国の出現により、
彼の人生は大きく変わった・・・


 =惑星フェザーン某所=

公務の合間に散策に出たランズベルク伯は、シラサギが停泊している人造湖の畔で
奇妙な画を描いている人物を見かけた。
どうやらこの辺りの風景の様だが、彼の画はインク(?)で描かれている様で
黒以外の色を見出せなかった。不思議に思った伯は更に近づいてよく見ようとする寸前
伯の接近に気が付いたのか、件の画を描いていた人物が手を止めて伯のほうに振り返った。

「おや、銀河帝国の方ですかな?」

画を描いていた人物が、穏やかな声音で伯に問いかけた。
問い掛けられた伯は、相手の時間を邪魔したのがちょっとバツが悪かったのか
やや恐縮気味に自己紹介した。

「や、これはお邪魔したようで、申し訳ない。
 私はランズベルク伯アルフレットと申します」

青年伯爵の自己紹介に、相手も丁寧に答えた。

「これはご丁寧に。私は冷泉為朝と申します
 祖国では、伯の爵位を御上より賜りし者」

そう言って、優雅に一礼した。

この挨拶に驚いたランズベルク伯だったが、あの式典の折
目の前の人物が居なかった事を不思議に思い、冷泉伯にその理由を尋ねてみると
その日は宮様の命で同盟の弁務官府へ赴いており、あの場には分家の当主で甥に当たる
冷泉持継子爵が代役で出ていたとの事。

そんな四方山話の後、青年伯爵は気になっていた、冷泉伯の描いていた画に付いて質問した。

「処で、伯がお描きになっていらっしゃる画は、どの様な物なのですかな?
 デッサンにしても、私〔わたくし〕の存じている物とは違うようですが・・・?」

そんな青年貴族の質問に、冷泉伯は照れ臭そうに答えた。

「はは、お恥ずかしい。これは水墨画といって・・・」

冷泉伯によれば、伯の画は水墨画と言って、西暦がまだ三桁の時に時の中国大陸で描かれ始め
十二~十三世紀頃に発達した画法で、墨というインクの一種のみで描かれる、絵画の一種だと説明した。

「もっとも、私のは単なる趣味の一環でね。まぁ 落書きみたいな物だよ」

そう言って、朗らかに笑った。


その後、青年伯爵は、冷泉伯と親しく交流し始め、かの伯爵家が日本では歌道の名家と知るや
伯に師事し、その才能を高めていった。尚、この時期に青年伯は師より、
冷泉家の祖、藤原定家が撰した「小倉百人一首」の複製版が贈られている。

師との交流中、ランズベルク伯は歌道の他に、茶道・華道・香道と手を広げ、それらを祖国の銀河帝国に紹介した。
それらは、華美を好む大半の貴族には受けが悪かったが、日本華族の事が知れ渡り、
その、貴族としては質素な生活態度を見て、何か思う所が出来た諸侯からは、受けが良かった。

725 :YVH:2012/02/15(水) 19:11:14
この頃から、ランズベルク伯は「源氏物語」の翻訳・出版を開始する。
それらは、忽ち貴族女性陣の間で大ベストセラーになり、伯は帝国社交界で一躍、花形となった。

そんなある日、彼は懇意にしているブラウンシュヴァイク公から、彼の別邸のあるリップシュタットに招待される。
それは、伯の大ファンである公爵夫人と娘が、公にせっついて実現した物であった。
最初の話では、単なるお茶会程度の規模だったのが、公爵家のメイドたちから各家のメイドたちに話が伝わると
彼女たちから話を聞いた各家の者たちも騒ぎ始め、気がついた時には、公は大園遊会を開催する羽目になっていた。
後に彼は、義弟にあたるリッテンハイム侯に‘如何してこうなったのか・・・orz‘と、愚痴を零している。

この園遊会は日本の形式を取り入れ、彼らの感覚からは質素に感じたが、たいへん趣のある集まりとなった。
その事に気がついた貴族たちから、自分たちもニホンのカゾクに倣おうではないかと話が持ち上がり、ここに
盟約が生まれた。

こちの世に「リップシュタット盟約」と言われる物で、これまでの様な虚飾を排し、己を高め、より貴族らしく
且つ、平民の規範となる事が、銀河帝国貴族の勤めであるとし、それに向かう事こそが帝室への忠義であると
謳われた。
以後、盟約参加諸侯の領内で嘗ての日本の施政を参考にした改革が行なわれ、帝国は息を吹き返す事になる。

切欠となったランズベルク伯は諸侯から盟主にと望まれたが、器にあらず、と固辞し、
日本の文物の紹介者の位置に居続けた。

彼が勤めた唯一の公職は、後に皇太子となるエルウィン=ヨーゼフの師父役ぐらいであった。
後に皇帝に即位した彼は、師の事を尋ねられると‘・・・思い出させないでくれ・・・座禅は・・・座禅だけは・・‘
と言って、非常に恐れていたと言う。

そんなランズベルク伯であったが、これ以外、公職を務めることは無く、日本の文物の翻訳研究、
及び、冷泉流歌道の銀河帝国における師匠として過ごし、第四代皇帝の御世に老衰でその生涯を閉じる。



【あとがき】

ひゅうが氏とは別視点の伯を描いてみました。

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最終更新:2012年02月15日 20:16