142: 弥次郎 :2022/04/17(日) 23:35:45 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「フラグメント:ヘクセンズ」


  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 現地時間1942年10月 大西洋上 エネラン戦略要塞 第23屋外実験場


 エーリカ・レールツァーは、固定されていた。
 具体的に言うと、MPFという強化外骨格を装着し、そのMPFのハンガーに装着した状態で固定されているのだ。

(退屈だわ……)

 別に故障などではない。装着を行い、各部の微調整やチェックを行っているとのことだ。
ストライカーユニットを超えるごちゃごちゃとした機械が、美しく調和を持って装着されていったのは目を見開いて驚いたものだ。
ましてそのパワードスーツが、つまりMPFがウィッチの魔法行使を強化するものと聞いた時は素直に感嘆したものだ。
 だが、流石に10分も待たされていると暇になってくる。
 勿論、これがエーリカにとっては初めての運用試験であり実験ということもあって、慎重を期しているのはよくわかる。
こういう実験というものは危険がつきものと聞いているし、実際にそういうものがあると説明されたうえで、同意書を書いて参加したのだから。

(けど、機動した状態でも普通と違うのがわかるわね……)

 ストライカーユニットの特性も引継ぎ、ウィッチの負担を軽減させ、魔法の行使を補助する機構があると聞いていた。
そして、それはこうして待機状態である今でもわかるのだ。普段なら徐々に減っていく感覚のある魔力が全く減っていないのだ。

『レールツァー中尉、よろしいですか?』
「はい、なんでしょうか?」
『お待たせしましたが、各所のチェックが完了しました。
 システムの立ち上げを続行してください』
『了解しました。安全確認ご苦労様です』

 そして、エーリカはレクチャーの通りにサイコ・エミュレート・デバイスで操作を開始する。
 かぶっているヘルメットの内側に表示される画面を見て、考えると、それだけで操作できるというのは便利だ。
便利すぎて、ちょっと戸惑うところもあるけれど、ともあれ、訓練でやった通りにシステムの立ち上げを行っていく。

『各種チェック完了。オペレーションシステム「ラベンダー」、通常モードを起動しました。
 搭乗者パーソナリティーデータの読み込みを開始します』

 すると、コンピューターの案内音声がエーリカの耳に届けられる。
 同時に、画面上に膨大なチェックリストや処理のログが流れていき、やがて綺麗に収まる。
 そして、視界がクリーンとなり、目視とほとんど変わらないほどの高画素映像で眼前の光景が目に飛び込んでくる。
視界の中央はターゲットサイトがあり、視界の隅には自機の位置情報や風速や高度などの各種情報が表示されている。
エーリカが一つ意識するだけで、エーテルリアクターの稼働状況や武装のコンディション、あるいは広域レーダーが表示されていく。
 そして、事前に入力していたエーリカのパーソナルデータや設定などの読み込みが開始され、機体へと反映されていく。

『起動完了。メインシステム、通常モードで待機します。コマンド待機』
「こちらラプラス01、システム起動完了しました」
『こちらCP了解しました。
 エーテルリアクターの起動およびシステムの稼働状況問題なし。MPF-002YH、拘束解除します』
『ラプラス01了解』

 返事をし、少し身構える。
 すると、エーリカの纏うMPF-002YHの拘束が解除され、ふわりと虚空へと舞い上がる。
 高度は3m弱。主推進機関であるバックパックのエーテルスラスターユニットではなく、エーテルの特性による自然な上昇だ。
それ以上には上昇しないように抗重力機関が動作し、バランサーがあらぬ方向への飛行や「上方への落下」を抑制しているのがわかる。

143: 弥次郎 :2022/04/17(日) 23:36:20 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

『こちらCP。拘束解除完了。ラプラス01、何か異常はありますか?
「こちらラプラス01、今のところ問題ありません」
『CP了解』

 一先ずは無事に立ち上がり、基本動作が完了。
 ほぼ全身を覆うMPFは、その性質から立ち上がりまでのシステムチェックなどが複雑だ。
脚部だけを覆うストライカーユニットとは比較にならないほどの装備なのだから、ある種当然というべきか。
 そして、通信相手がCPのオペレーターから、この実験に自ら参加している魔女へと変わる。

『聞こえているかな、ラプラス01』
「こちらラプラス01、問題ありません」
『結構。私の子が元気に稼働してくれて何よりだ』

 そう、リーゼロッテである。
 今回はこの実験、固有魔法をアシストあるいは増強するシステムを組み込んだMPF-002YHの実技テストにリーゼロッテ自身が視察に訪れていた。
 理由としては二つ。
 一つは自らの製作したMPFの実験がうまくいくかどうか気になったため。
 もう一つは、危険度がそれなりに存在しているために、万が一に備えて即応できるようにするためだ。
 この手の実験などはシティシスでも行われていたことだ。綿密なシミュレーションを経たうえで行われるので、基本的にはトラブルは起きない。
かといって、絶対に起こらないというわけではないのである。殊更MPFは全身をほぼ覆うことから、一歩間違えば装着者が大怪我を容易く負うものだ。
下手をしなくても腕の一本や二本はなくなってもおかしくないし、高出力であるがゆえにコントロールを失って暴走もありうる。
各国から派遣されている貴重な戦力を実験に参加させる手前、備えはいくらあっても足りないということはないのである。

『ではブリーフィング通りにテストを開始する。準備はよろしいか?』
「いつでも構いません」

 言いながらも、エーリカはウィッチとして戦ってきた中で愛用してきたMG42機関銃を構える。
 すでに安全装置は解除され、弾倉もセットを完了しており、いつでも発砲可能な状態だ。
 ただ一つ違うのは、MG42を構える際に照準器を覗き込むのではなく、半ば腰だめに構えていることだ。
MPFのFCSと連動しているために、そうしなくともエーリカの目には照準があっているかどうか、あるいはどれだけ修正すればいいかの観測情報が映っているためだ。
空戦時には照準器を覗き込んで一々狙いを定めることも難しいこともあったので、この機能は正直いって助かる。
命中したかどうかまでもわかるのだから、ストライカーユニット装着時にもこれを標準化してほしいと思うくらいだ。
望遠機能などもあることに加え、射撃条件である風向きや気流などまで可視化してくれるし、いいことづくめであるのだし。

(……っと、いけない。集中しないと)
『では、第一段階。通常射撃を試す』
「了解」

 目の前のバイザーにカウントダウンが表示され、0になると同時に実験場のあちこちから標的ドローンが出現する。

「……ッ!」

 同時に、エーリカは引き金を引いた。
 MG42が吠え、弾丸が動き回るそれに向かって猛烈な勢いで距離を貪っていく。
 FCSと連動したアシスト機能により、狙う標的を目でとらえるだけで、身体が自然とそれを撃つのに適した姿勢に変更される。
最初は違和感を覚えたものだが、慣れてくるとだいぶ動きを補ってくれていることがわかるものだった。
まとまって動く標的には掃射を、孤立している相手には単射を撃ち込み、次々と撃墜判定を下していく。

「ラプラス01、リロード!」

 だが、弾も無制限ではない。銃身加熱を抑えながら撃っていくとはいえ、やがてはマガジンが空になる。
 すぐさま空のドラムマガジンを外し、次なるマガジンをMG42へとセット、リロードを完了させ、再び構える。
 視界の隅で、経過時間が刻々と刻まれていくが、あえてエーリカはそれを無視し、射撃を続行した。

145: 弥次郎 :2022/04/17(日) 23:36:59 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 やがて、150以上はあった全ての標的ドローンが沈黙する。
 視界の隅に表示される時計は5分と少々を表示している。動き回って回避する相手ならば、まあまあといったところか。
MPFによるFCSの補佐と射撃アシストがなければもっと時間がかかったことは容易に想像できる結果だ。命中率が高いのもそのおかげか。

『悪くない』
『こちらCP、ラプラス01、第二段階のテストを実施してください』
「了解」

 一つ息を入れ、エーリカは弾薬の補充を行ってから既定の位置に戻る。
 第二段階。つまり、第一段階の射撃と比較するための射撃実験だ。

『ラプラス01。ブリーフィングで伝えた通り、固有魔法の補助を行うエーテル・アクセラレータ・モジュールを稼働させてある。
 これを用いて射撃実験を実施せよ。魔法は無理のない範疇での使用で構わない。負荷が強すぎた場合、こちらからカットをかける』
「ラプラス01、了解」

 そう、固有魔法だ。
 このMPF-002YHの特徴が、ウィッチの行使する魔法のアシストを行う機構が組み込まれていることだ。
 あくまでも試験的なモノ、とは聞かされているが、それでも使えば大きく楽ができるというのは理解していることだ。
そして、それを使用して固有魔法を行使した場合と、無しで固有魔法を使った場合、そしてどちらもつかわない場合を比較し、データを比較するのだ。
どれほどの効果があり、また別途で観測しているウィッチの魔力の状態などがどのように変化するかを調べるため。
固有魔法を持つウィッチがMPFを使った時にどのような挙動となるかを調べる意味合いもあるとのことだ。

(よくわかっていないものを調べるためにアレコレとしたと聞いているけど、正直、気分が良いものではないわね)

 自分の体が隈なく調べられ、観測され、暴かれているというのは少し体がムズムズする話だ。
 医者に見せるようなものだ、と言われはしたが、エーリカとて年頃の少女。それなりに羞恥心というものを持っているのだから。

(まあ、そのデータが欲しいからこそこんな実験をしているのでしょうね)

 固有魔法の研究というのは、本国でも少なからず行われていたことだ。
 なぜ一部の魔女のみが使えるのか。なぜバラバラな力が目覚めるのか。どういう仕組みで魔法が行使されるのか。多くが謎のままだった。
ウィッチが現役でいられる期間が短いのでその制御と使いこなすことが優先されて、研究の余地が少ないことも影響している。

(ここで何か新しい気づきがあれば、後輩たちの役に立てるのかしらね……)
『では、始める。準備は?』
「いつでも構いません」

 そう考えつつも、CPからの声に応え、エーリカは意識を集中させる。
 エーリカの持つ魔法は自己加速。単純に飛行速度などを上昇させるのではなく、自己の動作を速くする、という少々ややこしいもの。

『3……2……1……スタート!』
「ッ!」

 開幕、いきなりだがエーリカは固有魔法を発動する。
 すると、世界がスローに見え始める。その中で自分だけが通常の速度で動いているのを感じる。
 だが、外から見ると、自分の動きが速くなるのだそうだ。自分と自分の体の延長にあるモノだけが、通常よりも速く動く。
同僚と拳銃の組み立て競争を行っていた際に偶然発現したそれは、十数秒ほどしか持続しないものだ。
 だが、その時間の間だけとはいえ、自分の動きが相手の何倍も速くなるというのは途方もない強みだった。
緊急回避、リロードの時間の短縮、複数目標への連続攻撃---応用が非常に聞いた。
 連射していくMG42の弾丸はおそらく通常のレートを遥かに超える速度で弾丸を吐き出していることだろう。
それを行いながらも、照準はFCSなどのアシストを受けながら、次々と標的に弾丸を叩きこもうとする。

(体が……楽……?それに……)

 エーリカは気が付く。加速がいつもよりも長く保持できている、と。
 カウンターはすでに1分近くまで進んでいるのに、まだいくらかの余裕を感じるのだ。
 そして、同時にリロード。ドラムマガジンを外し、次のマガジンを叩き込み、コッキングなどを済ませる。
通常ならばどうしても動きが鈍る瞬間を、エーリカはあっという間に終えてしまった。

(っ……もう限界……!)

 だが、そこまでやったところで、世界の動きが加速し始めるのを感じた。タイムリミットだ。
 そして、あっけなく世界の速度は元に戻る。同時に、元の速度に戻った弾丸たちが標的へと次々と命中する。

146: 弥次郎 :2022/04/17(日) 23:37:30 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

『ほう……』

 CPからの通信にリーゼロッテの感嘆する声が混じるが、エーリカは動きを止めない。

「続行します」

 まだターゲットはいる。
 標的ドローンが撃墜されても、まだ次の群れが飛び出してくるのだ。
 だが、固有魔法はしばらく使えない。体が熱を帯びたようになって、加速ができるようになるために時間が必要になるのだ。
機関砲を撃ち続けて、銃身が焼き付くようなもの、とエーリカは解釈していること。内からの熱に、思わず息がこぼれる。
 しかし、それでもエーリカの動きは止まらない。この程度は実戦で何度も超えてきたことだ。
この魔法が発現した当初は自己加速を行った後に全く動けなくなったものだが、繰り返す中で動きを鈍らせないようになった。
それから自分なりに試した結果、体の熱が引いてからならば、十分な時間再使用できることを把握している。
 だが、射撃を続行する中で、エーリカは気が付いた。体の熱が、いつもよりも早く抜けていくことに。

(なんだか、熱が逃がされているような……)

 ストライカーユニットを使っていた時には感じなかった感覚だ。
 まるで、自分の内側に冷たい水が注がれていき、熱を冷ましていくかのようである。

(まだ30秒しか経っていないのに……!?)

 だが、視界の隅に移るタイマーを見れば、固有魔法解除からなんと一分も経過していなかった。
 驚きだ。最低でも5分、余裕を見れば10分は熱が冷めるまで待たなければならないというのに、たった30秒でかなり冷えてきているのを感じる。
 固有魔法をアシストするとは聞かされていたのであるが、ここまで効果があるとは思いもよらなかった。
 驚きながらも、エーリカは残りのターゲットの数をカウントする。あと40と少し。ならば、いけるか。

(再加速……!)

 意識を集中させると、あっけないほど簡単に世界がまたスローになった。
 そして、エーリカは驚きながらも、残る標的めがけて、トリガーを引いた。
 全ターゲットが沈黙したのは、それから間もなくのことであった。

147: 弥次郎 :2022/04/17(日) 23:38:18 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • エネラン戦略要塞 第23屋外実験場 管制室


「素晴らしいな……」

 リーゼロッテは感嘆の声をあげていた。
 固有魔法をアシストする機構---エーテル・アクセラレータ・モジュールとそれに適合した魔導コンピューターはまだ試作の域。
各種機構もシティシスに参加していた固有魔法保持者を被験者としてテストと実験を重ねていたがまだまだ甘いという認識だった。
 だが、実際に使わせてみれば、この結果だ。第一段階より多い標的を、半分以下の時間でエーリカは撃墜して見せたのだ。
しかも、ストライカーユニットを装着して固有魔法を用いた時と比較すれば、固有魔法は2回も発動ができている。
自己申告によれば5分から10分ものクールタイムが必要だというのに、それもかなり短縮されているのだ。

「やはり、固有魔法の行使で発生する負荷を受け止め、ウィッチの肉体や魔力回路を保護したのは正解だった、ということだな」
「そのようです。レールツァー中尉の体内の魔力の循環状況からしても、有意に差が発生しております。
 興奮状態にあった循環回路が速やかに鎮静化され、落ち着きを取り戻している様子もモニタリングできました」
「加えて、固有魔法の発動時間もかなり伸びていますね。
 自己記録を大幅に更新する1分以上と、発動時間を倍以上としております」

 興奮を隠せないオペレーターたちにリーゼロッテは頷いだ。
 正直なところ、ここまでMPFと組み合わせることによる効果が出るとは思わなかったのだ。

「とはいえ、だ。今はともかくとして、MPFを解除した後にどうなるかはまだ予断を許さん。
 実験後の彼女の体調などのモニタリングも怠るな。あとは通常のケアもな」
「了解しました、大佐」
「レールツァー中尉での検証実験はここまででいい。引き上げさせて、デブリーフィングだ。私も直接報告を受けたいので参加する。
 データの処理と解析については追って私も加わるが、それまでは任せたぞ」
「は!」

 ティル・ナ・ノーグのトップの指示だから、という以上に、オペレーターや分析官たちはたった今取られたデータに興奮を隠せなかった。
ストライカーユニットを装着しての実験もこの面子で同じように行ったのだが、ここまで大きな差が発生することになるとは思わなかったのだ。
その手の人間にとってはまさしく垂涎のデータがとられたのだから仕方がないことかもしれない。

(まあ、ウィッチはウィッチでストライカーユニット、そしてジェットストライカーへ発展するものだが……)

 現在のところ宮藤博士も加わって進められているジェットストライカー計画に修正を入れてもいいかもしれない、とリーゼロッテは思う。
これほどまで効果があるとするならば、ジェットストライカーに似たような仕組みを取り込みウィッチのアシストをした方がいいのではと。
 とはいえ、それは現在出されている要求に新たな注文を付けることになる。下手をすれば、ジェットストライカーの開発遅延になりかねない。
それに、ウィッチの保護機能などはエーテルリアクターの潤沢なエーテル供給を前提としたものでもあるのだ。
ウィッチという生体バッテリーに依存しているストライカーユニットでどこまで再現できるか、そこが課題となりそうである。

(まだまだやるべきことは多くなりそうだな)

 心の中のToDoリストにタスクとして追加しながらも、リーゼロッテはデブリーフィングルームへと向かうのであった。

148: 弥次郎 :2022/04/17(日) 23:38:51 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。ほんの短編のはずが長くなってしまった。
ストパン世界主観1942年、ティル・ナ・ノーグ始動直後のお話となります。

せっかくなので有翼のフロイラインの方のエーリカに登場してもらいました。
次は……誰にしようかな(某デグレチャフさんの方を見ながら
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最終更新:2023年11月03日 10:49