333: ホワイトベアー :2022/04/12(火) 21:30:32 HOST:202-189-222-171.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
第14話 嵐の予兆

1937年9月 大日本帝国 東京 

「それでは現在までに判明したことを報告させていただきます」

帝国軍情報部と中央情報局から報告されたウラルでのオラーシャ軍主力の敗北と大規模なネウロイ群の存在は日本帝国政府を驚愕させた。それから時間をおかず、帝国政府は使用できるあらゆる手段をもちいて情報の収集を開始。その成果が今ここで報告されようとしていた。

「オラーシャ軍主力を攻撃したネウロイですが、どうやらその規模自体は先のシベリア中北部での会戦で我々が撃破したネウロイ群よりもその規模は小さいようです。ですが、問題は敵の構成です」

報告者がそう言い終わると会議室に整備されていた画面に1枚の航空写真が映される。

「おいおい」
「バカな早すぎる」
「洒落になってねえぞ」

会議室がざわめき立つ。その写真には1000を超えるであろう大量の戦闘機型ネウロイ、10体以上の戦略爆撃機型ネウロイ、そしてらの中心にピラミッドの様な大型のネウロイ、この場にいる人間なら知っている。原作でヤマと呼ばれた超大型ネウロイが映し出されていた。

「現在、我々が確認している敵の構成は、航空型が戦闘機型ネウロイは計測不能、先の会戦で3体確認されたコア持ちの戦略爆撃機型ネウロイが最低でも12体、原作のアホウドリが36体、そして、原作でヤマと呼ばれた超大型ネウロイが1体となっております」

その報告はオラーシャ軍主力の敗北以上の衝撃を参加者たちに与える。何せ原作では扶桑皇国のほぼすべての航空ウィッチと一個艦隊を投入してようやく倒せた化け物である。いくら原作よりウィッチの数、質ともに勝っていると言っても勝てる保障なんてどこにもない。
いや、東アジア方面に転換してくれればそれでもまだましだ。欧州方面にこのまま進まれようものならブリタニア連邦を含めて欧州全土が陥落する可能性すらある。

「現在のネウロイ群の行動は?」

宮様が報告担当官の方を向き口を開いた

「現在、ヤマと地上型ネウロイの集団はエカテリンブルグ周辺で停滞中です。ですが、戦略爆撃機型ネウロイが欧州方面のオラーシャ軍の基地やオラーシャ国内の交通インフラを片っ端から爆撃しており、すでにオラーシャ帝国は組織的抵抗能力を失いつつあります」

「ヤマと地上型ネウロイは動いてないのだな」

「はい。偵察衛星でそれは確認済みです」

ネウロイの行動は予測不可能な事が多い。それでもこの行動はいささか以上に変だ。少なくとも今、地上部隊とヤマも西進を開始したらオラーシャの欧州方面は完全に陥落するだろう。それなのに何故か動かなかった。

「欧州諸国の動きはどうなっているのですか?」

「カールスラントやスオムスなどオラーシャと国境を接している国家はすでに総動員体制へと移行を進めております。また、ガリアやブリタニア連邦でも軍の動員が開始されており、合わせて両国から国連安全保障理事会の緊急会合の開催を要請されています」

辻の質問に外務省から参加している白洲が応える。欧州ではウラル地方に居座るネウロイ群への対応として急ピッチで軍の動員を開始していた。特にカールスラントでは事実上のウィッチを対象とした徴兵すら開始しているほどであり、その危機感の強さが知れるだろう。
また、少しでも戦力を増やしたいブリタニアやガリアの思惑もあり、国際連盟軍の編成を求めた国連安全保障理事会の開催が要請されている。これも日本やリベリオン、扶桑も反対を表明していないことでこの安全保障理事会の開催もほぼ内定し、ニューヨークの国連本部でも人がせわしなく動き始めていた。

334: ホワイトベアー :2022/04/12(火) 21:31:03 HOST:202-189-222-171.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
「ようやくユーラシア戦線が安定したと思ったのにこれか」

「もっちゃんの魔眼抜きで解決できるのか」

「魔眼使いなら空軍航空魔導兵部隊にも何人かいるから何とかなる・・・はず」

「そもそもここまで世界観がずれているのに原作通りに行くわけがないだろJK」

「まだ開戦から2カ月しかたっていないんですよね・・・」

そう、いまだ開戦から二か月ちょっとしかたっていないのだ。それなのに人類側の被害と戦果は原作(※1)を超えてしまっており、さらなる敵が到来していた。

人類側が戦線を維持できているのは一重にEACO軍の戦力が原作を遥かに凌駕しているからであり、原作のように5千名の損失で防衛線の再構築を行わなければならなくなるような状態なら開戦から一瞬で大陸を喪失していただろう。そのレベルまでネウロイの脅威は原作より向上しており、人類は僅か二カ月で追い詰められつつあった

「愚痴を言っていてもしょうがないです。ひとまず対策を考えましょう。」

暗い雰囲気を打ち消すためか、辻はわざとらしくメガネをキランと輝かせてクイッと指で上げて直す。

「まず、原作のように水上打撃部隊で援護することはできません。・・・最悪の場合はできますが、それは扶桑皇国の陥落を意味しているのであまりやりたくないですね」

「戦艦部隊を出した理由はおとりとして小型ネウロイの数を減らすためだろ。なら、最悪は空対空ミサイルの飽和攻撃で数を減らすしかないんじゃないか」

「いや、先日開発が完了した対ネウロイ用対空榴散弾を巡航ミサイルの弾頭に搭載して発射するほうが効率的だし、安いのでは?」

「対ネウロイ用対空榴散弾?ああ、零で第二戦隊が発射したあれか。だが、航空機に詰めるのか?」

「問題ない。もともと、戦闘機や爆撃機に搭載して使用する事を前提に開発していたからな」

対ネウロイ用対空榴散弾、国防総省技術研究本部が対ネウロイ戦において密集したネウロイを安価に攻撃するために開発した対空榴散弾であり、大蔵省の官僚を中心にその効果に期待するものは多くいた。


「新兵器もいいが、根本的な問題として今の大陸の戦力で足りるのか?」

「地上兵力は扶桑皇国と中華帝国に任せて大丈夫だろうが、航空戦力の増強は不可欠だと判断している。有事の際には本土防空は第三世代機に任せ、保有している全ての第4世代機は大陸に派遣して対応をする予定だ」

「もしもの時は1000機以上のジェット戦闘機が投入されるわけか。そうなればギネスに同一戦闘で世界最大数のジェット機を投入した戦闘として記録されかねないな」

夢幻会は本気である。もし仮にネウロイが東進を開始するなら投入可能なものは全て、それこそ黄泉国型水爆だろうと、投入してでもネウロイを撃破し、日本本土の安寧を護るつもりだ。

335: ホワイトベアー :2022/04/12(火) 21:31:53 HOST:202-189-222-171.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
1937年12月 大日本帝国 東京 首相官邸

「超大型ネウロイが東進を開始したか」

「はい。このままだと一ヶ月程度で扶桑皇国国境に達するとのことです」

オラーシャ欧州方面を蹂躙していた大規模なネウロイ群はアジアを目指して東進を開始していた。

「欧州には攻めてくれなかったのは残念だよ」

「・・・今、欧州にあの規模のネウロイが攻めてきたら確実に欧州が陥落していましたよ」

副総理の言葉に陸軍参謀総長が返す。
この時の欧州はろくに軍備が整っていなかった。通常兵力こそ史実以上に強化されており、一見すると原作より強化されているようにも見える。しかし、対ネウロイ用軍備、特にストライカーユニットは宮藤理論に基づいたものが主力の東アジアと違い未だエンジン背負式が主力を務めているような状態なのだ。
日本軍を初めとしたEACO軍と殴り合う事を前提としたネウロイに勝てるわけもない

「それはそれで厄介だな」

「厄介どころの話ではないですよ。欧州を制圧して後顧の憂いをたったネウロイの大軍を退治するなんて考えたくない」

欧州を制圧したネウロイたちが東に物量をぶつけてくる。それは日本が懸念している最大の悪夢であった。いくら日本の工業力が優れているからと言っても、物量戦という面ではネウロイが圧倒的に有利である。もしそうなれば日本は大陸から叩き出されかねないのだ。

「それで軍はどのような作戦で迎撃をするつもりだ?」

榊首相は国防大臣ならびに三軍の長たちに確認をとる。

「現在立案された作戦計画では、第一に本土に待機している戦略爆撃機16個航空団、1,280機をフル動員して巡航ミサイルの弾頭を対ネウロイ用対空榴散弾に換装した特殊対空ロケット弾をもちいた先制攻撃を実施。その後中距離空対空誘導弾を満載した戦闘機部隊が敵ネウロイのさらなる漸減を実施します。二度の漸減攻撃で小型ネウロイの数を減らしたのちに、我が軍と扶桑皇国軍、中華帝国軍の連合航空ウィッチ隊2000名を投入して超大型ネウロイ《ヤマ》ならびに大型ネウロイ12体の撃退を図る予定です」

大蔵省の役人がおらず、軍の擁護者である政治家と軍人しかいないことをいいことに非情に大規模な作戦を語る。
この作戦が実行された場合の弾薬費は史実日本の海保の年間予算10年分をも完全に上回るだろう。

「2000名もの航空ウィッチを集結させる事が可能なのか?」

榊首相の盟友であり、彼の懐刀である瀧元官房長官が問う。

「嵐作戦で招集した部隊を再度招集するので問題ありません。」

実際、先のネウロイ東アジア侵攻においてネウロイの第一梯団への阻止攻撃を目的とした嵐作戦では、12000機の航空機とともに2000名の航空ウィッチが投入されている。
欧州やリベリオン合衆国では不可能に近い航空ウィッチの大規模投入であるが、米のおかげで人口が他の地域よりも圧倒的に多く、歴史的に魔力との親和性が高い民族が大半を占めるアジア太平洋地域では可能なのだ。

「地上兵力の投入は?」

「オラーシャ領へのEACO軍の展開は考えておりません。あくまでも航空兵力で決着をつけます。」

軍の決断の背景にはオラーシャ領のインフラの未整備さが大きく関わっていた。軍としては安定した補給線の確率が困難なシベリア地帯への出兵なんぞ御免被りたい。

「あくまでも航空攻撃に賭けるわけか・・・博打だな」

榊首相はそうつぶやく。実際に博打だ。しかもリスクのデカい大博打。原作と違い戦艦を使えないというのがデカすぎる。

「勝てばいいんですよ。それに、博打に負けても巻き返せるだけの余裕は残してあります。問題は無いでしょう」

作戦を国防大臣はそう返した。

世界各国がその動向に注目していたネウロイはしばらくウラルにとどまり続けたがオラーシャが大規模な軍事行動を取れなくなるまで痛めつけると、欧州などいつでも殺せるとでもいうように欧州を背に東進を開始した。この情報は直ちに日本を通してEACO諸国に知れ渡り、EACO軍総司令部を含めた全部隊は臨戦態勢へと移行、東アジアでは再び鉄風雷下が巻き起ころうとしていた。

336: ホワイトベアー :2022/04/12(火) 21:32:35 HOST:202-189-222-171.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
(※1)
原作での扶桑海事変を通しての人類の損害は死者8207名、戦傷者12051名。
当世界線ではエコンダ会戦(シベリアの夏燃えゆでの会戦)だけ、なおかつEACO軍に限定した死者・行方不明者は約8000名、戦傷者は約2万に達しており、オラーシャ軍の被害も合わせるとさらに数は増加する

337: ホワイトベアー :2022/04/12(火) 21:33:06 HOST:202-189-222-171.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
以上になります。
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最終更新:2022年04月19日 13:11