816: ホワイトベアー :2022/04/16(土) 10:30:48 HOST:157-14-179-9.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
Muv-Luv Alternative The Melancholy of Admirals 第4話

西暦1984年11月11日 ドイツ民主共和国 ロストリッタ県メクレンブルク湾上空

二ヶ月間の地獄のような機種転換訓練を終えた第666戦術機甲中隊は国連が主導し、西側諸国がその戦力を提供して行われる対BETA限定反攻作戦セイバー・ジャンクション1984に参加をするために基地転属命令が下され、ドイツ国家人民海軍最大の拠点であるメクレンブルク湾海軍基地に移動させられていた。
基地転換の目的はリィズの着任時についてきた東ドイツ外相、ハインツ・アクスマンにより説明されており、彼らに程よい緊張を与えている。

『しっかし、まさか私達が西側の一員として国連軍に参加することになるなんてね』

『あの革命のおかげで東西ドイツの融和や欧州連合、NATOへの加盟などが一気に進みましたからね。』

アネットの何気ない言葉にカティアが嬉々とした表情で答えるのが聞こえてくる。
何せ、彼女にとって現在の国際状況は彼女の望みである東西ドイツの協力とその防衛という方向に進んでいるのだから。

ヴィスマール基地に着任してから一夜あけると第666戦術機甲中隊は早朝から調整飛行を実施しており、
雷鳴にも似た轟音が、静寂が支配する冬のバルト海も降り注ぎ、メクレンブルク湾上空を10機のF-1EG カゲロウ・カスタムが楔形の編隊を組んで飛行していた。

メクレンブルク湾、そこはドイツ民主共和国人民海軍の泊地であり、今回彼ら第666戦術機中隊が目指していた場所である。

『ねぇ、あれ・・・』

アネットの驚いたような声が管制ユニットに響く。いつの間にか眼下に広がるメクレンブルク湾にはまるで鋼鉄で湾全体が埋まっているかのように大量の艦艇が停泊している。

『すごいですね!日本海軍の大和級に、アメリカ海軍のモンタナ級とアイオワ級!、イギリス海軍のライオン級!それにフランス海軍のアルザス級まで!』

網膜にカティアのウィンドウが開き、彼女の驚いたような声が通信により耳に入ってくる。

「戦艦だけじゃねぇ。戦術機母艦や戦術機揚陸艦も大量にありやがる。一体、西側の連中はどれだけ戦力を抱えていたんだ」

そう声に出てしまう。だが、それもしょうがないだろ。
何せテオドールの視界には文字通り海を埋め尽くさんとする海を埋め尽くさんとする大量の艦艇が写っていたのだ。
西側諸国の国力を話でしか聞いたことのない彼からしたら、一回の間引き作戦でこれだけの規模の戦力を集中投入できる光景に驚きを隠せないでいた。

817: ホワイトベアー :2022/04/16(土) 10:31:24 HOST:157-14-179-9.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
西暦1984年11月13日 バルト海
ドイツ国家人民海軍所属戦術機揚陸艦ペーネミュンデ

曇天の下に僅かばかり荒れるバルト海の洋上を海を埋め尽くさんとする大量の艦艇たちが東に進路をとり、強風と波により揺らされながら進んでいた。

「すごい光景ですね・・・」

戦術機揚陸艦ペーネミュンデ、スーパータンカーを改造した中隊規模の戦術機を遠距離に輸送する事を可能としている東ドイツ海軍が保有する数少ない戦術機揚陸艦であり、現在、第666戦術機甲中隊の根城となっている船の甲板上でカティアが感嘆するように洋上を進む艦隊を眺めていた。
彼女だけではない。非番だろうペーネミュンデの乗組員や中隊付きの整備員達も同様に甲板に佇んで洋上の艦隊を見ている。

「アメリカや日本、イギリスの海軍力は世界有数であるとは西ドイツにいた頃に教えられていましたけど、これだけの艦隊を出せるなんて・・・」

「そうだな・・・」

テオドールは心ここにあらずと言う有様で何気なく頷く。
まるで1つの国家が海上を移動するような光景は見る者の心を圧巻する光景であり、世界の半分が滅んだというのにこれだけの艦艇が残っていると言う事実は、今では自分たちもその一員となった西側諸国が、かつての盟友であるポーランドなどの東側諸国が地獄のような防衛戦を繰り広げていく中で以下にその国力を温存していたかと言う事実を示されているようで、複雑な思いがテオドールの心に渦巻いていた。

そんな事を考えていると戦術機が発しているだろう甲高いジェット音が艦尾から聞こえて来たのでそちらを向くと編隊を組んで飛行する見たこともない戦術機達が艦隊の合間を縫うように東へ飛行していく。

「カティア、あの戦術機は何なんだ?」

「あれは日本海軍の最新鋭機 F-6 秋雷ですね。アクティブステルスシステムを搭載して、M3Sに最適化された機体設計を有する最新鋭かつ世界最強の第三世代戦術機らしいです」

テオドールの質問にカティアは記憶を辿るように答える。
西ドイツから東ドイツに亡命してから未だに一年と経っていないはずだが、ポーランドでの激しい戦いや国家保安省との暗闘などで西ドイツでの日々は遥か昔のように感じてしまう。

「・・・随分と贅沢な」

テオドールは本来対BETA戦に不必要な装備を有する日本軍機に驚愕を通り越して呆れすら見せていた。
彼らに配備された第二世代戦術機であるF-1EGはそれ以前に登場していたMig-21とは比べ物にならないほどの高性能機であった。その事実はポーランド戦線で死闘を繰り広げてきたテオドールにとっては衝撃的な事実であり、それを超える高性能機であろう第三世代戦術機が持つであろう性能など想像すら及ばなかった。

周りのから生暖かい目で見られている事を知らずにそんなふうにカティアとテオドールがイチャイチャしていると、背後からテオドールの愛妹の苦しそうな声が聞こえてくる。

「お、お兄ちゃん・・・ヘルプミー」

「リィズ?・・・どうした!?」

振り向いた直前、顔を真っ青にしてふらつきながら近づいてくるリィズにカティアと一緒に慌てて駆け寄る。

「リィズ、どうしたんだ?!顔が真青だぞ!?」
「リィズさん!大丈夫ですか?!」

確かに革命によって表向きは政治将校や国家保安省は解体された。しかし、いやそれだからこそかつてこうした立場にいた人々に対しての差別やリンチなどが一部で横行している。
もしやリィズも・・・という考えが脳裏をかすめる

「ううぅ、実は・・・」
「実は・・・?」
「酔った・・・船酔いしちゃった・・・」

リィズの答えにより場に一瞬の空白が生まれる。

「え!?酔った!?衛士なのに船酔いしたんですか? 」

しばしの沈黙のあと、再起動を果たした"あの"カティアが信じられないものを見るかのような目でリィズを見ていた。まあ、それも当然だろう。酔いを克服することは衛士になるために必要最低限の資格である。

「戦術機の酔いは全然大丈夫なんだけど、船の酔いはどうしても駄目なんだよね・・・」

リィズは額に脂汗を浮かた顔に、苦笑いをしながらそう呟く。

「お兄ちゃん、助けて・・・このままだと私、ヒロインからゲロインになっちゃう・・・」

よくわからない事を言いながらリィズがテオドールの胸にもたれ掛かった。

「ったく、ほら、医療室に酔い止めを貰いに行くぞ。カティア、すまないがこいつを医療室に連れて行くのを手伝ってくれ。」

「はっ、はい!」

テオドールはこの手間のかかる妹を医務室に運ぶ為に、カティアと共に甲板から船内に戻るのであった。

818: ホワイトベアー :2022/04/16(土) 10:31:59 HOST:157-14-179-9.tokyo.fdn.vectant.ne.jp

数時間後、ドイツ国家人民海軍所属ベーネミュンデ

ベーネミュンデはドイツ国家人民海軍という沿岸海軍が保有しているといっても遠隔地に戦術機甲戦力を投射するための艦艇であり、基地ほどの広さはないものの一定の広さを有するブリーフィングルームも存在している。
そして、現在、セイバージャンクションの作戦をブリーフィングを受けるために第666戦術機甲中隊の衛士達が集められていた。その中にはリィズも顔を真っ青にして手にポリ袋を用意した状態で参加することになる。
なお、彼女は換気扇が一番近い席に座らされ隣にはテオドールがつくことになった。

セイバージャンクション1984はカリーニングラード一帯を制圧し、そこを拠点にBETAの漸減を図るといった内容である。
参加兵力は第一段階の強襲上陸作戦およびカリーニングラードの制圧で3個水陸両用戦士団、2個戦術機甲師団、4個戦術機甲連隊が投入され、第2段階にはさらにゴットランド島に待機している6個戦術機甲師団が後続として駆けつけることになっている。

(参加戦術機数は1200機オーバー!?東ドイツの2倍近い戦術機じゃねぇか!限定反抗作戦でこれだけの規模の部隊を動員できるとは・・・本当に西側の連中はどれだけの戦力を抱え込んでいたんだ)

ゼェハァゼェハァと息を荒らげているリィズの背中をさすってやりながらテオドールは余りの大戦力に唾を呑む。

(これだけの大戦力を投入した作戦なのに東ドイツで参加しているのはカティアとリィズ、そして俺が隊員である第666戦術機甲中隊だけ・・・)

テオドールは比較的国力の豊富な自国が自分らの中隊のみを派遣した事を疑問に思わざるをえなかった。何せ東欧派遣兵団での損害こそあれどポーランドが盾となっている為に東ドイツ本土と軍主力は無傷で残っている。なのに自分たちだけが派遣された事実は政治に疎い彼をして政治的な何かを感じさせていた。
そして、テオドールの想像は当たってい。た。表向きには国家人民軍の再編成の為に大規模の兵力を提供できないとされているが、その実はポーランドの陥落を警戒して軍主力をポーランド国境から動かしたくない東ドイツと、東ドイツの防衛力低下を嫌う西側諸国の妥協の結果、東ドイツ臨時政府大統領アルフレート・シュトラハヴィッツの娘と東ドイツ臨時政府外務大臣であるハインツ・アクスマンの義理の息子と娘が所属する第666戦術機甲中隊を派遣する事で西側諸国への意思を表明する事になったのだ。
そうした政治的理由もあり、あくまでも彼らがこの作戦に参加したという事実だけが大切で、実際に彼らに死なれると問題だという事もあって今作戦における彼ら第666戦術機甲中隊の役割は戦略予備という名の後方待機が命じられる事になる。

819: ホワイトベアー :2022/04/16(土) 10:33:04 HOST:157-14-179-9.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
以上になります。
久しぶりのMuv-Luv Alternative The Melancholy of Admiralsネタですが、ようやく投稿することができました。
wikiへの転載はOKです

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最終更新:2022年04月19日 13:16