376: 弥次郎 :2022/04/19(火) 19:45:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「流星の夜に」2


  • 星暦恒星系 第3惑星 地上 サンマグノリア共和国「グラン・ミュール」内 第11区 サンマグノリア共和国国立天文台


 グラン・ミュールに囲まれた85の行政区のうちの一つ、11区に存在するサンマグノリア共和国の国立天文台は、ここ数週間蜂の巣をつついたような騒ぎが続いていた。
 何のことはない、何気なしに観測を行っていた天体望遠鏡が、衛星軌道上に巨大な物体を確認したのだった。
観測結果によれば、大きさは最低でも全長10㎞から30㎞程。少々いびつな形をした、まるで茸のような形状をしている物体。
ここ最近の観測記録によれば、その存在は確認されていなかったのだが、ほんの数週間前にいきなり発見されたのだった。
この時点で職員や研究員たちの多くがひっくり返ることになってしまった。

 そして、さらに驚くべきことに、それは惑星の軌道上において安定していることが観測されたのだ。
 それも、おおむねサンマグノリア共和国の上空で対地同期軌道に乗っているというのだから驚きである。
 仮にこの惑星に接近してきた飛来物であるならば、月面にひかれてそちらに落ちるか、あるいはスイングバイの要領で起動を変えてくことが考えられる。
あるいは、地球の重力に捕らわれてしまい、そのまま落下してくるということも十分にあり得る話であった。
 だが、問題の衛星はなんと軌道上で安定している。重力にひかれて落ちることも、反対に飛んで行ってしまうこともしないままに、だ。
 とるものとりあえず人員を集めた天文台は、正確な測距や測量を開始した。
 大きさ、その形状、あるいは何を以て安定した機動のままに対地同期軌道に乗ることができたのかを分析するために。

 そして、光学写真が撮影され、それが拡大されて表示された時、天文台の職員たちは再びひっくり返った。
無理もない話だ。その写真に写っている巨大な物体は、どう考えても人工物だったのである。
これに気が付いて興奮が過ぎた職員の一人は何やら訳の分からないことを叫んだ後にぶっ倒れた。オーバーヒートしたようだ。

 ともあれ、外見を分析してみる。
 何らかの衛星を加工しと思われる母体。そこに明らかに人為的に構築された建造物。
一定間隔で配置され点滅する光。あるいは太陽光を取り込むためと思われるガラスの筒のような構造物も確認された。
 さらには、その構造物の周囲にはさらに人工物が存在していた。それはまるで船。そう、未だ空想の域を出ない航宙船が存在していたのだ。
それが一隻や二隻ではなく、その巨大人工物の周辺に100を超える数存在していることが確認され、職員数名が興奮のあまり鼻血を噴いた。
この職員達はとりあえずティッシュを鼻に突っ込むことで対処とした。
この時点ですでに過半数が脱落していたが、彼らは使命に燃えていて、ハイになったまま分析を続行した。

 他に判明したことは、何らかの推進機関と推測される場所が存在したことだ。
 ギアーデ帝国が宣戦布告し、レギオンが阻電子攪乱型を運用するようになって以来まともに飛ばせていないロケットのそれを、何百倍にもしたようなそれ。
それから考えられることはただ一つ。この物体は、全長が10㎞以上はあるこの人工物は、明らかに宇宙空間を移動してきたということだった。
大質量であろうそれを宇宙空間で動かすためならば、確かに推進機関は必要だろう。それも途方もない出力と大きさのものが。
それらを考え出した人工衛星の専門家たちがノックダウンされ、いよいよ天文台の生き残りは少なくなってきた。

 そんな状況になって、ようやく冷静さを取り戻した彼らは、一つの疑問に突き当たった。
 一体どこの誰が、こんな建造物を作り出したのだ?と。
 前述の通り、ギアーデ帝国との開戦以来宇宙への衛星打ち上げというのはとんと途絶えてしまった。
阻電子攪乱型の展開や通信網の遮断が行われたことにより、打ち上げた衛星とのコンタクトさえ限定されているのだ。
まして人工物を打ち上げるというのは、極めて難易度が高いものとなってしまっている。

377: 弥次郎 :2022/04/19(火) 19:46:04 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 それはレギオンとの戦闘にリソースの多くを費やすことになったことも影響しているだろうことは確か。
序盤戦で正規軍は非常に大きな被害を受け、常備されていた戦力は瞬く間にレギオンに呑み込まれた。
そこから、サンマグノリア共和国はその総力を挙げて戦いを続けてきたのだ。他国との連絡も途絶え、ただ一か国で孤独に。
他国も、近隣の国々も同じような情勢であるということは想像だに難くないことである。

 真っ先に候補として挙げられたのはギアーデ帝国だった。
 彼らが生み出し、運用するレギオンなのだから、彼らだけの抜け穴などもあるだろう。
 しかし、とそれはそれで疑問が残る。無人機であり自律行動を行うレギオンを用いているとはいえ、戦争中の国家にそんなものを建造することができるか?と。
そもそも、衛星軌道上にこのような建造物が確認されたのはほんの数週間前の話だ。
発見されて常時観測が決定されてからはもちろん、それまでにその建造物を建造するだけの動きなどは見受けられていなかったのは事実。
過去の記録を調べ直しても、その衛星軌道上に該当するような物体が存在しないことは確認済みだ。
そもそもそんな宇宙での人工物の建造などをするならば、そのリソースを戦争に注ぐだろうというのが、素人ながらの考えであった。
それに、あれほどの構造物を地上からの観測から逃れさせる方法も不明なことであるし、隠していたならばなぜ姿をさらしたのかということになる。

 では他国---サンマグノリア共和国の周辺国で同じく宣戦布告を受けたロア=グレキア連合王国、ヴァルト盟約同盟か?。
あるいは、その外側---東方や西方の国々なのか?それらの勢力が打ち上げたか、宇宙で開発したのであろうか?
 それに対する答えはなかった。問いかけようにも、国際的な通信ケーブルは開戦後にすぐに切断され、あるいはほかの通信手段も妨害されている。
何かしらの分かりやすい標識を---例えば国旗などを掲げてくれていれば、まだどこの勢力の物かは分析できたかもしれない。
 だが、今のところ判断材料となりうるものには未だたどり着けていないのが実情。

 これらが判明した時点で、国立天文台は共和国政府および軍へと異例の報告を送ることとなったのだ。
 巨大な人工物が共和国の上空---対地同期軌道上に存在すること。
 それを建造した勢力に考えられる国や集団が存在しないこと。
 そして、これが観測されている恒星系の外側から現れたかもしれない---こちらは半ば憶測だったが---ということを。

 当然のこと、政府も軍も当初はこの報告を一笑に付した。何の冗談でこんな報告を持ってきたのだと。
 確かに発見かもしれないが、戦争が続いており余力がなく、どうにもならないのにどうしろというのだと、そう返答したのだ。

 だが、そういわれても天文台側は譲りはしない。
 観測を続けた結果、この衛星と思しき人工物の周辺では船の動きが活発に行われているだということを。
 そして、明らかに何らかの意図を持った物体が大気圏を突破して地表に降下していることも報告した。
明らかに普通の流星などではない、燃え尽きずに地表に降り立っているのだ。それもかなりの数の物体が。
推測かもしれないが、何らかの情報収集などを行っている可能性があるとも。これがもし帝国やレギオンの新たな動きならば、備えねば何かある。
最後はもはや脅しと憶測を重ねたものだったが、とりあえずそれで政府や軍は報告に一応目を通すこととなった。

 さりとて、報告を受けた彼らに何かできることがあったわけでも、やる気があったわけでもない。
 ただ怠惰にそれを聞き流すだけにとどめたのだ。
 それは、天文台の声とは裏腹に、その日が訪れるまで続くこととなったのである。
 そう、運命の日を。後に「流星の夜」と呼ばれる日を。

378: 弥次郎 :2022/04/19(火) 19:47:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • 星暦恒星系 第3惑星 大気圏内 成層圏 地球連合軍星暦恒星系派遣群 星暦惑星地上方面軍所属 ネェル・アーガマ級ネェル・ユーロン


 漆黒の坩堝。
 嘆きの竜巻。
 あるいは、逃れられず、閉じ込められた魂たちの声。
 それは、重力の井戸の底へ落ちていく以上の、とてつもない嫌悪感を感じるものだった。

「っ……」

 思わず吐き気を催し、必死にそれを抑え込む。
 大気圏突入後成層圏で安定飛行に移った艦内では、各所のチェックが行われ、乗員の点呼などが行われているのが聞こえる。

(想像以上だな……レギオンの声は)

 大洋連合から派遣されてきた強化人間の分類にあたる設楽英治は思わず胸中でつぶやいた。
 夢幻会からの派遣人員でもある彼は、観測されている世界が86に登場する世界との予測から、現地における情報収集や行動を行うように指示されここにいる。
 本隊---この星暦恒星系における防衛を担う部隊ではないこちらに回されたのも、原作のあれこれに冷静に対応する人物が必要と判断されたためだ。
殊更、自分は「黒羊」や「羊飼い」の実地調査を任されている立場でもある。
原作において主人公がその能力で聞き取ったり位置を感じ取る能力を持っていたが、要するにそれはNT能力などに通じるのではないか、という予測だ。
実際、人間から回収された脳みそを基に制御系を作られているレギオンはその思念や意思が強く残るのだという。
 だからこそ、NTに近い強化人間を派遣し、それについて確かめる必要があると判断され、派遣された。

(予想はドンピシャで当たったわけだ……)

 感じるのだ。
 重力の井戸の底の地上。
 そこにはびこっているレギオンの勢力圏の方角から、声なき声が上がっているのを。
 それは膨大な数だ。カウントしようとするだけでも途中で中断したくなるような、そんな数と怨嗟の声。
 こうして大気圏内に入った段階でここまではっきりわかるというあたり、非常に強力な「声」と言えるだろう。
 何しろ死の間際の声や思念だ。ガンダムでもその声や力はとてつもなく強いものとして描写されていた。
それをここまでの数まとまって一気に聞かされると、歴戦である英治でさえも流石に気分が悪くなる。
戦場とは別なベクトルで、人の意思や思念がいっぱいで、尚且つ負の感情ばかりだからなおのこと。

「大丈夫ですか、英治」
「……気分は最悪だな」
「やはり、レギオンの……」
「ああ、羊飼いに黒羊だ」

 隣にいる安藤カイはごく一般的な兵士だ。同時に英治と同じく夢幻会のメンバーの一人でもある。
特にNTやイノベイターという素養を持たない、ごく普通の兵士である彼は、特に違和感などを感じてはいないようだった。
 だが、原作の知識とガンダムに登場した能力者たちのことを知っていれば、今英治が感じ取っているのが何かはわかる。

「他のNTやイノベイターたちが心配になってくるな…」
「まったくです。まだ成層圏内らしいですが、そこでここまで影響が出たのですから」

 この高度でさえこれだ。
 なら、高度の差がない地上ではどれほど「声」が届くことか、考えたくもない。

「保護具の着用、しといたほうがいいですよ」
「ああ。そうするよ……」

 とりあえず、能力を意図的に制限する保護具を引っ張り出し、着用することにしたのだった。
 睡眠時や集中したいときにつける、とびっきり強力なもの。それを英治は頭へと装着する。
 しかし、すぐに顔をしかめた。

「どうした?」

 カイの問いかけに、英治はしかめたまま、絞り出すように答える。

「まだ響いてる。残響がしつこい。まるで水が耳の中に入ったみたいだ」

 果たして、その感想は正しい。惑星内に入った直後から、地上派遣艦隊に属するNT達の多くが不調を訴え、自ら遮断することを強いられていたのだから。
その報告は、早くも地上派遣艦隊の全体に嫌な予感をよぎらせるには、十分すぎるほどの効果が存在していたのだった。

379: 弥次郎 :2022/04/19(火) 19:47:40 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
軌道上でソレスタルビーイング号クラスの物体が見えたらさすがに気が付くよね、ということで。
あと2話くらいでプロローグは終わらせようかなと思っておりますので、悪しからず。

383: 弥次郎 :2022/04/19(火) 20:10:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
誤字修正をお願いします
377
×そう、運命の被を。後に「流星の夜」と呼ばれる日を。
〇そう、運命の日を。後に「流星の夜」と呼ばれる日を。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • アポカリプス
  • 星暦恒星戦役編
最終更新:2023年07月09日 21:21