557: 弥次郎 :2022/04/20(水) 19:25:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「奏でられるレクイエム」



  • C.E.世界主観C.E.77 地球 ユーラシア連邦 欧州圏 某所


 ウルティマ・トゥーレ。
 それはリーゼロッテ・ヴェルクマイスターの創設した魔術組織。
欧州におけるリーゼロッテの活動のバックアップを行うための組織。
いずれは世界を動乱に巻き込むため、あらゆる勢力と協力関係にあり、裏の社会に網を張り巡らせた組織。
 だが、それは十字教との対抗組織とみなされ、予想以上の勢力となり、またリーゼロッテ自身が改心したこともあり、裏社会を支える巨大組織にまで成長した。
取り込んだ組織は多岐にわたる。土着信仰やキリスト教に迫害された異端の派閥、あるいは民間術者。
時代を経て擦り切れていくはずだった弱小勢力をまとめて取り込み、それらを体系化し、記録し、生かしてきた。

 そんなウルティマ・トゥーレはC.E.を迎えても非常に有力な組織であった。
 表向きには存在しないことになっていても、姿かたちを変え、表の世界と関わり、影に日向に動いてきた。
 そして、そんなウルティマ・トゥーレの表側の拠点---異空間に設置されている本拠地とは違う、現実世界に設けられた拠点では多くの人の動きがあった。
数百名を超えるスタッフ、そして十数機に及ぶ輸送機、そしてそれらを準備する地上要員や整備要員などなど。
どれもが表向きは別な籍や所属を持ち、しかしながらも、実際は全く違う、裏の組織であるウルティマ・トゥーレに属する戦力だ。

 そして、その輸送機群は、いよいよを以て出発を迎えようとしていた。
 ウルティマ・トゥーレの抱える戦力は多岐にわたって入るが、流石に今回のオーダー---他恒星系への出張は表の戦力に頼るしかないのだった。
 そんな輸送機の中で、ブレンヒルト・シルトは大きくため息をついていた。

「どうしたんだい、ブレンヒルト」

 そんな主人の様子に、傍らで髭の手入れをしていた猫は口をきいた。
 なんということもない、ブレンヒルトが死んでいた猫を基に生み出した使い魔だ。
 人並み以上の知性と知識を持ち、生意気な口を聞くこともあるモノ。傍目にはそう見えなくとも、尋常な世界の住人ではないのだ。

「あのね、一人静かにしていたいのだから黙っていてくれないかしら?」
「そんなにピリピリ張りつめている状態を放置はできないさ」

 指摘され、しかし、ブレンヒルトは言葉を無視する。
 ピリピリしている自覚はある。実際、これほどのことになるとは思わなかったためだ。
 今回の星暦恒星系への出張にあたり、彼女は上司の上司であるリーゼロッテからの指名を受け、麾下の部隊を率いて出発することになったのだ。
 彼女の麾下の部隊、すなわち、「レークイヴェム・オーケスタ」。
 その名の通り、鎮魂を主とする、魔術的な鎮圧部隊。対亡霊のエリートを揃えた特化型の集団である。
 通常ならば数名程度でも一つの地域の鎮魂などをこなし、地脈や空間を正常化できる人員を、ほぼフル動員。
しかも、大規模の浄化や鎮魂を行うための設備も投入しろという注文までついていたのだ。
ただでさえ表の世界が忙しい中でそんな急に戦力をかき集めて他の恒星系に行けとは、流石に戸惑うものでもある。
 まして、彼女の麾下の部隊以外にも、ワルキューレの伝承を引き継いだ「ヴァルキュリア・ファイルズ」までも動員されているという状態。
ブレンヒルトをして、これは尋常ではない事態が発生しているということがわかるものであった。

「……そうね、貴方には今回の仕事場については話していないかったわね」
「僕は何度か聞いていたよ?」
「やかましいから聞き流していたわ、私は悪くない」
「ひどい!これでも僕は君の使い魔としてぶぇっへ!?」

558: 弥次郎 :2022/04/20(水) 19:25:42 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 抗議の声をあげた猫だが、ブレンヒルトの足の一振りで吹っ飛ばされてしまった。
 だが、猫もさるもの。空中で姿勢を整えると、優雅に着地して見せた。

「で、聞きたいの?聞きたくないの?」
「勿論聞くさ」

 ブレンヒルトは再びため息。
 傍らに置いていた、今回の仕事に関する資料を引っ張り出す。
 それを読み上げようとして、ブレンヒルトは釘をさしておくことを忘れない。

「言っておくけど…」
「その資料はS級機密に指定されている。だから存在していないことになっている。
 だから僕は何も聞いていないし知らないことになる。そうだろう?」
「……可愛くないわね」

 だが、それは事実だ。
 この手の裏の事情は表には決して出してはならない。存在しないことになっているのであり、国家の黙認の元動く。
 いや、そもそも命令はなかったのだから問題はないのだ。この相反する二つの状態は、両立しうることでもある。

「目的地はこの太陽系から○○光年離れた86号恒星系---通称を星暦恒星系。
 この恒星系は太陽系に非常に酷似しており、ハビタブルゾーンの惑星も地球に酷似し、文明までほぼ同じという状態よ。
 そして、この内欧州圏における戦場の鎮魂と除霊などを実行せよ、ということになっているわ」
「へぇ。で、その戦場はそんなに人が死んだのかい?」
「ええ。最大の元凶たるサンマグノリア共和国の周辺だけでも最低でも百万は死んでいるわ。
 その国では弔いも死体の回収も禁じられているらしく、戦場にこびりついているそうよ」
「……は?」
「耳がいかれたのかしら……?」

 己の耳に伸びるブレンヒルトの手を躱し、猫はその言葉を信じられないと首を振った。
 だが、現実は何一つ変わらない。

「各戦線では……無人機の集団に対して有人機で対抗しているのが確認されている。
 けれど、サンマグノリア共和国の場合は違う。『有人』であり同時に『無人』機を投入することで、これを食い止めているの」
「ど、どういう……まさか……!」
「私たちには、ある意味なじみ深いものね。人でないと定義したならば、それは人が乗っていない兵器になる。
 過去に私たちを迫害した十字教と同じ理屈よ」
「……だから、それが死んでも死人とはカウントしない。だから鎮魂も弔いも何一つしない。
 酷いものだね。それは何年続いているんだい?」
「もう8年よ。差別を受ける人間たちだけが放り込まれ、『人でなし』として死んでいく。
 もう酷い状態でね。NTやイノベイターたち感応性に高い人たちは死者の声に飲まれそうになるくらいだそうだわ」

 ブレンヒルトは、再びため息をつく。
 不機嫌な理由は、急なフル動員だけではない。そんなことをしでかしている国に対して、言いようのない怒りを覚えたためだ。
それを抑え込むために、いったいどれほどの時間を要したのかは、考えたくもない話だ。

559: 弥次郎 :2022/04/20(水) 19:26:49 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

「ともあれ、事情は分かったよ。
 それなら、こんなにも大規模な動員を行うのも納得だ」
「ええ。サンマグノリア共和国の存在するのは、こちらの地球でいうところの欧州圏。
 土地柄や文化的なバックグラウンドも似通っているから、私たちのような欧州に出自を持つ鎮魂や除霊が効きやすい、というわけ」

 それに、とブレンヒルトは付け加える。

「死ねないで、敵対勢力に魂ごと捕らわれている人もいるみたいだしね…」
「死ねないで?」
「肉体は魂の器であり、入れ物である。
 諸説あるけれど、人の思念は脳から発せられる。これくらいは知っているわよね?」
「そうだね」
「敵対勢力---レギオンとかいう、無人機の群れは、人の脳みそを使うんですって。そうなるとどうなるかしら?」

 語るに及ばず。
 それは死にながらも生き、生きながらも死んでいる状態。この世にとどまり、されどもあの世に行けない状態。
 決して終わることのない永遠の苦痛だ。閉じ込められた思念は、やがては擦り切れてしまうであろう。

「ひどいもんだね。レギオン、というのも出来すぎだ」
「ええ。我が名はレギオン、我々は大勢であるがゆえに。
 人の手を完全に離れ、自立行動し、自律生産し、自律戦闘を行い、自らを改良する知恵までつけている。
 そして人の魂まで巻き込んで増えていく亡霊の群れ---作った人間は、一体何を考えていたんだか」
「名前に引っ張られたのかな?」
「はン。手にした力に溺れた。それだけのことでしょう」

 辛辣にブレンヒルトは断じた。

「まあ、現地の人間が抗っているのは確かなこと。けれど、そんなことは当然だわ。
 私たちが介入しなかったら助からない程度なら、それまでということよ」
「弱肉強食だねぇ」
「少なからず世界とはそういうものよ---と」

 そこまで言ったとき、ブレンヒルトは不意に立ち上がり、荷物の傍に向かう。
 そこには、厳重に封がされている物品があった。個人に携行が許されている武装の中でも、高いランクのモノが収められている。

「……言葉に誘われて、興奮しているのかしら?」
「それ、本当に大丈夫なのかい?」
「失礼ね、ちゃんとしつけてあるわよ。この『鎮魂の曲刃(レークイヴェム・ゼンゼ)』は」

 厳重な封がされていても、これから向かう先で自分の出番があると理解しているのか、興奮を隠せていないようだ。
ブレンヒルトはそこにアルジズのルーンを刻み、いったん落ち着かせる。話し声にも反応するとは、中々油断ならない。
まあ、これでも携行できる冥界の一つであり霊魂への特攻武装なのだから、その力は推して図るべし、といったところか。

「あと少しで出発ね」

 大人しくなった鎮魂の曲刃のケースを再度動かないように固定し、時計を見やったブレンヒルトはつぶやく。
 あと数時間後には宇宙への出発口である陸港に到着し、そこからは航宙船に乗り換え、ワープだ。
 実質、数日と経たないうちに現地に到着することになるだろう。そこからは、フルでの勤務だ。
 凄惨な戦場など、いくつも見てきた。だが、今回は性質が悪すぎる。思わぬトラブルがあるかもしれない。
それを予感し、ブレンヒルトは知らずに緊張を高めていったのであった。


561: 弥次郎 :2022/04/20(水) 19:29:35 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
というわけで、終わりのクロニクルよりブレンヒルト・シルトさんでした。
欧州系で鎮魂ときたら彼女だよなぁと…
どいつが一番いい空気吸っているんだろうか。


以下、簡易人物紹介!


ブレンヒルト・シルト
 北欧系に出自を持つ魔女。
 年齢は外海は20歳くらいに見えるが本当の年齢は【秘匿事項】歳。
 概念武装である鎮魂の曲刃の使い手であり、ルーン文字をはじめとした文字を媒介とした魔術に優れる。
 憂鬱SRW時空ではウルティマ・トゥーレに属する。つまりリーゼロッテさんの部下の部下の(中略)の部下。



 ブレンヒルト・シルトの使い魔。
 同僚として鳥がいる。
 話し相手であり、使い魔であり、時にはブレンヒルトがメインウェポンとしたりシールドにしたりするが関係は良好。


鎮魂の曲刃
 概念武装。元ネタは終わりのクロニクルの武装。
 わかりやすく言えば鎌の形をした冥界。

566: 弥次郎 :2022/04/20(水) 19:53:22 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
文章ミスがあったので修正お願いします
558

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「……だから、それが死んでも死人とはカウントしない。だから鎮魂も弔いも何一つしない」
「何年続いているんだい?」


「……だから、それが死んでも死人とはカウントしない。だから鎮魂も弔いも何一つしない。
 酷いものだね。それは何年続いているんだい?」
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最終更新:2023年07月09日 21:24