766: 弥次郎 :2022/04/21(木) 17:50:19 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」
一斉に大気圏に突入し、既定の高度まで降下した地球連合軍星暦恒星派遣外交艦隊は、さっそくの歓迎を受けた。
後に名称が判明したが、警戒管制型により補足され、阻電攪乱型に妨害を受け、とどめに対空自走砲型により攻撃をぶち込まれたのだ。
そも、この星暦惑星自体がかなりのケスラーシンドロームにより宇宙と地表とが分断されていた。
また、明らかに人為的でない人工衛星の存在もあり、連合の手によって回収され、それが対地攻撃衛星と判明してもいたのだ。
これらはおそらく人類に敵対的な機械勢力によるものと想定されていた。
そんなことがあったわけで、艦隊は十分な防御と対処を実施することができた。
警戒管制型と阻電攪乱型は撃墜され、対空自走砲型は的確な反撃で沈黙させられた。
ならば上から、とばかりに対地攻撃衛星たる衛星砲弾からの攻撃まで来たが、その程度は地球連合からすれば既知の範囲に収まるものであった。
ともあれ、そんなレギオンからの歓迎を潜り抜けて、各艦隊はそれぞれ担当する国家へと進路をとったのである。
即ち、サンマグノリア共和国、ギアーデ連邦、ロア=グレキア連合王国、ヴァルト盟約同盟、レグキード征海船団国群、ノイリャナルセ聖教国などへと。
道中においては同じくレギオンからの攻撃や妨害が入ったが、これらも難なく切り抜けていったことをここに記す。
なんならば、機動兵器によってレギオンを撃破して残骸を回収・分析へと回すということまでできていたのだった。
そして、地球連合は人類に敵対的な行動をとる勢力---レギオンについて知ることとなったのだ。
その構造、仕組み、中央処理装置のおぞましい仕組み、さらにはそのスペックまでも。
これらの解析結果を以て、地球連合派遣外交艦隊はこの機械勢力を人類に敵対的な存在と認定。
これ以降、目的地にたどり着くまでの間に可能な限りの駆除などを行うことになったのである。
そのレギオンも脅威とみなしたのか積極的に追いかけてきて攻撃を仕掛けてくるので、応戦し、さらに対抗策などを編み出していくことになった。
そんな地球連合のあずかり知らぬところで、レギオンは、その中枢は、大いに混乱していた。
これまでの「敵」とは全く違う質と戦力を持つ勢力がいきなり登場したためだ。
しかもこれまで用意されていた戦力の悉くが撃破され、おまけに不意打ちを狙った衛星砲弾までも無力化される始末。
さらには既存の航空機などをはるかにしのぐスケールの艦艇を運用しているというのが、レギオンの情報にはなかったことから混乱を助長していた。
とはいえ、彼らは人間ではなく機械であり機構。定められたプロトコルに則り、即座に分析や解析に乗り出していった。
幸いにして、情報収集を行う斥候型などから共有された情報は多くあり、それらを分析にかければ対処法は出ると考えられた。
また、高高度を飛行するという脅威に対し、既存の対空自走砲型では間に合わないとして、改良型や新型の開発が推進された。
あるいは、航空戦というこれまでは不要と考えられていたカテゴリーに適合する新型の開発も含めて。
取り急ぎ急がれたのは、開発が進んでいた新型---のちにモルフォと呼ばれる電磁投射砲型の投入の容易であった。
だが、そんなレギオンたちも知らなかった。
もっと脅威度の高い、もっと根本的にレベルの違う強敵が、自分達や自分たちのいる惑星を本能的に狙っていることなど。
767: 弥次郎 :2022/04/21(木) 17:51:17 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 ブランジューヌ宮殿 国軍本部
ヴラディレーナ・ミリーゼ大尉は非常呼集により共和国軍本部内にいた。
昨夜、未曽有の流星群を見て、それが明らかに地場へと到達するのを見て、それをカールシュタール准将に報告してから、時間にして数時間しか経過していない。
それでも、レーナの目は酷く冴えていた。昨夜の興奮などがあって、レーナの意識はゆっくり休むということを拒否していたのだった。
「あ……!」
そして、レーナの目は部下たちを引き連れ、厳めしい顔で廊下を進むカールシュタールの姿を捕らえた。
あちらも足音で気が付いたのかこちらを向いたが、目で制されてしまった。まだ話す場ではない、と。
見れば、明らかに高級階級の将官や佐官らが移動していくのが見えた。その足が向かう先は、会議室だ。それも、高位の武官たちの用いる。
(やはり、あれのことでしょうか……)
レーナの言うところの、あれ。
即ち、グラン・ミュールに接近してきて、「地球連合」の外交使節と名乗った、空を飛ぶ船の艦隊。
当初こそレギオンではないかと推測され、グラン・ミュールに備えられた要塞砲が向けられたのは記憶に新しい。
そしてそれらが故障や整備不良でほとんど動かず、おまけに弾かれるという憂き目にあっていたことも、ほんの2、3時間と経たないことも。
ついでに言えば、その攻撃に対して外交使節からは外部スピーカーを通じて抗議が入ったこともだ。
その対応を考えれば、相手はレギオンなどではないというのは想像できることだった。
相手がレギオンであるならば、躊躇なく反撃してきた。そもそも、自らを外交使節であるなどと名乗ることもないだろう。
されども、地球連合という組織は聞いたことがないのだ。
加えて、レギオンの自走地雷が避難民に紛れて自爆攻撃を仕掛けてきたことも考えればこれも罠という可能性はありうることだ。
(そして、現在のところ飛行艦艇はグラン・ミュールのすぐそばで停止中)
壁に設置されているスクリーンを見れば、現地からの中継映像が見れる。
元よりグラン・ミュールには光学監視のための機構も備えられており、それらの映像はここに集められているのだ。
(すごく、大きい……)
目測だが、空を飛ぶ艦艇の大きさは300mはありそうだ。特に中央に存在する船はその倍はあるように思われる。
しかも、完全に空中で静止しているのだから驚きだ。航空機でもVTOL能力のあるタイプはあるが、そんなものとは違う次元。
揺れることも傾いたりすることもなく地面と平行を保ち、浮かんでいるのだ。下方へと何らかの力を放出している様子さえもない。
いや、そもそも、これだけの巨体を浮かべようなどという事態がもはや空想の域だ。
「一体どこの国なんだ?」
「わからん……」
「レギオンなのだったらさっさと攻撃すべきだろうに」
「まったく……あれが現実なのか?」
「いつまであんなものを映しているんだよ…おまけに朝早くから呼び出されるとか」
だが、周囲はさほど真面目とは言い難いようだった。
異例の非常呼集をかけられたとはいえ、すでに酒臭い人間が多くいる。まともに軍服を着用している人間さえあまり多くはない。
普段の、あまり褒められたものではない共和国軍国軍本部の、その姿は健在でさえあった。
あらゆる通信方法や移動手段がレギオンにより遮断され、他国がそもそも存続しているかどうかさえ怪しい状況。
そんな中で唐突に表れた他国を前にして、紀律の一つ引き締められないのか、とレーナは密かに周囲を罵る。
768: 弥次郎 :2022/04/21(木) 17:52:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
ともあれ、そんな状況下であっても軍は徒に動くべきでないと、レーナの冷静な部分は考えている。
サンマグノリア共和国政府は、この外交使節を名乗る集団に対してどう対処すべきかを検討中とのことで、それは軍にも伝えられていた。
革命の後に成立したこのサンマグノリア共和国においては、軍はあくまでも文民統制の下にあらねばならないのだ。
最も、すでに先走って砲撃を行って見事に効かなかったわけで、その問題もどうにかしなくてはならないだろう。
レーナとて、外交を求めてきた相手にいきなり攻撃をしたなど、それがどれだけ危ういことなのかは知っているつもりだ。
(如何にレギオンとの戦いの中とは言え……!)
それにもかかわらず、誰もそのことを口にしていない。誰がやらかしたのかの追求も、何も行われていない。
それどころか、今ある現実をまともに認識しようとしている人間さえ、少数のようにも見える。
カールシュタールのような高級将官らはともかくとして、残りの軍人たちの空気はどうしようもなく弛緩している。
そして、そんな中に自分いるということに耐えられそうになかった。
これが、五色旗---自由・平等・博愛・正義・高潔---を掲げ、さりとて、同じ共和国人を人ともみなさなくなった共和国の姿なのだと。
だが、レーナは動かない。正確には動けない。
軍人が政治家に先走って判断などをしてはならない。
歯がゆさと、苛立ちと、その他数えきれない感情が、レーナを苛んだ。
後になってレーナは回顧する。この時の自分は、どうにも冷静さを欠いていたと。
それでいて、為すべきことだけがはっきり見えていて、どうしてもそうしたいという我儘な感情も渦巻いて、どうしようもなくて。
それで、そんなあやふやな未来の、先のことなど考慮の外において、ただその呼びかけに応じようとしてしまった。
私は今、ここにいるのだと。
あなたたちの呼び声に応える人間は、確かにいるのだと。
応えたくて、叫びたくて、どうしようもなくて、その足はある場所へと向いた。
幸いにして、レーナはそれができる場所を知っており、そこに行くことができた人物だったのだ。
そして、彼女は声をあげた。
- サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 サンマグノリア共和国 大統領府
混乱は、同じく第一区に存在する大統領府においても発生していた。
大統領以下、閣僚らが集められ緊急の会議が行われていたのであるが、まさしく紛糾していた。
存続しているかどうかも怪しかった他国からの来訪者で、しかもそれが全く未知の勢力。
受け入れを行うべきか、それとも拒否すべきか。待ちに待った他国からの使者か、はたまたレギオンの尖兵か?
政府上層部で意見が割れ、軍の意見も一致せず、会議は始まってから時間は過ぎれども、何ら進展を見せていなかった。
そもそも軍部が先走ってレギオンと判断して要塞砲で攻撃したことをどう釈明するか。その責任の所在は?
要塞砲がまともに動作しなかったことも合わせて、その責任やら何やらを問う声までもこの時に至っても噴出していた。
さらに、今回来訪した艦隊の艦艇の特徴が、国立天文台が観測していた軌道上の艦艇と特徴が酷似しているということも火種になった。
今更ではあるが、国立天文台がよこした警告などが正しかったと証明されてしまったのだ。それを無視した責任やら何やらが問題となって噴出したのだ。
つまるところの、切羽詰まった状況が迫り、それが直近になっても意見をまとめ、判断を下すことができずにいた。
民主制故の弱点というべきか、はたまた弱みというべきか、喫緊の課題に対して迅速な決断を下すことにリスクが伴い、それによって動きが止まる状態だった。
大統領も、補佐官も、閣僚も、誰も彼もが迷い、戸惑い、悩んでいた。
そんなものなど、グラン・ミュールの内側に籠り、戦争や面倒事を遠ざけ、人型の豚に押し付けてきたのだ。
目を閉じ、耳をふさぎ、何も感じたくないと閉じこもっていた彼らの大多数にとって、あまりにも強すぎる刺激だったと言えるのだろう。
だから、彼らには動けなかった。動く気概さえも、乏しかった。
それ故に、たった一人の少女が自ら動いたことさえ、見逃し、それを眺めることしかできなかったのである。
769: 弥次郎 :2022/04/21(木) 17:53:00 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
感想返信はだいぶ後になりますね。
809: 弥次郎 :2022/04/21(木) 20:56:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
誤字修正お願いします
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×ヴラディレーナ・ミリーゼ少尉は非常呼集により共和国軍本部内にいた。
〇ヴラディレーナ・ミリーゼ大尉は非常呼集により共和国軍本部内にいた。
最終更新:2023年11月05日 15:15