958: 弥次郎 :2022/04/22(金) 19:58:46 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」2


  • 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 上空 地球連合外交使節艦隊旗艦「ネェル・アーガマ級ネェル・ユーロン」

 艦隊旗艦であるネェル・ユーロンのブリッジは、控えめに言って冷え切った空気で満たされていた。
 無線および外部スピーカーによる呼びかけに対する応答なし。
 何度か呼び掛けたところ、要塞砲と思われる砲撃を食らう。
 それに抗議してもこれまた応答なし。
 そして最初の呼びかけからすでに3時間余りが経過し、待てど暮らせど反応がない。

「……」

 サンマグノリア共和国への外交使節艦隊の指揮官を客将ながらも務めるコーネリア・リ・ブリタニア少将は、いい加減限界を迎えようとしていた。
 いま彼女が何も言わないのは、彼女のいた世界、特に所属していた国家においてあまり褒められた外交をしていなかったがためだ。
ここで言いだすと、祖国である神聖ブリタニア帝国の面子の方にも飛び火してしまうのである。
 とはいえ、それを差し引きしても、呼びかけに対してまるで応答がないというのは非常に問題である。
一応、この世界の、そしてこの国の言語については通信傍受や光学衛星からの監視などを通じて学習が完了しており、問題はないと思われている。
つまるところ、眼前のサンマグノリア共和国の側が応答する気がない、ということになるのだろうか。
 だが、明らかに人がいる気配や生体反応はあるのに、引きこもったままというのはどういう了見なのだろうか?
国家全員が耳が聞こえないという可能性もありうるのだが、非常にその可能性は低い。
何しろ、事前の偵察活動によれば、このサンマグノリア共和国の内部においては音声を用いた放送などが行われているのが確認されているからだ。
それのおかげでサンマグノリア共和国の言語を学習できたのだから、ある意味では助かっていた。

「……動きはなし、か」
「はい」

 副官であり騎士でもあるギルフォード少佐の返答は、主君たるコーネリア同様極めて固いものだった。
 コケにされている、という認識が、騎士である以上嫌でも募っていたのだ。

「パレス艦長、サンマグノリア共和国内の動きの観測は?」
「すでにやらせています……が、動きはありません。
 警報などもならされていないようで、市民の動きは特に統制されておりません。
 軍事要塞も兼ねていると思われますが……内部でこちらを見ようとしている市民も少数なようで」

 淀みのない艦長の返答は、果たして正しい。
 飛ばしているドローンや観測機による観測は城塞越しとはいえ、サンマグノリア共和国の内側の様子を赤裸々に暴いていたのだ。

「……あまりやりたくはないが、強行着陸も視野に入れねばならんな」
「本艦は慣性制御航行が可能なので無理とは言いませんが……やりたいとは言い難いですな」

 艦長であるパレス大佐の言葉に、コーネリアは頷く。
 サンマグノリア共和国の実質的な領土はこの要塞の内側のみ。残りはレギオンによって包囲され、制圧されている。
つまり、相手国の領土内ということになる。そこに乗り込むのは実質的な他国の主権侵害である。
既にサンマグノリア共和国領土・領空に入っている時点で今更の話ではあるが、人が暮らすところと人がいないところではまだ意味合いが違う。
まして市街地内部に強行着陸というのは明確な敵対行為と受け取られかねない。何しろ、こちらは軍艦だ。
明確な戦争行為であり、非戦闘要員に対する虐殺行為とみなされてしまうかもしれないのだ。その愚は犯したくはない。

「少将!」

 その時ブリッジオペレーターの一人が報告の声をあげた。

「どうした?」
「要塞の外に確認されていた生体反応の調査に向かっていた捜索班から報告が。
 とても良い報告とは……少将個人にとっては言い難いのですが」

 その言葉の濁し方に、コーネリアは察する。
 つまり、自分が、コーネリアの出自がブリタニアだということが悪く影響する報告かもしれないということ。
ブリタニアはごく最近まで、それこそ大西洋戦争まで覇権主義であり覇道主義、同時に人種差別的なところがあった。
今ではその主義は緩やかに改善されていると聞くが、迂闊にブリタニア人に対してそれにかかわる、あるいはそれを連想させる話題は避けられる傾向にあるのだ。

「構わん」

 だが、コーネリアは問題ないと断言した。

「ここに来ているのは地球連合軍の所属であるコーネリア・リ・ブリタニアだ。
 なんならば、通名のラドフォード少将と呼ぶがいい」
「姫様……」
「今は少将だ、ギルフォード」
「は、失礼いたしました」

 ギルフォードが一礼して引き下がると、コーネリアは報告を促した。

959: 弥次郎 :2022/04/22(金) 19:59:24 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

「続きを頼む。ピットマン少尉」
「はい。随伴艦のラズームから降りた陸戦隊が調査を行ったところ----」

 そこから先の報告は、コーネリアの悪い予感の、さらに数十歩も先に行くような、そんなものだった。
 思わず真実であることを疑い、聞かなかったことにしたくなりそうなほどに、コーネリアにとっては耳が痛い問題でもあった。
 だが、それでも。現実と向き合うべく、陸戦隊が接触したサンマグノリア共和国の戦力と思われる彼ら・彼女らについての報告を聞き続けたのだった。


  • サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 ブランジューヌ宮殿 国軍本部 プロセッサー指揮管制室


 それから少し遅れた刻限、未だに緩慢な動きを見せる共和国政府と軍を差し置いて、一人の少女が動き出していた。
 彼女は取るものとりあえずその部屋に、無人兵器「ジャガーノート」の「プロセッサー」を管制するためのその部屋に飛び込んでいた。
この部屋は、このサンマグノリア共和国の中における唯一の戦場と呼べる場所。
同時に、レーナのやろうとしていることを唯一叶える場所でもあった。

「認証開始。ヴラディレーナ・ミリーゼ大尉。東部方面軍第九戦区、第三戦隊管制指揮官」

 いつもの光景とルーチン。声紋および網膜認証により本人確認がなされ、狭い個室いっぱいの管制システムが起動していく。
 そしていつもと違うのはここからだ。管制システムの権限におけるオーバーライドを行うのである。
 この管制室のシステムというのは、グラン・ミュールに備えられたあらゆる機構へとアクセスおよび制御が可能となっている。
それこそ、東部方面軍を担当するレーナのところから、艦隊の来ている西部のグラン・ミュールの機構にアクセスすることも。
このグラン・ミュールと管制システムが作られた際に作られた、柔軟な運用を可能とするためにシステムを貫通している通り道だ。

「あった……」

 そして、西部方面の設備に検索をかければ、光学カメラと収音マイクと発声装置などが確認されている。
 これこそがレーナの求めたものだ。元々はエイティシックス達の反乱に備えて用意されたもので、ついぞ使われてこなかった機構。
流石に光学カメラの多くはすでに艦隊の撮影に使われており、レーナの権限では動かせない。だが、探せば使われていないものが見つかるものだ。

「……動作しないカメラがこんなに!」

 けれど、同時に検索をかけてみれば、故障なのか応答しないカメラが全体の2割にも及んでいることが分かった。
さらに実際にカメラを動作させようとしても可動域が不自然に狭かったり、あるいは画像が不鮮明なものが2割も含まれている。
 だが、そんなことを嘆いている暇などない。動作するカメラを探し、それらをピックアップし、その映像をモニターに引っ張ってきて---

「えっ……」

 あるカメラが、空を飛ぶ船が着陸しているのを捕らえた。
 何のことはない、グラン・ミュールの外、対人・対兵器地雷と塹壕などの向こう側でその船体を地面に卸しているのだ。
 そして、その船から降りてきたと思われる人々がおり、彼らはそこにいる人々---エイティシックス達と会話しているのが見えたのだ。
一人や二人どころではない、かなりの人数が話を聞いたり、泣いているエイティシックス達を慰めているように見える。

「…………っ!」

 なぜだか、レーナはすさまじい悪寒に襲われた。
 あるいは恐怖か、悪い予感か、はたまた---もっと致命的なところに気が付かれるという理解があった。
 それは、少し違うだけの人を人と扱わず、人型の豚とみなし、あらゆる権利や所有物を奪い、凄惨な戦いを押し付けた共和国の行い。
 それを他国に知られるということはどういうことか。

(それは---)

 即ち、サンマグノリア共和国の名誉と権威の失墜。国是でもある五色旗が欺瞞であることの露呈。
 いずれにしても、国家間の付き合いをするならば、とてもではないが看過しきれないことばかり。
 ともあれ、自分は相手の呼びかけに応えなければならない。そう改めて決意したとき、回線が開き、外部スピーカーとのコンタクトが完了した。
自分の声が、自分の言語が、その意志が相手に伝わるはずというのは相手の話した言葉が同じだったから予測できた。
 一つ息を吸い、レーナは言葉を紡いだ。

「地球連合の皆さん。こちらサンマグノリア共和国国軍所属、ヴラディレーナ・ミリーゼ大尉です。
 私の声が、聞こえていますか?」

 その声は、地球連合の外交使節艦隊が望んでいたサンマグノリア共和国からの返答の声であり、同時に、最も最悪なタイミングの声でもあった。

960: 弥次郎 :2022/04/22(金) 19:59:54 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 上空 地球連合外交使節艦隊旗艦「ネェル・アーガマ級ネェル・ユーロン」


 艦橋では、やっと返ってきたサンマグノリア共和国側の返答を、しかし、複雑な情勢で迎えていた。
 望んでいた相手からのリアクションであるのに対し、誰もが素直にそれを喜んではいない。
 理由は単純だ。地上に調査に降りていた陸戦隊からの報告---現地のサンマグノリア共和国の「86区」にいるエイティシックス達の存在が露わになったためだ。
 その内容は、発見された彼ら彼女らから得た情報は、あまりにも予想外すぎて、あまりにも壮絶で、どうやっても人として看過できないことだった。

「今すぐ問いただせ……!こんなことをして、どんな顔をぶら下げてきたのだ!」
「少将、どうかご冷静に!」
「看過しろと!?この蛮行を!」
「情報の精査をお待ちください……!」
「だが……!」

 コーネリアの叫びは、ブリッジクルーの多くの感情を代弁していたものだった。
 国が国策として、人を人として扱わず、人以下の畜生として定義づけ、戦場に放り込み、安寧を貪っている。
まだほんの少しの話を聞いたばかりではあるが、それでも激怒させるには十分すぎるものだったのだ。
憤懣やるせないという表情の人間はほぼ全員であり、空気は怒りで飽和するのではないかというほど。
下手をすれば、このままサンマグノリア共和国への宣戦布告と実行に移りかねないものであった。

「ラドフォード少将、暫く」

 だが、まだ冷静さを比較的残している面々が残っていた。
 この艦橋に、サンマグノリア共和国との接触時に渉外役として控え接触に備えていた文官たちであった。
彼らは彼らなりに憤怒していたし、エイティシックス達に対し義憤を感じていた。それも、とても強く。
 とはいえ、それだけでは外交は成り立たない。そういうものがあると分かったとしても、今は接触を優先しなくてはならない。

「ここに来たのは人間同士で争うためではなく、レギオンに対抗し、あるいは宇宙怪獣をはじめとした外敵の存在を伝え、協同するため。
 確かに無人機と公表していたものが有人機であったなど、人を人と数えないなど、見過ごせることではありません。
 しかし、目先のそれのために、大局的な外交を潰すのはよろしくはないかと」

 地球連合の外交官としてこの使節艦隊に派遣されている大洋連合の藤山仁外交官は、冷静に、受け入れがたいが冷静にあった。

「だが……」
「私とて、このような行いをする国との折衝など……まして、特定の人種以外を人とみなさぬ国との折衝など、命にかかわりかねません。
 ですが、相手が蛮行をしているからと言って、こちらも蛮行を行えば、同じところに落ちることになります」
「……そうだな。一先ず預ける。冷静さを取り戻すまで控えていよう……」

 一先ずの所、言い方は悪いが武闘派であり過激派なコーネリアが引き下がったことは大きい。
 そして、場を譲ってもらった藤山は努めて、努めて冷静に声をあげる。

「マイクをこっちに。どうやらお若いお嬢さんのようだ。
 どういう意図であるにしても、こちらに返答してくれたことはありがたい。
 だが、すでに外交戦は始まっている。それを知ってもらわなくてはね」

 声はまだ少女のもの。純粋で、無垢で、汚れなどを知らないかのような、そんな声。
 彼女がスケープゴートに放り出されたのか、はたまた自分からコンタクトをとろうとしてきたのか、未だに判別はつかない。
彼女は文官ではなく武官であると名乗っているのだし、文民統制の観点から見て、どれほど実行力を期待できるかも不明なところ。
 ただ、彼女が交渉や折衝のきっかけになってくれる可能性があるならば、それをつかみに行きたいところだ。

961: 弥次郎 :2022/04/22(金) 20:00:55 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 そうして外交を任される文官たちの準備が進む中で、後方で控える艦艇から連絡が飛んできた。

「後方、エターニアの哨戒機から入電。
 レギオンの集団を補足。あと1時間足らずで接敵します」

 それは、レギオンの群れの接近の報告。
 すでに阻電子攪乱型は空を覆い始め、また地上には斥候型や近接狩猟型による先頭集団の展開が確認されていた。
その後方には戦車型や長距離砲兵型、さらには対空自走砲型までもが確認されていた。
数としては数百以上。機種別ごとに分析をかけると、どうやら長距離砲兵型と対空自走砲型が特に多く見受けられた。
つまり、相手は航空艦艇という種に対して攻撃するオプションを多くそろえているということである。
おまけに、今の状態はサンマグノリア共和国との接触を図ったのとタイミングがうまい具合にかみ合っている状態。
こちらは接触を行っている旗艦であるネェル・ユーロンが動かせず、付随する艦艇で防衛するような形となる。
 これは偶然か、それともレギオンが判断してのことか。
 連合としてはレギオンが戦術的判断を下していると判断し、速やかに戦力の展開を行うことを決定した。

「私が陣頭指揮を執る。サンマグノリア共和国の戦力は下がらせておけよ」

 そして、その報告を嬉しそうに受け取り、戦線に出ると宣言したのはコーネリアだ。
 非常にイイ笑顔で、彼女の姿は艦橋から出ていった。行先は間違いなく格納庫であろう。
彼女の心情を慮れば、将官が自ら戦場に出て戦うというのを止める人間はいなかった。
むしろ、ここで発散してもらわなければ次いつ暴発するかもわからないのであるし。

「本艦はこのままサンマグノリア共和国の戦力との接触を続ける。
 こちらからは艦載機を出せ。指揮系統はこちらで管制する形で行うと各艦に通達!
 サンマグノリア共和国の戦力---エイティシックス達には犠牲者を出させるな!」
「了解!」

 艦長のパレスの指示と共に、各部署が一斉に動き出した。
 地上に降り立ち、エイティシックス達との接触を行っていたラズームは地上戦力を配置しつつ、同じく防衛に加わることとなった。

「ラズームから入電です。どうやらサンマグノリア共和国はエイティシックス達に対処しろと命じているようですが」
「無視させろ。あんな『無人機』などにレギオンの相手をさせるわけにはいかん。
 それに、こちらの戦力を見せつけるにはいい機会だ」
「ありがたいことです、パレス艦長」
「何、あんなものが相手であれ、こちらの武威を見せつけることで役に立てるならば安いものですな」

 それに、とパレスは続ける。

「とくに彼らでなければならない理由も、彼らが特異な力を持っているわけでもないならば、彼らを送り込むのは大人のやることではありませんよ」
「違いありませんな」

 藤山は感謝するしかなかった。
 軍事が外交の一つであり、オプションであるということが徹底されているのは、こちらとしても非常にやりやすいことだ。
 なれば、こちらのやることは、相手のヴラディレーナ・ミリーゼ大尉から可能な限りの言質を取り、交渉の足掛かりを作ることだ。

「さて、始めましょうか」

 そして、二つの戦端は開かれる。どちらも負けられない、重要な戦いが。

962: 弥次郎 :2022/04/22(金) 20:01:28 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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地雷原をドカンするのは次か次の次あたりですねぇ
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最終更新:2023年11月05日 15:16