149: 弥次郎 :2022/04/23(土) 18:35:31 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」3


  • サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 ブランジューヌ宮殿 国軍本部 プロセッサー指揮管制室



 渉外係、一国の外交官が出てきたことに、レーナは手の中に汗が噴き出るのを抑えられなかった。
思わず勢いのままに地球連合という組織の呼びかけに応え、声をあげたのであるが、ここで冷静さが戻ってきた。
何らかの交渉の用意があって接触を図ったわけでもないことに、今更ながらに気が付いて焦ってしまっているのだ。
 そもそも、相手は外交、交渉事の専門家。こちらはただの軍人でハンドラーにすぎないのである。
 91期生の中で主席、さらに弱冠15歳という共和国軍の記録における最年少での少佐昇進を控えた才媛。
 然れども、その能力で評価されているのは軍人としての資質ばかりがメインであり、どう考えても交渉事を行う能力には不足がある。

(下手に言質を取られないようにしないと……)

 よって、レーナには自己の判断で気を付けることしかできなかった。
 だが、相手がどこのだれで、どういう目的なのかは知りたくもあった。
 そして、相手の渉外官、地球連合という組織の外交官だというフジヤマという人物の声がマイクを通じて聞こえてきた。

『呼びかけに応えていただき感謝します、ミリーゼ大尉。
 こちらからの呼びかけが行われてから3時間弱。反応がないので、非常に心配しておりました』

 応答がなかったことを早速つつかれた。これはしょうがないことでもある。軍も政府も、誰も判断を下せなかったのだから。
予想外の出来事が起こり、それが連続したことで、とてもではないが冷静にいられる情勢ではなかった。
だから、ごくりと唾を思わず飲み込んでから、慎重に切り出すことにした。

「サンマグノリア共和国を代表して謝罪いたします。
 今回の貴連合の来訪は、ギアーデ帝国との開戦以来、初となる他国との接触でありました。
 帝国のレギオンによって通信も通行も遮断され、他国が今も存続しているかも怪しいと我々は捕らえておりました。
 そのため、政府の方が非常に混乱していたのです」
『なるほど』
「加えて、失礼ではありますがレギオンの戦力ではないか、という疑いもあり、判断しかねるところであったのです」
『それは大変失礼をしました。
 ですが、状況が状況だけに、また我々が来訪者である以上、事前の特使派遣や連絡などができないこともあり、直接接触することを選びました』

 その言葉は、確かに正しい。阻電子攪乱型や対空自走砲型の跋扈、さらには地下通信ケーブルの切断により、人の通行などは不可能になった。
 だが、同時にレーナは違和感を覚える。彼らは自らを来訪者と名乗った。それは事実である。
他国からサンマグノリア共和国へと、どこから来たかわからないにしても、地球連合という組織は接触した。
これまでサンマグノリア共和国が接触したことがある勢力や国家の中ではそんな名称を聞いたことがない。
だからこそレギオンによる欺瞞なのではと疑ったところもあるくらいである。
 しかし、違和感はそこではない。来訪者である、という点だ。まるで、どこか自分たちの知らないところからやってきたかのようだ。
事前の接触もできなかった、つまり、尋常な外交的接触が難しいから、いきなり押しかけてきたと言ってきたのだ。一体どうして?なぜ?

(……おかしい)

 おかしいが、その違和感の説明がつかない。
 だが、同時に何かわかりそうな気もするのだ。
 まるで彼らの言い方は、創作に出てくる『外』から来た未知の勢力のようで---

150: 弥次郎 :2022/04/23(土) 18:36:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

「-----っ!」

 思わず、叫びが漏れそうになって、慌てて口を抑え、変な声が出た。
 断片的なモノが、全て直列につながる。
 国立天文台の報告。数週間前から上空に存在する人工物。昨夜の流星群。そして間を置かずしての接触。聞いたことがない国家連合。既知を超えた技術。
 即ち----

『お気づきになられましたかな、ミリーゼ大尉?』

 反応だけで、相手は察したのだろう。
 その声は、ひどく楽しげだ。まるで、苦労して答えにたどり着いた学生をほめる教師のように。
その領域にたどり着けたことが、酷くうれしくてたまらないというのが窺えた。

「貴方がたは……地球連合は……」

 声が震える。体も、心も、頭も。ありえないとは思うが、現実はそうなのだろう。
 レーナの中にある常識とこれまでの知識などが、それを否定したがるが、相手はそれを肯定したのだ。
 自分に言い聞かせるかのように、レーナは問いかけた。自分のたどり着いた答えは、果たしてあっているのかと。

「地球連合は、この惑星の外からやってきたと、そういうことなのでしょうか……!?」

 そして、レーナの言葉に対して、藤山は嬉しそうに答える。

『その通り。あなた方の暮らすこの惑星を含む恒星系の外から、我々はここまでやってきたのです』

 肯定された。されてしまったというべきだろう。
 ありえない、という言葉は今度こそ粉砕されてしまった。
 そうであるならば、全てが説明がついてしまうのだ。まさしく創作の話であるのだが、そうでなければ説明がつかない。

『私たちの暮らす地球という惑星を含む恒星系からここまでは○○光年ほどの距離にあります。
 こちらで存在する言葉で言えば……それらの距離を飛び越える方法でやってきたのです。ワープ、と言いましょうか』

 光の速さでもそれだけかかる距離を一瞬で飛び越えてきた?それについては非常に気になるところだ。
 だが、重要なのはそこではない、と直感的に理解できた。

「一体なぜ、それほど離れたこの恒星系までいらしたのでしょうか?」
『……なるほど、ミリーゼ大尉は中々聡明なようだ。
 おっしゃる通り、我々がこちらの恒星系にまで足を延ばしてきたのは理由が存在します。
 端的に言いまして---』

 笑みを浮かべ、しかし真剣な表情のままに続けようとした藤山の声を、アラートが遮った。
 これは、ハンドラーを務めているレーナならば何度となく聞いた音であり、警報だった。
 丁度西部方面の管制にアクセスしていたために、そちらの警報もレーナのいる管制室へと届けられたのだ。

「これは……レギオン!」

 素早くレーダーと管制画面を呼び出し、モニターへと表示させる。
 接近してくる集団は何時ものように大多数。いや、いつも以上の数だ。
 斥候型、近接狩猟型を先頭に、戦車型を中心とした集団が地を覆いつくすかのように迫ってきている。
それは通常の侵攻を超えた規模であった。少なくともこれほどの数が一度に押し寄せてくるのは初めて。
後方にまで目をやれば、長距離砲兵型や対空自走砲型の展開も確認されている。それも、まるで人間の兵隊を並べるかのように、何重にも。

(大規模攻勢……?それとも……彼らを追ってきた?)

 どちらかは判別はつけられない。
 どちらにしても、レギオンとの戦闘は避けえないものとなるだろうというのは間違いない。

「フジヤマ外交官、直ちに艦隊をグラン・ミュールの内部へ!レギオンの侵攻が…」
『承知していますとも』

 だが、レーナの叫びに対して、藤山は冷静な返答を返した。
 退避を促すレーナに対し、とても落ち着いた声で。

151: 弥次郎 :2022/04/23(土) 18:36:39 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

『我々はすでに敵勢力---レギオンの集団の接近を確認しております。
 そのための戦力の展開も、すでに進んでおります』
「ですが……」
『サンマグノリア共和国へ到達するまでに、すでに数度我々はあなた方が言うところのレギオンの集団と交戦、撃破しております。
 自力であの程度の集団を打ち払うなど、容易いことです。何、我々がレギオンと敵対している証拠をお見せしましょう』

 どこまでも明るく、悲壮感はない。
 それほどの力を有しているのか。自分達共和国など『無人機』に戦闘を押し付けているというのに。
 何かを言おうとしたとき、ふいに指揮官性質のドアが開く音がした。振り返れば、そこには見知った顔の軍人がいた。

「カールシュタール准将……」

 自分の父の友人であり、自分の上司でもあるカールシュタールは無言のままに入ってくるとレーナに命じる。

「ミリーゼ大尉、何をしている。すぐに当該地区のハンドラーと交代だ。
 君のやっていることは越権行為であり、政府の許可を超えた明確な命令違反だ。元の業務に戻りたまえ」
「な、何故ですか!」

 だが、その抗議をカールシュタールは受け流した。まるで聞く価値がない、というように。

「言っただろう。越権行為だと。
 政府は公式な見解を発表した。あれはレギオンだ。人ではない」

 その断定は、レーナのこれまでの交渉をまるで無視するものであった。
 姿こそ見せなくとも、機械の合成音などではない、人と人との交渉であったことは明らかであろうに。

「そうでなければ、エイティシックス達のサボタージュだ。
 どういう手品なのかは知らないが、該当の戦区に対して調査が入る。場合によっては『処理』を行うことも決定している」
「なっ……何を……」
「あれだけの偽装を行えるということは、レギオンとの内通さえも想定される。
 禍根は断つために、迅速な対応が求められる。これは決定事項だ」

 淡々と続ける上司を、カールシュタールを、レーナは信じられないという目で見るしかない。
 ありえないこと、信じられないことであるのは確かだ。だからと言って、いきなりそれをレギオンであるとか、あるいは偽装であると判断する根拠はなんだ?

「小父さま!」
「口を慎みたまえ、ミリーゼ大尉。場合によっては……いや、貴官も処分の対象となる。
 弱冠15歳にして少佐昇進が目前の才媛が、レギオンの口車に乗せられたなど、醜聞にもほどがある」
「……ッ!」

 だが、眼前の人物はその質問や疑問を挟むことさえ許さない。
 なぜ、そこまで他国の人間を、来訪者を拒絶するのか。

「他国人だから…有色種だからですか!」

 それは、核心をついた言葉だ。少なくとも、レーナは図星をつくことができたと感じた。
 びくりとカールシュタールが身を震わせたのだ。しかし、押し黙ったままだった。まるで、言うことはないと、言葉を封じるように。

「そんな理由で、彼らを信じないのですか!?レギオンの支配地域を超え、我々に接触してきた彼らの意思を無視しろと!?
 レギオンに色の違いなど意味はありません!有色種も白銀種も、等しくレギオンにとっては敵にすぎない。
 公的には死者は0名?レギオンに序盤で大損害を受けたのは有色種の責任?いまさら何を言っているのですか!
 私の父も、レギオンによって殺されました!」
「レーナ!」
「いつまで共和国は罪を重ねるつもりですか!五色旗に栄光あれ?その理念はどこに行ったのですか!」

152: 弥次郎 :2022/04/23(土) 18:37:25 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 カールシュタールの叫びを、レーナのそれが塗りつぶしたとき、唐突に拍手が聞こえた。
 それは、外部スピーカーと外部マイクの向こう側、ネェル・ユーロンの艦橋で交渉を行っている藤山のものだった。

『素晴らしい』

 それは、感嘆の声。称賛の声。
 通信機越しにもわかる、人を人と見る者と、人を人と見ない者たちの言い争い。
 上官であり知り合いであろう大人の男性に対し、明らかに人道に反するであろう教義を掲げる共和国の体制に対し、少女は恐れを知らず怒りの声をあげたのだ。
突発的なモノではなく、おそらくは彼女が、レーナが長らく積み重ねてきたであろう感情が堰を切って表れた、奔流。
感情に任せた叫びと言えばそれまで。しかし、極めて人間らしく、とても強い意志を感じられた。
少なくとも、カールシュタールに代弁させているであろう共和国政府や軍などよりは、評価できる声と意志だ。カールシュタールらの言葉は実に空虚だった。

『素晴らしいですよ、ミリーゼ大尉。
 罪に塗れ、汚れを受けながらも、それでも気高くあろうとする姿。
 夢想的と言えばそれまでですが、感覚を麻痺させ、無感情で、何も見なかったことにするよりも好感が持てます』

 掛け値なしの言葉に、カールシュタールは目を白黒させるしかない。レーナもまた、唐突な称賛に驚いていた。

『カールシュタール准将、でしたか。
 我々、地球連合外交使節艦隊は、貴国が行っている政策や方針について、すでに証言などを受け取っており、把握しております。
 貴国の白銀種が言うところの人としての権利を持たぬ、「人型の豚」であるエイティシックス達から多くの証言を得ました』

 その言葉は、一転して冷たいものとなった。
 まるで、人ではない「モノ」に対する態度かのように。

『しかし、我々に貴国に対する政治的な干渉を行う権限などありません。
 地球連合という国家連合は過度な干渉を行うことを是とせず、現地の国家の意思や主権を尊重する方針を掲げており、実行しておりますので。
 とはいえ、それの如何によっては、我々もまた態度や方針を変えざるを得ないことをお忘れなく。
 特に、我々を敵とみなし、交渉にも呼びかけに応じることもなく、ただ理不尽な理由で攻撃を仕掛けるならば、我々もまた自衛を行います』

 それは、遠回しながらも、サンマグノリア共和国へ警告していた。
 そちらの態度や行動の如何によっては、同じく理不尽を振るうことになる、と。

『一先ず、我々がレギオンの尖兵などではないことを証明しましょう。
 それに加えて、我々の持っている力についても。
 貴国の言うところの、兵役も労役も増税などを避け、人道的且つ先進的な無人機などに任せる政策以上の物をお見せいたします』

 同時に、突き付けたのだ。これから力を見せつける。貴様らなどものともしない、圧倒的な力を。
これからレギオンに向けられ、見せつけられる力がどう向くかは、貴様ら次第だと。
 レーナも、カールシュタールも、言葉を失い、ただそれを見守るしかできないのであった。

153: 弥次郎 :2022/04/23(土) 18:38:15 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
話が伸びた……本当はコーネリアさんが出陣するところまで見せる予定だったのに……ガッデム!

まあ、レーナがまだまだ未熟で何も知らないとはいえ、正義感を描きたかったから是非もないよね。
ここで理想を語らせて、この後曇らせる前振りにもなるからね…(愉悦部並感
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最終更新:2023年11月05日 15:17