411: 弥次郎 :2022/04/24(日) 10:03:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」4
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 上空 地球連合外交使節艦隊旗艦「ネェル・アーガマ」級ネェル・ユーロン
格納庫内部は、喧騒に満ちていた。
メカニック班は機体の最終チェックを行い、あるいは艦載機の発艦に備え、退避を急いでいた。
最低でも5mサイズの、人間から見れば圧倒的な巨躯を持つKMFやMSが次々と動いていくのだから当然だ。
人間の小さな体など、如何に堅牢であろうとも容易く粉砕されてしまうことがありうるほどに、彼我の差は絶対的だった。
そして、レギオンの集団の接近の報告に際し、艦載機と艦載砲による対処が決定されてから、その喧騒は始まったのだ。
まだ彼我の距離は十分にある。とはいえ、進軍してくるレギオンの速度は決して鈍間ではない。
機動兵器として考えるならば十分に通用するレベルである。装脚による地形踏破能力の高さは、確かに発揮されていたのだった。
更には、レギオンの中でも長距離砲撃を主とするタイプが押し寄せていることも確認されたため、被害を受ける前に叩くことが推奨された。
ぐずぐずしている間に、包囲されて袋叩きにされては元も子もない。まして、あまりにも弱小なエイティシックス達がいるとなれば、猶更。
「各艦は散開して防衛ラインを構築。各方面から押し寄せるレギオンに対処せよ。
本艦はサンマグノリア共和国への接触を続け、艦載機のみを発艦させる」
パレスの指示したのは典型的な防衛戦。航空艦艇をトーチカに見立て、距離を防壁とし、突破してくるレギオンを機動戦力で叩いて回る戦術だ。
航空艦艇や艦載機---特に数が展開できるMT---を配列し、十字砲火点を有機的に変更しながら、大多数を削り、残りを駆逐する。
呆れるほどに繰り返されたお決まりのパターンであるが、極めて堅実で抜けのないものであった。
「戦場の香りだな……」
そして、愛機であるクインローゼスⅡのコクピットに収まるコーネリア・リ・ブリタニア少将は、滾り始める血を抑えきれずにいた。
今回の戦場は、多少の建造物が点在しているとはいえ、ほぼ平野での戦闘。すなわち騎兵たるKMFの戦闘力を十分に生かせる場であるのだ。
そして、今回与えられている役目は、その特性を十分に踏まえたものである。
即ち、砲兵と壁役となる戦力でレギオンを受け止め、横合いから戦力を突入させ、中枢戦力を叩くというものだ。
その突入する部隊にKMF部隊は割り当てられることとなったのである。無論、彼らだけというわけではないが、彼らには重要な役目があった。
『しかし……特殊個体、ですか』
「ああ。死してなお、死ねぬモノたち。戦いの中で散り、レギオンに捕らわれた者たちの成れの果て。
よもや、人間を取り込んで指揮をとらせるとはな。レギオンは、かなり危険だ」
ギルフォードの言葉をコーネリアは肯定する。
特殊個体。ここにレギオンの声を聴くかの者がいれば「羊飼い」や「黒羊」と呼称したであろう、人間の脳を取り込んだレギオン。
その能力を、人間の脳がもつスペックを歪んだ形で活かされる。おぞましくも恐ろしい。つまり、人間の判断力などがそっくり敵に回っていることになる。
同じ人間であるがゆえに、人間の弱点をよく理解して行動をしてくるということであり、時にそれは恐ろしいものになるのだ。
では、その人間はどうやってつかまり、調達され、取り込まれるのか?その答えは自明だ。
「供給元はおそらくサンマグノリアだろうな」
『……なるほど、有人の無人機。遺体の回収も葬儀も行われない、使い捨ての部品』
思わず、操縦桿を握るコーネリアの手に力がこもる。
ふざけた話だ。人ではないとみなした人々に戦いを押し付け、それの結果、レギオンに戦力を供給するなど。
レギオンをまともに研究したり分析しないままに戦うなど、まさに愚の骨頂。人間の脳を使っていることなど、早期に気が付けそうなものだろうに。
「そして、今回我々を追跡してきた集団には、その特殊個体が複数確認された」
『NT達が、その声を聴いたのでしたな』
無言でうなずく。そう、レギオンはどうやらその特殊個体を多数送り込み、こちらへの攻勢に出ているようなのだ。
ただでさえ死者の声を聴き苦しんだNT達が、それでも聞き分け、マーキングをした個体。
明らかに周囲を固め、レギオン全体の動きの中の中心点となる個体。
「そうだ。我々の任務は、その特殊個体の撃破。否、レギオン(亡霊)に捕らわれた魂の解放だ」
412: 弥次郎 :2022/04/24(日) 10:03:44 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
そう、中枢を叩く役割を持った部隊は、必然的にその特殊個体を撃破することになる。
それは単に敵の指揮系統を破壊する、という以上の価値が存在していたのだ。
レギオンに捕らわれ、死ぬことも生きることもないままに、鋼鉄の体に閉じ込められた彼らの解放。
『姫様がそれを買って出られたのは……』
「せめてもの弔いだ。そうでもしなければな、私は堪えが効きそうになかった」
彼女も、渉外役の藤山とサンマグノリア共和国の大尉だというレーナ、そしてカールシュタール准将の会話を聞いていた。
それが、彼女の行動をさらに後押ししたのだ。いや、とどめを刺したというべきか。
「でなければ……私は」
そこから先は、言葉として出てこなかった。
だが、ギルフォードはその先に込められた感情がなんであるかをよく理解できた。自分とて、同じだったからだ。
こうして感情を発散させることができなければ、自分の剣は、力は、いったい誰に向けられていたのかは想像だに難くない。
「それにな、私はルルーシュを思い出したよ」
『弟君、でしたか』
ギルフォードはコーネリアからゼロレクイエムの真実を聞かされていた。
彼自身もルルーシュにより一時操られたことや、どうしてもコーネリアに近いことから、明かされることとなったのだ。
そこに至るまでの、如何にしてルルーシュが「ゼロ」の仮面をかぶり、神聖ブリタニア帝国という大国に反逆し、戦った経過も。
「ああ。ゼロが日本人---弱いイレブンなどを焚きつけてどうなる、と当時は考えていた」
『……』
「常識的に考えれば、神聖ブリタニア帝国は大国だ。たかがレジスタンス組織一つが覆せるはずもないと思っていた。
そんなことに命を懸けるものなど、目先の希望に飛びついた愚か者とさえな。
ルルーシュほどの才覚があるならば、余計なものを振り捨てればブリタニアの中でも自然と頭角を現し、見返すことさえできるだろうと」
それらは、全て過去形だ。どうなったかは語るに及ばず。
「だが、ルルーシュは違った。
利用できるから、個人的に恩義があるというのもあっただろうが、奴は見捨てられなかった。
自分の妹と同じく、弱く、虐げられる立場にある日本人を」
『義憤、ということでしょうか』
「あるいはな」
計算高く、容赦がないと分析していたゼロ=ルルーシュだが、よくよく考えれば情に厚い。
ゼロレクイエムの後、ナナリーから話を聞く機会を得たコーネリアは、ルルーシュの行動原理にはナナリーの存在があったと聞かされた。
妹を守るため、価値がないと断じられた者たちを守るため。結果的にせよ、ルルーシュはそういう行動を選んだのだ。
「私は……この、国とも言えぬ阿保どもの醜態を見て思ったのだ。
これこそが、ルルーシュが反旗を翻した、根本的な原因なのだと」
『……』
それは、言葉だけの上っ面ではない、もっと根本的な理解。共感、いやそれ以上の共鳴とさえ言えるかもしれない。
「今更な話かもしれないがな」
『姫様……』
「すまない。戦場に出る前に、余計な話をした」
413: 弥次郎 :2022/04/24(日) 10:04:16 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
そして、コーネリアは自らに渇を入れ直す。
余計な感傷はここから先は不要だ。
自分たちが話している間に、このネェル・ユーロンを含めた艦載機達の準備が整ったのだ。
「先に行くぞ」
『イエス、ユア・ハイネス』
コーネリアが声だけはしっかりと出したのは、半ば虚勢だ。
こんなところで挫けるなど、許されない。騎士として、戦士として、せめて戦場で散った者たちの弔いをしなくてはならない。
それに応じてくれるギルフォードを筆頭とした部下たちには、正直頭が下がる思いだ。
彼らも彼らで思うところはあるだろう。いつになく、結束できているという実感がわいてきた。
(皮肉なものだ……)
ブリタニアという、他国からすれば忌避される体制の中で生きてきた自分が、それ以上に忌避されるものを見て我が身をやっと振り返るなど。
だが、気が付けただけ、遥かにましなのだ。何も知らないままだったころに戻ることもできない。だから、これは自分が背負っていくものだ。
そう思いながらも、コーネリアは乗機を操作する。後方から迫ってくるSFSにクインローゼスⅡを飛び乗らせたのだ。
一応第九世代KMFの技術であるエナジーウィングを実装しているクインローゼスⅡだが、あくまで補助的な意味合いが強い。
迅速な展開を行うためには、SFSのような補助飛行システムを利用した方が効率がいいのだ。
殊更、展開力と突破力が重視される今回の作戦における役目においては、とにかく速度が必須となる。
無論地上を騎兵として疾駆してもいいのであるが、それはそれで移動時間が長くなり、ベストな配置につけない可能性もあるのだ。
『コーネリア隊、発艦どうぞ!』
「コーネリア・リ・ブリタニア、クインローゼスⅡ出るぞ!」
そして、甲板へと運ばれ、出撃態勢に入ったクインローゼスⅡのコクピットで、コーネリアは叫ぶ。
同時に、一気に操縦桿を押し込み、機体をSFSごと飛び立たせた。
彼女の率いるブリタニアの騎士たちは、亡霊蠢く戦場に飛び込んで行ったのだった。
414: 弥次郎 :2022/04/24(日) 10:04:52 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」西部
戦場は、すでに万全に整いつつあった。
展開した艦艇から次々と艦載機が発艦し、あるいは数的な部分を補うMTなどが地上に下ろされて戦線を形成する。
それらは本物の無人機であり、一糸乱れぬ統率の元で展開し、布陣する。前衛を担う防御型がラインを作り、その後方に砲撃型が並ぶ。
それはレギオンに対抗するファランクスというべきであろうか。動き回ることを前提とする機動兵器に対し、堅牢な防御を展開するガードメカというべきか。
そして、地上の戦力と砲撃の布陣と合わせ、上空の航空艦艇たちも前述のようにトーチカとして展開する。
それらの複合は、まさしくレギオンを受け止める防壁であり、殺戮機構。そしてこれらは、戦局に合わせ変幻自在に変化する柔軟性を持ち合わせていた。
そして、レギオンもまた準備が整ってからしばらくして、行動を一斉に開始した。
「レギオン後方集団より、砲撃を確認!準備射撃と思われます!」
「レギオン先頭集団、陣形を変更。前進の構えを見せています」
「予想通り且つ、お手本通り。レギオンの集団は十分に引き寄せ、反撃を各自開始せよ」
レギオンが選んだのは至極単純な、それでいて堅実な手法。
後方から長射程の長距離砲兵型の砲撃がまず飛んできてMTなどで組んだ防御陣地に突き刺さる。
それらが撃ち込まれ、動きを拘束している間に、機動力に優れた前衛が一気に距離を詰め始めたのだ。
無論、索敵と測距を行う斥候型がまだ前進しきれていない以上、レギオンの砲撃は半ば命中を狙ってはいない。
それらは牽制であり、動きの抑止を狙ったものであった。同時に、上空を抑える航空艦艇に対する攻撃も含まれていた。
「やはり地上戦力ではどうにもならない相手には警戒してくるか……」
ネェル・ユーロンの艦橋の艦長席でパレスは顎を撫でながらつぶやく。
こちらの航空艦艇は最低限の回避運動を行いつつ、飛んでくる砲撃をあえて受け止めていた。
この程度の砲撃でダメージはほとんど受けないことがわかっているからだ。そして同時に、こちらの反撃の用意のためでもあった。
「レギオンの先頭集団の位置は?」
「まだラインBを突破したばかりです」
「よし、各艦へ改めて通達。ラインDに突入次第、砲撃を開始せよ。
MT隊はそれを抜けてラインEに到達したレギオンを叩け。まだだぞ、焦らずに」
改めて各艦に指示が伝達される。
そう、焦りは禁物だ。相手の方から近づいて来てくれるならば、それを待ち構えればよい話だ。
そして、それは早くに訪れることとなった。
「ラインDにレギオン入りました!」
「ラズーム、エターニア、カラバス、レルトー各艦、砲戦を開始!」
そして、蹂躙が始まる。
強力なビームや実弾主砲による砲撃が、定められたラインへと到達したレギオンの群れに突き刺さる。
あっけないほど簡単にレギオンの群れは吹き飛び、あるいは熱量によって蒸発し消え去ってしまう。
敵からの反撃を探知したのか、レギオンの集団はその進路を複雑化させていく。集団ごとの間隔を広くとり、砲撃の密度を下げさせるのが狙いだ。
「ミサイル装填完了、飽和攻撃を開始します!」
だが、そんなことは見越しているのも事実。
単純な誘導ミサイルが次々と発射され、砲撃の隙間を抜けようとするレギオンを吹き飛ばしていく。
レギオンとて阻電子攪乱型を展開して誘導兵器の無力化を図ってはいたが、生憎とその程度のジャミングは効果が薄い。
「敵レギオン、Eライン突破!」
「MT隊行動開始せよ」
それでも前進してくるレギオンは、Eラインを突破した。
膨大な量押し寄せる集団は、死など恐れないかのようにただひたすらに前進してくるのだ。
装脚という複雑ながらも地形への適応力や速度に優れる駆動方式で、機動力と運動性をいかんなく発揮し、同じレギオンの残骸を踏み越えて攻めてくる。
415: 弥次郎 :2022/04/24(日) 10:05:26 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
それだけではない。レギオンの前進と合わせ、さらにレギオンの砲撃がいよいよ頻度を増してきたのだった。
あまり動かずに敢えて受けている艦艇に対し、測距などが完了したためか、統制射撃に入り始めたのだ。
対地・対艦の両方での砲撃は、戦場となったサンマグノリア共和国の領土を耕し、空を彩っていく。
だが、そんな中でもMT隊は無人機故に揺らぐことなく自らの役目を続行したし、航空艦艇もぬるい砲撃を弾きながら健在であった。
やがて、レギオンの前進が一定のラインで止められることになった。特火点として機能する航空艦艇と地上のMT隊による立体砲撃に絡めとられたのだ。
前線が消耗したためなのか、レギオンは後方に控えさせていた集団を、先頭集団を迂回させる形で展開させた。
うまく地形的に逃れられるラインを見極め、高速で突破を試みたのである。
だが、それは同時にレギオンの陣形が縦長に伸びていくということでもあった。
即ち、堅牢な陣形を組んでいた状態が徐々にほころびを見せ始めたということでもある。
それでも前進を選ぶのは、弾切れや相手の疲弊を待ってのことなのかもしれない。あるいは後続集団が迂回をするまでの時間稼ぎか。
だが、目先のレギオンに惑わされることなく、地球連合軍の戦力は次なる一手を放つ。
敵の陣形がほころんだならば、そこに突っ込んでこじ開けていくのが最適解だ。
「エアカバーなしでとは酷く慢心したな、レギオン」
パレスの言葉通り、レギオンには航空戦力はない。
偵察能力を持つ個体は存在しても、基本的には阻電子攪乱型と対空自走砲型によって制空権を握っている。
通常の航空機であるならば、少なくとも星暦惑星の技術であるならば、これで十分に阻害できたのだ。
これにより人類は地上戦を強いられることになり、物量のレギオンに苦しめられることとなっていた。
だが、そんな程度の妨害など地球連合は潜り抜けてきた経験がある。
艦載機のTMSあるいは飛行MTがその火力を解き放って阻電子攪乱型を焼き払い、対空砲兵型の弾幕を潜り抜けて攻撃を仕掛けた。
動きが鈍くならざるを得ない長距離砲兵型や対空自走砲型などをまとめて吹き飛ばしていくのだ。
レギオンに航空戦力があれば阻止できたであろうが、皮肉にもレギオンの阻電子攪乱型の存在がそれを不可能にしてしまったのだ。
斯くして、レギオンの堅牢だったはずの陣形は、引き伸ばされ、そして航空攻撃により虫食いとなり、砲撃によって削られた。
それは、集団を率いる「特殊個体」たる「黒羊」が搭載された重戦車型の防備が緩くなることを意味した。
無論、レギオン---「黒羊」もそのことは把握している。だから戦力を整え、陣形の隙間を埋めようとした。
「捕らえたぞ、特殊個体……!」
だが、そのタイミングを待ちわびて、突入してくる集団があった。
SFSによりレギオンの集団を大きく迂回して戦闘を回避し、隙だらけになった横っ腹を貫く位置に布陣していたKMFやMS達だった。
優先目標である航空艦艇に注視したあまりに、言うなれば視野狭窄に陥ったレギオンの目を潜り抜けた伏兵。
その一団の一つを率いるコーネリアは、乗機たるクインローゼスⅡのエナジーウィングを展開し、麾下のKMFと共に突破をかけた。
他の集団---特殊個体を叩き、捕らわれたエイティシックス達を解放するための首狩り部隊---とタイミングを合わせた一斉攻撃。
その槍の直線状に、NT達が指示した特殊個体を捕らえ、クインローゼスⅡは突撃を開始した。
416: 弥次郎 :2022/04/24(日) 10:06:06 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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次回、コーネリア殿下、ヒャッハー。
次の次くらいでレーナには曇ってもらおっかなって…(畜生並感
最終更新:2023年11月05日 15:18