528: 弥次郎 :2022/04/24(日) 22:37:48 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」5



  • 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 西部


 少しばかり、時間は遡る。
 レギオンたちの攻勢と砲撃は、連合の展開した無人機群に突き刺さっていった。
 だが、それらは効力を発揮できてはいなかった。これがジャガーノートや他国のフェルドレスならば戦術効果も相まって脅威だっただろう。
それが通用しなかったのも、偏に、彼我の性能差があまりにも開きすぎていたため、と言えるだろう。

 地球連合が展開したのは、前衛で壁役となるファットボールドの派生形シールドボールド。
さらにその後方に中衛となるUNAC、そして後衛にはフォイヤーベルクやナースホルンなどが展開。さらにはサガルマタといった大型も含まれていた。
 何も考えることなく連合はMTを並べたのではない。シールドボールドの持つ防御機構により、その砲撃を弾くためだった。
展開されるのは強力なEフィールド。それも、個体レベルではない、軍団レベルの広範囲型だ。
そもそも、シールドボールドの名前は伊達や酔狂ではないのだ。重装甲に物理的なシールドも合わせ、まさしく鉄壁の盾となるのだ。

『------』

 しかし、それでもレギオンはひるまない。機械。無人機。感情を持たず、命令のままに動く殺戮マシン。
 先頭を切ってきた斥候型が、そして近接狩猟型が距離を一気に詰め、直接攻撃を試みようとする。

『ターゲット確認、攻撃を開始します』

 だが、それを黙って見過ごすことはない。シールドボールドの隊列の隙間、あるいはその後ろから、UNACの攻撃が始まったのだ。
中近距離での火力と弾幕形成力を優先した装備のそれらは、突破してレギオンに攻撃を開始する。
発砲音は、電動のこぎりなどというレベルではなかった。まさしく絶叫とも呼ぶべき音とともに、駆除が始まった。
フォーミュラブレインにより制御されるUNACは無人機。何のためらいも良心の呵責もなく、レギオンに攻撃を開始したのだ。
 小型の斥候型も、近接狩猟型も、あるいは装甲にも速力にも優れる戦車型も等しく粉々に粉砕されていくのだった。
運よく突破してきたレギオンもいたが、その決死の突進や銃撃もシールドボールドに受け止められ、シールドバッシュや近接兵装により処理されていく。
結果的に、前衛は全く揺らぐことはなかったのだ。

 そして、後衛はこの間にただ黙っていたわけではない。
 敵の砲撃を前衛が受け止めている間に、その発射地点の観測データが届くのを待ち、そしてそこに照準を合わせていたのだ。
後方にいる長距離砲兵型や対空自走砲型という存在は、圧倒的な射程を持つが、どうしても砲撃によりその存在は露になるのだ。
発砲炎や発砲音や振動という形でその存在を大きく戦場に響かせてしまうのである。無論のこと陣地転換もその脚によって可能であろう。
相手が、すなわち地球連合の戦力がレギオンの攻撃の届かぬ上空から観測を行っていなければの話であったが。

『ターゲット確認、攻撃を開始します』

 そして、ナースホルンの砲撃型とフォイヤーベルクが、その砲門を旋回させ、反撃の砲火を放つ。
合わせるようにして、大型MTであるサガルマタのVLSから大量のマイクロミサイルが飛び立っていった。
それらの目的はただ一つ、間抜けにも防御を行わずに砲撃を行ったレギオンの排除にある。

『命中確認』

 そして、猛烈な勢いで戦域を飛び越え、着弾した砲弾やミサイルはその効果を十二分に発揮した。
 展開していたレギオンの群れをまとめて吹き飛ばしたのだ。さらにそれは一度では終わらないし、一つの集団だけにとどまらない。
他のファランクスからも、次々と砲撃が開始され、連続で撃ち込んでいくのである。

『攻撃続行します』

 そして、撃破の確認にも何ら感慨は抱かない。
 ただ、命じられるままに、その攻撃を続行するのみだった。

529: 弥次郎 :2022/04/24(日) 22:38:19 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 西部 迂回ルート


 SFSに乗った機動兵器群は、順調に侵攻していた。
 地形と建造物をうまく生かし、低空飛行で飛び、レギオンの探知範囲外に飛び出して迂回、側面へと回ったのである。
前衛に派手に布陣した戦力を、そして航空艦艇というレギオンにとって脅威の戦力の排除を優先したことによる見落とし。
ここには連合によってかけられたジャミングと、レギオンの観測機排除によるものもあるだろう。
ともあれ、敵は金床に据えられていることに変わりはなく、あとは鎚によって叩くのを待つのみであった。
無論レギオンの羊飼いや黒羊もその可能性は考慮はしていた。しかし、それに意識を割く余裕を持たせないほど、相手の防衛線が固すぎた。
 そして、予定ポイント到着後に速やかにSFSから降り、地上に降り立ったコーネリアの部隊はすぐさま通信を繋ぐ。

「こちらバタフライ・リーダー、配置についた」
『CP、了解。流石コーネリア隊、素早い展開です』
「ふ、当然だ。こちらからの様子を送る」

 クインローゼスⅡのバックパックから射出された小型ドローンによる観測結果は、即座に母艦であるネェル・ユーロンの戦術指揮所に届けられた。

『なるほど……敵配置は見事に伸びていますので、ちょうど横合いから狙える位置ですね』
「他の部隊は?」
『しばしお待ちを……はい、ただいま配置完了しました』
「よし」

 報告を受け、コーネリアは操縦桿から手を離し、指揮管制システムを呼び出して操作する。
 上空と、現在位置と、観測機。さらにはNT達により識別された情報。これらの統合が画面へと表示されていく。
当初観測されたものよりも、さらに数が膨れ上がっている。万にも届こうかというレベルだ。

(増援があとから駆け付けている、か)

 コーネリアの懸念は、間隙を縫って突破を仕掛けられるかであった。
 こちらの存在が露見すれば、当然相手も対応する。殊更に指揮系統を担うと思われる特殊個体を守るために行動するのは必定だろう。

「こちらバタフライリーダー。敵の増援が接近中。
 突破はできなくもないが、包囲の可能性が高まっている」
『こちらCP。レギオン増援については捕捉済みです。
 こちらから突撃に合わせた支援砲撃など、各種オプションが可能と判断されています』
「敵の砲撃の合間を縫っての突破か」
『無論、全力射撃とは言いませんが、敵特殊個体の集団を撃滅するまでの時間稼ぎは行えるかと』
「言ってくれるな」

 とはいえ、あまり時間がないのも確かであるし、投射火力に限界があるのも確か。
 ならば、グダグダするよりも目標の撃破を優先した方がいいだろう。
 即座の判断でそれを選ぶと、各部隊に目標を割り当てる。

「各員、各部隊。我らの目的はブリーフィングの通りだ。
 これより、死地に飛び込む。敵の増援が後から後からと押し寄せてきていることを考えれば、我らが選ぶべきは前方への脱出に他ならない」

 そして、回線で各部隊のパイロット達に声を飛ばす。

「レギオンに捕らわれた彼らに与えられるのは、幕引きのみ。我々はその救いを誉れとする。
 各員、奮起せよ」

 言葉は短く、されど、思いは強く。
 これはレギオンに勝つことも目的であるが、強制されたとはいえ戦場で戦い命を落とした者たちへの弔いだ。
そのコーネリアの言葉は、改めて戦士たちを鼓舞する。

『うおおおおおおお!』
『エイティシックス達に救いを!』

 士気は高い、とても。ならば行けると、コーネリアは判断した。
 そして、ついにレギオンの群れに間隙が空いた。集団を動かす中でどうしても発生する。

「全軍、行動開始。止まるな!」

 その合図を以て、一斉に地球連合軍の戦力、横合いから殴り込む伏兵たちが、一気に行動を開始したのだった。

 そして、一斉に始まった連合軍の動きは当然ながらレギオンにも感知された。
 同時に、出現した集団がそれぞれが一直線に地形を踏破して突破する流れの先に何があるかを理解すると、前方への攻勢を止め、方向転換を行った。
 だが、それは数の多い軍勢であるがゆえに、どうしても緩慢になった。後ろから逐次駆けつける予備戦力の編成も行いながらというのも拍車をかけた。
つまり、発生した間隙を埋めようにもその数がネックとなり、渋滞を起こしてしまったのである。

530: 弥次郎 :2022/04/24(日) 22:38:50 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 そこに追い打ちをかけたのが、連合軍の戦力の破格の突破能力であった。
 良くも悪くも、レギオンの戦いは人類の、星暦惑星の兵器や人類を相手取ることを前提としていた。
つまり、常識はどうしてもそこに重きが置かれてしまうものであり、連合という先を行く文明を相手取ることを想定していない。
 だから、大型で被弾面積が大きい兵器が自分たちを遥かに超える機動力で突撃して突破してくることに、対処できずにいたのだ。
 よって、羊飼いや黒羊にできたことはせめてもの抵抗として自分の周囲に戦力を固め、突撃してくる部隊に備えることだけであった。

「続けぇ!」

 だが、そんな泥縄式の対応など、あっさり破られた。
 コーネリアの操るクインローゼスⅡZ型および一般機のB型で構成された部隊は、一つの圧殺機械として蹂躙していった。
横に並び、槍の穂先を揃え、エナジーウィングによる飛行で突撃するクインローゼスⅡは、その槍から展開されるエナジーウィングですべてを薙ぎ払っていったのだ。
まるで巨大なドーザーブレードによる整地とさえ言えるだろう。潤沢な電力供給で実現したエナジーウィングの攻防一体の盾。
それらが並び、その槍自体に引っ張られる形で突撃してくことで、その有効範囲に入ったレギオンを文字通り轢き殺しながら進む。
当然砲撃なども飛んでくるのだが、エナジーウィングによって当然のように弾かれるし、逃れようとする個体も放たれるエナジーウィングの刃に切り裂かれる。
 これだけでも脅威なところに、追い打ちをかけるのはサンマグノリア共和国側に布陣する航空艦艇からの援護射撃だ。
後方から駆け付けるレギオンたちに対する対地砲撃が的確に突き刺さり、コーネリア隊の突撃に追いすがろうとする動きを抑止するのだ。

『姫様、補足しました!』
「ああ、こちらでも確認した!」

 ギルフォードの通信に、コーネリアは頷きを返した。
 モニターにその個体を、レギオンの中でも指揮を執る立場にある特殊個体を捕らえたのだ。

(なるほど、特別仕様か……)

 重戦車型。戦車型をさらに拡張した大型の装脚戦車。
 明らかに周囲に護衛と思われる戦車型や近接狩猟型を引き連れ、さらに斥候型を展開しているのが見える。
指揮をする個体としてやすやすと叩かれることが無いように強力なボディを与え、尚且つ護衛戦力を張り付ける。
これらを通常撃破するならば、相当な犠牲や戦力を前提としなければならないだろう。
指揮官がいることで有機的に動く前衛を踏破し、その上で通常よりも強力な個体スペックの相手を撃破する。なるほど厄介だ。
 そして、その重戦車型はその砲塔を巡らせ、コーネリア隊に照準を合わせようとしていた。

「舐めるなよ、亡霊風情が!」

 だが、コーネリア隊は前進を続行した。
 当然砲撃や弾丸の嵐が襲い掛かってくる。弾丸との相対速度はそれまで以上となり、必然的に衝突の運動エネルギーは高くなる。
これだけ浴びせれば、というレギオンの意志をコーネリアは感じ取った。別にNTなどではないにしても、行動にそういう意図を見出したのだ。

「甘いな!」

 しかし、そんなものなど生温いにもほどがあろうというもの。
 伊達や酔狂で第九世代KMFの技術をブラッシュアップの上で取り込んではいないのだ。そんな程度の攻撃など容易く凌ぎ、突破していける。
 彼我の距離がいよいよ詰まり、必殺の間合いに入った時、コーネリアは重戦車型のセンサーと目が合ったような気がした。
 そこには、まぎれもない怯えと恐怖が存在していた。砲塔から砲撃を続行し、機銃を放ち、こちらの槍から逃れようとしながらも、恐怖から目を逸らせずにいた。
 これが「首なしの死神」であれば、恐怖の叫びでも聞いたかもしれない。
 NTであれば、同じように死の間際に挙げる声を感じ取ることができたかもしれない。
 だが、コーネリアにそんな特別な力などない。ただあるのは、相手を殺す覚悟と、それとはまるで正反対の慈悲の心。

「眠れ、安らかに」

 そして、コーネリアの操るクインローゼスⅡのエナジーランスが、ただ一撃を以て重戦車型を破壊しつくした。
内部に捕らわれたエイティシックスの脳も、魂も、あるいはそれをレギオンの思うが儘に動かすための機構もすべて。

531: 弥次郎 :2022/04/24(日) 22:39:41 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 そして、目標を撃破したコーネリア隊がそのまま突破を続け、離脱を選んでいたころ、各部隊も同様に離脱を開始していた。
CPからの的確な誘導とその機体スペックを生かした突撃を敢行したMSやACなどにより、点在していた羊飼いや黒羊は次々と撃破されたのだ。

 そうなると、とたんにレギオンの脅威度は下がる。
 独自判断し、行動するためのAI---中央処理系を有しているレギオンは、設定された目的のために行動ができる。
さりとて、あくまでもそれは個体の行動レベルの一つでしかない。有機的・戦術的な行動を行うためには誰かしらが指示を下さねばならないのだ。
そういう意味では、指揮ネットワークから指示を受け、各方面で戦術的な指揮を執る黒羊やその下位互換の羊飼いは非常に助かるものであった。

 では、いきなりそれらが刈り取られたらどうなるか?
 そこは無人兵器のレギオンとて、次にどのような行動をとればよいかわからなくなり、遊兵化や孤立化を避けられなくなるのである。
まして、一気呵成に、ほんの短い時間で指揮中枢が撃破されたのだ。その影響は広範囲に展開した膨大な数のレギオンに及んだ。
皮肉にも、脅威を排除するためにそろえた膨大な数の個体こそが、レギオンの行動に対して重すぎる足かせとなったのである。
 そして、それを見過ごすほど生温い戦争をやっていないのが地球連合軍だ。

「障害は撃破された。各隊へ通達、殲滅戦に移行せよ」

 それは、逼塞していたかに見えた戦力への許可であった。すなわち、烏合の衆と化したレギオンを圧殺せよと。
 合図を受け、敵の攻撃を受け持っていた重MT達を飛び越え、フォーミュラブレイン制御のノーマルACやVAC達が一斉に攻勢に出る。
その攻勢を後衛を務める砲撃型のMT達がこれまで以上の火力を以て支援していく。

「TMS隊、発艦開始。容赦は不要だ」

 ネェル・ユーロンの艦長席のパレスの声とともに、さらに追い打ちの一手が解き放たれる。
 対地攻撃機として爆装を行ったTMS隊がネェル・ユーロンの僚艦から次々と解き放たれたのだ。
 数としては16機4個小隊。さりとて、その速力でレギオンの逃走ルートに陣取られて攻撃するのだから脅威以外の何物でもない。
レギオンの集団は数的不利を悟ったか、犠牲を出しながらも撤退をしようとしていた。すでに最前線および中枢は完全に勝敗が決まった状態。
なればこそ、レギオンの判断は生き残っている個体の撤収であった。生産が可能と言えどもただではないのだから。

 しかし、エアカバーも何もないレギオンに、そんな見え据えた行動を行えるはずもない。
 人間の軍隊で言えばもはや壊滅を通り越し、全滅しているレベルの損耗だ。それはもはや敗走以外の何物でもない。
これが人間相手ならば死兵となることを恐れて見逃すことくらいはあるが、相手は無人機なのでその心配もない。
ここでわざわざ戦力を吐き出してくれたのだから、可能な限り数を減らしたいわけである。
 斯くして、TMS隊の発艦と攻撃が行われ、1時間も絶たないうちに、戦闘エリアにおけるレギオンの、文字通りでの殲滅が完了したのだった。

532: 弥次郎 :2022/04/24(日) 22:40:22 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
慈悲の一撃。これが、黒羊の魂の鎮魂とならんことを。

面白みがない?横綱相撲ってそういうものなのですよ…
次回、サンマグノリア共和国で曇るレーナさんと白豚達
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最終更新:2023年11月05日 15:19