930 :ひゅうが:2012/02/17(金) 00:40:41
銀河憂鬱伝説ネタ 本編とは無関係なネタ話――「パンジャンドラム年代記」
――(中略)
パンジャンドラム――その、「ボビンの車輪に回転推進用のロケットエンジンをつけた」とも、「火車のような」と形容される兵器は、1940年の英国で誕生した。
当初は上陸してくる独軍相手に砂浜から落っことしたり、上陸用舟艇に積んで海岸のトーチカを破壊する目的で制作されたため、誘導装置はなく単純な無誘導式であった。
そのために砂浜の凹凸に足を取られて回転方向を変え、放った本人のもとに2トン近い火薬と一緒に帰ってくるという喜劇的な光景を作り出していたこの兵器は、英国的としか言いようがない努力の末に実用化に至る。
仕掛けは多岐にわたる。
爆薬が回転によって動くことを防止すべく、日本からライセンス生産していた高性能RDXを固形化した原始的なプラスチック爆薬を採用し、重心のずれを抑える。
また、単純な馬車のような車輪を帆布でくるんだ上記のもので包み、ゴムタイヤと同様の圧力分散を図った。
さらに、中央の車軸部の中心に3つのジャイロを置いたのである。
後世人工衛星で用いられるリアクションホイールと呼ばれるもののそれは元祖だった。
回転するジャイロは軸が自身は回転しないようになっている爆薬部の重心を通るようになっており、凸凹によって変動する進行方向を可能な限り一方へ絞るという効果を持っていたのだ。
しかも、それにあわせて後方にビーム(支持軸)で取り付けられた安定用小型車輪も修正される単純な仕掛けが付属されている。
もちろん大量生産の兵器らしくジャイロを回すのに電動モーターなどは使わず、ゼンマイ方式というこれまた単純なものを備えている。
後期型になると、光電管かサーモスタットを利用した太陽追跡装置を付属させて「太陽を同じ方向に見ながら」まっすぐ進む「前進保障装置」までもが付属されていた。
まったくギャグのような兵器であるが、その信頼性は意外に高かったのである。
開発・発案者のネビル・シュートの尽力もあり、このギャグのような兵器は10年以上にわたってアルビオンの断崖を守り続けることになる。
しかしさすがに1950年代に入ると誘導兵器の隆盛とともにその役割は終わりを告げた――はずだった。
ここで、パンジャンドラム系の技術にひとつの必要性が与えられる。
遅ればせながら弾道ミサイルの開発に着手していた英国人たちは、誘導技術の確立に手間取っていたのだ。
とりわけ飛行中のミサイルの安定は彼らの苦手な分野だった。
そこで誰かが言った。
「回せばいいんじゃね?ライフルとかパンジャンドラムみたいに。」
考えてみてほしい。パンジャンドラムの安定方式を。
ジャイロを回転させることで進行方向を制御する。
これは、弾道飛行中のミサイルにこそふさわしい技術ではないだろうか?
かくして、ガスジェットを使って本体をパンジャンドラムよろしく回転させながら、ジャイロ安定装置を使って飛翔軸を安定させた英国製弾道ミサイルは完成を見る。
また、日本人が作った衛星打ち上げロケットに乗せられた初の衛星は、安定のためにこれまた回転しつつカメラだけを地球に向けた「偵察衛星」だった。
とまぁここでパンジャンドラム系技術はひとつの頂点を極め、リアクションホイールが発展をしていくとともに回転するロケットというアイデアは失われていった。
基本的にその必要がなくなるほど誘導技術が発達したからだった。
ここに至っては英国人もおとなしくなる――ことはなかった。
13日戦争と、そのあとの英国の宇宙移転がその理由である。
931 :ひゅうが:2012/02/17(金) 00:41:12
スペースコロニーは、遠心力を利用して疑似重力を発生させるのだが、そこにパンジャンドラムの回転軸制御と安定技術は生かされたのだ。
偶然かどうかはわからないが、英国人がはじめて作ったコロニーはドーナツを2つ縦に積み重ねたような「トーラス型」と呼ばれるパンジャンドラムそっくりにものだった。
そして大量移民用に作られたシリンダー型も、トーラス型と同様のドーナツをいくつも縦につなげるように「回転しつつ安定させて」建造が行われた。
その効率から日本人すらその方式を一時は採用したほどだった。
そして初期から中期にかけての宇宙船用の人工重力区画の世界シェアでトップを誇ったのは、あのネビル・シュートも所属した「英国王立工廠」の後身である「ロイヤル・ブリティッシュ・インダストリー」だった。
その栄光はワープ航法と、宇宙船に人工重力が取り入れられたことで終わりを迎え――はしなかった。
今度は同社は宇宙空間における無尽蔵のエネルギー「恒星」を利用した大型太陽炉のシェアを高めはじめたのだ。
無重力という空間を利用した合金を作りつつ、正確無比な集熱ミラーの照射を実現するべく同社をはじめとする英国企業連合がとったのは、回転するトーラスの円周上にミラーを配置するという方式だった。
これなら遠心力方向にミラーが引っ張られて安定し、中心軸は動かさないというパンジャンドラム方式を維持することで無重力状態が維持できる。
回転するミラーのおかげで周囲からまんべんなく加熱できることも魅力だった。
この方式を利用し、英国人たちは宇宙空間を漂う金属質小惑星を高い効率で製鋼していったのだ。
そうして磨かれた技術は向上を続け、ついには粒子砲などの高エネルギー兵器にまで回転を持ち込むことで高効率化を開始した。
レーザーと粒子流に回転を加えることで流れ自体の安定性を増した英国式のそれは、現在も兵器体系の基本となっている。
ここまでくればパンジャンドラム関係ないんじゃないかといわれるかもしれないが、英国人は決してパンジャンドラムを忘れてはいなかった。
銀河連邦末期の混乱で日本をはじめとした国家群とともに移転を敢行した英国人たちは、万が一の時に備えて自国の防衛システムの構築を怠りはしなかった。
その時誰かが思いついたのだ。
「ビーム発生器本体を回転させてみよう。これなら発射地点での発振器のブレを簡単にゼロにできる。」
それは、技術者が古い回顧録を読んで得たインスピレーションだったという。
回転することでジャイロ効果を生み、宇宙空間のビーム命中率に大きく関わるブレをゼロに等しくするのである。
この案はうまくいき、エネルギー流の勢いが強いものでも消防のホースを安定させるようにまったくブレが生じなくなった。
喜んだ英国人は宇宙艦から発進する無人の機動爆雷の炸薬搭載量を安定装置を小型化できる分大量に搭載できることになった。
何しろ、回転する外側の外郭に安定材用のウェイトとして爆薬を積めばよく、中央軸にビーム砲を搭載すればいいのである。
こうして誕生した高性能機動爆雷に「パンジャンドラム」の名が冠されたのはむしろ必然だっただろう。
そしてこの方式は、ついには首都星を防衛する宇宙砲台にも応用された。
かくて――
夢幻会が「巨大パンジャンドラムに首都星を守られるのか・・・大英帝国は・・・」と絶句する英国的すぎる光景が。
「宇宙をパンジャンドラムが乱舞している!?」と絶句する英国的すぎる艦隊戦の光景は出現したのだった。
結論――奴らはどこまでいっても奴らだった。
最終更新:2012年02月18日 21:31