824: 弥次郎 :2022/04/26(火) 20:40:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」7
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 ブランジューヌ宮殿 国軍本部 プロセッサー指揮管制室
さて、と仕切り直した藤山の声に、レーナもまた意識を切り替える。
これで、地球連合が接触してきた理由は分かった。
外宇宙から来た地球連合と同じく、外宇宙からくる敵対的な侵略者。それが、この惑星を含む恒星系に襲い来るかもしれないという未来。
彼らの国家戦略・安全保障という概念から鑑みるに、介入せざるを得なかったがゆえのこの惑星の住人との接触。
ならば、その目的が分かったならば、次に論ずるべきは一つだ。
「それでは、我々が、サンマグノリア共和国をはじめとしたこの惑星の地上の国家として、貴連合に対して何か求められることはあるのでしょうか?」
そう、相手が接触してきて、一方的に守ってもらえるというだけではだめだ。
彼らは現地の国家との折衝や協力も必要だといったのだから、その為にもこちらからアクションをとらなくてはならないのは明白だ。
同時に予感もある。これまでサンマグノリア共和国が見せてきた態度などから、地球連合がどう評価するかを。
『あることはあります。ですが……残念ながら貴国の政府および軍へ期待はできるとは言えません』
「やはり、ですか」
そして、予想通りの答えが返ってきた。
信用されないというのは当然だ。
それに、藤山の言では、サンマグノリア共和国などはあくまでも惑星内文明にすぎないということ。
意味はおのずと分かる。彼らが星の海を渡り、遠く離れた恒星系からこちらの惑星までやってこれたのは、その文明が発展しているからだ。
それこそ、一つの惑星という括りを飛び越え、星の外に進出していくような、高い技術と意志を持った国家群なのだろう。
つまり、なにかをしてやれるほど、この惑星の住人は地球連合に追いつけていないのだ。
『ミリーゼ大尉もお判りでしょうが、貴国から何かしらの援助を受けることはあるでしょう。
ただ、それはごくわずかなことであり、必要ならば自分達でも何かしらの方法で対処できます。
そもそも、この恒星系における防衛線の構築場所はこの恒星系の外側。あなた方に兵力などを期待などしておりません』
「……」
『ああ、ミリーゼ大尉を責めているわけではありません。これに関しては、どうしようもないことですので。
今日明日に惑星内文明のあなた方がいきなり宇宙進出文明にまで発展するなど無理なのです』
ただ、それでも接触したのは理由がある。
宇宙怪獣がやってくることで発生しうるリスクとして、あるいは起きうる未来として、一つの結末があるのだから。
『ですが、宇宙怪獣との戦争で、ひょっとしたらありうるかもしれない未来が存在するのです。
宇宙怪獣はとにかく数が多く、凶暴で、恐ろしい能力を持つ。我々でさえも、対処しきれるかどうかも怪しいほどに』
「そんな……」
『もし、我々の対処能力を超えて押し寄せてきた場合、遺憾ながら戦線は放棄せざるを得ません。
そうならなくとも、惑星の一つや二つ、手軽に滅ぼすこともできる相手ですので、被害を0にすることなど極めて難しいでしょう』
レーナとしては絶句するしかない。
こちらの想像をはるかに超える文明を持つ地球連合さえもかなわない敵対的な生命体が押し寄せてくる未来。
想像することも、想定することもしたことがない、全く未知の脅威だ。対処なんてできるはずもない。
『そうなった場合、我々の考える最悪のシナリオに入った場合。貴国は、いやこの惑星は滅ぼされます。文字通り、跡形もなく。
そうした場合の対処法はただ一つ』
一息入れて、藤山は告げる。
『文明の、この惑星からの脱出のみです』
825: 弥次郎 :2022/04/26(火) 20:40:43 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
脱出。つまり、この国から、土地から、もっと言えば惑星から逃げ出してしまう、ということだ。
絶句するレーナに対し、藤山は言葉を続ける。
『宇宙怪獣は、宇宙から惑星を攻撃する手段も備えております。あらゆる方法で、生命体を滅ぼしにかかるのを我々は知っております。
それを防ぎきれないならば、いっそのこと安全なところまで退避したほうがよほど建設的な話です。
そちらにも同じような言葉があれば…エクソダス、ということになります』
「エクソダス……」
似たような言葉はある。国外脱出、大量出国を意味する言葉だ。
それが登場するのは古い宗教の書物に記された、歴史的大事件。
ある民族が、迫害などから逃れ、自らの新天地を求め、一斉に脱出を行った。
「聞いたことがあります。新天地、救いを求めて旧来の土地から脱出することを、そう呼ぶと」
『ならば、話は早い。
我々としては、この最悪の場合のプランも提示する形で、各国や各勢力と接触しております。
我々にとっては貴国をはじめとしたこの惑星の住人や文明を逃がすのは手間ではありますが、見捨てることはできない。
我々の矜持と意識の問題につながりますので』
その言葉は、事実だろう。
考えるだけでも、分かろうというものだ。この国でさえ、安全なグラン・ミュール内に逃しきれた人口は高が知れている。
それだけの手間がかかり、時間がかかり、コストがかかる。ましてレギオンという勢力との間に戦争をしながらという悪条件のなかでだ。
それを、この惑星という途方もないスケールと、宇宙怪獣という聞くだけでも明らかに恐ろしい相手と戦いながらやるなど、愚の骨頂だ。
あくまでも他国の勢力ということを考えれば、見捨ててしまった方がよほど楽であろう。
(矜持と意識。それだけで……)
つまり、気分の問題ということだ。
我々に何らかの価値があるとかそういうわけではなく、見つけて発見してしまった以上、見捨てては後味が悪いと、そういうことになる。
分からなくもない心情であり、しかし、お前たちにはそれ以上の価値はない、と断じられたようでもあり、複雑だった。
憤ることも容易い。だが、それ以上に何もできないのだ。ここで泣いて喚いたところで、彼我の差がどうなるわけでもない。
いずれは押し寄せてくるかもしれない宇宙怪獣が消えてなくなるわけでもない。
『無論、これは最悪の場合ということです』
レーナの沈黙の意味を察し、藤山は言葉を紡いだ。
『宇宙怪獣がこちらを補足しなければ、あるいは攻めてこなければ、問題はないのです。
勿論、見つからずに過ごすことができるかどうかは全くの別なのですが』
「はい。実際のところ、見つかる可能性はどれほどなのでしょうか?」
『その問いかけに対する答えは非常に難しいです。
宇宙怪獣のことを我々はすべて把握しているというわけではないのですし、我々は宇宙怪獣ではありませんからね。
ただ、知的生命体が生存している時点で、宇宙怪獣が何らかの方法で察知する可能性は十分にあることは事実です』
「……そんな」
不確定である。それは希望もあるが、同時に絶望もあるということ。
彼ら地球連合でさえも防ぎきれないほど押し寄せられたら、最悪逃げ出すしかない。
自分たちにできることは宇宙怪獣に見つからず、尚且つ防がれることを祈ることだけということ。
『加えて、この惑星の貴国を周辺とした地域には無人兵器であるレギオンが動き続けているのも問題です。
宇宙怪獣が押し寄せてこなくとも、このままレギオンによって滅ぼされる可能性が存在しますからね』
「レギオンに……」
『ええ。貴国はこの防壁…グラン・ミュールと防衛機構によって守られているようですが、あまりにも脆いと言わざるを得ません。
このままでは、レギオンがいざ本格的な大攻勢に出た時点で滅びるでしょう』
826: 弥次郎 :2022/04/26(火) 20:41:23 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
「それは……どういうことでしょうか?
我々の探知では、レギオンの数は減少傾向にあります。
それに加え、レギオンには中央処理装置の寿命が設定されており、あと数年と経たずに機能を停止すると……」
思わず、反射で言葉が出てきた。
それは、共和国が行っている調査や、あるいは傍受されたギアーデ帝国の情報から勘案したことだ。
レーダーなどで捕捉され、あるいは攻め寄せてくるレギオンの数は減り続けている。
加えて、レギオンのいわば寿命が存在している以上、防衛線に徹していれば、いずれはレギオンは動きを止めてしまうのだ。
だが、その常識を、サンマグノリア共和国の認識を、藤山は鼻で笑った。
『確かに水平方向への防御という意味では、このグラン・ミュールは有効でしょう。
ですが、たかだか前線との間に100㎞の距離と多少の地雷、そしてまともに稼働しない要塞砲だけで防ぎきれるでしょうか?
結局は最前線でのエイティシックス達を犠牲を前提にしているではないですか』
加えて、と藤山は付け足す。
『我々は、衛星軌道上から落下し、質量弾として攻撃を仕掛ける攻撃衛星型のレギオンを確認しております』
「……ッ!?」
その意味するところは、言うまでもない。レーナでも意味が解ることだ。
つまり、グラン・ミュールをはじめとした防衛線はあくまでもレギオンが地上戦力主体であることを前提としたもの。
彼らの言うところの攻撃衛星型のレギオン---質量弾を衛星軌道上から落としてくる個体の存在などまるで想定されていない。
水平方向への防壁は何ら役に立たないし、何ならば内部に着弾すれば衝撃波などを反射してより被害を拡大させるだろう。
「そんな個体が、存在したなんて……!そんな攻撃を受けたら……!」
『宇宙から来た我々が一番最初に接触したものです。地上の勢力が置いたものかと思われましたが、どうやらそうではなさそうなので……』
「少なくとも、我々はそのような兵器を配備した覚えはありません。間違いなくレギオンでしょう……」
『ならば、確定でしょうな。地上を航行する我々も攻撃を受けまして、対処することはできましたが、少しばかり手を焼かされました。
おまけに、レギオンの勢力圏にこれを打ち上げるための設備があることも確認されており、いずれ対処を予定しています』
レーナはその攻撃衛星型のレギオンの存在を手帳にメモする。
藤山との交渉が始まってから、すでにだいぶ書き込んだり、ページを破ってメモしたりしていたが、それでも覚えておくべきことだった。
だが、同時に思うのは、それだけでは決定打とならない、ということだ。
地上を軌道上から攻撃することができる、と言っても、それだけでは共和国を滅ぼすことはできないはず。
最終的には地上戦力を送り込み、滅ぼさねばならない。レギオンが定められている、いわば寿命を克服しているとでもいうのだろうか?
「それへ対処するだけで、だいぶ延命は可能かと思われますが……」
『しかし、それでも不足なのです』
その断言は、しかし、苦々しい口調だった。
藤山は、一つ前置きをしたうえで、一気に言い放つ。
『我々はレギオンからの攻撃を受け、反撃し、レギオンを鹵獲して分析しました。
そこで、一つの事実に突き当たったのです』
即ち、レギオンが、設計段階での寿命を遥かに超えて活動し、尚且つ数を増やせる要因を。
そして、サンマグノリア共和国が知らず知らずのうちに犯していた、とてつもない愚を表にする言葉を。
『それは、貴国の、サンマグノリア共和国の、いわばレギオンに対する利敵行為にあると我々は判断しております』
827: 弥次郎 :2022/04/26(火) 20:43:12 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
これ、政府と軍にも流されている会話なんですよねぇ
ついでに言えば外部スピーカーを通じてグラン・ミュールの内側に入り人々にも聞こえている(他人事
サンマグノリア共和国に対する殺意が高い?
伊達に数週間以上、各国の上空に居座って放送やら情報収集をしていたわけじゃないんだよなぁ…
偵察機を飛ばしたり、あるいはドローンを送り込んだりなんだりで、多くの情報を収集しています。
それこそ、未知の惑星に入るための、防疫の準備も。
そして、サンマグノリア共和国が無視を決め込んでいた間に接触したエイティシックス達の情報と、
鹵獲したレギオンの解析結果を合わせれば……いずれはたどり着く答えです。
あと2話か3話くらいで、接触編は終わる予定となっております。
最終更新:2022年05月04日 22:58