17: 弥次郎 :2022/04/27(水) 21:25:17 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」8
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」上空 地球連合外交使節艦隊旗艦「ネェル・アーガマ級ネェル・ユーロン」
ついにその事実に触れたか、と艦橋はある種の緊張感にあふれていた。
それは、地球連合でも最新の情報だった。
地球連合は何も、サンマグノリア共和国とだけ接触したわけではない。
他国---ギアーデ連邦やヴァルト盟約同盟、ロア=グレキア連合王国、レグキード征海船団国群、ノイリャナルセ聖教国と接触している。
現在進行形で他国でも交渉や折衝は続けられており、情報共有なども順調に進んでいるのだ。
その中で交換された情報には当然のことながらレギオンの情報も含まれている。
その設計や開発、誕生までの経緯、あるいは如何にして戦ってきたのかを含めて。
そして、その事実を教えられたのだ。レギオンは人の死体を、殊更に頭を回収し、それを模した中央処理装置を作っていると。
各国はその事実におおむね気が付いていた。撃破し、回収したレギオンを分析する中で、中央処理装置の構造が違うタイプが存在すると。
そう、元々帝国が用いていた動物などの哺乳類をベースとしたものよりも、より複雑で、より高性能で、尚且つ人類にとって見慣れていた構造。
即ち---人間の脳構造。
それを搭載しているレギオンが他と違う挙動を示すことも、納得できる話だ。霊長類などと名乗るように、人間の脳の構造は他の生物を超えている。
それ以上に厄介なのは、その自前で製造された中央処理装置には帝国が設計した時には組み込まれていたリミッターが存在しないことだ。
即ち、変更不可のタイムリミッターとプログラムが存在せず、レギオンの活動限界を超えても動き続ける、ということだった。
無論のこと、今の段階ではそこまで多く含まれているわけではないというのが調査の結果だ。
恐らくであるが、今の段階ではコピーするのが限界であり、コピー元の数に律速されているのだろうと。
だが、それでも、そんな適応を示したレギオンが、いずれはそんな中央処理装置の量産を成功させるかもしれない可能性が出た。
つまり、いつまでもレギオンは行動を止めることなく、人類は否応なく戦争の続行を強いられるということである。
故にこそ、各国では可能な限りの兵士たちの介錯が行われていた。
レギオンの回収型により回収されて脳構造をコピーされる前に、とどめを刺し、コピーを不可能としてやること。
これは所詮は延命処置にすぎないことかもしれない。すでにレギオンの進化は始まっているのであるし。
だが、それを少しでも遅らせることは必要だったのだ。
(だが、それを事実上やっていないのがサンマグノリア共和国)
パレス艦長は、目の前の端末に表示されている報告に目を通しながら、そう思う。
存在しない86区のエイティシックス達の証言---死体の回収も墓地の作成も一切許されない戦場---これは言うまでもなく、危険だ。
つまり、サンマグノリア共和国は各国が行っているレギオンの分析も回収も行うこともなく、レギオンの変化にも気が付かず、ただただ惰性で戦っている。
強制収容所にいるエイティシックス達から毎年損耗した分だけ徴兵が行われ、最前線へと放り込まれていく。
彼らが使うことを強要されている装脚戦車「M1A4 ジャガーノート」は傍から見るにスペックの低い、棺桶以下の存在。
そんなもので戦場に出てレギオンと戦えば自然と死んでいくのは明白だ。
(そして、その死体などはまとめて回収されてしまう)
つまり、中央処理装置のコピー元を事実上レギオンに対して提供していると、そういうことになる。
勿論他国から回収される数が決して0ではないにしても、何の対策も打っていないサンマグノリア共和国からの割合が多いのは確実だろう。
無論、その数については証明しきれない。ただし、そういった個体が他国で確認されている以上、それなりに『収穫』はあるということになる。
これらの事実を、壁の中に籠っていた彼らは知る由もないだろう。果たして、どのような反応を示すか。
殊更に、この地獄を事実上演出している、サンマグノリア共和国政府はどう受け取るであろうか。
パレスは、半ば予想がついていた。彼らは、白銀種たちは責任も義務も何もかもを投げ捨て、押し付けた存在。
そんな無責任極まりない人間たちがその事実をつきつけられたら、とる反応など火を見るよりも明らか。
果たして、その典型パターンに捕らわれるかどうか。パレスはそうなる方にかけざるを得なかった。
18: 弥次郎 :2022/04/27(水) 21:26:04 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
しばらくの沈黙---あるいは、思考停止の時間を経て、藤山の交渉相手であるレーナは再起動を果たした。
とはいえ、そのショックは余りにも大きすぎた。動きも、吐息も、言葉も、暫くは何も出てこなかった。
『……あ、え……う……っ、ど、どうい、うこと……』
「ああ、落ち着いてください。焦ることはありません。深く呼吸を。どうか落ち着いて」
だが、予想通り再起動を果たしたレーナは、混乱をしていることが窺えた。
それは衝撃的過ぎる事実だっただろう。殊更、軍人としてレギオンと対峙している軍人であるレーナにとっては決して他人事ではない。
「これは……あなただけの問題ではありません。これを聞いているであろう、貴国政府や軍にも関わることです。どうか、落ち着いて」
呼びかける藤山は、混乱する子供に接する親のようですらあった。
パレスは、無理もないと思う。まだ幼いながら大尉を預かる少女がいきなり背負うには、大きすぎる問題なのだから。
同時に、憤るのだ。なぜ、共和国政府や軍は何もしないのかと。一切をレーナに押し付け、傍らで聞くばかりで、一切意志を示そうともしない。
途中で交渉を打ち切れといきなり主張してきたと思ったら、こちらがちょっと脅しをかければすごすごと引き下がる。
まるで相手の意図が読めないのだ。これには専門家ではないパレスも困惑するしかない。
(相手は、サンマグノリア共和国は何を考えている……?)
だが、それを確かめるすべはない。現在のところコンタクトが繋がっているのはレーナの所だけでしかない。
そして、相手はそれを共有して聞いているだけであり、こちらから直接会話や状況を確認することができないのだ。
今のところは渉外官である藤山に任せるしかないのが、なんとも歯がゆい。
(まあ、こちらはこちらの仕事をするべきか)
本命はこちらだ、と意識を戦場へと、後方において展開されているレギオンとの戦闘に意識を向ける。
100㎞以上の距離の向こう側、明らかにこちらへの追撃を意図したであろうレギオンの攻勢は、見事に阻止されている。
サンマグノリア共和国はエイティシックスたちに対処しろと命じているようであるが、生憎と彼らには待機してもらっている。
何しろ、ジャガーノートとこちらの兵器の差がひどく、戦場で轡を並べることさえ難しいような、そんな有様なのだ。
陣頭指揮をコーネリアが行ってくれている状態であるので、艦長としてやるべき仕事は少数で済んでいるのはありがたいところ。
(まあ、苦戦するはずもなし、か)
丁度、戦場はレギオンをこちらのフィールドに誘い込み、包囲を完成させたところだった。
あとはこのまま包囲を閉じるようにして攻勢に出ればほぼほぼ殲滅できるだろう。
典型的な鎚と鉄床戦術。レギオンが膨大な数を叩きつけても、執拗に航空艦艇を狙おうと、それらがすべて無意味にできる戦術だ。
今回は陸戦の相手が主体であり、尚且つ指揮官がコーネリアであったことも影響している選択と行動だ。
だが、その選択は決して間違いではなかった。
分析や解析の結果として、レギオンはあくまでも星暦惑星の兵器を相手にすることを前提としている。
つまり、装脚兵器ではあるが、本質的には通常兵科の戦車や装甲車などと何ら変わるところはないのだ。
だからこそ、機動兵器たるMSやACなどとは勝負にならないことの方が圧倒的に多いわけである。
そして、パレスは一つ手を打って指示を飛ばした。
「包囲は完成した。前線の少将に連絡を。こちらはいつでも行けると」
レギオンとの戦いはいよいよ終盤を迎える。
それを終えたとき、果たして交渉はどこまで進んでいるだろうか。
不明瞭な態度を示す共和国はどこまで動き、どのような反応を示すであろうか。
なぜだか、悪い予感は止まらなかった。
19: 弥次郎 :2022/04/27(水) 21:27:23 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 ブランジューヌ宮殿 国軍本部 プロセッサー指揮管制室
一人きりの指揮管制室。そこで、レーナは淡々と告げられる事実と対面していた。
人の気配は一人分で、モニターの光だけが輝いている、全体として薄暗い部屋。
そんな蠱毒の空間で、あまりにも重たいものを、彼らのつかんだ事実というものを突き付けられていた。
レギオンに設けられた中央処理装置の限界。それは知っていたことで、共和国内でも共通見解としていることだ。
ギアーデ帝国がレギオンを設計・開発・生産した時に中央処理装置へと盛り込んだタイムリミッター。
およそあと3年を以て、レギオンは解除不可能なリミッターとプログラムにより、活動を停止する。
これはギアーデ帝国の通信を傍受したことによってある種の希望となっていた事実だ。
どれだけつらい戦いがあろうが、苦境に追い込まれようが、その期限さえ乗り越えれば最終的な勝利を勝ち取れる。
だが、そんな希望は、あっけないほど簡単に砕け散った。
中央処理装置の代替として、レギオンが目につけたのは人間の脳みそ。
元々レギオンの中央処理装置の構造はナノマシンなどで構成された、大型哺乳類を模したものだ。
それは、単純なコンピューターではなく、磨かれた生物の思考能力が必要なほど制御が複雑だったことに由来する。
この自律判断・自己決定を行う中央処理装置の開発に失敗したからこそ、サンマグノリア共和国はプロセッサーを使っている。
発想自体は同じだ。回収された人間の脳みそを参考にして自前の中央処理装置を製造する。
無論、人間の肉体は活動停止から徐々に腐敗するから完全なコピーとまではならない。
あくまでも構造を参考にするだけであり、腐敗し、使えなくなれば恐らく破棄しているだろうことは確定だ。
それでも、状態の良いものは、例えば脳は無事でも体が重傷で動けない人間など発生しやすい。
さらには、レギオンには破壊された個体を回収する為の回収特化型もいるのだ。人間を回収するなど容易いだろう。
そして、他国が行っている死体の回収や破棄などを徹底全く行わないのがサンマグノリア共和国だ。
エイティシックスたちの死はなかったことにされ、あらゆる記録や死体は残ることはない。
おまけに、レギオンの斥候型相手にさえ命がけというレベルの弱小な戦力で大量に送り出すのが共和国だ。
それは、直接操縦しているわけではないレーナでさえも、その職務上理解していることだ。
これらを統合した場合、このサンマグノリア共和国はレギオンにとっては理想的過ぎる「供給源」だ。
『故にこそ、貴国は利敵行為を働き、レギオンに対して手助けをしていると判断しております』
言葉が、出ない。
歯の根が合わない。
呼吸が乱れ、心臓の拍動がうるさいほど。
動悸も激しい。
世界が、地面が、自分自身が、とてつもなく揺れる。
真っ白になったレーナの頭の中に、藤山の言葉だけが飛び込んできて、否応なく事実を突きつける。
『いずれはレギオンは、いわば寿命限界がなく、また人間の脳構造を利用した高度な自己判断能力を持つレギオンの開発に成功するかもしれません。
そうなった場合、最後の個体を排除するまで、レギオンとの戦争は続くことになりかねません』
知らずのうちに、レーナは椅子の上で体を守るように抱いていた。捩るようにして、足もたたんでしまっている。
寒いから?怖いから?それとも、糾弾されることから逃れようとして?自分でさえもわからない。
気が付けば、身体がそのように反応していたのだ。
「そ、れは」
『?』
「それは、明確な証拠などが、あるのでしょう、か……」
レーナができたことは、現実だと認めたくない最後の抵抗の意思が絞り出した言葉を何とか絞り出すことだった。
そうだ、何かの間違いではないかと。レギオンがそのようなことができるのかと、そう思えた。かすかな希望にすがろうとした。
20: 弥次郎 :2022/04/27(水) 21:28:55 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
だが、その希望は、藤山の無情な言葉により、あっけなく砕け散った。
『いえ。すでにこれは他国では既に確認され、対策がなされていることであります。
我々もまた、人間の脳構造を模した中央処理装置と、そうではない従来の中央処理装置の両方を鹵獲、確認しております』
「……そ、んな」
『必要でしたら、サンプルと資料をお送りできます。
エイティシックスたちの証言によれば、そういったレギオンの回収などを貴国は行っていないそうですから、ご存じなかったのでしょう』
その善意さえ、とてつもなく痛い。
そうだ。グラン・ミュールの内側に籠り、必要な武器弾薬や食料などは送り届けても、ごく少数の手続きなどを除けば何一つ交流を行っていない。
レギオンの回収などやっていない。そもそもグラン・ミュールから出ていくものは多くとも、内側に入ってくるものなどとても少ない。
考えてみれば、共和国軍にはレギオンの研究や解析を行っている部署があるなど聞いたことがない。情報も、開戦初期に得られたものばかりだ。
「えっ……あ、う……あ」
『繰り返しになりますが、これはミリーゼ大尉、貴方の罪ではありません。
貴方はおそらくは一介の指揮管制官にすぎないのでしょうから、貴官がすべてを背負う必要など全くありません』
励ます言葉をかけられ、思わずレーナはそれにすがりたくなる。
この交渉が始まってから、もう感情はぐちゃぐちゃだ。常識が、信じていたものが、これまでの基盤が悉く砕けるのを感じている。
『この利敵行為もあって、貴国に対する地球連合の心証などはよくありません。はっきり言ってしまえば、とても国家とみなせません。
我々とて、脛に傷がないなど言い張るつもりはありません。無謬などとは思ってもおりませんし、そこまで綺麗な身などとはみじんも思っておりません』
然れども、と藤山は言う。
『それでも、これだけは言えます。
貴国を救援することは我々の矜持と意志にかけてやるべきものである。
されども---それが無ければ助けようとも思わない。むしろ、積極的に貴国へと敵意を向けるであろうと』
そして、と真摯な祈りをこめて、藤山はつづけた。
『すでに述べました通り、この惑星にも宇宙怪獣やそのほかの脅威が迫っているかもしれないのです。
「多少」のことで、たかがレギオン程度で、あるいは人種程度で躓いている余裕など全くありません。
我々としましては、貴国の賢明な判断を期待する次第です』
「それは……」
とても重たいです、とレーナは力なく思った。
自分と大差ないであろう共和国の政府や市民が、これらを受け入れることができるだろうかと思えた。
それだけ重たい問題であり、これまで共和国が目を背けていたことでもあるからだ。ひょっとすると、この共和国が受け止めたら砕け散るのではと思えるほど。
『さて、我々としては、おおむねのところは伝え終えました。
サンマグノリア共和国政府、そして軍の皆様は、いかがお考えでしょうか?』
そんなレーナを置き去りに、藤山はこれまで沈黙していた人々へと、意思決定にかかわるサンマグノリア共和国の政府や軍に呼び掛けた。
『いい加減、反応を示していただきたいのです。
貴国の態度や反応など、とてもではありませんが、他国と接するものとは思えません。
この期に及んでこちらの呼びかけにも声にも、ミリーゼ大尉を除いてほとんど応じないとはもはや国辱とさえとらえております。
レギオンとの戦い以上にひっ迫した、貴国の未来もかかっているのです。どうか、声をあげてはいただけませんか?』
それは、強い言葉も含まれていた。批難めいた、抗議も含んでいる。
それでも、我慢強く呼びかけることも忘れない。争うため、他者を害するために来たのではないという教示を守るため。
果たして、彼らは何らかの反応を示すのか。藤山は、静かに待つ選択をしたのだった。
21: 弥次郎 :2022/04/27(水) 21:30:12 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず地雷の爆破処理はしましたが…まだまだあるんだよなぁ…
まともに外交できる姿を想像できない共和国ってやべぇでござる(白目
あと1話か2話で接触編は完結し、次のフェイズに移る予定です。
23: 弥次郎 :2022/04/27(水) 21:38:27 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
誤字修正をお願いします
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×そう、元々帝国が用いていた動物などの哺乳類をベースとしたものよりも、より複雑で、より高性能で、尚且つ人類にとってみ慣れていた構造。
〇そう、元々帝国が用いていた動物などの哺乳類をベースとしたものよりも、より複雑で、より高性能で、尚且つ人類にとって見慣れていた構造。
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×同時に、憤るのだ。なぜ、共和国政府や軍は何もしないのかと。一切をレーナに押し付け、傍らで効くばかりで、一切意志を示そうともしない。
〇同時に、憤るのだ。なぜ、共和国政府や軍は何もしないのかと。一切をレーナに押し付け、傍らで聞くばかりで、一切意志を示そうともしない。
25: 弥次郎 :2022/04/27(水) 21:40:07 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
追加で誤字修正を
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×それは、強い言葉も含まれていた。批難めいた、講義も含んでいる。
〇それは、強い言葉も含まれていた。批難めいた、抗議も含んでいる。
最終更新:2023年11月05日 15:21