236: 弥次郎 :2022/04/28(木) 20:40:36 HOST:softbank126041244105.bbtec.net


憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」9


  • 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 ブランジューヌ宮殿 国軍本部 プロセッサー指揮管制室


 結論から言えば、サンマグノリア共和国政府はついに反応を示した。
 再び厳めしい表情のままのカールシュタールが現れ、政府の決定を手短に通達してきたのだ。

「貴連合はレギオンではないとの判断を下した。
 またエイティシックスのサボタージュでもないとも判断した。
 そのうえで、しばしの時間的猶予を求める、とのことです」
『……わかりました。ようやく国家と認識されただけ、まだマシな対応と思いましょう』

 それをレーナが伝え、藤山は不承不承ながらも受諾したのだ。
 ただし、サンマグノリア共和国が得られた時間は2時間。政府内部での意見調整の時間のみだった。
 それに、口には出さなかったが、藤山はエイティシックスたちの証言などから、グランミュール内に有色人種を入れることを忌避したと推測した。
ただでさえ、差別や隔離、あるいはこれまでの財産没収や強制動員などをしてきた国だからそれくらいはしてくると考えるが当然だった。

 正直なところ言いたいことは山ほどある。
 外交使節艦隊に対する攻撃、さらにはまともに取り合わずに放置されたこと、さらにはレーナに交渉を事実上押し付けていることなどなど。
外交上の問題のみならず、国家間における非常にデリケートな問題にまで発展しかねない。
特に、サンマグノリア共和国から行われた攻撃に対する謝罪などは、結局誰からもされていないのだ。
レーナはともかくとして、公式の立場からの謝罪が未だにないのがあまりにも体裁が悪い。

 また、共和国が交渉の準備を始めたのも、外交使節艦隊に付随してきた護衛戦力により、最終的に数万に及んだレギオンの排除が終ってからであった。
レギオンの尖兵ではないと分かったから、というのは常識に則るならば無理のない主張ではあるだろう。
国交が途絶え、疑心暗鬼になっていたというのならば、実際に戦うところを見せなければ納得はしない。
とはいえ、こんな砲艦外交のような武力で押しとおる方法をとりたくはなかった連合としては不本意だった。
見方を変えれば、地球連合は共和国に対し「この力で解決してもいいぞ」と脅したも同然だからだ。
前述のようにグラン・ミュールの防衛システムによって攻撃を受けたことと合わせれば、そういう意図があるとみなされるかもしれない。

 だが、そこに固執すぎるのも悪手であることも確かだ。相手に外交の意思があるならば、それに応じ、準備を進めなくてはならない。
現状の交渉の状況は決して良いとは言えないのだから、そこから改善する必要があるのだし。
 具体的には双方との情報交換を行うのにもっと利便性の高い手段の確立。
 さらにはこちらの把握していることや地球連合に関する資料の共有だ。
 それにこんな態度のサンマグノリア共和国なのだから、悪い方向への備えはいくらあっても足りることはないと考えられた。
今唯一まともに動き、信頼できる窓口は如何ながらもレーナしか存在していない。彼女に何かあることは避ける必要がある。
 そういうわけでやるべきは多くある。
 だから、色々と言いたいことを何とか飲み込んだうえで、藤山はレーナに対して呼び掛けた。

『ミリーゼ大尉、よろしいでしょうか』
「はい」

 レーナは、ひと段落したこともあり、冷静さなどをようやく取り戻していた。
 言葉や表情にも余裕が生まれ、あるいはこれまではアドレナリンで無視されていた疲労が表に出てきた。
 それでも、彼女は動きを止めなかった。

『実はいくつかお願いしたいことがあります』
「お願い、ですか?」
『ええ。現環境での折衝や交渉などは余りにも不便が多すぎます。
 また、共有したい資料なども存在するのです。それらに対処するために、少々やっていただきたいのです』

 レーナはその告げられら内容と手段---とも呼べるか怪しいそれに目をしばたたかせるしかなかった。
 言い分としては、理屈としては、そんなやり方をとるというのも理解できなくもないことではあった。
 だが、これから交渉などを本格化させるにしては少し迂遠な方法ではないかと考えたのだ。
 だから、その方法と一連の流れを聞いた時に思わず、藤山に対して問いかけてしまったのだ。

「そんな方法を……本当に使うのですか?」
『建前や言い訳というのは、外交上では非常に重要なのですよ』

 純粋な問いかけに、藤山は至極真面目にそう返事をしたのだった。

237: 弥次郎 :2022/04/28(木) 20:41:30 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 聖マグノリア革命記念公園


 グラン・ミュールの内側は、内部に逃げ込んでいる共和国市民の居住と生活を最優先としている。
それは本来の国土の面積に対し、レギオンの存在しない安全圏として確保できた土地の狭さが関係しているためだ。
 居住する空間だけではない。文明的な生活を維持するための工業力や生産力のための空間が当然必要になったのである。
さらに、往時よりも狭いとはいえ、広いグラン・ミュールの内側を移動するためのインフラなども必須である。
そんなわけで、意外なほどぎちぎちに詰め込まれているのがグラン・ミュールの実態だ。
農業や牧畜などを行うための土地がほとんどないのはそういった事情によるのである。

 だが、そこまですべてぎゅうぎゅうに詰め込んだというわけでもない。
 何らかの事情で、空間をぜいたくに使うことが許されている場所はいくつも存在している。
 その一つが、第一区、ブランジューヌ宮殿からもほど近い場所に存在する聖マグノリア革命記念公園だった。
広い敷地に、聖マグノリアを称える彫刻や記念碑などがあるほかは建造物が少なく、人工芝の敷き詰められた広場などが整備されている。
星暦惑星における世界初の民主制を始めたきっかけとなった革命を起こしたマグノリアを賛美することは、共和国にとってはアイデンティティーの一つなのだ。

 そして、カールシュタールから許可をもぎ取ったレーナは、ブランジューヌ宮殿からここに駆け付け、準備を行っていた。
借りてきた軍の人員を使って、ここで休息をとったり憩いの時間を過ごしている市民を動かす。
特に公園中央にある巨大な人工芝の敷かれた広場を空白にしていくのだ。
文句を言われたりもしたが、こちらは軍の権力を振りかざした。戦時なのだから、軍の権力は強く出ることができる。

「ミリーゼ大尉、誘導完了しました。
 しかし、一体何が起こるのですか?」

 報告に来た少尉は、何が何だかわからない、という顔をしている。
 無理もない話だ。時間もないのであまり説明せずにつれてきて、市民を移動させろと指示を出したのだから。
それに対し、レーナとしては端的に答えるしかなかった。藤山の言うところの、建前のためだと。

「しばらく後に、ここに地球連合の輸送機が『墜落』します」
「はぁ……え?墜落?」
「ええ、宇宙に向けて打ち出される輸送機が故障、『偶然』この聖マグノリア革命記念公園の広場に『墜落』します」

 レーナは異論を挟ませないためにも、一気にまくし立てた。

「まだ地球連合がグランミュール内に入ることは許可が下りていません。
 致し方ないので、我々が回収します…!
 ええ、ついでに中身を改めます。何か危険なものがあっては困りますからね!」
「ええっと、つまり……」
「そこに『偶然』地球連合に関する資料があっても、全くを以て『偶然』ですので」

 そう、これは藤山から言われた、建前というものだった。
 互いの情報交換を行うのが今までのやり方では、音声のみでしかないので非効率極まりない。
物理的な資料---例えばレギオンの中央処理装置のサンプルなども共有できないままだ。
未だに地球連合はグラン・ミュールの中に入る許可を得ていないのだ。許可を得ず入るならばそれは領土侵犯になる、今更な話だが。
 さりとて、許可をとろうにも、相手はレーナが言ったように有色種の国だ。白銀種以外を劣等種とみなす共和国では入れることに反発するのは必然。
 だから、そういう建前と言い訳で情報共有と通信手段の確立を図るのである。

「大丈夫なんですか、それ…」
「まったく問題ないですね。すべては偶然です」

 そんなわけないでしょう、とレーナは内心思っている。自分も藤山に言いくるめられたのは否定しきれないからだ。
 いや、確かに藤山が提案したこの方法を使わなければいつまでたっても折衝などは遅々として進まないことは確かだ。
かといってサンマグノリア共和国が有色種をグラン・ミュールの内側に入れることは頑固に反対するだろうし。

238: 弥次郎 :2022/04/28(木) 20:42:10 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

(ああ言えばこう言うというか……揚げ足取りもいいところじゃないですか!)

 だが、納得させられ、片棒を担ぐ羽目になった時点で、最早レーナに選択肢はなかった。
 そうこうしている間に、開けた公園の空に輸送機が見えた。宇宙に向けて飛ばしたという体裁のためか、かなり高度があるのがわかる。
申し訳程度に煙を吹いているのが見えるが、あからさまな感じがぬぐえないのも事実。

「来ました、注意してください!」

 高度がだいぶ下がってきたのを確認し、レーナが周囲に注意を促す。
 案外大きい。まあ、当然だろうか。パッと見たところ、グランミュール内市街地を走る路面電車数両分はありそうなものだ。
それが、ゆっくりと降下してきて、公園へと綺麗に『墜落した』。周辺への被害なし。全くを持って綺麗だ。

「墜落…墜落なんです…!」

 自分に言い聞かせながら、レーナはすぐにその輸送機の側面に回る。
 手にしたメモ---藤山から教えられた操作方法を基に、ロックを解除するのだ。
 テンキーでパスワードを入力し、自分の声でロックがかけられた声紋認証を突破、扉を解放する。
自動で空いた先には、大量のコンテナと思われる箱でいっぱいになっていた。いずれもが無事に墜落したのが窺える。

(ええっと……)

 だが、レーナは他のものには目もくれず、開けた扉から見て手前に置かれているコンテナの方へと手を伸ばした。
『ナビゲートシステム』が入っていると教えられた、貨物コンテナだ。無論、それが明らかに方便であろうというのは理解している。
 とりあえず、パスワードを入力し、ロックを解除。そして、現れたボタンをグッと押し込んだ。
 すると、操作を受けて即座に貨物コンテナが中身を解放し始めた。
 蓋の部分が折りたたまれて解放し、空中投影ディスプレイがいくつも表示され、システムの立ち上げが行われていく。
内部に存在している機構が順次動き出し、固定していた状態から『それ』が動き出せるように解放されていく。

「うわ、これって……!?」

 傍らで覗いていた兵士が声をあげるのも無理はない。地球連合から送られてきた『ナビゲーションシステム』の正体を見たからだ。
 地球連合は未だにグランミュール内に人を入れることはまだ許可されてはいない。共和国が有色種を忌避し、差別するからこそ。
そんな国家連合の人員を受け入れることはないだろうという予測と予想。なれば、そんな問題がそもそも通用しない『モノ』を送り込めばいいのである。
 その答えこそが---目の前の人型だ。

「アンドロイド……」

 人種?そもそも存在しないどころか人間ではない。血統?そもそも血液などない。
 故にこそ、共和国が定義する『人間』ではなく、物でしかない存在。だから領土侵犯などではない。
 例えそれがコミュニケーションをとる能力を持っていたとしても、人と同じような外見をしていても、そういう機能を持ったオブジェクトということだ。
 そして、機動シーケンスが完了したのか、コンテナ---いや、棺からゆっくりとそのアンドロイドは身を起こした。

「企業連合制式統合制御システムEuGENE(ユージン)Ver.6.98764、起動完了。
 義体システムおよびオペレーションシステム問題なし。拡張システムの起動及び接続(コネクト)完了。
 全機能、オールグリーン」

 人工的に合成された、それでもとても人にとても良く似た声が、優れた造形の唇から洩れた。
 レーナでさえも見とれてしまうような、人とは思えないような美貌。整った姿。美麗な髪がさらさらと、体を起こす動きに合わせてたなびく。

「おはようございます、これより作戦行動を開始します。
 貴方様が、お話を伺っておりました、ヴラディレーナ・ミリーゼ大尉でございましょうか?
 私、地球連合外交使節艦隊より参りました、アンドロイド『ハオマ』と申します」
「ええ、私がサンマグノリア共和国軍大尉ヴラディレーナ・ミリーゼ。よろしくお願いしますね」

 斯くして、サンマグノリア共和国に新たな「来訪物」が現れた。
 地球連合が円滑な交渉を行うために派遣した彼女らが、新たな衝撃を巻き起こすのは、もう少し先の話であった。

239: 弥次郎 :2022/04/28(木) 20:42:44 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
SAN値回復の回でした。
なお、次回。

249: 弥次郎 :2022/04/28(木) 21:32:53 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
誤字修正お願いします

236
×特に、サンマグノリア共和国から行われた攻撃に対する謝罪などはm結局誰からもされていないのだ。
〇特に、サンマグノリア共和国から行われた攻撃に対する謝罪などは、結局誰からもされていないのだ。

238
×装甲している間に、開けた公園の空に輸送機が見えた。宇宙に向けて飛ばしたという体裁のためか、かなり高度があるのがわかる。
〇そうこうしている間に、開けた公園の空に輸送機が見えた。宇宙に向けて飛ばしたという体裁のためか、かなり高度があるのがわかる。
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最終更新:2023年11月05日 15:21