328: 弥次郎 :2022/04/29(金) 01:07:31 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」10
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 聖マグノリア革命記念公園 『墜落』地
レーナにより起動したアンドロイド「ハオマ」は、すぐさま行動に移った。
彼女は搭載されていた輸送機の格納庫内に置かれていたアンドロイドの棺を次々と解放し、他の個体を起動させていったのだ。
詰め込まれていたのは「ハオマ」を含めて30人……いや30体。次々と起動を果たした彼女らは己の仕事を開始した。
輸送機内に用意されていた車両を立ち上げて動かすもの。手分けして資料や機材などを車に積み込んでいくもの。
一切の無駄がなく、共和国内での活動に向けて着々と動き出していた。
本来ならばリーダー役も兼ねている「ハオマ」との話し合いなどをしたいところであったが、レーナは共に行動していた少尉に引っ張られてしまった。
「なんですかあれは!?」
「地球連合のアンドロイド。人の形をした、人ではないモノ」
「いや、レギオンじゃないですか!俺、資料で見たことありますけど、自走地雷ってあんなのって聞きましたよ!」
珍しくレギオンについて知っているようだったが、レーナからすればまるで似ても似つかない。
というか、人型の機械であること以外似ているところなどないというのに、過剰反応ではないかと思う。
「大丈夫です。ただ似ているだけのモノ。絶対に攻撃しないように」
「いや、でも……」
「これは命令です。
それともあなたは、衣服を着ているマネキンをレギオンに似ているからと攻撃するのですか?」
「い、いえ……承知いたしました、ミリーゼ大尉」
ここは上官命令で押し切ることにした。
何ならば、自分にまかせたカールシュタールの名前と地位を押し出してもいいと考えていた。
この程度のことで立ち止まっているわけにもいかないのだから、多少強引でも突っ走らなくてはならない。
(それでも、懸念しているのでしょうね)
連れてきている兵士たちは遠巻きにアンドロイドたちの動きを見ている。どちらかと言えば見張っているの方だろうか。
武器こそ向けてはいないものの、誰もが拳銃をすぐに使える状態にし、警戒の視線を常に向けているのがわかる。
最も訓練さえしているか怪しい彼らでアンドロイドたちを止めることは不可能であろうが。
藤山から明かされているスペックによれば、アンドロイドたちはその外見や美しさとは対極にある、非常に高い戦闘能力を有しているという。
自己判断能力も極めて高く、人間以上の思考速度と判断能力を生かして行動ができるとのことだ。
こんなところに送り込んだというのは、同時に、彼女らがかけることなくここから脱出できる能力もあるとのことだし。
(……ジャガーノートのAIさえ作れない共和国とは、雲泥の差ですね)
人間と何ら変わることのない、むしろそれ以上の思考能力と判断能力、さらにはそれに追従できるボディ。
それらを作ることができ、大量に配備しているということは、共和国の先を行っているということの証にさえ思える。
惑星内文明と外宇宙進出文明。曖昧な定義の言葉だったが、こうしてみると、彼我の差は大きいのだと実感できた。
自らを先天的に能力に優れた優勢種と自称する白銀種にとっては、有色種の作ったものに追いつけないというのは屈辱かもしれないが。
(フジヤマ外交官なら、そういったかもしれませんね)
ともあれ、自分がやるべきはこれらの資料を運ぶのを監督することだ。
グループはおおむね二つに分かれる予定だ。一つは大統領府へ。もう一つは国軍本部へ、それぞれ向かう。
それぞれに地球連合に関する資料、レギオンについての調査結果やそのサンプル、そして通信手段。
それらが搭載されてきた車両に詰め込まれ、運ばれていく手はずとなっている。
いい加減、外部スピーカーと集音マイクによる音声だけの会話だけでは不便になってきた、という次第である。
しかし、入国をまともに認めない、そもそも判断をしているかも怪しい共和国政府に地球連合外交使節艦隊はしびれを切らした。
だからこその、今回のような『事故』を演出し、無理やりにでも話をつなげられるようにしたのだろう。
329: 弥次郎 :2022/04/29(金) 01:08:16 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
そこまで考えていたレーナを、ハオマが呼んだ。
「ミリーゼ大尉、よろしいでしょうか」
「はい」
「出発の用意の方が整いました。
大統領府の方に12名、国軍本部へ14名、輸送機に控え要員として4名が残留となります」
「了解しました。それでは、しばらくお待ちください」
ハオマの言葉に頷いたレーナは、自分に割り当てられている軍の支給品である携帯端末を取り出し、通信を繋げる。
その相手はカールシュタールだ。残念ながら自分が伝手を持つ将官階級の軍人が父と親しかった彼しかいないのである。
無論、顔を知っていたり、話をしたことのある将官も決して0というわけではない。だが、無茶を言えるのが彼だけ、ということだ。
『もしもし?』
「カールシュタール准将。お忙しいところ恐れ入りますが、よろしいでしょうか?」
『今の国軍本部の狂騒を生んだ大尉がそれを言うかね?』
「申し訳ありません。ですが、必要なことです」
『……言ってみたまえ』
ため息の向こうには、喧々諤々の議論の声が飛び交っているのが聞こえた。
なるほど、国軍本部でも意見は相当割れているようだ、とレーナは思う。
カールシュタールが指摘したように、それを生み出したのは、独断で地球連合とコンタクトをとったレーナ自身だ。
彼女の行動が多くの情報を共和国内にもたらし、同時に、その事実によって大きな混乱を生み出した。
けれども、藤山との交渉を経た後のレーナは、それらがまるで遠い出来事のような、他人事のように思えてならない。
もちろんこれは共和国にかかわる問題というのは、レーナはよくわかっているし理解している。
それでも、何か情熱のような、あるいは祖国への、共和国への忠誠というものが急速に冷めたような、そんな感覚がする。
そして、そのどこか冷たい感情のままに、レーナは言葉を紡いだ。
「先ほど、地球連合外交使節艦隊の輸送機がトラブルで墜落、第一区の聖マグノリア革命記念公園に墜落しました」
『なるほど、対空レーダーが久しぶりに警報を発したのはそれか。それで?』
「墜落した輸送機は、幸いなことに積み荷などは無事でした。
現地でこれを確認しましたので、国軍本部と大統領府の方に輸送したいと思います。
幸い、内部に搭載されていたアンドロイドが協力すると証言しましたので、これで連合との交渉が円滑に進むかと思われます」
『……そうか』
カールシュタールも理解しているだろう。あまりにもタイミングが良すぎて、尚且つ出来すぎていて。
紛糾する会議ではなく、地球連合の外交官とレーナの会話を聞いていればこれが打ち合わせ済みなのはわかっただろう。まあ、聞くまでもないことだろうが。
『それで、私にどうしろと?』
「准将には、このことを大統領府および国軍本部の方に広く周知と連絡をお願いしたいのです。
偶然とはいえ、地球連合との折衝などを行うための手段を得ることもできましたので、これを活かさない手はないかと思われます」
『渡りをつけろと、そういうことだな?』
「はい、その通りです」
レーナが要求したのは、これらの受け入れをするように働きかけをすることだった。
有色種のものだからと、下手をしなくても破壊されてしまうかもしれない。その時はその時で次の手段を考える。
けれど、そうなった場合共和国への心証はさらに悪くなり、最悪の選択をとらざるを得ないかもしれない、そう藤山に言われた。
330: 弥次郎 :2022/04/29(金) 01:08:48 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
「准将。もはや地球連合との折衝は避けることはできないと考えられます。
レギオンに滅ぼされるのも、宇宙怪獣に惑星ごと滅ぼされるのも、私は願い下げです。
そのために、取れる手段はとるべきかと思います」
『地球連合の発言をそのまま鵜呑みにするのは危険ではないかね?証拠などは明示されていないのだし』
「その証拠を含めて、墜落した輸送機から回収できました。一考の価値はあるかと思われます」
あくまで避けようと、接触を最低限としようとする意思。確かに地球連合の言を鵜呑みにしているかもしれない。
しかし、ここでレーナは引かない。
「だとしたら、彼らは一体何のためにここまで来たのでしょうか?
そこまで労を費やしてまで、我々をだますことに何のメリットが?
それとも……」
それとも、とレーナは藤山から指摘されていたことを口に出す。
「同じ共和国市民の有色種を差別し、虐げ、戦いに赴かせ、あまつさえレギオンに協力していたことを、隠し通したいのですか?」
『……』
その沈黙は雄弁に語っていた。
連合が86区で調べ上げたこと、そしてレギオンについて調べて利敵行為を働いているという結論。
いずれもが、共和国にとってはとてもではないが受け入れがたいことで、広まってほしくはないことだ。
仮にレギオンの掃討が終れば、戦後体制となった場合、現在も抵抗を続けている各国からにらまれるのは確定だ。
ただでさえエイティシックスという存在だけでも痛いというのに、レギオンへの利敵行為をやっていたなど、ダメージは致命傷となる。
だが、言ってしまえば、たかが尉官でしかないレーナにとっては大した問題ではない。
「そんなことなど、すでに共有されていることと藤山外交官は言っていました。
我々が何か言い訳をすることで、どうにかできることでしょうか?」
『だが、共和国の名誉は……』
「そんなもの今更な話ではありませんか。有色種を虐げることを、人権を奪い去り、戦いに赴かせたのは共和国の意思です。
なればこそ、我々はその責任を背負うべきであり、自らの罪と自覚すべきです」
『……レーナ、君はやはり、ヴァーツラフに似ているな』
しばらくの沈黙の後に、絞り出されるようにして帰ってきた言葉はそれだった。
『わかった、こちらで働きかけてはみる。ただ、あまり期待はしないでくれ』
「ありがとうございます、小父様」
レーナは礼を述べて通話は切る。
たかだか口約束だ。どれほど守られるか、正直なところ分からない。それでも、これが良い未来につながってほしいと願うしかない。
そして、レーナはハオマの名前を呼ぶ。
「ハオマ…さん。カールシュタール准将と話が付きました。手を回してくださるとのことです」
「ハオマと呼び捨てて構いません。
それはともかく、共和国内への働きかけをしていただき、感謝申し上げます。
これで交渉や折衝がより進展していくことになるでしょう」
「あとは……うまくいくことを祈るしかありませんが」
「ご心配なく。我々は相争うためではなく、協力し、ともに生き延びるためにここを訪れたのですから」
「……はい」
その言葉がその通り実行されるのを、レーナとしては祈るだけだ。
自分が繋いだサンマグノリア共和国と地球連合の間の結びつき。
これが、双方にとって良い方向へと動くきっかけとなってくれれば、勇気を振り絞った甲斐があるというもの。
「ミリーゼ大尉の意思は、決して無駄とはしません。どうか、信じていただければと思います。
では、参りましょうか」
そして、レーナは促される形で車両に乗り込む。自分の乗ったこの車の行き先は国軍本部だ。
ここから、本格的な交渉が始まるのだと、肩の荷が下りたことで感じるようになった疲れの中でもレーナは思う。
そんな彼女のために、ハオマは車内に音楽をかけ始めた。そのいたわるような旋律に、レーナは静かに目を閉じて聞き入るのだった。
331: 弥次郎 :2022/04/29(金) 01:09:41 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
寝ます!感想返信は明日!
332: 弥次郎 :2022/04/29(金) 01:10:24 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
誤字修正!
330
×ここから、本格的な交渉が始まるのだと、レーナは肩の荷が下りたことで感じるようになった疲れ切った中でもレーナは思う。
〇ここから、本格的な交渉が始まるのだと、肩の荷が下りたことで感じるようになった疲れの中でもレーナは思う。
最終更新:2023年11月05日 15:22