406: 弥次郎 :2022/04/29(金) 20:35:07 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」10
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 大統領府 閣議室
「地球連合外交使節艦隊より……えー、渉外役の、アンドロイドたちが到着しました」
「よかろう、通せ」
サンマグノリア共和国の大統領府における、重要な会議を行う閣議室。
本来ならば閣僚や大統領やその補佐官といったトップもトップな人員しか入ることを許されない空間。
先に入室した案内役が言葉に迷いながらも報告し、大統領補佐官の一人が入室の許可を出す。
「失礼いたします」
そして、その声とともにモノが入室した。
それは、地球連合という国家連合が生み出し、外交のために派遣してきた、人が生み出したヒトならざるもの。
「---ヒト?」
誰かが、その姿に感嘆を漏らした。
整った、整いすぎた容姿。誰もが振り返るであろう美貌。
難癖をつけ、罵倒を吐き出そうと待ち構えていた人間(白豚)の口を思わず黙らせるほどの美麗なる姿。
その歩くだけの所作でさえも、何ら瑕疵のない、調和のとれたものであると否応なく理解させられてしまう動きだった。
「----」
そして、先頭を歩く一体のアンドロイドが、すっと流し目でサンマグノリア共和国の閣僚たちを見る。
その視線に、思わず誰もが窮屈そうに身をよじらせたり、あるいは視線を背けるなどした。
それが人外であると、人ではないと、白銀種の作ったものではないというのは知っていた。
だからこそ、良からぬ言葉や感情が吐き出されたり、漏れる寸前までいっていたのだった。
だが、全てを見透かされたようで、羞恥を感じてしまったのだ。
それを知ってか知らずか、アンドロイドたちは静かに粛々と入室を完了させる。
その時になって共和国側は気が付いたのだが、入室したアンドロイドたちはその身に似合わないほど多くの荷物を軽々と抱えていた。
単純に人間では数人がかりでも運べない物品を運んでいることも関係しているが、ここでは些事であろう。
ともあれ、入室し、閣議室の空いたスペースに綺麗に整列した彼女らは、揃って綺麗な一礼して名乗った。
「地球連合外交使節艦隊より参りました、渉外補助アンドロイド大統領府派遣隊12名、ここに参上いたしました。
私がこの派遣隊のトップを務めております、『アネモネ』と申します」
アネモネ以下、11名のアンドロイドが個体名を名乗り終えたのち、さっそくアネモネは許可を求める。
「それでは、さっそく準備の方に取り掛からせていただきます。よろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
アネモネは、事前の情報に基づいて、サンマグノリア共和国首脳部が自分たちに何か言うつもりであったことを見抜いていた。
だが、予想外すぎて、あるいはアンドロイドという未知のものに対して攻撃的な言葉が出てこなくなったのだろうとも。
まあ、全ては些事にすぎない。
アネモネたちは淡々と、この大統領府と外交官のいるネェル・ユーロンを結ぶ通信インフラを構築するのである。
そして、30分と経つことなく、彼女らの仕事は完了した。
巨大なモニターも含めた通信インフラ、各自が閲覧しやすいようにした資料、各種サンプルなどが用意されたのである。
改めてサンマグノリア共和国首脳部に一声がかけられ、モニターに光がともる。
『初めまして、サンマグノリア共和国の皆様。
今回、サンマグノリア共和国との交渉を担当させていただきます、地球連合外交使節艦隊渉外役の藤山と申します。
こうしてようやく、直接顔を合わせることができまして何よりです』
そうして、藤山は一つ礼をした。それに応じて大統領が口を開こうとしたとき、割って入る声があった。
「なんだ、やはり極東黒種の豚か。優良種たる白銀種の前に出たならば、頭を垂れろ」
それは、閣僚の一人が吐き出した言葉。大洋連合から地球連合に出向している藤山を見るなり、その暴言が、いきなり飛び出したのであった。
407: 弥次郎 :2022/04/29(金) 20:35:38 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 上空 地球連合外交使節艦隊旗艦「ネェル・アーガマ」級ネェル・ユーロン格納庫
地球連合の外交使節艦隊を構成する各艦の格納庫は、喧騒に包まれていた。
戦場に出場していた百以上の有人機、そしてそれ以上の無人機が一斉に帰投を開始したためだ。
レギオンの襲来に備えて哨戒に出ていたり、あるいはレギオンの残骸の回収などを行っているグループも存在している。
殊更、レギオンには破壊された個体や戦場での「収穫物」を回収する回収輸送型がいることから、再利用を防ぐためにも警戒と回収は必須であった。
とはいえ、基本的には高高度を維持し、その高さを利用して光学監視やレーダーの使える航空艦艇が存在するのだ。
レギオンが動けば、それこそすぐにでも対応ができる体制が整っていた。
そして、戦闘行動を終え、順次帰投していく機体群もまた存在した。
SFSによりネェル・ユーロンに帰還した、クインローゼスⅡらにより構成されるコーネリア隊もその一つだ。
SFSから降り、順次固定用ハンガーへと向かって機体を預け、整備班へと引継ぎを行うのだ。
クインローゼスⅡは高級機であるが、そうであるがゆえにちゃんとしたバックアップなしに運用することは極めて難しい。
まして、立場が少将という高い地位にあるコーネリアの乗機ともなればなおさらのことであった。
そのコーネリアは、機体を預けた後はアフターコンバットケアを受け、戦場に身を置いていた火照りを冷ましていた。
相手としては弱いものであったが、それでも戦闘による負荷は少なからず発生するものだ。
殊更に第九世代以上の化け物を操り、さらには特殊個体を弔うという使命感を持って戦っていたのだから、心身両方に疲労がでるものである。
「ふぅ……私も、だいぶ年を食ったか」
「お戯れを姫様。此度の戦いも見事でありました」
帰投からおよそ1時間後、ケア施設から出てきたコーネリアは部下であるギルフォードらの迎えを受けた。
麾下の部隊の敬礼に返礼しつつも、コーネリアはギルフォードの言葉に、そういう意味ではないと答える。
「いつもならば、戦いが終わっても、いつでもまた動けるようにと体が動いたものであるが、今となってはこの身にはつらいものがある」
「姫様は、肉体強化などをなさっておられませんでしたか」
コーネリアは無言でうなずく。
地球連合の傘下に収まることになったブリタニア帝国は医療も非常に進歩している。
無論、先を行く地球連合には及ばないにしても、肉体の強化や機械化などを行うだけの技術を有しているのだ。
やろうと思えば、コーネリアは老化抑制措置や肉体の外科的な施術を行っての改造などを行うことができる立場にあったのである。
だが、コーネリアはあえてそれらを受けることなく、自らの肉体を鍛えることでカバーしようとしていたのだった。
それはコーネリアの肉体が全盛期を迎えつつあった、ということもあるが、どうしても忌避感を抱いてしまったというのもある。
「日々鍛錬すれば何とでもなる、とは思ったが、そうやすやすとはいかないものだ。
だが、簡単に自分の体を他者に委ねるのも、少し、な」
正直古い価値観であると自覚はしているところはある。
KMFが戦場を支配していた時代はとうに終わっており、より大型の、より性能の高い機動兵器が幅を利かせている時代になっている。
騎士階級などというのはもはや時代遅れになりつつあり、英雄的な戦力に求められるハードルは高くなり、それ以外は物量と火力により置換された。
その中で選ばれているのが肉体強化施術であり、あるいは乗機の転科訓練などであった。
地球連合軍に対して戦力の供出を行っているブリタニアでもその流れは少しずつ大きくなっている。
とはいえ、未だにその手の方向性に忌避感を抱く層が残っているのも事実だった。
「自分の体をいじる人間はきちんと調査や心理診断などを受けた医者や技術者のみだ。
しかし、その医者や技術者を調査する立場にあるのも、所詮は人間でしかない」
「どこかでミスが起こるかもしれないと疑いだせばきりがない、ですか」
「言い訳に過ぎないがな」
そう言い切ると、さて、と話題を変える。
「我々が戦場に出ている間に、少しは政治で動きがあったのだろうな?」
「はい。決して愉快とは言い難いものではありますが……こちらへ」
コーネリアの予想通り、交渉はいきなりうまくいかなかったようだ。
苦々しさを隠そうともしないギルフォードら部下たちの顔を見れば、訪ねるまでもない。
そして、すぐさまコーネリアはネェル・ユーロン内のブリーフィングルームへと案内されることとなったのだった。
408: 弥次郎 :2022/04/29(金) 20:36:12 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- 「ネェル・アーガマ」級ネェル・ユーロン 第1ブリーフィングルーム
「---以上が、サンマグノリア共和国首脳部との第一回の折衝の結果となります」
「物別れにはなりませんでしたが、限りなくそれに近い状態。
相手側からすれば、我々地球連合という組織は、劣等種の集まりにすぎないとみなされたということになります」
藤山とその補佐官の報告は、大多数に呆れを以て受け入れられることとなった。
86区のエイティシックス達からかき集めた情報や証言から推測されたものと、大差のない結果だったということだ。
報告の要点については各員の手元にある端末やブリーフィングルーム前方のモニターなどに表示されている。
そのいずれもが、とてもではないが正気の話し合いの結果とは思えないものである。
「地球連合のサンマグノリア共和国への服属、戦力の譲与、あらぬ風評被害や欺瞞への謝罪……よくもまあ、これだけ言い出せたものだな」
コーネリアもまた端末でサンマグノリア共和国からの要求に呆れかえっているばかりであった。
自分が、かつては覇道的覇権的な強硬政策を打っていたブリタニアに属していた自分が言うのもアレだが、アホらしい。
これで何かしらの交渉材料や武力などを背景としたものならばまだ理解できるが、それらも一切なしの上なのだから、門外漢であるコーネリアでさえ無茶苦茶とわかる。
「無論、これらはすべて跳ね除けております。
あちらからは武力での恫喝もされましたが、何ら脅威ともならないと判断されております」
藤山はあくまでも冷静に報告を続ける。
「現在のところ、グラン・ミュールの内側に人員派遣や大使館の設置などは認められず、連絡室が置かれるにとどまっております。
中に入ることが許されるのも、アンドロイドのみであり、その行動には監視が付くとのこと。
尋常な外交は期待できそうにはありません」
「では、このままではサンマグノリア共和国に対する任務を続行することが難しいのでは……?」
「交渉自体は今後も続けられます。あちらの要求について、その根拠を示せと挑発しましたので。
また、グランミュール内での活動は限定されましたが、86区での行動はほぼ自由にしてよいと言質を取っております」
そこに関して、藤山は抜かりはなかった。
宇宙怪獣やその他の侵略者よりも喫緊の問題であるレギオンについての対処を行うのに、現地勢力の一応の承認は必要だったのだ。
幸い、多少言葉遊びをしてやれば、連合が行動するのに問題のない言葉を引き出すことはできたので問題はないということ。
「よって、エイティシックス達との共同戦線を張ることで、犠牲者を減らし、またレギオンの漸減を行うことを当面の目標とします。
また、エイティシックス達に対して戦力の供与や訓練、あるいは間接的なモノを含めた支援も展開できます」
「なるほど、あくまでも自分の領域でなければいい、というわけか」
「劣等種同士が手を組もうが問題ないと考えているだけだろうな……生殺与奪はこちらが握っているというのに」
何人かの武官から声が漏れた。
それらは実際に正しい。相手からも言質を引き出したならば、その言葉の通りに行動するのが良いことは確実だ。
「一対一の交渉ならばともかく、他国を交えての交渉の場を設け、今後はサンマグノリア共和国に圧力をかけていく予定となっております。
サンマグノリア共和国がいつまで強硬な姿勢を貫けるか……エイティシックス達が離反した時、本当に抗えるのかも含め、詰めていく予定です」
それは、言外に手段を択ばないということも暗示していた。
戦争とは外交の一手段。最悪、軍事によるわかりやすい恫喝を仕掛けることも、藤山にとっては十分に選択肢の一つであった。
409: 弥次郎 :2022/04/29(金) 20:36:45 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
また、と藤山は続ける。
「また、サンマグノリア共和国の有志……今回の交渉で橋渡し役となってくれたミリーゼ大尉については、こちらから今後も接触を行う旨を伝えております」
「バックドアか」
そのつぶやきに応えたのは、出席していた医療関係のスタッフからだった。
「はい。彼女の言動や行動を分析にかけましたが、何らかの指示や誘導によるものはないと判断。
性格的傾向からすれば、やや潔癖症で夢想的な傾向もみられはしますが、彼女の年齢などから勘案すれば、許容範囲内と言えるでしょう」
つまり、彼女の行動は完全なる彼女個人の意思によるもの。
危うさこそあるが、それでも他から見れば天と地ほどの差が存在している、ということだった。
「彼女につきましては、4名のアンドロイドを常に張り付け、警護や連絡体制を構築することとしました。
サンマグノリア共和国の大多数がこちらを拒絶しても、未だに無視しえないと考える少数派とつながる貴重な相手と判断しましたので」
引き継ぐ形で藤山は断言した。
「最悪のケースに備えた言い訳にもなると、渉外役としては判断できます。
今回のこの恒星系は比較的余裕がある状況であり、強硬手段としなくてもよい可能性もあります。
サンマグノリア共和国の自助努力---あるかどうかは怪しく、足りないかもしれませんが、そちらに期待する次第です」
以上です、と藤山は報告を終えた。
では次に、と司会進行役は話題を転換する。
「現地戦力---エイティシックス達に供与する戦力や教導について、軍事担当者の方から。
あと、エイティシックス達らが一切弔いなどを受けていないことについて本国からの至急の連絡が届いていますので、併せてお願いします」
そうして、ネェル・ユーロンでの会議は続く。
星暦惑星軌道上のファントムビーイングの星暦惑星派遣群の総司令部とも話し合いながら、今後の戦略について、深く深く。
壁の中での偽りの安寧を貪ろうとするサンマグノリア共和国と、それに対し、叩き起こしにかかる地球連合。
その丁々発止の戦いは、まだまだ幕を開けたばかり。戦いは短く終わるとは限らない。時間をかけ、ゆっくりと穿っていくのも肝要なのだ。
その意志を以て、地球連合の派遣艦隊はその日も夜遅くまで動き続けていくのだった。
410: 弥次郎 :2022/04/29(金) 20:37:15 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
やっと接触編完了しました…
次は接触後の動きについて、あちこちの様子を描いていこうかなと思います。
原作キャラもどんどん出す予定ですし、忙しくなりそうですねぇ。
ちなみにですが、亡国のアキトの青盤第一巻をゲットしましたので、時間があるときに履修しようかなと思っております。
ゴールデンウィークですしね。
最終更新:2023年11月05日 15:23