298: 弥次郎 :2022/05/02(月) 22:55:12 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「さんざめく死者の声に」2
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 アマス級陸上艦艇「ケーロン」 個室
星暦惑星 サンマグノリア共和国86区に到着以来、実働部隊「レークイヴェム・オーケスタ」を率いるブレンヒルトは酷使される日々を続けていた。
グラン・ミュールの外の、東西南北それぞれに平均しても20万から30万もの人々の魂があるのだから、鎮魂を行うにしても時間がかかるのだ。
同じく鎮魂・除霊の実働部隊である「ヴァルキュリア・ファイルズ」も同道しているとはいえ、双方合わせても実働人員は1000名に届かず。
それだけで20倍から30倍の数の魂たちを鎮魂し、除霊し、眠らせるのだから負担が一人当たり大きいのである。
以前も述べたように、ただ死者が多いだけでなく、時間も経過しているということもあって質も悪いと来たものだ。
よって、数と合わせてどうしても除霊や鎮魂のペースは悪化せざるを得なかったのである。
なので、同じ個所で数時間かかるような鎮魂祭などを繰り返しやることになるのも割とざらにあるわけである。
「うううう……」
そして、母艦であるケーロンの個室で、ブレンヒルトは呻いていた。
激務に次ぐ激務。鎮魂の曲刃の使い手であるブレンヒルトは大規模な鎮魂祭の指揮だけでなく、それを用いた個別の除霊を行っていた。
殊更にこの東部戦線は特に激戦区らしく、強い魂が行き場もなくさまよっているということもあり、それに個別に対応する必要があった。
その結果、疲労困憊となり、個室で呻いているということである。
「ブレンヒルトーもうすぐに東部戦線第4FOB(前方作戦基地)につくよ……って死んでいる」
その時使い魔の猫が入室してきて、ブレンヒルトの姿を見るなり呆れたような声をあげる。
とはいえ、半分はそうなったか、という納得の色が強い。猫だって、ブレンヒルトがどれだけ過酷な仕事をこなしていたのかよくわかっていたからだ。
「大丈夫かい?」
「大丈夫に見えたらあなたの目はとうとうおかしくなったことになるわね……」
「言い返せる元気はあるみたいだね」
言い返しながらも、ごそごそとブレンヒルトはベッドの上で身を動かす。
「肉体的にも疲れてはいるけれど、一番大きいのは精神面の疲れよ。
あれだけの数の魂や霊魂と対話をしたり、冥府に連れて行ったり、あるいは説得したり……楽じゃないのよ」
「そりゃあ、何年も放置された魂だからねぇ」
「おまけにスカート捲りをしてくるガキの霊までいたわ…」
「どうしたんだい?」
「北欧の女は身持ちが固いのよ?延髄チョップで許したわ」
「幽霊に延髄……?」
ともあれ、とそういう年頃のエイティシックスの霊を折檻したのをおいて、猫は問いかける。
「ここのところブレンヒルトは誰かを探しているようだったけど、どうしたんだい?
任務があってのこととはいえ、あちこちのFOBやFOS(前方作戦拠点)で空き時間にあちこち歩き回っていたけど」
「……そうね、気になることがあるのよ」
身を起こし、ブレンヒルトは真剣な表情で語り始める。
業務を行うにあたり、「レークイヴェム・オーケスタ」や「ヴァルキュリア・ファイルズ」はあちらこちらのFOBを行き来している。
それ自体は何らおかしいことではない。共和国が設置しているお粗末な基地などより、十分な拠点化・陣地化がされ、設備が整ったFOBなどの方が現在はメインだ。
エイティシックス達や整備士、そして前線に配備されている物資や武器弾薬なども含め、共和国の戦力も連合の基地に居を移している。
業務の関係上、担当地区や戦隊ごとに内部で住居などはわけられているが、それは重要なことではない。
そんな、連合の人員とエイティシックス達であふれかえるFOBやFOSでブレンヒルトは人を探している、ということだ。
「例えるならばレギオンがいる、といえばいいのかしら…あるいは、ワイルドハント。
もしくはワルキューレ的な何かが存在しているようなの」
「……どっちの意味で?」
「亡霊や死者の魂、という意味よ。ああ、全く、紛らわしいわね…」
無人兵器にレギオンと名付けるからややこしいわ、とブレンヒルトは悪態をつく。
「ともかく、誰かが大勢の霊や魂を引き連れているみたいなのよ。
偶然か、故意か判別はつかない。存在はわかっても探知しにくくてね、この東部戦線のどこかにいることは分かっているんだけど、見つからないのよ」
「探知が難しい……霊魂が大人しくしているのかな?」
「そうなるわね。原理はわからない。けれど、良きものにしろ悪しきものにしろ、看過はできないわ」
299: 弥次郎 :2022/05/02(月) 22:56:10 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
何しろ、霊魂が一人の人間に多数へばりついているのは基本的には良い状況とは言えない。
守護霊や守護聖人といったものはあるとはいえ、良いものでも悪いものでも何かしらの負担が発生することは避けえない。
霊的なモノを一般人が探知できないから気が付いていないという可能性はあるが、そうでなくとも物質世界でも影響を与えるほどになっているだろうし。
「目星はついているのかい?」
「エイティシックスの誰かね」
ブレンヒルトは猫の問いかけに断言する。
「その根拠は?」
「数としては万人とまでは行かなくとも、一人で背負うには大きすぎる300人くらいの魂を連れている。
連合ではその手の鎮魂や除霊などはそれとなく行われているから、そこまで膨れ上がる可能性はほぼ0よ。
対して、エイティシックス達は遺体の回収や墓地の作成すら許されない。連合の見ていなかったところで、蓄積したかもしれない。
どうやってかは不明であるけれど、そうなる可能性は十分あるわ」
霊魂や霊がだれかに集まるというのならば、何らかの理由や要素に基づくと推測するのが自然だ。
例えば誰かが遺品を集めているとか。あるいは誰かが弔いの真似事でもしているとかだ。
だけど、とブレンヒルトは眉をしかめる。
「問題なのは、私たちは表向きには別の任務を帯びている部隊という体裁で、接触の時間が限られることね」
「駐留できる時間も限られているしねぇ……」
「そういうこと。私たちの行動は表に大々的に残ってはならない。いえ、そもそも存在しなかったか、別な形で残すしかないのよ」
だから、大々的な調査などを行うことができないのだ。
ただし、とブレンヒルトは断言する。
「そういう性質ならば、見れば一発でわかる。
今回こそ、あたりを引けるかもしれないわ」
何しろ、その霊の集団の感じられるのが第4FOB、すなわち現在ケーロンに乗り込んでいるブレンヒルトらが向かう先だからだ。
位置を徐々に絞り込みながら、虱潰しに探してきたのだから、次でこそ、とブレンヒルトは意気込んでいる。
「見つけたらどうするんだい?やはり除霊?」
猫の問いかけに、ブレンヒルトは顎に手を当て、考えながらも応える。
「状況によりけりね。
これだけ多くの魂を連れているっていうのは明らかに常人じゃないわ。
ひょっとしたら裏の人間としての素養があるかもしれない。その個人を特定してから判断するところね。
場合によっては表に介入して引き抜きをかけるかもしれないし……」
ともあれ、やるべきことは一つに定まっているわけである。
この時のブレンヒルトは、よもやとんでもないものを目撃することになるなど、思いもしなかったのだった。
300: 弥次郎 :2022/05/02(月) 22:56:45 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4FOB
地球連合とサンマグノリア共和国の戦力であるエイティシックス達の共同戦線は、各方面ごとのFOS、そしてそこからさらに先に展開するFOBで構成されている。
そして、FOBおよびFOSは、生産拠点でありこの星暦惑星におけるMOB(主要作戦基地)であるファントムビーイング号からの支援を受け、維持されている。
存在はしてもまともに稼働しない要塞砲などがあるグラン・ミュールの近くで戦闘を行う理由は全くないとの判断から、戦線は大きく前進した位置に敷かれた。
共和国からの余計な横やりを避けるためであり、戦力的にも前線を拡大しても問題ないと判断したためだ。
というか下手に要塞砲の射程圏内にいては後ろ玉を食らう可能性があるとまで考えている。
実際、接触時には外交使節艦隊すらも攻撃を受けたのだから『誤射』が発生する可能性は十分すぎるほどにあるのだ。
なお、共和国においてはこの前線前進を大きく報じているが、あくまで共和国の無人機とハンドラーたちの戦果とうそぶいている。
まあ、別に共和国に褒めてもらうためにやっているわけではないので、地球連合としてはどうでもよい話である。
86区で何をしようがサンマグノリア共和国は関知しないという言質をとっている以上、何を言ってこようが無視してよいのだ。
そして、サンマグノリア共和国にとってみれば、劣等種の集まりである地球連合がレギオンを撃退すると言い出しているのは、ある意味渡りに船。
有色種(豚)に使う武器弾薬食料の生産や輸送などだってただではないわけで、くれてやらなくていいのは非常に助かる面が多かったのだ。
だが、それはただでさえエイティシックス達に戦争を押し付けている共和国にとっては、自ら戦う能力を捨てていく行為に他ならない。
戦果などを自軍によるものだと喧伝しても、その実態は何一つ変わることはなく、自らを守る刃を腐らせていくに他ならない。
それをやらかした国が一体どういう結末を迎えたかは、歴史を少々振り替えればわかろうというものだ。
ともあれ、グラン・ミュールの外側、存在しない86区に追いやられたエイティシックス達との共同作戦は順調であった。
最初こそ少年兵ばかりが主体ということもありDDRの実施を考えた連合であるが、彼らの意見などを確認し、動員を続行という形となった。
白豚と同じよう安全なところで腐るのはごめんだ、と彼らは言い方こそ違えど、そのように意志を表明したのであった。
結果として、エイティシックス達の中で現役のプロセッサーは教育課程に放り込まれることになり、軍人としての正規訓練を受けることとなった。
少なくともジャガーノートという棺桶以下の機体でははない、連合の供与する戦力を動かせるようになってもらわなければならなかった。
並行して、殆どケアを受けてこなかったエイティシックス達に医療的なケアを行い、心身の治療を進めることとなった。
言うまでもなくPTSDや劣悪な環境に由来する病気などを抱えていることがあるので、対処を強いられたのである。
そんなわけで、最前線の一つを構成する地球連合軍在サンマグノリア第4FOBは多くの人間によって飽和し、喧騒に包まれているのであった。
そんな中で、ブレンヒルトはエイティシックス達の多くが集まっている訓練区画を訪れていた。
エイティシック達には元々の乗機(とも呼べない駄作)であるジャガーノートに近い特性のMTが割り当てられている。
そして、それに慣れるには座学もそうであるが実技が重要ということもあり、演習場やシミュレーションルームでの訓練に励んでいるということだった。
「となれば、必然的に絞り込めるわね」
表向きには地球連合軍の中佐という地位を与えられているブレンヒルトは、仕事道具一揃いを、鎮魂の曲刃をケースに収めて携行している。
これ自体が発見器となるほか、最悪の場合その場での執行も可能なようにともってきたものだ。
そして、鎮魂の曲刃と自身の感知能力で導かれるままに、FOBの中を歩きだした。
301: 弥次郎 :2022/05/02(月) 22:57:22 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
比較的サンマグノリア共和国側に用意されている、旧サンマグノリア共和国市街地を利用した演習場。
そこは現在、供与されたMT「ナースホルン」たちが激しく戦闘機動を繰り広げていた。
150㎜砲という戦車型を超える火砲と装甲を搭載しながらも、装甲がほぼなく貧弱な火器のみのため結果的に高機動なジャガーノートを超えているという矛盾の塊。
そんな、どこぞのフェルドレス開発者が聞いたら発狂しそうな、矛盾を成立させている機体が戦場を疾駆していく。
対峙しているのは、撃破され、回収されたレギオンを基に作られた標的ドローンの群れ。
レギオンと同じ武装を再現して搭載したそれは、ペイント弾を放ち、無人機故の無感情で無慈悲な動きで襲い掛かってくる。
だが、それに対峙するMTたちとて劣っていない。むしろ、凌駕している。
四本の脚と、オプションであるワイヤーアンカー、そして各所に設置されているスラスターユニット。それらが、尋常ではない動きを可能とする。
普通ならばそれだけの動きをするだけで中のコクピットに収まるパイロットはとんでもないダメージを受けるだろう。
しかしそれらは盛り込まれている対G機構や保護機能が見事にフォローしており、そんな無茶苦茶な動きを可能としていた。
殊更動きが優れているのは、一般機であるF234型をマイナーチェンジしたF237型。軽装備・軽装甲にしたそれは近接狩猟型もかくやの動きをしている。
それでいて、レーザーガンと機関砲による火力も侮れないのだから、なんとも卑怯な存在というべきか。
「すごいものね……」
ブレンヒルトは機動兵器の専門パイロットなわけではない。
それでも、彼らの動きが、エイティシックス達の動きが優れていることくらいはわかる。
元々、ジャガーノートという兵器擬きがどうしようもない駄作機であり、一撃を、それこそ12.7㎜機銃を食らえば装甲が抜かれるという土壌があった。
そうであるがゆえに、必然的にエイティシックス達の戦いは回避や迂回、潜伏、あるいは僚機との挟撃などが選ばれることになる。
それこそ、一発まともに受ければアウトという何ともシビアな世界だ。そうであるがゆえに、彼らは機動戦というものをいやでも学ばざるを得なかったのだろう。
そんな彼らが、自在に動き回れる足腰と比較にならないほど強力な火砲を持つMTに乗り込んだらどうなるか、火を見るよりも明らかだ。
「……あら?」
しかし、そんなMTの群れの中に、毛色の違う機体を発見する。
装脚機構兵器なのは同じ。しかし、ナースホルンには存在しない頭部があり、さらには武装の配置なども異なっているのが窺えた。少なくともMTではない。
(……ッ!)
同時に、気が付く。あの機体だ、と。
あの機体に乗っているパイロットこそが、探している人間だと。
エイティシックス達は年間で10万にあまり死亡しており、生存率は年間で0.1%。それゆえに誰もが少なからずそういうものに付きまとわれる。
だが、あの機体はそれ以上だ。常人には見えないであろう、かの機体を見守る300名余の魂。その数と質とに、鎮魂の曲刃が明確に反応している。
加えて、明らかに尋常ではない感情---もはや妄念ともいうべき誰かのそれが取り巻き、傍目にはそれだけコントラストが違う。
さながら、それは死を引き連れて進む死神だ。何らかの理由で刈り取った魂を背負い、どこかへと連れて行こうとする意志を感じる。
だが、その死神に負のイメージは付随しない。まるで逆位置にある大アルカナの「死」のようである。
13番目のカードである「死」はその名の通り、別れ、中止、死の予兆、全ての終わりといった意味合いを持っており、明らかにプラスのイメージはない。
しかし、それはあくまでも正位置での意味するところ。死というのは生と誕生と表裏一体であり、分離不可能なモノ。
そうであるがゆえに、逆位置においては新しい始まり、転換、再出発、再生、起死回生、覚醒など極めてポジティブな意味合いになるのだ。
(あの死神は……そういうもの!)
なるほど、それならば正のイメージの死という矛盾が成立することも、何らおかしいことではない。
ならば、とブレンヒルトは走り出す。あの機体のパイロットに接触しなくては、と。
表の身分を使ってでもという強い意志と共に、ブレンヒルトは動き出した。
302: 弥次郎 :2022/05/02(月) 22:58:22 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
いよいよシン君と接触ですよ。
ちなみにシン君、この時点で動きやすいから、とイッソスを選んでおります。
ギアス世界から来た教官もドン引きするような機動をしていますが、いつも通りですね。
最終更新:2023年08月23日 23:25