954 :ひゅうが:2012/02/17(金) 11:18:48
――西暦3589(皇紀4249)年8月15日 銀河系南十字・盾腕
大英帝国 帝都大ロンドン
「そうか。では、同盟はそのように。」
時代がかったヴィクトリアンスタイルの部屋の中で、蝶ネクタイをした妙に眼光の鋭い女性が電話機(今時珍しい有線式)の向こうに喋っていた。
右足を左足の上に上げ、体は斜め7度に傾いている。
着用しているのは黒にほんの少しのアイボリーが混じったスーツだ。
「議長。よろしいので?」
何がだ。と彼女は部下に問いかけた。
「自由惑星同盟、いささかかの国と似すぎているきらいもあります。
あの植民地人どもに――」
「それがどうした?」
当代の「グレート・ロンドン公爵」、またの名をスペンサー=チャーチル卿は傲岸に言ってのけた。
「何も世界のすべてが国王陛下の膝下にあれかしと望むのは愚かなことだぞ。アイランズ卿。我々はツンとすましていればいいのだ。いずれは彼らも遊園地ではしゃぐ子供から小奇麗な身なりに身を包みクラブへの出入りを望む。その時は我々が仲間たちに紹介して差し上げる役割を果たせばよい。」
「レディをエスコートするように?」
「英国が日本を紹介した時のように。」
卓見ですな。と部下は素直ではない表現で驚きを伝えた。
「なんの。私が大英帝国を背負っていた頃はかの国とわれらが大英帝国は対等に近い関係だったのだよ。
君らにもその気概を持ってもらわねば・・・その・・・困る。」
分かっておりますよ。サー・ウィンストン。
先代の「円卓」議長にして、大英帝国宰相は英国の「円卓」をよみがえらせた20世紀の怪物に電話先で優雅に一礼した。
少なくとも彼女にはそれが分かった。
では。と電話を切った「彼女」は、執事を呼ぶ前にふふっと小さく笑う。
「気が付いた時ははるか未来で、それも日本帝国と大英帝国が運命共同体か。なんとも笑える世界だ。
しかも日本には『お仲間』までいるという――」
先日、大英帝国が誇る情報部と日本帝国の影の指導部とは接触。互いにそのトップ同士が意見交換を行う機会を得ていた。
先方は「彼女」を随分警戒していたが、「彼女」は基本的にこちらから動くつもりはない。
なぜなら――
「苦労というのは傍目から見て楽しむものだよ。まして覇権国家の責任と苦労はね。
――さてさて日本人諸君はどんな世界をご所望かな?」
かつて、「悲劇の宰相」と呼ばれた「彼女」は、かつて愛用していた葉巻ではなく執事が持ってきた甘味(と○やグレート・ロンドン支店製造のどら焼き)を優雅な動作で手に取り、ティーカップに注いだ玉露を口にし、笑った。
最終更新:2012年02月18日 21:32