673: 弥次郎 :2022/05/05(木) 00:04:11 HOST:softbank126041244105.bbtec.net


憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「空が落ちる前に」2


  • 星暦恒星系 星暦惑星 衛星軌道上 地球連合軍星暦恒星系派遣群 星暦惑星地上方面軍司令基地 ソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦



 生産工廠能力も備えるソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦「ファントムビーイング」の中では、1週間後の作戦への動きが整いつつあった。
新型レギオン・仮称コクーンの鹵獲作戦「オペレーション・スカイフォール」のための人員の訓練、武器弾薬の用意、あるいは戦力集結などだ。

 殊更、生産工廠においては本作戦に向けていくつかの特殊兵器の開発がラインを新規に作る形で進められていた。
即ち、鹵獲の要たるレギオンに注射のように打ち込むことで、マイクロマシンの動作を麻痺させる対レギオン中枢麻酔弾(パラライズバレット)。
その弾丸というなの注射器をどこに打ち込むかをガイドするOSの追加プログラムや機体に外から取り付けるセンサーユニット。
そして、既存のそれを拡大・拡張し、より大質量の高粘着性弾を打ち出すようにしたトリモチランチャー。

 些か珍妙ではあるが、立派に決戦に備えた兵器群であった。生産・品質検査などを終えたそれらは順次保管庫に移され、作戦前に装備されることになっている。
それらの運用を行うパイロットたちの慣熟訓練もシミュレーターなどで順調に進んでおり、実戦への備えは万全と言えた。


  • ソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦「ファントムビーイング」 軍事区画 第13会議室


 オペレーション・スカイフォールに向けた何度目かの会議。作戦開始が間近の最終確認の意味合いも強い会議だった。
 この「ファントムビーイング」だけでなく、星暦惑星各国との間でのフォールド通信による参加も行われており、参加者は錚々たる顔ぶれであった。
 各国首脳部および軍上層部、技術者たち。地球連合からは各国に派遣されている総指揮官や武官、さらにレギオンの分析を行う研究者なども加わっている。

 そんな中にあって、ただ一人浮いていたのは、サンマグノリア共和国の代表として参加しているヴラディレーナ・ミリーゼ少佐であった。
 そう、少佐という階級を預かるとはいえ、15歳の少女がサンマグノリア共和国の代表にして唯一の参加者。
彼女の上位の面子はどうしたかと言えば、話が通じないので招待されておらず、まともに通じた彼女だけが残された結果なのだ。
他の面子がこれまでに発した発言やら態度のこともあり、彼女は画面越しにもわかるほどに恐縮していた。

 とはいえ、他国の人間も、地球連合もそんな彼女を咎めることはしていない。彼女も被害者であるし、可能な限り引き留めようとしていたのを知っているからだ。
それに加え、すでに各国はサンマグノリア共和国の戦力というものがもはやあてにできないということは重々承知であったのだ。
エイティシックスと烙印を押した元国民を強引に戦線に放り込み、尚且つレギオンに利敵行為を働いていた愚か者の国、そのように認識されている。
しかもこの期に及んで他国との共同作戦さえまともにとろうとしないなど、常識を置き去りにしたような振る舞いだ。

 幸いにして共和国方面から陽動をかける戦力に関しては地球連合軍が代行することで何とかなることにはなっている。
 そのため、サンマグノリア共和国には作戦だけが通達され、意見は言えても決定権がないオブザーバー参加だ。
流石に何かしらの決定権を預けたところで高々少佐階級では権限が及ばないし、政治的にも何らバックアップもないのだ。
他国にしても地球連合にしても、あまりにも彼女に求めすぎるのは酷な話だと認識していた。

「では次に、オペレーション・スカイフォールについての各方面での動き、および一連の流れについて」

 司会進行役は、淡々とおのれの役目を果たしていく。

674: 弥次郎 :2022/05/05(木) 00:05:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 オペレーション・スカイフォール。
 それは、各国が各方面で陽動をかけ、レギオンの動きを誘引。
 然る後に、宇宙から投下したテレポーテーションアンカーにより戦力を送り込み、コクーンを強襲・鹵獲・離脱するという流れである。
 以上、終わり。
 非常にシンプルにしているのは、それだけエラー要素が発生しないようにすることで確実性を増すためであった。

 何しろ、確認されているコクーン---新型のレギオンは、明らかに長射程兵器を搭載しているのが確認されたのだ。
その射程がどれほどなのか、どういった動作方式なのかは未だに不明。しかし、その巨大な機体から察するに、それにふさわしい射程と威力なのは確定だ。

 なぜ、それを断言できたか。それはコクーンの大きさと外観から確認できた設計だ。
 基本的にだが、慣性制御などを行わないで砲撃を行うならば、作用には当然反作用が発生する。
弾を前方へと発射する運動エネルギーは、必然的に反対向きのベクトルに運動エネルギーを発生させるのだ。
それを吸収あるいは分散させることによって、正確な射撃が実施できるのであり、如何にレギオンでもその法則からは今のところ逃れられていない。
 装脚兵器以前の戦車がなぜ輪帯という設置面積の大きい、壊れやすく交換なども面倒なそれを使っていたのか?
それは火砲の反動などを受けてもひっくり返ったりしないようにするためであり、重量のある装甲を持つ本体を動かすためだ。
 その理論に基づくならば、その巨体を持つということは、それが必要な火砲を持っていると、そういうことになるのである。

 そして、ここからは半ば憶測も含むが、レギオンは防衛ラインを飛び越えて攻撃する手段を求めているのではという声があった。
レギオンに組み込まれているプログラムによる禁足事項の中には、弾道弾といった長距離兵器の使用禁止というものが存在している。
だからこそ、レギオンは航空戦力を封じ、物量で大地を埋め尽くし、前進することによって各国を追い詰めている。
しかし、それは人類側の抵抗によって押しとどめられ、失地奪還さえされている状態だ。
 そういう問題に自律判断を行うレギオンはどう対処するか?
 即ち、超長射程(オーバーロングレンジ)により、距離の防壁を飛び越え、敵軍の重要拠点狙い撃ちにするというものだ。
コクーンの周辺には尋常ではない数の発電プラント型が存在している。もちろん建造や艤装に伴う電力供給の必要もあるだろう。
 だが、その電力でもって実現できることは、何も生産などだけではない。

『レールガン。我々の首都や重要拠点を狙い撃ちにできる火砲を使っているかもしれない……』

 厄介だね、とつぶやくのはギアーデ連邦の暫定大統領のエルンスト・ツィマーマンだった。
 コクーンの確認されている位置、そして推定される展開可能地域と射程圏には、当然ながらギアーデ連邦の首都もしっかり収められている。
いや、ギアーデ連邦だけではない。北も南も西も、多くの国家が射程に収められているのだ。

『とはいえ、こちらはコクーン発見とその解析の結果に基づき、地球連合軍からこの手の戦略攻撃への迎撃システムを供与されています。
 最前線はともかくとして、首都など重要拠点への配置はすでに完了済み。完全に無防備ではありません」

 そう言うのは、ヴァルト盟約同盟北方防衛軍総司令官のベル・アイギス中将だ。
 ただし、と彼女は続ける。

『地球連合が即座に用意できた数の限界、そして配備を急いだ結果、守れているのは重要拠点や首都のみなのも事実です。
 前線基地などが軒並み吹き飛ばされれば、こちらは頭が無事でも出血多量で死にかねません』
『全くその通りだ。切り捨ててよい国民など存在しない』
『つまり急ぐべきはそのレギオンの排除……できれば鹵獲か』

 ロア=グレキア連合王国の代表として出席する王太子ザファル・イディナローグは以前から検討されていた選択肢を口にする。

675: 弥次郎 :2022/05/05(木) 00:05:33 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 そう、鹵獲。
 オペレーション・スカイフォールにおいては撃破ではなく鹵獲が目標となっている。
 レギオンがどの程度の新型開発能力を有しているのかを評価するためにも、
勿論、星暦惑星各国だけでこのコクーンへの---あるいは成虫となった後の姿への対処ならば撃破が限界だろう。
しかしながら、現在は違う。地球連合の協力によって、このように妨害を飛び越えた通信を行い、会議を行い、対策までできるのだから。

『現地には護衛と思われる戦車型および重戦車型が多数、さらに対空自走砲型や近接狩猟型などが数えるのもうんざりするほど。
 敵陣の尋常な突破は、決して不可能とは言わないが、消耗が大きくなるな』

 サンマグノリア共和国に駐留するコーネリアは、それでも楽観できないことを示す。
 レギオンとてバカではない。自動工場型や発電プラント型を含め、重要な個体を守るための戦力をしっかりと張り付けているのだ。
特に、レギオンの編成を種別で分析にかけると、明らかに地球連合が介入し始めた時よりも対空自走砲型が増えており、阻電攪乱型も広い範囲に展開している。

『レギオン共も、妨害を潜り抜けられる航空戦力がいるということに気が付いている。
 各地に派遣した航空戦艦と交戦した結果だろう。対空自走砲型では撃ち落せないならば、もっと大きな砲をというわけか』
「それはほぼ確実でしょう」

 そして、それらを受けて締めくくるのが地球連合軍星暦恒星系派遣群 地上方面軍総司令官のアルビーナ・ベズディーチュコヴァー中将だ。

「レギオンの対処能力や学習能力は非常に高い。地球連合が過去に接触し、交戦してきた敵対的な勢力の中でも上位でしょう。
 ひょっとすれば、このコクーン以外も着実に戦力を増やしている可能性も十分にありうる話です。
 レギオンの適応力が勝るか、我々の努力が先を行くか。そういう話になるでしょう。
 この作戦以降も、決して油断はできない。その気概でお願いいたします」

 そして、アルビーナは司会進行役に振り替える。

「続きをお願いします」
「はい」

 司会進行役の操作で、共有されているモニターにはオペレーション・スカイフォールの最重要段階、すなわち接敵後の流れとそのための装備が表示された。

676: 弥次郎 :2022/05/05(木) 00:06:20 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

「コクーンへの対応部隊は、以前より決定されていたように軌道上からテレポーテーションアンカーにより投下します。
 その前段階には露払いとしまして、自力飛行の可能なTMSと付随するMS隊をブースターを搭載した状態で弾道軌道で突入させます。
 この時点で、警戒管制型を撃墜、そしてジャミングをかけることによりレギオン間の通信を妨害します」

 マップ上にそれらの動きを示す矢印が表示され、レギオンの集団に突き刺さる様子が描かれた。

「地点を確保した時点で、コクーン鹵獲部隊は新開発のパラライズバレットを解析情報に基づき注入。
 また、トリモチランチャーにより逃走や兵装の稼働の阻害を実施。無力化を進めることとなります
 その他の部隊は周辺のレギオンの排除を行い、鹵獲部隊の安全確保を行います。ここにはTMS隊も加わり、一時的にではありますが制空権を確保します」
『パラライズバレット……レギオンの指揮伝達系統や中央処理装置を妨害するマイクロマシンだったね』
「はい。問題点としましては、コクーンの内部構造が未だに不明瞭なため、解析やスキャンを行ったうえで調整を行い、撃ちこむ必要があること。
 可能な限り安全を確保して行いますが、時間をかけすぎた場合、レギオンが集結してきて鹵獲を諦めざるを得ない状況もあり得ます」

 勿論、MSとレギオンとでは戦力の差が著しいのは確か。
 だが、かといってMSが絶対無敵でレギオンを決して逃がさないかと言われればそうとも限らないのだ。
 一面では数というのは正義だ。相手が如何に弱いからと言っても油断は決してならない。

「コクーンにパラライズバレットが作用し、活動が停止もしくは低下した時点で、コクーンは宇宙へと引き上げます。
 宇宙空間での運用など考慮していないレギオンならば無重力に溺れ、もはや脱出なども不可能となるでしょう」
『溺れる、か』
『うまい言い方ではあるわね』
「そして、鹵獲が完了後、投入戦力はテレポーテーションアンカーにより離脱。投じられたすべての戦力を引き上げる形となります。
 ここでレギオンに打撃を与えるためにも、可能な限りの後方活動個体の排除を行い、作戦終了となります」

 事前の行動を含めても数時間足らず。
 実際にコクーンを無力化する過程は想定でも1時間に満たないというまさに電撃的な作戦。
 それらは地球連合がもつ、星暦世界の先を行く技術によって担保されているという、なんとも力押しの作戦でさえあった。
 だが、急ぎでやらねば、コクーンが成虫になる前に成し遂げねば、甚大どころではない被害が出る。
 だからこそ、惜しみない助力と戦力投入を以て成し遂げる。地球連合の強い意志が窺えた。

「その後の予定ではありますが、コクーンは宇宙での無力化の確認後、ヴァルト盟約同盟領内に降下させます。
 そこから先につきましては、星暦惑星各国の皆様も交え、調査を行う次第となります」

 以上です、と司会進行役は説明を終えた。

「では、細かい事項の確認を進めてまいりましょう」
『そうしましょうか』
『そうだな』

 そして、人類たちの話し合いは続く。
 亡霊の群れに抗い、生き延びていくための一歩を踏みしめていくためにも。

677: 弥次郎 :2022/05/05(木) 00:07:51 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
次で事前の動きはほぼ終わり。
その次から、オペレーション・スカイフォールとなります。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • アポカリプス
  • 星暦恒星戦役編
  • 空が落ちる前に
最終更新:2023年11月05日 15:24