118: ホワイトベアー :2022/04/27(水) 23:46:41 HOST:sp49-98-12-173.msb.spmode.ne.jp
Muv-Luv Alternative The Melancholy of Admirals 第7話
西暦1984年11月20日 カリーニングラード中部
それを始めに感知したのは、カリーニングラード市街地と縦深の最果の中間地点で半ば義務的に警戒任務を務めていた12機のF-2 シラヌイで構成されるカナダ陸軍第84王立戦術機甲大隊第3中隊であった。
『た、隊長!振動・音響センサーに、感あり!』
その通信が言い終わる前にその反応はその場にいたすべての機体のセンサーが地面の揺れと悪魔の合唱のような音を探知した。
『おい、オイオイオイ。こいつは・・・まさか!』
『音源、こちらに向けて移動中!。しかも、これ、どんどん浅く』
もはやセンサーに頼らなくても地面の揺れを確認できてしまう。
メインカメラを地面に向けると、地面はまるで沸騰したかのように煮えわたっていた。
『総員、迎撃体勢をとれ!』
事態を察知した小隊長の命令がF-2シラヌイの衛士達のヘッドセットに達するのとほぼ同時に、巨大な爆発音を戦術機の集音センサーが拾い、大地が吹き飛ぶのと同時に泥濘の塔が天に向って登っていく。
もうもうと上がる土煙と吹き上げた泥濘により、太陽はその姿を隠し地上は闇に包まれた。
そして、闇の世界を待っていたとでも言いたげに、地面から次々と、大地を埋めつくさんとするほどの異形の怪物達によるレギオンが溢れ出てくる。
『べ、BETAだ! 』
『馬鹿な、ここは防衛線の中だぞ!?第1防衛線の部隊は何をやっていたんだ!』
『数は500、600、いやそれ以上?! 計測限界!?』
防衛線のど真ん中での突然のBETA来襲に無線は悲鳴に似た絶叫で埋め尽くされ、衛士達はパニックを起こしつつあった。
そして、そのスキを許すほどBETAは甘くはない。地上に完全に姿を表した突撃級が、その自慢の前面装甲殻を盾に、彼らに向って先頭を切って迫ってきた。
『落ち着け! 全機小隊単位で散開、遅滞戦闘を開始しろ!!』
瞬時に再起動を果たした隊長は突進してくる突撃級に向けて120mmHESH(粘着榴弾)をばら撒きながら、少しでもパニックを抑える為に指示を出す。
放たれた120mmHESHは先頭を走る突撃級の装甲殻に全弾命中し、砲弾が潰れて貼り付くと起爆、ポプキンソン効果をにより突撃級の装甲内部が剥離して飛散させて、その内部をズタズタに引き裂くことで無力化させる。
中隊長からの指示と一瞬ではあるが余裕ができたことでカナダ陸軍第84戦術機甲大隊第3中隊の衛士達も最低限の落ち着きを取り戻し、依然として向かってくるBETA群に対して、突撃砲を用いた後退射撃により火箭を張って対抗する。
トーネードより優れた火器管制システムとワンマガジンで2000発もの36ミリ弾を装填されている突撃砲のあわせ技により、前進を始めた突撃級の脚部は次々と撃ち抜かれていき、その場に転倒していった。
『制圧支援(ブラストガード)、今だ!!全弾叩き込め!』
『了解!ポーキュパイン11 FOX3!』
『ポーキュパイン12 FOX3!』
そして、中隊長からの命令の下に動けなくなった前方の突撃級を避けようと速度を緩めたBETA集団に向け制圧支援(ブラストガード)を担当する2機のF-2 シラヌイが、両肩に搭載しているAIM-12多目的自律誘導弾システムを使用して68発の小型ミサイルによる面制圧を実施、BETAを次々と刈り取っていく。
第84王立戦術機甲大隊第3中隊の反撃により、BETAの先制を制する事には成功したものの彼らが突撃級の集団に攻撃を加えているその間にもBETAは次々と地上に溢れ出てきて前進を始めていた。
119: ホワイトベアー :2022/04/27(水) 23:47:26 HOST:sp49-98-12-173.msb.spmode.ne.jp
『こちらポーキュパイン1よりCP、コード991発生!繰り返すコード991発生!BETAの大規模な地下侵攻だ!!急いで部隊を出せ、それと一帯に砲撃による面制圧を頼む』
『CPよりポーキュパイン1。ネガティブ、支援砲撃は近すぎる。至急増援を回す。それまでBETAの遅滞を行ってくれ』
『無理だ!俺たちだけでは足止めすらできない。俺達ごと吹き飛ばすつもりで全力で砲撃しろ!!』
『しかし、』
ポーキュパイン1の要請にCP士官は言葉を詰まらせてしまう。
砲兵隊の攻撃はともかく戦艦を含めた水上打撃部隊の面制圧を実施しようものなら、彼らも巻き込まれる可能性が非常に大きい。
『急げ!カリーニングラードに突っ込まれるぞ!!』
『・・・了解した。支援砲撃開始まで1分だ。着弾までに離脱してくれ』
『わかっている。アカの土地で味方の砲撃が原因で死ぬつもりはない』
すでにカリーニングラードまで目と鼻の先である。未だに満足な衝撃力が生まれていない今のうちに面制圧でBETAの数を減らさなければ、前線基地として機能しているカリーニングラードは大打撃を受けるだろう。
それは司令部も承知のことであり、しばしの逡巡の後、ポーキュパイン1の提案は了承される。
その間にもBETAは次々と溢れ出て、前進を続け、ここにカリーニングラードを巡る争いの第二グラウンドのゴングが鳴った。
120: ホワイトベアー :2022/04/27(水) 23:48:29 HOST:sp49-98-12-173.msb.spmode.ne.jp
西暦1984年11月20日 カリーニングラード臨時基地
『防衛基準体制2発令!戦闘部隊は出撃体勢に移行は直ちに出撃せよ!繰り返す。全戦闘部隊は出撃体勢に移行は直ちに出撃せよ!』
再建が進みつつあるカリーニングラード臨時基地では非常事態を知らせる警報とがけたたましく鳴り響き、防衛基準体制の引き上げを知らせる放送が繰り返し流され、基地内では将兵が慌てて持ち場に向って駆け出している。
「波形照合・・・BETAです!カナダ陸軍の通報通りカリーニングラード20キロ手前に軍団規模BETA群が出現!」
「震源発生源なおも増大中!」
「センサー観測班は何をしていた! 昼寝でもしていたのか!!」
「光線属種の存在の有無は!?個体識別急げ!!」
「支援砲撃開始はまだか! 水上打撃部隊と安全地帯にいる全ての砲兵部隊に出現場所一帯への面制圧を急がせろ」
「砲弾が照射で無力化されました!」
「チッ光線級がいやがる!多連装ロケット部隊は当該地域に集中攻撃。急げ!」
「BETAの動きを確認急げ!最悪、東部に展開している砲兵部隊が壊滅しかねないぞ」
バルト海海上に浮かび、セイヴァー・ジャンクション作戦司令本部が置かれているブルー・リッジ級揚陸指揮艦1番艦ブルー・リッジ。その作戦司令室では絶叫に等しい状況報告とコード991、BETA出現を知らせる警報音で満ちていた。
「推定4万のBETA群の地中侵攻か、してやられたな」
戦況状況が表示されている大型ディスプレイを確認しながら、レビル大将は己の直感が最悪な形で現実とかしている現状に内心では驚愕をしつつも鋼の意思でそれをねじ伏せ、表には一切出さずにその場に立っていた。
「よりにもよって戦力の大半を東部に集中させている時に来るとは・・・」
参謀が顔を真っ青にしてそう呟いた。
ミンスクハイブから向かってきている大規模BETA梯団の迎撃の為に戦力を防衛線前面に集中させ、さらに水上打撃部隊の半数を補給の為に後方に下げているところに突如として地下から縦深のど真ん中に出現したBETA、それも軍団規模、はそれまで順調に進んでいたセイバー・ジャンクションの根幹を揺るがす大事となり、作戦司令本部を恐慌一歩手前まで追い込んでいた。
この軍団規模BETA群はカリーニングラード臨時基地、東部に展開を進めるカリーニングラード派遣軍主力部隊砲兵部隊の背後、双方を20分以内に襲撃できる位置にいる。
決戦が目前に迫っている今、後者の背後をつかれる事は特に許容できることではなかった。
「現地で遅滞戦闘中のカナダ軍第84王立戦術機甲大隊第3中隊から突撃級集団がカリーニングラードに向かい進撃を開始したと報告があり。さらに面制圧を要請しております」
ここ数分で数少ない朗報の1つが現地で奮闘する戦術機部隊から送られてくる。これで派遣軍主力砲兵部隊に突撃級の集団が突っ込んで来るという最悪は避けられた。
もっとも、溢れ出る要撃級や戦車級の一部が砲兵部隊に向かう可能性が捨てきれないので退避させなければならない事には変わりないが、少なくともこれでカリーニングラード派遣軍が“敗北”する事はなくなったのだ。
「砲撃可能な部隊に直ちに面制圧を行わせろ。・・・なんとか最悪は避けられたか。それで、どうして事前の探知できなかったのかね」
「はい。恐らくはミンスクハイブからの地下茎構造がここまで伸びていた可能性が極めて大きいかと」
「全く・・・嬉しくない報告だな。BETAが狙ってやったかはわからんが、我々はまんまとBETAに一杯食わされたわけだ」
BETAの大群に対応するために部隊を動かしたら間隙をつかれた。結果としてはそうとしか言えない現状に、流石のレビル大将もため息交じりに悪態をついてしまう。
121: ホワイトベアー :2022/04/27(水) 23:52:47 HOST:sp49-98-12-173.msb.spmode.ne.jp
幸いにしてBETAの先頭集団が向かっているカリーニングラード臨時基地には3個戦術機甲師団クラスの戦力がミンスクから接近するBETA梯団の迎撃作戦の予備戦力として待機している。
作戦の準備期間中であった為にその全てを投入する事は難しいが、それでも大多数は稼働状態にあり、現在は急ピッチでカリーニングラード市街地に展開。BETAの迎撃態勢を整えていた。
また、すでにBETA出現地帯には周辺の砲兵部隊や水上打撃部隊による面制圧が開始されており、カリーニングラードに向かってきている集団に続く形で地上に出てきているBETAをミンチに変えている。
(勝てはするだろう。だが、問題は如何に少ない被害で終わらせられるかだ)
ミンスクから向ってくる6万のBETA梯団が迎撃範囲に入るまで2日しかない以上、ここで予備戦力である部隊や、兵站拠点としても機能しているカリーニングラード港に大打撃を受けるのもできれば避けたい。
「備えあれば憂いなし・・・か」
レビル大将の独白は誰にも聞こえることなく消えていく。
現状の戦力でも少ない被害で対処できる可能性が大きいが、橋頭堡内陸部へのBETAの大規模地中侵攻と言うの現状おきているハプニングが彼を慎重にさせていた。
そして、切り札を一枚きることを決断させる。
「タイホウに無線を繋げ、秘匿回線Gだ」
指示に従いオペレーターにより、日本海軍の戦術機母艦である大鳳との回線が繋げられる。
122: ホワイトベアー :2022/04/27(水) 23:53:26 HOST:sp49-98-12-173.msb.spmode.ne.jp
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最終更新:2022年05月05日 00:42