382: ホワイトベアー :2022/04/29(金) 19:00:18 HOST:sp110-163-11-139.msb.spmode.ne.jp
Muv-Luv Alternative The Melancholy of Admirals 第8話
西暦1984年11月20日 バルト海
旭日旗をマストに掲げた2隻の巨大な戦術機母艦を中心として、30隻余りの護衛艦艇がそれを囲うように輪形陣を組んでバルト海の海上を航行している艦隊、日本海軍第7常備艦隊第5戦術機母艦打撃群が風に艦首を向けるために一斉に転舵しつつある。
日本海軍の誇る大鳳型原子力戦術機母艦 、そのネームシップであり、世界で始めて戦術機母艦として建造された正規戦術機母艦である大鳳の甲板では、1個中隊12機の戦術機が発艦体制に移行していた。
描かれている部隊章は戦術機が描くメビウスの輪。それが示す部隊は日本海軍第108戦術機中隊 メビウス。世界最強かつ最新鋭の第3世代戦術機である倉崎 F-6 秋雷を装備し、世界でも最高クラスの才能と練度を誇る衛士達で編成された文字通り世界最強の戦術機部隊だ。
そんな彼らの両肩には大型長距離対地誘導弾システム AIM-1フェニックスを4発搭載したミサイルコンテナがそれぞれ1基ずつ搭載されている。
今、日本海軍機動艦隊からはBETAを迎撃するために人類最強の剣が飛び立たんとしていた。
「メビウス1より第2母艦戦術戦闘団各機。発着艦指揮所からGOサインが出た。これより発艦を開始する。」
嶋田の声が電波を通して衛士達のヘッドセットに達する。
「状況は先程聞かされた通りだが、俺達のやることはBETA先頭群にフェニックスを叩き込むこと、すなわち何時もと変わらん。
欧州のシロンボ共に世界最強の格を見せつけてやれ!」
『『『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』』』
「よし、全機発艦開始!!Rocknroll」
嶋田の合図と共にF-6 秋雷は発艦を開始する。
ガツンと言う猛烈な衝撃と共にカタパルトが轟音をたてながら戦術機を猛烈な勢いで加速させ、次々とF-6 秋雷を飛行甲板から放り出していく。放り出され、宙に浮いた巨体は墜落したかのように艦首の先に沈むが 次の瞬間には青い炎の光跡と轟音を残して蒼穹へと舞い上がっていった。
大鳳の隣を航行している黒鳳でも発艦作業が始まっており、第2母艦戦術戦闘団の敵防空網破壊を支援する為の突撃級集団への攻撃を目標として、第4母艦戦術戦闘団に所属するカンムスが描かれた戦術機達が次々と射出されていた。
跳躍する彼らが向かう先、セイバー・ジャンクション1984において、深海港の存在から最大の輸送拠点として機能しているノイクーレン一帯とともに人類の重要な拠点と定義付けられているカリーニングラードでは多くの煙とレーザーの閃光が立ち上り、水上打撃部隊や砲兵部隊が放つ砲弾やロケット弾の放つ光と爆音が絶え間なく生じていた。
383: ホワイトベアー :2022/04/29(金) 19:01:50 HOST:sp110-163-11-139.msb.spmode.ne.jp
西暦1984年11月20日 カリーニングラード橋頭堡 西部
洋上の機動部隊から戦術機部隊が発艦する前からカリーニングラード付近では作戦行動が開始されている。
カリーニングラード橋頭堡に展開する砲兵部隊はBETA群の出現した地点を中心に最大火力を叩き込んでいた。
確かに光線級には砲弾をも叩き落とす異常な程に高い迎撃能力を保有している。これは人類から空を奪うに足る能力だ。
しかし、彼らの最大発射速度はおおよそ毎分4発。これに対してNATO軍や日本軍、国連軍が山程持ち込んでいるM28 39口径155mm榴弾砲(28式155粍榴弾砲)は最大毎分6発、MLRS(多連装ロケットシステム)は最大で54秒の間に12発のロケット弾を発射可能としている。
水上打撃部隊は戦艦の主砲は1門あたり毎分2発と少ないが、重巡洋艦は1門辺り毎分10発を地上に叩き込めるのだ。
水上打撃部隊の半数が戦線から離れ、大多数の砲兵部隊が動けないと言っても、火力を集中させてしまえば今だに少数しか出現していない光線級の迎撃を封殺、突破してBETA群をミンチにするのは容易な火力を地上に投射できる。
砲兵部隊や洋上の水上打撃部隊は依然として地上に出現し続けるBETA群を漸減するために出現地点一帯への面制圧を優先し、カリーニングラードに向かうBETA先頭集団への砲撃は薄くならざるを得ないが、その変わり第一波の光線属種と第一波以後の後続は尽くミンチにしている。
そして、光線級を撃滅してしまえば人類は大胆な作戦機動を取ることができる。実際、多くの戦術機部隊や航空部隊が光線級を無視して行動していた。
カナダ陸軍第84王立戦術機甲大隊第1、第2中隊もその1つであり、彼らは飛行とも言える大胆な跳躍で短時間で第3中隊と合流。
砲撃による面制圧が間に合わずにカリーニングラードに向かい侵攻を開始したBBETA集団の遅滞の為に戦闘を行っていた。
『大隊長より各機、俺達の役割は騎兵隊が駆けつけてくれるまでの時間を稼ぐ事だ。BETAの撃破より生き残る事を優先しろ!』
『『『『『『了解!』』』』』』
大隊長の命令に大隊を構成するF-2 シラヌイから応答が返る。
彼らの目の前では突撃級を中心とした約3千のBETA群が猛烈な速度で大隊を目指して前進を続けていた。
それに対して第84戦術機甲大隊は第3中隊が初期に実施したように、跳躍ユニットを使用して滑るように後退をしながら、両腕に持った突撃砲とF-2シラヌイの高性能な火器管制システムを活かして最前列を走る突撃級の前足を36mm劣化ウラン貫通心入り高速徹甲弾で射抜いて行動不能にしていく。
前足を吹き飛ばされた程度で突撃級が死ぬことはないが、中足と後ろ足だけでは自重を支えきれなくなり前に倒れ込んで行動不可能となる。そして、行動不可能になった突撃級は後続のBETAへの障害物となり、それを回避しようとするBETAの足を狙い撃つ事でBETA相手に時間を稼いでいた。
384: ホワイトベアー :2022/04/29(金) 19:02:37 HOST:sp110-163-11-139.msb.spmode.ne.jp
(多少のリスクを許容できれば俺たちだけで撃破できるんだがな)
大隊長はHQの作戦方針を理解しながらも、その消極さに少し疑問を抱く。
彼らの装備しているAMWS-74は120mm弾こそ1マガジンに6発しか搭載できないが、36mm弾は1マガジンあたり2000発装填されており、さらに腰装甲の予備弾薬搭載スペースには原作の不知火と同様に120mm弾倉を2個ずつ計4つ、36mm弾倉を6個ずつ計12個搭載している。
つまり、予備弾薬として1機あたり120mm弾を24発、36mm弾を24000発搭載しているのだ。ちなみにこれは予備弾薬であり、出撃時に突撃砲に装填されている弾数は別である。
つまり、何が言いたいのかというとぶっちゃけた話、突撃級を中心としていると言っても、突撃しか能のない3000匹程度の獣なら彼らだけでも十分に狩りきれるのだ。
しかも、光線級は飽和砲撃でミンチとなっており、跳躍して弱点の後部に36mm弾を撃ち込めるのでなお容易である。
『隊長、騎兵隊が来ました』
部下からの通信で現実に戻る。
騎兵隊こと日本海軍戦術機部隊が来た以上、何が飛んでくるかを理解できない馬鹿は西側にはいない。
『全機、跳躍で一気に戦線を離脱するぞ。BETAと一緒にクラスター爆弾の餌食になりたくなかったら遅れるなよ!』
『『『『『『了解!』』』』』』
西暦1984年11月20日 カリーニングラード橋頭堡 西部
機動部隊から飛び立った第2母艦戦術戦闘団は部隊を2つに別け、BETA群を挟撃する構えを見せながら光線級が存在している場合は飛行を避けなければならない高度を悠々と跳躍していた。
(BETA群の後続はなし。砲撃による面制圧は問題なく機能しているな)
嶋田は網膜上に投影されている戦域マップに映る戦況を確認する。
光線属種が登場したものの、カリーニングラード派遣軍はロケット砲と水上打撃部隊の圧倒的な瞬間火力により叩き潰すと言う全盛期のソ連も真っ青な火力至上主義的手段でこれを潰した為に重金属雲は展開されておらず、各種データリンクシステムは今だに活きていた。
(これなら、今近づいているBETA群を撃滅してしまえば勝てるか?)
慢心ともとれる考えが浮かび上がるが、ここは御都合悪い主義が横行するマブラヴ世界と言うことを思い出し、頭を振ってその邪念を払う。
油断すれば死にかねない。
「メビウス1より各機!目標のBETA群まで約6000をきった。フェニックスのロックを解除しろ!!一斉射撃準備、目標座標合わせ!」
カリーニングラードの旧市街地にならぶ建築物より高く飛ぶ第2母艦戦術戦闘団にとってその光景はまさに理想的なものであった。
光線級がいるのであれば存在することが望ましいBETAと自分達を邪魔する遮蔽物は存在せず、BETA群は自分達に無防備に側面を晒している。
つまりフェニックスの威力を最大限に発揮可能なのだ。
385: ホワイトベアー :2022/04/29(金) 19:03:09 HOST:sp110-163-11-139.msb.spmode.ne.jp
「メビウス1よりCP、BETA群前方にいるカナダ軍戦術機甲大隊を退避されろ」
『こちらCP。すでにカナダ軍第84戦術機甲大隊は跳躍で退避中。フェニックス到着までには安全圏に到着する。気にせず攻撃せよ』
「了解した。第2母艦戦術戦闘団、オールファイア!メビウス1 FOX1!!」
そう叫ぶと同時にフェニックスの発射ボタンを押す。
ヘッドセットを通して嶋田の命令は戦闘団全機に達しており、嶋田が率いる24機のF-6 秋雷から192発のフェニックスがBETA群に向けて一斉に放たれた。
BETAを挟んで反対側からも同様に24機のF-6 秋雷によるフェニックスの一斉発射がなされる。
AIM-1フェニックスはカリーニングラードに向かい一直線で突撃するBETA群の横腹を突きつけるように進んでいき、直後、前方の空がセンサーの光量限界を越えるほどの巨大な閃光に包まれた。
計384発の大型クラスター爆弾が光線級による迎撃を受けることなくBETAの直上に到着、その腹にたんまりと抱えていた小爆弾を遠慮なく地上に広範囲にわたりばらまいたのだ。
閃光から一瞬遅れて盛大な爆発音がヘッドセットに響く。その大多数はセーフティによってカットされていながら、その音は耳を破壊しそうな程の音量とであった。
閃光と爆発が収まると、そこには朱色一色に染まった大地と肉片となってもはや原型をとどめていない戦車級、折り重なるようにして広がる要撃級や突撃級の残骸、何とか原型をとどめてはいるものの、下半身が見事に吹き飛んでいる突撃級の死骸、今だに生きてはいるが、もはやまともに動く事ができずにただピクピクと蠢くだけのBETA達。
まさに地獄とも言える光景がそこには広がっていた。
「メビウス1よりCP、敵BETA群の8割は吹き飛ばしたぞ。こちらで残敵も相当するか?」
『CPよりメビウス1。こちらでも戦果は確認した。残敵相当は第4母艦戦闘団と国連軍第71戦術機甲師団が担当する。貴隊は直ちに帰投し、フェニックスを補給。即応待機せよ』
(まあ、そうなるか)
「了解した。全速力で帰投する。」
国連軍の政治的要請で戦場に登場しているものの、F-6 秋雷はアクティブステルスシステムを搭載した日本の最新鋭機。東側の領域で撃墜されるのはリスクが大きすぎる。
撃墜される可能性を最小限に収めなければならない最新鋭機を装備する嶋田達第2母艦戦術戦闘団を、たかだか残敵掃討程度の任務に投入するはずがない。
元帝国宰相であった嶋田がその程度の事がわからないはずもないが、念の為にこういった事は聞いておかなければ後々面倒な事になる場合もある。
「メビウス1からアズレン1、CPからの帰投命令がきた。後を頼む」
『アズレン1からメビウス1、了解した。後は任せろ』
返答と共に、F-6 秋雷は高度を落とした匍匐移動に移行し、急速に戦場から離脱していく。
386: ホワイトベアー :2022/04/29(金) 19:07:31 HOST:sp110-163-11-139.msb.spmode.ne.jp
西暦1984年11月20日 カリーニングラード橋頭堡西部
即応部隊と言う建前が与えられていた第666戦術機中隊はBETA地中侵攻が発生すると、防衛線を固める為に出撃したM40戦車(40式戦車)を装備する戦車連隊を主力とする国連軍旅団戦闘団の護衛として出撃、 防衛線最前線で待機していた。
『ーー何なのあれ・・・』
戦闘開始からの経緯は国家人民軍東欧派遣軍団としてポーランドで死闘を繰り広げてきた第666戦術機中隊の面々の常識を文字通り吹き飛ばすものであり、ついに限界を超えたのかアネットの呻くような声が聞こえてくる。
「重金属雲も戦術機も使わず、ただのゴリ押しで光線級を撃破。その後も砲撃で後続のBETA群を撃滅しつつ、砲撃の手が回らない先行したBETA群にはクラスターミサイルによる飽和攻撃で漸減したあとに航空部隊と戦術機部隊による掃討戦・・・。恐ろしいまでの物量作戦だな」
テオドールは虚ろな目で戦況マップを見ながらそう返した。
『確かに、西側の作戦も凄い。凄いけど・・・そうじゃない!何で戦術機にあんなペイントをしているのよ!?』
その言葉に中隊は再び沈黙してしまう。
テオドールらの網膜上には様々な女の子のペイントがされた日本海軍の戦術機が飛んだり跳ねたりしながらBETA群に36mm弾を撃ち込んでいる光景が映し出されていた。
(西側は確か自由世界の護り手と自分達の事を自負しているとか言っていたが、まさかあれが許される程の表現の自由があるのか)
遠い目でテオドールはその光景を見ていた。
かつて父が表現の自由を求めた事で仕事を失い、妹が虐められ、最終的に国外亡命を計画して国家保安省に捕まり、家族がバラバラにされた彼からしたら、その光景は何処か心をざわつかせるものであった。
『日本海軍第4母艦戦術戦闘団。日本海軍第2母艦戦術戦闘団には劣るけど、それでも世界最高クラスの戦術機部隊の1つとして扱われている部隊だね・・・』
リィズが呆れたように告げた。
『戦っている部隊がF-5E/F ノワキカスタムだけって事は、後方にフェニックスを搭載したF-4が待機しているのかな?』
『多分、そうだと思います。日本海軍は基本的にF-5を観測部隊として展開させて、フェニックスで一掃すると言う戦術を基本としていると教えられましたので。恐らく、今回はフェニックスを使うまでもないと判断したんでしょう』
リィズの説明にカティアが補足を入れる。
戦域マップの表示半径を拡大すると確かに後方に日本海軍の2個戦術機中隊が待機している。
『描かれているのは見事にアズレンのキャラばかりですね。艦これのキャラはいないのでしょうか?』
『後方で待機しているF-4部隊は艦これキャラばかり描かれているらしいし、多分、派閥があるんだと思うよ』
『ああ、なるほど。それはそうと、リィズさんはよくアズレンも艦これも知ってましたね!?亡命してからこの方、そういう話ができる人が居なくて・・・』
『私の義理の父がそういうサブカルチャー大好きだからね。私も自然と知るようになっていったの。私としてはカティアちゃんが知っている事に驚いているわ』
(アズレン?艦これ? 話の内容からあの絵の大元だとは思うが・・・)
リィズとカティアの話す内容がどんどん意味不明になっていった。
中隊の皆も何を言っているのかわからないとばかりにキョトンとした顔をしている。
『私語は慎め、作戦中だぞ!!』
政治将校ではなくなったが、依然として部隊の風紀委員的な立場に収まっているグレーテルが2人を注意する。
その注意を受け、2人は謝罪して口を閉じる。
依然として待機が命じられたまま、攻撃ヘリと日本海軍部隊の手で残存するBETAの数は急速に減らされていた。
(全く、あの2人には後でフォロー入れておくか)
すでに目の前のBETA群で動けているBETAはほとんど存在せず、テオドールは無意識に作戦後を考えながら戦況マップを見ていた。
387: ホワイトベアー :2022/04/29(金) 19:10:14 HOST:sp110-163-11-139.msb.spmode.ne.jp
以上になります。
後誤文修正
386
『確かに、西側の作戦も凄い。凄いけど・・・そうじゃない!私がなんで戦術機にあんなペイントをしているのってことよ!?』
じゃなくて
『確かに、西側の作戦も凄い。凄いけど・・・そうじゃない!何で戦術機にあんなペイントをしているのよ!?』
でした。
謝罪として完全装備に分隊支援火器のセットで行軍してきます。
最終更新:2022年05月05日 00:44