~第三次ランテマリオ会戦~
宇宙暦802年6月上旬。
同盟領全域で行われた大規模消耗戦の総仕上げとして、連合軍総司令部は帝国軍に決戦を強いる事にした。作戦は至極単純である。
高須提督指揮下のイゼルローン要塞攻略軍を本命に、迎撃に転じるであろう帝国軍を、地の利がある同盟領内部で迎撃する。もしも帝国軍が反撃に転じなければそれはそれでよし。
連合軍中央軍、南部軍、そして私達同盟軍はそのまま帝国軍を追撃。フェザーン回廊まで追い払い同盟領全域を解放する。
『レコンキスタ』作戦の総仕上げはこうして決定された。
以下、ヒューベリオンに搭載されたAI・MAGI005より抜粋する。
参加兵力
帝国軍・カイザーラインハルト艦隊、ミッターマイヤー艦隊、ワーレン艦隊、メックリンガー艦隊、ファーレンハイト艦隊、ビッテンフェルト艦隊、並び予備兵力3個艦隊。
連合軍・第1任務部隊(右翼)、第2任務部隊(左翼)、第4任務部隊(予備・ヤン艦隊)、第5任務部隊(中央)、特別艦隊(予備)
851 :ルルブ:2012/02/16(木) 19:47:21
宇宙暦802年7月10日 09時22分。
連合軍総旗艦『長門』より大型戦艦6隻による同時砲撃開始。
帝国軍が散開陣をとるも、電脳技術を利用した無人艦船10000隻の同時攻撃・カミカゼ作戦発令。
重防御・高速機動にて帝国軍前衛艦隊に突入、その後自爆した。この攻撃で帝国軍は前衛艦隊が混乱。戦艦6隻による艦砲射撃、帝国軍ワーレン艦隊一方的な砲撃に晒される。
7月10日11時00分
アウトレンジ砲撃、カミカゼ作戦により帝国軍が10000隻近い艦艇を喪失。
一方帝国軍も全速で自身の有効射程圏内まで前進。
両軍、共に剣を抜く。
連合軍、総旗艦長門より全軍へ命令。
総司令官小沢元帥(ヤンやビュコックとの関係上、昇進)より命令。『横一文字のまま前進せよ』
続いて総参謀長インテグラ大将より激励『サーチアンドデストロイ、オーヴァー』
中央予備兵力、アッテンボロー大将より帝国軍に伝達。『くたばれ! カイザーラインハルト!!』
7月10日13時42分
ミッターマイヤー、ファーレンハイト、ビッテンフェルトの三個艦隊、予備兵力を補充しつつ中央の第5任務部隊を突破。帝国軍、連合軍中央突破から背面展開を図る。
「アスターテ前半の再現か、悪いけどそうはいかないよ」
この時私は意識せずにこう呟いたと言う。
予備兵力であり、無傷の第4任務部隊・自由惑星同盟軍5個艦隊がミッターマイヤー艦隊を中心に襲い掛かる。
そして右翼・左翼の連合軍はそのまま前進し、ワーレン艦隊、メックリンガー艦隊を削り取り包囲体制を固めつつあった。
7月10日16時00分
連合軍、大型戦艦部隊の斉射三連と同時に艦載機300万を一斉に投入。ランテマリオ恒星系全域の制宙権を奪取すべく行動を開始。
一方で、カイザーラインハルトはこの時自身の敗北を察知したのではないかと、私は思った。
何故なら帝国軍は既に半包囲下に置かれ、突撃した三個艦隊は退路を遮断され、更に大本営と呼ばれていたブリュンヒルトにまで砲火が及んでいたのである。
私が思うに、コノエ氏が言われたように戦略の天才ではないかも知れない。だが、戦術の天才ではあった。だからこそ、カイザーラインハルトにとってこの会戦程やりにくい戦いは無かったはずだ。
カイザーラインハルトは言わば6つの移動するイゼルローン要塞とトール・ハンマーに撃たれながら、更に数で3倍近く、質でも圧倒する敵軍を殲滅しなければならなかった。
止めに私達同盟軍と違い連合各国は電脳技術を利用した電子戦闘をも仕掛けている。つまり、これは『突出した天才』と言う個人対『極めて優秀な秀才達』に補佐された凡人の戦闘だった。
個々の戦いが戦局全体に及ぼす影響は極めて低く、連合は仮に敗北しても単なる足止めに過ぎないが、帝国は完勝以外が完敗であると言う前提条件があった。
そして、戦艦『長門』を目指した紡錘陣形による突撃が失敗し、両翼の防衛線全域で戦闘が行われだした時点で戦局は決した。
宇宙暦802年7月10日18時45分
帝国軍、撤退を開始。
連合軍、全戦線で反撃。
852 :ルルブ:2012/02/16(木) 19:48:57
同日19時23分、ミッターマイヤー艦隊旗艦「ヴェイオ・ウルフ」撃沈。
ミッターマイヤー艦隊はこの時点で壊乱。元帥自身は生き残るものの、幕僚、次席指揮官らは8割が戦死。
19時38分、続いてメックリンガー艦隊旗艦「クヴァシル」被弾。放棄を決定。
20時11分、ファーレンハイト艦隊、黒色槍騎兵艦隊、最後の突撃敢行。同盟軍(第四任務部隊)、次席旗艦シヴァ中破。フィッシャー中将負傷。
黒色槍騎兵艦隊、残存戦力1587隻、ファーレンハイト艦隊、残存戦力2214隻。両提督、そのまま戦場を離脱。
20時17分、総旗艦「長門」前面に旧ケンプ艦隊の1200機のワルキューレ隊が突入。カミカゼ。一時的に連合軍の指揮系統麻痺。
20時17分ワーレン艦隊、残存するミッターマイヤー艦隊、メックリンガー艦隊を吸収。死の10分と呼ばれる大規模な撤退戦を敢行。右翼、左翼、全面にて総反撃を行う。ワーレン艦隊旗艦「サラマンドル」を中心とした予備兵力と併合した15000隻の前後の残存艦艇が僅か10分で3000隻にまで減少。連合軍も7000隻余りを後退させ、包囲網は完成せず。
メックリンガー、ミッターマイヤーらを回収したブリュンヒルトはこの隙にランテマリオ恒星系の離脱軌道まで撤収。この10分が帝国軍首脳部の脱出を成功させる。
カイザーラインハルト貴下の帝国軍大本営、戦場を放棄。
全軍に正式な後退命令を発令したのは21時03分。が、この時点で戦場に残った部隊は殆どが独自に投降。
以上を持って、第三次ランテマリオ会戦は終了する。
私が思うにこの時点で我が軍や連合軍が反撃に転じなかった理由は、帝国軍の投降が部隊単位では無く、艦単位で行われた事、予想以上の損害艦が出た事、弾薬の消費量が多かった事、何より政治的な理由、そう私の第4任務部隊の運営面で艦隊を指揮していたフィッシャー中将の負傷により第4任務部隊全体が動けなくなった。その結果、『国土奪還』『レコンキスタ』作戦を政治的に延期せざるをえなくなった事が要因と思われる。
- そして、私、ヤン・ウェンリーはこの日を境に二度とカイザーラインハルトに会う事は無かった。
戦場でも、それ以外の場所でも。
- 常勝の英雄と信じられていた英雄が、一度の敗戦で全てを失う。
私はこの姿を見て歴史上の二人の英雄を思い出した。
一人は古代中国、秦帝国崩壊後の英雄、項羽。
そしてもう一人は革命を駆け抜けた欧州の獅子、ナポレオン。
彼らと同様、この戦いを境にカイザーラインハルトは歴史の表舞台からの退場を余儀なくされていく。
そこには英雄を必要とした伝説を無用とする歴史の流れがあったのかもしれない。
宇宙暦812年02月16日 初刊発行
同盟軍歴史大全・第4部・ヤン・ウェンリー回想録より
フレデリカ・G・ヤン。
最終更新:2012年02月24日 23:31