284: 奥羽人 :2022/05/08(日) 13:38:36 HOST:sp1-79-84-64.msb.spmode.ne.jp
近似世界 時期不明
世界線というのは、川に似ている。
大きなターニングポイントを予め知っていれば任意の方向に進むことができるが、一旦その“支流”に入ってしまえば、その中から抜け出す事は難しい。
彼らの会合を聞いていると、自然とそう思うようになってくる。
ところで君は「歴史の修正力」という言葉を知っているかね?
……そう、SFに出てくるアレだ。
まさしく我々のような存在の前に立ち塞がる壁、もしくは試練とでも言おうか……そんな様に、超自然的な雰囲気の代物として考えている者も多いが……
何てことはない。
少しばかり考えれば、歴史の修正力が存在するのは当たり前と言える。
偶然は偶然足り得ず、偶然に見えるような事は、その偶然に至るまでに必然を積み重ねなければいけないのだから。
まぁ、その歴史の修正力……私は「収斂進化」と言っているが…
言うなれば……ボールのようなものだ。
ボールを投げるとして、予め決められた方向、決められた角度に、決められた力で投げれば……
たとえ誰が投げたとしても、大体同じ放物線を描いて、同じ所に落ちるだろう?
更に言うと、投げた瞬間の方向と速度が分かれば、後は方程式に当てはめてしまえば軌道の予測も可能だ。
歴史も同じだよ。
“同じ人間(ホモサピエンス)”が、“同じ地球環境の中”で行動する。
この2つの大きな“初期値”が同じである以上、似通った状況に放り込まれれば、似たような行動を取る。
人間という種の考え方、欲求、能力はどこの集団をサンプリングしても大体同じようなものなのだから。
これがケイ素を食べるタコ型テレパシー人間だったり、舞台が超大陸パンゲアだったりするくらい初期値に相違があれば話はまた別だがね。
「収斂進化」とは、全く別の系統の生物が、同じような環境に置かれた時、同じような形質に進化する現象の事を言う。
そう考えれば歴史……世界線が違っても同じ“人”が、同じ状況になれば、同じ道を行くことに不思議は無い。
まぁ、この場合は修正力と言うよりかは構造的必然のほうが正しいかもしれないが……。
とにかく、歴史の修正力も何ら不思議な事ではない。
もっとも、いくらそう思考しても未だに私には分からない。
…………我々が「史実」と呼んでいるあの歴史、あれは本当に“史実”なのか?
……という疑問については、ね。
285: 奥羽人 :2022/05/08(日) 13:39:41 HOST:sp1-79-84-64.msb.spmode.ne.jp
【オモヒカネ計画群】
オモヒカネ計画群とは、“昭号計画”のうち情報戦分野、特に秘密裏に行われる自国民向けプロパガンダを主軸とした民心誘導工作の為の、情報・心理・宣伝計画を纏めた総称である。
主な役割は「思想的動揺の最小化」
特定の思想への支持の集中……つまり、国民の大部分が思想的に“偏る”事を予め防止することである。
例として、史実日本での20世紀前半における軍部への過剰な支持。
戦後の極端な反戦平和。
非現実的な理想論に溺れた共産主義思想の蔓延。
20世紀後半~21世紀初頭においての本末転倒なエコやSDGsへの傾倒。
“コンクリートから人へ”に代表する開発忌避、過度の緊縮志向。
無秩序なリベラル・フェミニズム思想の暴走。
少子高齢化へ直結する婚姻忌避感情の拡大等……
世界情勢を史実と近似したルートで進めた際に発生することが予測される、国家・国民に大きく影響を及ぼすと考えられる思想の無制限の氾濫を抑止する事を主な目的とし、学校教育や、媒体を問わないメディア機関への介入及び誘導を実施する。
方法としては、カウンターイデオロギーの導入が主として用いられる。
これは、特定の思想が蔓延するタイミングにあわせて反対側となる考え方……所謂“対抗ミーム”を流布する事によって思想の一極化を防ぐと共に、相反する価値観に同時にバランス良く接触させる事による判断基準の多極化・中庸化を故意に引き起こさせる手法である。
286: 奥羽人 :2022/05/08(日) 13:42:10 HOST:sp1-79-84-64.msb.spmode.ne.jp
【
夢幻会系某会合 抜粋】
えーと、はい。
では、オモヒカネ計画について……今回が初めての会合になるという方も多いでしょうから、概要から説明しますね。
オモヒカネ計画とは、まぁ、こんな大層な名前が着いていますが……
やっていることは簡単。
要するに「中庸化プロパガンダ」ですから。
思想のシーソー…ンッフフ、失礼。思想の天秤というのは、どちらか片方に大きく傾くと大抵は碌な事になりません。
そこで、我々が傾きそうな天秤の反対側に“適切な錘”を乗せて水平に保つ、と云う訳です。
まぁ、我々に都合の良い情報操作をしないとも限りませんがね。
……“カウンターイデオロギー”
それが、我々が用いる最大の武器であり、身を守る防具となります。
そうですね……例えば、共産主義を例にしますと、共産主義に反対する情報。
つまり、計画経済の脆弱性だのノーメンクラツーラだの粛清だの内ゲバだの。
もしくは市場経済の優位やら自由主義的思想やらなんやら。
そういった、反共的情報をバラバラにして幾つかに小分け……
これを私共は“ミームパッケージ”と呼びますが……
このミームパッケージを共産主義が流行る前、それこそ数十年も前からありとあらゆるメディアや学校教育なんかを通して流布していきます。
もちろん、一度に流布しても受け入れられるどころか、理解すらされないでしょうし……
新しい思想には相応に反発が生まれますし、いらない反感を買うことになるでしょうね。
故に、気付かれないように少しずつ、ゆっくりと……
それこそ、無意識の領域に働きかけるよう確実に植え付けていくのです。
さて、ここでまた新しい例え話になりますが……例えば、皆さんは「空中に浮いてる光の玉」が目の前に現れた場合、触ってみますか?
そこの貴方、どうです?
えぇ、はい。そうですよね、勿論、そんな得体の知れないものに好き好んで触れる人は、少数の物好きか命知らずに限られるでしょう。
光を発しているということは、熱いかもしれないし、感電するかもしれない。
もしくは、有害な放射線を出しているかもしれない……と。
このように、何か新しい物に遭遇した時、人は自らの過去の知識や経験を以てそれを理解しようとします。
思想においても同じで……先程の例え話を続けまして、人々が共産主義の思想に初めて触れた時、大体はそれを過去の知識と経験を使って解釈しに掛かります。
そこで何もなければ、共産主義というミームの目新しさに呑み込まれる……いわゆる「ハマる」という事も多いでしょう。
そこで力を発揮するのが、先程のミームパッケージという訳です。
共産主義思想に触れた時、過去の知識から解釈しようとした時。
それまで植え付けたミームパッケージの一つ一つがパズルのピースのように組合わさり、一つの新しいミーム……言うならば“対共産主義思想”ですかね。
それが一人一人の中で組み上げられ、新しい思想への免疫となります。
我々はこれを“対抗ミーム”と呼んでいます。
いわば思想のワクチンですね。
我々の仕事は、この対抗ミームを適切な時期に、適切な強度で流布できるよう追及し、その為に、より効果的な対抗ミームの“因数分解”の方法を構築したり、メディアや教育を通じた情報“投与”の手法を模索する等、多岐に渡ります。
特に、紳士の国をまるごと箱庭実験場にしたり、闇落ちした合衆国が残したミームを相手した経験がある方には期待していますよ。
えぇ……そもそもこの手法が考案されたのも、それを実用段階まで持っていけたのも、彼らの先行研究とその知識を活用できたから……という面が大きいです。
なんにせよ、我々が扱うのは情報という不確かで、扱いづらい、対照実験すら難しい面倒臭い代物です。
そこの所を、各々よく把握しておいて頂きたいですね。
287: 奥羽人 :2022/05/08(日) 13:44:38 HOST:sp1-79-84-64.msb.spmode.ne.jp
いつ、どこの話か。
その根本から在り方を歪められ、底の底へと堕ちた末に滅びた国。しかし、国は滅びても思想は滅びず、世界各地へとその漆黒の思想は飛び散り、そして多大な災厄をもたらした。
そんな“思想”という影も形もないモノに対抗しようとするのならば、同じく思想……つまりミームへの理解を深めるしかない。
同じく、何処か。
かつて七つの海を支配した世界帝国の成れの果て。打ち砕かれたプライドの末に、自らの全てを改竄した彼ら。
それは国や歴史だけに留まらず、思考や言葉、ひいては無意識まで思い通りに歪めようとする“情報災害”の箱庭だった。
そして、それは同時に箱庭を研究・観察する者達へと大きな成果をもたらす。
概念や情報というのは、ここまで歪められるものなのか、と。
ここで、とある一人の哲学者の言葉を記す。
『怪物と戦う者は、自らも怪物とならぬよう注意せよ。
深淵を覗くとき、深淵もまた此方を覗いているのだから。』
彼らの得た知識と経験は多数の人々によって纏められて体系化され、それは、人の情報や精神、心理に深く手を入れる「ミーム遺伝学」もしくは「心理情報工学」とでも言うべき新しい学問という成果として花開くこととなった。
それが良かったのか、それともパンドラの箱を開いてしまう所業だったのかは、未だ分からない。
288: 奥羽人 :2022/05/08(日) 13:50:10 HOST:sp1-79-84-64.msb.spmode.ne.jp
以上となります。
壮大な伏線のような感じに仕上がっておりますが、特にそういうこともないし重要になってくることもないです()
しかし、予めやっておきたかった話でもあります。
史実と同じ進め方をしたとすれば、史実と同じような問題がやってくることは予測できます。
しかし、その問題も含めて“史実”な訳ですから、夢幻会としても、発生を止めはしないにしても大きな拡大は防ぐ、というバランスをとる方向にしていくと思います。
まぁ、初めて米合を見たときの「ゾワゾワ感」を自分でもやってみたかったという趣味もありますが…
最終更新:2022年05月09日 22:39