258: 名無しさん :2022/04/24(日) 19:16:35 HOST:119-172-250-218.rev.home.ne.jp
第二次ユトランド沖海戦 後編

フェイズ1 砲撃戦前
戦後イギリスで制作され大ヒットした第二次ユトランド沖海戦の映画※1では最終盤における一大砲撃戦によって決着をつけたようにされていたが
戦史研究家たちにおいて第二次ユトランド沖海戦の勝敗は5度に渡る空襲、もしくは潜水艦部隊の襲撃時点で決着はついたと言われていた。
確かに現状で言えば補助艦艇においては劣っていても戦艦は同数、重巡洋艦にしてもドイツ海軍が1隻劣るも2隻は28センチという大口径を積んでおり
士気も死なば諸共と非常に高くまともにぶつかっていたらイギリス海軍もただではすまなかっただろう。

ただしこれはあくまでドイツ海軍がほぼ無傷であるという条件さえ付けばの話であった場合だ、この時のドイツ海軍は
悲惨そのものと言えた。決戦兵器といえるビスマルク級はグナウゼナウが故障で動かせず、ティルピッツは航空攻撃で撃沈していたものの
残るビスマルクとシャルンホルストは爆弾や機銃掃射やロケット弾で機銃座や両用砲のいくつかが喪失していたが
それ以外の損傷はなく全力戦闘は可能だが、他の戦艦はそうとも言えなかった。

航空機の攻撃で集中攻撃をうけて沈んだティルピッツとフリットヨフはまだしもオーディン以下各戦艦も
大体魚雷を1,2発、爆弾も複数発は受けており、ヘイムダルやジークフリードは一部主砲塔が損傷や浸水により稼働不能になっており
エーギルに至ってはレーダー毎射撃装置が吹き飛ばされて統一された射撃が出来ないというというどうしようもない状態だった。
他にも重巡以下の補助艦艇も損害も多く、この時点でほぼ無傷だったのは重巡グラーフ・シュペー、プリンツ・ハインリヒ
軽巡ミュンヘン、ブレスラウ、駆逐艦6隻ぐらいであった。

一方のイギリス海軍は戦艦6隻や重巡6隻に損傷はなく、先の空襲において軽巡以下何隻かに損傷こそあれど、せいぜい小破止まりであり
戦闘続行に支障はきたさなかった。本来ならドイツ海軍はこの時点で敗北を悟り撤退という選択肢もあったかもしれなかった
しかしもう後がないという状態であり「ユトランド沖海戦の栄光をもう一度」という意識も相まってイギリス海軍に真っ向から立ち向かわなければならなかった。

259: 名無しさん :2022/04/24(日) 19:19:08 HOST:119-172-250-218.rev.home.ne.jp
フェイズ2 イギリス海軍艦艇事情

戦前イギリス海軍の海軍拡張計画「新標準艦隊計画」はアドミラル級戦艦6隻の大改装を始めとして
キング・ジョージ5世級6隻※2、守護聖人級4隻※3からなる新型戦艦10とイラストリアス級(史実インプラカプル級)6隻
イーグル級4隻からなる正規空母10を主軸とした非常に大規模なものであり、それだけの戦力は対日ではなく
対独米伊希とそれらの国と友好的であるスペインやドイツと関係を深め始めた一部南米国家へ向けられるものであった。


戦艦10隻の建造は後年の観点からみれば時代遅れと言える代物と言えるが当時において航空機に関しては
機動部隊ドクトリンを確立した日本を除けばまだ黎明ともいえる存在であったし、独米伊がそれぞれ新型戦艦を
建造する以上対抗として建造するのは当然だった。こうした大艦隊建造計画は第二次世界大戦勃発と米海軍による
スカパーフロー奇襲によって狂いに狂ってしまう。特に奇襲によってアドミラル級のアンソンとハウ撃沈
クイーンエリザベス級のクイーンエリザベス、エジンコートの撃破による英本国艦隊壊滅はロンドンを恐怖のどん底にまで叩き落してしまう。

だがここで諦めないのがジョンブルと言うべきであり、スカパーフロー奇襲の結果や日本から提供された酸素魚雷の図面などからして
戦艦に見切りをつけた英海軍はもう就役間近だったキング・ジョージ5世と艤装もほぼ完了する寸前までいったプリンス・オブ・ウェールズの就役を
急がせる以外の全戦艦の建造を中止し、大規模改装予定だったアドミラル級の改装は無期限中止となり、それらの資材を全て空母や巡洋艦に
転用することをいまだに大艦巨砲主義の根強い反対意見をガン無視して英断した。

この英断は成功であり、空母や巡洋艦の増産を行った英海軍は日本の支援もあり最終的に多大な犠牲※4を払ったものの
地中海の制海権を得て、ドイツ海軍をバルト海に封じ込めることに成功した。一応イギリスの友好国であるフランス海軍や
オランダ海軍も戦艦を持っていたし、国力の都合上ウィレム1世という1隻しか戦艦の持てなかったオランダ海軍に対して
フランス海軍もイギリスの支援もあって対イタリア・ギリシャ海軍を想定した海軍拡張計画※5を行うつもりであった。

しかし、国土再建と陸空軍の質の向上を優先とされたために後回しとされ予算がなんとかついて建造を始めようとしたときに
第二次世界大戦が勃発したことで建造どころではなくなり、大陸総撤退時に建造途中や就役したばかりの巡洋艦や駆逐艦は
英本土かアレキサンドリアに捲土重来を意識して脱出したが、建造途中だった戦艦リシュリューや空母ジョッフルは
ドイツやイタリアの手に渡るもののならと爆破処分される始末だった。

260: 名無しさん :2022/04/24(日) 19:22:37 HOST:119-172-250-218.rev.home.ne.jp
フェイズ3 砲撃戦 
かくして30年の時を経て、再度因縁の海であるユトランドにおいて両海軍は激突した。第1次ユトランド沖海戦とは違い
双方とも決戦を望んでいるという展開であった。キング・ジョージ5世級の2隻はビスマルク級2隻、アドミラル級4隻は
オーディン以下4隻の戦艦と激突する傍らでドイツ海軍の戦艦に魚雷を叩き込もうとする英駆逐艦とそれを阻止すべく
立ちふさがる独巡洋艦と駆逐艦部隊とそれを攻撃する英海軍巡洋艦部隊と非常にオーソドックスな形となっていた。

カタログスペックで言えば英独の戦艦もそれぞれ利点や弱点を考慮すればほぼ5分5分と言えたが、ハードにおいて
イギリス海軍は未だに第1次ユトランド沖海戦に拘るドイツ海軍に対して2歩先を言っていた。特に電子機器関連は
日本からみれば劣るが当時のスペックとしては十分高性能でありドイツ海軍のレーダーより精度の高い射撃レーダーは
航空優勢を維持している為飛ばした観測機とのデータリンクを行い、初撃こそはずしたものの3射目になると
プリンス・オブ・ウェールズの放った主砲弾が見事にビスマルクを捉えていたのだ。

そして両艦に搭載されたMarkIVはアドミラル級の問題点等を徹底的に調査され研究を重ねて生み出された新型砲塔であり
そこから放たれるSHSはドイツが「如何なる戦艦もビスマルク級の主要装甲は抜くことは出来ない」と喧伝していた
ビスマルク級戦艦の主要装甲を撃ち抜くことが出来た。

エドワード・サイフレット率いるアドミラル級4隻と撃ち合っていたエーリヒ・バイ率いるオーディン以下4隻はほぼ
万全の状態のアドミラル級4隻に対して一方的に打ち据えられていた、元々空襲などで損傷しておりまともな砲撃戦も出来ず
マトモな砲撃戦が出来るのがオーディンとジークフリードのみという状態であり確かにドイツ海軍ご自慢の重防御は機能していたが
機能していただけであり、連続被弾によって各砲塔に故障が生じ、次々と射撃不能に陥っていた。確かにアドミラル級の大改装は行われず
行われた改装も対空火器の増設や各種レーダーの増設ぐらいであり、防御面ではずっと不安を抱えていたが「殺られる前に殺れ!」の精神であり
腐っても40センチ砲もあってオーディン以下4隻の戦艦に次々とダメージを与えていく

特に射撃管制装置が吹っ飛ばされているエーギルはキャンパーダウンに一方的に打ち据えられて、あっという間に炎上し沈黙していった。
ビスマルクとシャルンホルストも反撃を行うが中々命中弾を与えることは出来なかった、就役が早かったビスマルクに対しシャルンホルストは
砲撃訓練も少なく、キング・ジョージ5世に撃たれるままという状況だった。一方のビスマルクもどうだったかというとまだマシであり
士気の高さと意地をもって漸くプリンス・オブ・ウェールズに直撃弾を与えたることに成功した。これに艦橋内のチリアクス以下幕僚たちは
大いに沸き立つことになったがそれが彼らの最期ともいえた。

報復のように放たれたウェールズの砲弾はビスマルクの艦尾を撃ち抜き、後部弾薬庫で爆発し、その爆炎は右舷燃料タンクを通って
前部弾薬庫まで広がり巨大な火柱と噴き上げ大爆発を起こし真っ二つ※6になり僅か3名の生存者を除いて司令官のチリアクス毎
全員海中へと送り込んだのだ。

旗艦ビスマルクの轟沈はイギリス海軍の士気を爆上げし、ドイツ海軍の士気を瞬く間に低下させた。次席指揮官のバイはなんとか
統制ととろうとするもアドミラル級に抑え込まれていて指揮をとれずそれどころかフッドの砲弾が艦橋に直撃して負傷してしまい
指揮をとることすらままならなくなったのだ。そして統制の取れなくなったドイツ海軍に英海軍の駆逐艦群が襲い掛かる

261: 名無しさん :2022/04/24(日) 19:26:00 HOST:119-172-250-218.rev.home.ne.jp
補助艦艇同士の戦いも数においても質においてもイギリス海軍の方が上回っていた。損傷艦を含めて6隻の軽巡で無傷で10隻の軽巡に立ち向かうのは
文字通りムリゲーであった、たちまちブレスラウは大破炎上し、ニュルンベルクもエディンバラの砲弾を受け直撃したところがよりによって魚雷発射管
であり呆気なく轟沈した。重巡群に至ってもヒッパー級の3隻はサリー級2隻とクラウンコロニー級6隻という数の暴力の前に身を守るのに精一杯であり
頼みの綱であるアドミラル・シュペーとアドミラル・シェーアの2隻もアルベマール級4隻に対し一方的に撃たれていた。

アルベマール級4隻を率いているのはラプラタ沖海戦で撃沈されたエイジャックスが爆発した際に艦橋から吹き飛ばされ海上で気絶していた所を
フランス海軍の潜水艦に救助された艦長であり、シュペーやラングスドルフに対し猛烈な復讐心を持っており、それに影響されるかの如く
4隻の猛攻は着実に2隻を追い込んでいた。

そしてドイツ駆逐艦の防衛網を突破したイギリス海軍の駆逐艦部隊は一斉に戦艦に襲い掛かり至近距離から魚雷を発射した
最後の砦という両用砲も空襲や戦艦との砲撃戦で軒並み使用不能となっていることもあり駆逐艦の突入も防ぐこともままならず
回避もままならないまま次々と魚雷がしてしまう、イギリス海軍が装備していたマーク12※7は日本から提供された
酸素魚雷の設計図を基に航続距離を犠牲にしてHBXを詰め込んで攻撃力を挙げた文字通りの戦艦殺しの必殺兵器であり

まずオーディンにフェンリルの牙の如く5本命中し、オーディンの船体はたちまち3つになりバイ中将毎轟沈
ネルソンとロドネーと撃ち合っていた(ボコボコにされていた)ジークフリードもヘイムダルも沈没(エーギルはすでに沈んでいた)
最後の1隻であるシャルンホルストもプリンス・オブ・ウェールズとキング・ジョージ5世に袋叩きにされビスマルクのように
轟沈とはならなかったが艦全体が松明となり静かに沈んでいった。

全戦艦とシュペー級2隻もアルベマール級4隻に撃ち負けて沈んでいったことに辛うじて戦闘力を維持しているプリンツ・ハインリヒの艦長は
残存艦艇の撤退を独断で指示、自身は殿として残存艦艇離脱の援護をしながら最終的にプリンス・オブ・ウェールズに特攻し
執念の1弾を直撃させるも報復ともいえる主砲の一斉射を受けて轟沈した※8。ドイツ艦隊を完全に撃滅するためにフィリップスは追撃を指令
後方に控えていたヘンリー・ムーア率いる機動部隊に航空部隊を出撃するように命令するが、その機動部隊も残存していたUボートの奇襲を受けて
イーグルとインプラカプルに魚雷が命中したことで混乱が生じたこと※9や砲撃戦を行った艦艇も疲労や弾薬不足や消火なども重なり追撃は断念せざるを得なかった。

この戦い英本国艦隊は砲撃戦で駆逐艦数隻が沈んだものの、巡洋艦以上で沈んだ船はなく砲撃戦で大破したのは軽巡ケニア、戦艦プリンス・オブ・ウェールズとロドネー
重巡アルベマール、軽巡タイガー、ウガンダが中破、空襲で防空巡洋艦ダイアデム、シリアスが爆弾の直撃で中破、潜水艦でイーグルとインプラカプルが中破という非常に少ない損害だった。
一方のドイツ大海艦隊の残存艦艇はスカゲラックにいた潜水艦部隊がキールに戻ると思っており動いてなかったこともあり辛うじて襲撃されることもなく
ヴィルヘルムスハーフェンになんとか到着した。しかし辛うじて帰還できたのは重巡プリンツ・オイゲン、軽巡ミュンヘン、駆逐艦3隻の僅か5隻のみで
出撃時の1割にも満たない文字通りの壊滅だった※10

262: 名無しさん :2022/04/24(日) 19:29:05 HOST:119-172-250-218.rev.home.ne.jp
海戦後、イギリス本土から飛び立ったランカスターがこの海戦で犠牲になった将兵を弔うかのように
花束が少し前に大海戦が行われ、今は静かになったユトランドの海に投下された。

後にリデル・ハートはこう記した「ドイツ海軍の栄光はユトランドで始まり、ユトランドで終わった」、と

※1
英海軍や空軍が全面協力して作った大作映画で、「美女ありき」みたいな内容ではなく海戦主体な映画
海戦の様子を録画したフィルムや円谷が絶賛するほどの模型撮影であったが
砲撃戦主体なので空母パイロットや潜水艦乗りにはブーイングの嵐だった

※2
キング・ジョージ5世、プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク
キング・エドワード7世、エンプレス・オブ・インディア、プリンス・ジョージ
空母増産のためにヨーク以降は建造中止と解体、デューク・オブ・ヨークはイーグル級空母に命名

※3
ビスマルク級やオハイオ級に対抗するのがキング・ジョージ5世級ならば、ドイツが計画したZ計画で
建造予定H級戦艦(史実H41級)に対抗すべく計画されたイギリス海軍最大最強の戦艦
17インチか18インチ砲3連3基を搭載予定だったが中止、艦名は守護聖人級空母に使われた
※4
ハーミスを始めとする戦前建造された空母群は地中海やマルタ島を巡る戦いで次々と損失し
戦艦ヴァリアントやバーラムもそれぞれ人間魚雷や砲撃戦や潜水艦で喪失、巡洋艦も空襲や
アメリカ海軍との交戦で31ノットバークされたりしてオーストラリア、オランダ共に相当数失っている
そのお陰でアルベマール級の建造が促進された

※5
イタリア海軍とギリシャ海軍を抑える為の地中海艦隊増強案、リシュリュー級2隻(リシュリュー、ジャンバール)とイギリスから提供されたアークロイヤル級の設計図の基にしたジョッフル級2隻(ジョッフル、ペインヴェ)

※6
ビスマルク轟沈は映像でも写真にも撮られて多くの話題を生んだ、生き残った3人は英海軍の駆逐艦に救助された

※7
史実だと潜水艦用だが、マーク11に変わる魚雷として採用された
※8
「彼らは勇者だな」とフィリップスがぽつりと呟いており、奇跡的に生き残って救助された
ハインリヒの乗組員がウェールズの砲撃を受ける前にハインリヒの艦長がウェールズに敬礼をしていたことを目撃している

※9
ドイツ海軍生き残りのエース潜水艦乗りの奇襲で、機動部隊は混乱に陥ったことや
度重なる襲撃や空襲でパイロットや整備士達の疲労困憊も酷くなったことも追撃の中止となった

※10
軽巡フランクフルトと駆逐艦2隻は大破行動不能状態に陥り英海軍に降伏後、損傷が激しく曳航も出来ない為自沈

263: 名無しさん :2022/04/24(日) 19:31:24 HOST:119-172-250-218.rev.home.ne.jp
以上です

1,海戦モデルは日本海海戦みたいな感じで最初はT字やろうかと思ったけど普通に
  押しつぶせるだろこれ?となって正攻法で艦隊決戦
2,ビスマルクの最期は史実のフッド、最初はフッドで撃沈する展開考えていた
3,最後のランカスターの行動はマレー沖海戦の後にあったこと


以上です、次はエピローグとその後とIFその後を投下してみたいと思います

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最終更新:2022年05月18日 20:03