262: ホワイトベアー :2022/05/08(日) 17:01:27 HOST:sp1-75-2-215.msc.spmode.ne.jp
Muv-Luv Alternative The Melancholy of Admirals 第10話
西暦1984年11月23日
東ドイツ首都 ベルリン
「NATOと国連も本気だな」
アクスマン・アクスマは外務省の執務室にて目の前の部下から渡された書類、国連軍のカリーニングラード橋頭堡での作戦計画、に目を通すとそう呟いた。
「たかだか6万のBETA群撃滅の為に戦闘正面に7個師団と2個母艦戦術戦闘団、5個砲兵旅団を動員した上で予備戦力として4個師団と3個野戦砲兵旅団、それにカリーニングラード橋頭堡入り下ばかりのNCRF(Nordic Countries Response Force:北欧即応部隊)を配置か。
彼らも先の地中侵攻で相当肝を冷やしたのだろうな」
カリーニングラード派遣軍はカリーニングラード橋頭堡に迫るBETA群をするためにポレッスク、グヴァルジェイスク、ブラヴジンスクのラインを最終防衛線に設定。約20キロに渡る縦深にKGEF(カリーニングラード派遣軍)は特設したKGEF第1軍団(アメリカ陸軍第3機甲師団、同第4歩兵師団、第8歩兵師団)、KGEF第3軍団(フランス陸軍第1装甲師団、同軍第14軽装甲師団)、KGEF第4軍団(イギリス陸軍第1装甲師団、同第2装甲師団、カナダ陸軍第1師団)の3個軍団7個師団を配置し、最終防衛線に沿うように7個師団砲兵連隊と5個野戦砲兵旅団を展開していた。
最終防衛線に展開した火砲はMLRSだけでも約730両、榴弾砲も合わせればおよそ3000門近い火砲を50km程の戦闘正面に展開している。
現地では戦闘正面1kmあたり60門の火砲が配置されていると言う、西側諸国の全盛期ソ連すら真っ青になる重火力主義を象徴する異常な光景が誕生していた。
「それだけではありません。日米の両国ですが、どうやら今回の作戦に軌道艦隊すら持ち出してくるようです」
「確かか?」
「はい。未だに正式な通達はありませんがバーベルスベルク天文台がIJSF(日本宇宙軍)第2低軌道艦隊(2LEOF)とUSSF(アメリカ宇宙軍)第3軌道艦隊(3EOF)、第8軌道艦隊(8EOF)の不自然な移動を確認しております。また、UNSF(国連宇宙総軍)の第4艦隊、第6艦隊も予定にない合流を実施しております」
軌道艦隊。地球軌道上に浮かぶ複数の大型宇宙ステーションを兵站拠点とするHSSTで構成される部隊であり、低周回軌道から直接攻撃ができる事から光線属種による迎撃を免れて爆撃を可能としておる事から光線属種によって運用に大きな制限を受けている空軍爆撃機部隊に変わる打撃戦力として運用されている。
反面、宇宙空間と言う極めて過酷かつ遠い場所で運用されるため、その運用には莫大な金と技術がかかり、冷戦中でも単独でまともに編成できたのは日米ソのみ、現在では国連宇宙総軍を除いては日米しか保有していない。
本来なら軌道艦隊を間引き程度に作戦で動かすことなどあり得ないことであった。
「日米合わせて3個軌道艦隊、これにイギリスが出資するUNSF4Fにフランスと西ドイツ出資のUNSF6Fが加わる可能性もあるということか。見る分にはさぞ素晴らしいだろうな」
「かかるであろ費用の事を考えるととてもとても素晴らしいとは言えませんが」
日本宇宙軍第2低軌道艦隊は再突入装甲巡洋艦6隻、再突入装甲駆逐艦36隻の計42隻のHSSTで構成される世界最大規模の軌道艦隊で、アメリカ宇宙軍を第3軌道艦隊、第8軌道艦隊は共に40隻の再突装甲入駆逐艦から編成されている。これだけで122隻のHSSTである。
また、国連宇宙総軍第4艦隊には36隻の、第6艦隊は30隻の再突入装甲駆逐艦で編成されている。
これらが合わさった場合、188隻と言う人類史上初となる大艦隊が低軌道上に誕生することになる。
263: ホワイトベアー :2022/05/08(日) 17:02:19 HOST:sp1-75-2-215.msc.spmode.ne.jp
「それで、我々の優秀なシンクタンクは日米と西欧がこれだけの大規模な宇宙軍動員に踏み切った理由は何だと考えている?」
「表向きは東欧諸国とソ連への圧力でしょうとの事です。セイバージャンクション1984は第3計画を主導しながらその成果を未だに公表しないソ連からBETA戦の主導権を奪うための外交政策の一環として計画されていると言うがシンクタンクの予想でした。しかし、」
「それだけではこれだけの大規模な軌道艦隊を動員する必要はないか・・・」
「はい。国防総省のシュミレーションですとカリーニングラード派遣軍単体のみで6万程度のBETA群なら十分に殲滅可能と結果が出ております。これは我々も同様の結果です。それだけでも西側諸国の優位性は十分に示せるでしょう」
東欧諸国にとって6万と言うBETA梯団を潰すためには相当な戦術機動と堅固な要塞陣地による護りがあってようやく殲滅できるといった相手であるが、西側諸国の狂ったような砲火力と大量の戦術機甲部隊、機甲部隊、そして水上打撃部隊があればそこまでの難易度ではない。
むしろ、大艦隊による軌道爆撃などという極めて費用対効果の悪い手段を用いてBETA梯団を殲滅した場合、対BETA戦における西側のドクトリンの優位性を示すという目的からしたら地上戦力のみでBETAを殲滅するよりかもはるかに劣る印象を与えかねない。
仮に宇宙軍での優位性も証明するためだとしても、デモンストレーションとして軌道爆撃をするにしても1個艦隊程度で十分な効果を発揮できるだろう。
「さては連中、ミンスクに攻め込む覚悟でも決めたか?」
「それは無いかと。宇宙軍の動きこそ活発ですがNATO地上軍の動きは依然として静かなものです。また、国連宇宙総軍および日米の軌道降下兵団も同様に目立った動きはありません。
流石にKGEFのみではハイブ攻略戦に求められる戦力が不足しております。
何より東陣営とろくにすり合わせも出来ていない上にするつもりもない以上、ミンスクハイブ攻略は行わないでしょう」
ミンスクハイブはまだできて1年と立っていない若いハイブである。
しかし、それでも12個師団規模(当初派遣されていた11個師団+NCRF)にゴットランド島の2個師団を合わせれば14個師団になるが試算の上では戦力が不足している。
ミンスクを攻略するとなればソ連や東側諸国との合同作戦とならざるを得ないだろうから東欧諸国と北欧、ウクライナの残存ソ連軍の戦力も合わせれば戦力面では十分足りるであろうが、ドクトリンから装備の質まで何もかも違い、合同演習は愚かまともな軍事的交流がないために双方のすり合わせが出来ていない東側諸国と西側諸国が連合を組んで大規模な軍事作戦を実施できるわけもない。
何より、ソ連や東側諸国のために日本人やアメリカ人をBETAの巣穴に送り込むことを日米の世論が肯定するはずがない。日米は共に民主主義国家である。世論に逆らった政策を強行する にしても限度というものが存在している。
「現在、最有力視されているのは西欧諸国と日米の間で紛糾している米軍再編製計画とそれに連なるNATO再編成を巡る交渉の一環ではないかと言うものです」
「例のアレか・・・。まったく。この後に及んで内輪揉めとは我々の同盟国は余裕があるな」
「余裕がないからこその強がりとも言えますがね」
「違いない。」
補佐官の返しにアクスマンは皮肉的な笑みを浮かべる。
264: ホワイトベアー :2022/05/08(日) 17:03:12 HOST:sp1-75-2-215.msc.spmode.ne.jp
「西側の動きにソ連や東欧諸国はどういった対応を取っている?」
「どうやらソ連にとっても現在行われている軌道艦隊の動きは予想外だったようでして、GRU(参謀本部情報総局)やPGU(連国家保安委員会第1総局)をはじめとした情報機関や外務省の動きが活発化しております。また、UNMSCでも情報収集を行っているようですが、しかし、何分ソ連は件の事故を引き起こしてから事実上地球軌道から追い出されておりますので、依然として表向きは大きな動きを見せておりません 。」
東ドイツはかつて東側諸国でも最大規模のインテリジェンス組織である国家保安省を抱えていた国家である。西側に寝返り、公的には国家保安省を解体したと言ってもその張り巡らされた情報網が完全に消滅するはずもなく、現在はアクスマン率いる外務省が事実上の後継者としてその遺産を引き継いでいた。
ゆえに東側諸国の動きも独自で詳細に調べ上げることができる。
「日米と宇宙総軍の動きが性急過ぎます。今はどう対応するべきか情報収集と党内での検討を進めているところでしょう」
日米の宇宙軍と国連宇宙総軍が奇妙な動きを見せ始めてから未だに四半日も経っていない。
一歩間違えれば出世街道から転落し、最悪の場合は粛清されるか最前線に政治将校として送り込まれる事になる。そうした緊張状態とソ連では未だに行われている党内の権力闘争があるソ連がこんな短時間で完全な情報収集とその伝達。そして政治的な決断を下せるはずもない。
西側諸国でもここまで性急に動く情勢では事前に知っていなれば短時間で動くことはできないだろう。
「そうか・・・。親愛なる大統領と国防長官は何と?」
「何も、低軌道での異変に関する情報は国家人民軍なら掴んでいるでしょうか、大統領はまだこの情報を知らない可能性すらあります。ソ連や東欧諸国の諜報機関の動きは彼らではわからないでしょう」
国内の主要な天文台と国家保安省の管理していた情報網は軒並みアクスマンと彼の一派が抑えている。
一応独自の観測施設を有した国家人民空軍を管轄下においている国防省は把握しているだろうが、現時点で大統領まで到達しているかはわからない。
「わかった。ああ、この情報は国防省と大統領にも回しておいてくれ。流石にここで止めて置くのは私の政治的な立場的にも問題があるからな。ただし、何か追加でわかったら最優先で私に教えてくれ。」
「了解しました。」
担当官は外務省の役人であるはずなのに軍人のように敬礼をして部屋を出ていく。
担当官が部屋を出た事で一人執務室に残されたアクスマンは大きく息を吐いた。
(まったく、革命はなったというのに未だにこの国は1つになりきれないか・・・。いや現政権の母体が母体ゆえに仕方ないが。)
東ドイツの現政権は国家保安省(正確にはその主流派たるモスクワ派)とそれに連なる共産党政権を打ち倒すために、当時少数派であった国家人民軍の反政権派と各省庁の革新派官僚、国家保安省内のベルリン派が呉越同舟で協力した結果生まれた政権である。
共通の敵である国家保安省を打ち倒した現在でもその体制を維持できているのは一重に、国家保安省の遺産を相続し東ドイツの生命線である西側諸国(特に日米)からの莫大な援助を引っ張ってこれているアクスマンと、カリスマ性を有し国家人民地上軍に大きな影響力を有しているシュトラハヴィッツ大統領が協調体制を取れているからであり、それが崩れればどうなるかわかったものではない。
(最悪の場合に備えて私とリィズ、そしてテオドール君とカティアちゃんが逃げられるようてその後に生活できるように準備を進めなければな。
マブラヴは主人公特権が公式設定で規定されている世界だ。会合だってテロドール化とか勘弁してほしいだろうし、乗ってくるだろう。
アメリカも亡命政権を打ち立てるにしても象徴があったほうがいいはずだ。カティアちゃんなら象徴にするにも十分な経歴を有しているからOSSの協力も見込める)
何が起こるかわからない以上、打てる手は全て打っておきたい。転ばぬ先の杖を用意しておくことこそ国家保安省を生き抜いてきた彼が身につけた処世術である。
執務室の窓からまるで自国の将来を示すかのような曇天の空を見上げながら、アクスマンは己の幸せな老後生活の為に頭の中をフル回転させていく。
265: ホワイトベアー :2022/05/08(日) 17:04:31 HOST:sp1-75-2-215.msc.spmode.ne.jp
西暦1984年11月24日
地球周回低軌道
地球、暗黒と星々が支配する無音の世界の中で蒼く輝く星であり、人類を含めた数えられない程の生命体を育み護ってみた母なる星。
その地表からはるか上空、海抜高度200km、大気圏による保護も受けれず宇宙線や太陽風が吹き荒れる地球低軌道と呼ばれる宇宙空間では、多数の人工衛星やデブリとは明確に違う航空機にも似た人工物、未知なるフロンティアを開拓する船として生まれ、そして、今では地球外起源種による侵略で航空優勢を失った人類に空軍に変わる新たなる戦力として運用されている再突入装甲巡洋艦と再突入装甲駆逐艦が多数の再突入カーゴを搭載した状態で地球の周りを周回している。
その数は装甲巡洋艦と装甲駆逐艦合わせて60隻。彼女らこそカリーニングラード橋頭堡で行われようとしているBETAとの決戦において、栄誉ある初撃としてBETA梯団の最後尾と後方を進む光線属種並びに要塞級への軌道飽和爆撃を任された国連宇宙総軍隷下の第4艦隊、第6艦隊からなる第2任務艦隊である。
その後方には第2撃を加えるための日本宇宙軍第2低軌道艦隊とアメリカ宇宙軍第5軌道艦隊、第8軌道艦隊からなる第1低軌道任務艦隊が10分程の間隔を開けて続いている。
今回の作戦では軌道降下部隊を投入する予定はない。ゆえにその全艦がMRV(多弾頭再突入体)を搭載している。
MRVは再突入装甲巡洋艦と再突入装甲駆逐艦が搭載する再突入カード内にAL弾もしくはS-11弾を満載した対地攻撃兵装で、
低軌道艦隊から投下されると一定高度に達後に搭載するAL弾もしくはS-11弾を分離、指定された範囲にAL弾やS-11の雨を降らせることができる。
これにより例え砲兵や水上打撃部隊の射程距離外であっても重金属雲を発生させ、地上を進むBETAに対して面制圧を実施することを可能としていた。
「大将、目標の攻撃開始ライン到達まであと5分だ」
低軌道艦隊が展開する軌道よりさらに上、地球周回低軌道高度1440kmに浮かび、今回の軌道飽和爆撃の指揮統制・管制を担当する日本宇宙軍の大型ステーションである安土3号。その中心にある中央作戦室にて指揮をとる立花亮一宇宙軍大将に金髪碧眼の美女が報告を上げる。
その口調は仮にも日本宇宙軍の最高階級である大将を相手にするにはふさわしいものではない。
「軌道艦隊の配置はどうなっている」
「TF-2の前衛はあと5分15秒で、TF-1の前衛はあと15分15秒で降下開始地点に到着する。
後はあんたの命令さえあれば、UNSF4F隷下3個装甲駆逐戦隊36隻、UNSF6F隷下3個装甲駆逐戦隊30隻、IJSF2LEOF隷下3個宙雷戦隊42隻、USSF5EOF隷下4個装甲駆逐戦隊40隻、USSF8EOF隷下4個装甲駆逐戦隊40隻の絞めて188隻、その全艦が問題なくMRVを叩き込める」
「きっかり合わせてあるか・・・流石だな」
「俺の偵察結果を下に、俺が分析して、俺がスケジュールを作ってそれを随時修正して、俺がそれに則り艦隊の速度を随時調整をしたんだぞ。できないほうが可笑しい」
何を当たり前なと言いたげに美女は返してくる。
その言葉の内容はとても信じがたいものである。彼女の事を知らないものが聞いたのなら何を言っているのかと混乱するか、バカにされたと怒りを露にするだろう。
しかし、それを問題視するモノも疑問視するモノもここにはいない。何故ならこの場にいるモノは彼女がどういった存在であるかを理解しているのだから
266: ホワイトベアー :2022/05/08(日) 17:05:19 HOST:sp1-75-2-215.msc.spmode.ne.jp
「後はTF-2がしくじらなければ・・・か」
「ああ、機密と保安の関係で国連の艦隊は俺が直接統制制御できない。無論、補助してやってはいるから大丈夫だと思うけどな。
つーかあいつらいるか?参加するリターンよりそれによって発生するリスクの方が大きいだろマジで」
「上の決定だ。S5の投入準備命令と一緒だよ。いわゆる高度に政治的な事情というやつだ。」
「まったく、人間っていうのは面倒でしょうがねえな」
日米宇宙軍の艦艇を統制する彼女に軌道爆撃の実施を許可するために立花大将は操作パネルを使用して最終セーフティーの解除コードを入力しながらそう愚痴る。
「攻撃開始を承認する降下開始突入ポイントに到達次第、全艦軌道爆撃を開始せよ。目標はカリーニングラード橋頭堡を目指すBETA梯団」
「命令を受領。地上部隊への警報を発令。TF-2及びTF-1は降下開始突入ポイントに到達次第軌道爆撃を開始せよ」
カスパールは自動人間の口で復唱すると同時に安土3号の通信設備から命令を発信する。
安土3号から発せされた命令はほぼ0タイムで即座にTF-2総旗艦〘ジャベリン〙、TF-1総旗艦〘せんだい〙に届く。
『第4艦隊全艦、作戦司令本部から命令がきた。規定通り再突入回廊への突入を開始せよ。諸君、BETA共にAL弾のシャワーを浴びせてやれ』
第4艦隊司令官ワイアット中将の命令を受け、再突入装甲駆逐艦達は再突入回廊を目指して降下を開始する。
先陣を切るの国連宇宙総軍第4艦隊所属第12装甲駆逐戦隊に所属する12隻のHSSTだ。それぞれがMRVを満載して待機周回軌道である海抜高度200kmから更に高度を下げるべく減速をかけていく。その後ろから200秒間隔で第2任務艦隊を構成する戦隊達が続いていく。
海抜高度100kmに達するとMRVを固定していたロックボルトが爆破し、第5宙雷戦隊を構成する12隻のHSSTから搭載していた計48基のMRVが分離された。
MRVを切り離したHSSTはロケットモーターによる加速をかけて一気に速度と高度の回復を図り、MRVはロケットモーターを使いさらに減速をかけてBETA群を目指して大気圏に突入していった。
20分間に渡る第一波爆撃により軌道上より投下されたMRVの数は264基。2880発の無誘導AL砲弾と4800発のS-11弾頭弾の雨がBETA後方に振り注いでいく。
決戦の火蓋は切られた。
267: ホワイトベアー :2022/05/08(日) 17:06:08 HOST:sp1-75-2-215.msc.spmode.ne.jp
以上になります。wikiへの転載はOKです
ようやくBETAとの決戦の幕を上げれた・・・
最終更新:2022年05月18日 20:32