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Muv-Luv Alternative The Melancholy of Admirals 第13話
西暦1984年11月28日
アメリカ合衆国 首都 ワシントンD.C.
「日本人達の博打は成功したか・・・」
冷戦時は大日本帝国とともに自由世界の導き手として、そしてBETA大戦勃発後は日本とならぶ地球人類の主導者として君臨する人口国家、アメリカ合衆国。その政治の中枢であるワシントンD.C.ペンシルベニア大通り1600号では1人の男が朝食を取りながら朝のブリーフィングを受けていた。
「そのとおりです。日本人はマヌスアイランドのBETA群を殲滅、ほぼ無傷のBETAの着陸ユニットと反応炉残骸を得ました。全て、国連に引き渡さなくてもいいBETAからの鹵獲物です。これで日本のBETA研究は他国を大きくリードするでしょう」
ソファに座りこんでいるロバート・ライデン国家安全保障担当補佐官が頷く。
バンクーバー協定は国連主導の対BETA戦とBETAからの鹵獲物の国連での管理を国連加盟国に義務付けている。
しかし、国連が管理するBETAからの鹵獲物は地球外のハイブからの鹵獲物およびカシュガルハイブおよびそこから派生した各ハイブとしている。
つまり、今回の日本が手に入れたBETA着陸ユニットを始めとした鹵獲品は国連に引き渡す義務がないのだ。
「それだけではないだろう?」
「はい、国連宇宙総軍のジーン・コロニー大将が地球へのBETA着陸ユニット侵入の責任をとって辞職しました。彼だけではない。宇宙総軍の司令部に勤めていた欧州系の人間もです。これで国連宇宙総軍は再び日本は国連宇宙総軍は統制下に戻ったと言えるでしょう」
「低軌道から上は再び日本の統制下に戻ってきたということか」
日米の援助を得る対価として宇宙戦力を全て国連宇宙総軍の傘下に入れた。その結果、独自の宇宙戦力を失った欧州諸国は国連宇宙総軍司令部に浸透することで、国連宇宙総軍を欧州連合の宇宙戦力としよとしていた。
しかし、今回の地球へのBETA着陸ユニットの効果で多くの欧州系の国連宇宙総軍の将校が辞任することになり、宇宙総軍は日本の統制下に戻ってきたのだ。
「今回も日本は最大の利益を上げたわけですな・・・。」
今まで黙っていた国務長官のアデナウアー・パラヤは呆れた顔で肩をすくめる。
今回のBETA着陸ユニットの地球侵攻により、日本は独占研究可能な被検体だけでなく、自国の宇宙の覇権に挑もうと足掻いていた小さな芽をも紡いだのだ。
「まったくだよ。実に運のいい同盟国だ。我々としても嬉しい限りだよ。
それで、日本人達はBETAの着陸ユニットを何処に運ぶ込むつもりなんだ?」
「ワコウだよ首席補佐官殿。すでに研究の為にBETA着陸ユニットをワコウに持ち込んだようです」
「手際がいいな。それで、こちらが送り込む人間のピックアップは終わったのか?」
今だに陥落から時間も経っていないというのにこの速さである。
日本最大のシンクタンク機関である帝国総合戦略研究所を始めとした幾つものシンクタンクや三菱、倉橋、IOP、三井、住友など日本の大企業を表の顔として日本政府を裏で操ると言う
夢幻会、彼らが未来を予言する事ができると言うのも強ち間違いではないのかもしれない。
そんな馬鹿げた考えがゴールドマン大統領の頭に浮かんでしまう。
「問題アリマセン。ロスアラモス研究所のウィリアム・グレイ博士を中心とする研究チームを派遣することになりました」
大統領の執務机前に立つ大柄な男、アメリカ合衆国大統領首席補佐官オクスナー・クリフは大統領に日本に送り込む人間の情報が記載された何十枚かの書類束を手渡す。
日本が鹵獲したBETA着陸ユニットであるが、アメリカ合衆国は日本の演出を助けた御褒美として、そして共犯者として仕立て上げられる為に研究への参加を許可されていた。
もっとも、BETAの鹵獲品はすべからく日本の国有物であり、アメリカ合衆国政府が臨んだ鹵獲品へのアメリカ合衆国への提供は拒絶されてしまったが。
100: ホワイトベアー :2022/05/15(日) 20:18:05 HOST:sp49-98-140-6.msd.spmode.ne.jp
「本当は鹵獲物のサンプルを提供してほしかったんだがなぁ」
「血を流したのは日本人だけです。いくら日本政府が我々と世紀単位の同盟国であると言っても、軌道空爆を実施した程度の我々にそこまでの優遇をしてはくれないでしょう。最悪、日本の対米感情を悪化させかねないので公の場では言わんでくださいね」
アメリカ合衆国における外交を担当する国務省の長であるパラヤ国務長官がオーバルオフィスの主にクギを刺す。
如何にアメリカ合衆国が強大であり、世界有数の大国であると言っても、世界の先端科学を独占する日本の不況を買うのは些かまずい。何より、マスメディアで支配的な地位にいる日本人達に排除するべきと判断された場合どうなるかは、アメリカ合衆国から西欧に追い出されたユダヤ人コミュニティーを見ればよくわかる。
「わかっているよ。それで、国外の反応はどうなっている?国連やソ連、それに西欧はピーチクパーチク騒いでいるようだな」
「はい。非公式ながら国連軍事参謀本部と第3計画本部、それにソ連、フランス、西ドイツ、イタリアが連名で、日本に対して〔鹵獲物の独占は国連主導の対BETA戦を義務付けているバンクーバー協定の精神に違反している〕と非難声明を発すると同時に国連への引渡を要求しております」
この辺はいつも通りの流れである。
表向きは対立している事になっている欧州連合とソ連であるが、その関係は意外と悪くはない。何せ、欧州連合を主導しているフランスは伝統的に西欧で最も親ロシア感情の強い国であり、1981年にはモスクワの長女と呼ばれているフランス共産党が社会党と組んで連立与党となるなど伝統的に左派が強い国でもある。
また、フランスと共に欧州連合の有力国である西ドイツ、イタリアは反日反米感情が強く、日米による統制を憂いている国民や政治家も多い。
東ドイツが西側諸国に寝返り、ソ連は欧州から切り離され、BETAと東欧諸国が泥沼の戦いを繰り広げている今、これら三か国にとって最優先するべきことは日米から欧州における軍事的主導権を奪い返す事であり、また、国際社会における日米の影響力拡大の阻止へと変わってしまっていたのだ。これは国際社会における日米の一極化を嫌うソ連も同様であった。
「全く、ソ連はともかく西欧の連中と来たら・・・大人しく謝罪しておけば、せいぜい統帥権の移管で許されたものを。これだから日本人に嫌われるのだ」
「ちなみに国連とソ連から我が国も日本への要求に参加してほしいとの打診があったのですが」
「もちろんNOだ。何が悲しくて我々で独占できるBETA技術を筆頭仮想敵国と欧州の乞食どもに渡さなければならん。
それに今の国内世論でソ連や西欧に同調できるわけないだろう。国務省の官僚どもにもよく言いつけておけ」
ゴールドマンは断固として口調で断言する。彼からしたら、もはや自分たちの助け無しで戦うことは愚か国家運営をすることすら不可能なソ連が、今だに東陣営の盟主をきどって、合衆国と“対等”であろうとする事が気に食わなかった。
「・・・大統領、今回の日本の打診を丁重にお断りすることはできなかったのでしょうか?」
疲れた表情で座っている初老の男性、ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補が本当にこれしか道はなかったのかと確認する様に聞く。
この場にいる人間は合衆国の外交・国防政策の意思決定プロセスに大きく関わることになる責任者達である。
彼らだって日本が
アメリカを共犯者とする事で自国へのヘイトを分散させ、さらに
アメリカの影響力の拡大を阻止しようとしている事ぐらい十分にわかっていた。
実際、すでに欧州連合との水面下での関係はズタボロに断ち切られつつある。欧州との外交を担当する彼からしたら頭が痛い事この上ない。
「要請を断れば少なくとも我が国の潔白を証明できる。そうすれば我が国の国際的な影響力を高められる・・・か」
「はい、何も日本と対立しようという話ではなく、あくまでも今回は日本の顔を立てつつ中立でいるべきではないかと」
実際、今回のアメリカ合衆国は日本と比べて“まだ”白よりである。ここでBETA着陸ユニットの研究に参加しなければ、ほぼ真っ黒な日本よりアメリカを頼るべきではないかと言う勢力が国内に増えるのは当然の流れであろう。
外交だけを考えるのなら、何もしない、が一番合衆国の利益になるのだ。
101: ホワイトベアー :2022/05/15(日) 20:18:57 HOST:sp49-98-140-6.msd.spmode.ne.jp
「悪いがそれは無理だ。日本人の手が早すぎた。各メディアが実にセンセーショナルに〘西欧の裏切り〙を広めているせいで、世論は反西欧一択だ。合衆国の大人たちは声を大にして叫んでいる、『旧大陸の恩知らずの為に息子を、娘を死地に送らせない!俺たちの税金を無駄に浪費することを許さない!』とな」
もともと、
アメリカと言う国は欧州から追い出された負け組が建国した国だ。
アメリカは移民の国であるから、近年に欧州から移民という形でアメリカ人になった人間も多くいるが、移民と言うのは自国に何らかの不満がある人間しか基本的にいない。
そこに南北戦争以降の日本による世紀単位の文化侵略とアンチヨーロピアプロパガンダ漬けが加えられる。
何が言いたいかと言うと、基本的に合衆国内の対欧州感情は良くない事がデフォルトなのだ。
だから第二次世界大戦ではヴィシーフランスやドイツ、イタリアを容赦なく焼夷弾や通常爆弾で火の海に沈め、さらにドイツやイタリアにそれぞれ11発の核弾頭を搭載した多弾頭式大陸間弾道弾を叩き込むなんて暴挙に出る事ができた。
そこに、BETA大戦以降の余裕があるのに日米の要請を無視しての欧州での引き籠もり方針と、今回の欧州宇宙機構のミスでのBETA着陸ユニットの地球侵入を許すという特大のミスである。
アメリカの反欧州、いや正確には反仏・反西独・反伊感情は大爆発中であった。
〘イギリスや東ドイツ程度に物わかりがいいなら小間使として雇ってやるが、なんで俺たちに貢献しないどころか足を引っ張り、偉そうに物乞いをする図々しい乞食の為に物資や金を恵んでやったり、ボーイズやガールズを死なせなきゃならんのだ〙
「国民だけじゃない。議会ですら同様の声を上げている。第7軍の大縮小と欧州連合向けの支援縮小はもはや決定事項だ。どちらにしろ西欧の対米感情悪化は避けられないよ。」
ゴールドマン大統領はヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官の質問に答えつつ、最後は別の人物に視線を向ける。
その視線の先にいるのは人物、ウォルター・アイランズ国防長官は頷きつつ口を開く。
「はい、JSC(統合参謀本部)のJ5(第5部:戦略・計画・施策部門)が日本のJSCO(統合参謀本部)と組んで構想した“自由なるアジア太平洋戦略”に則り、第7軍の第5軍団を第3軍に、第7軍団を第8軍に編入する事が内定しており、現在はすでにその準備を進めております」
ウォルター・アイランズ国防長官はゴールドマン大統領と同様に根っからの太平洋優先論者、すなわち
アジアにおけるBETA東進の防止を最優先にすることこそがアメリカ合衆国の、ひいては人類の利益になると考えている政治家である。
それゆえに第7軍を構成する第5軍団と第7軍団を激戦の続く中東と東アジアに配置することで戦線の強化を図りたいのだ。
何せ、第7軍を構成する第5軍団と第7軍団は、両軍団共に冷戦期から在欧州米陸軍の中核を担うアメリカ陸軍の部隊であり、BETA大戦勃発後は世界有数の戦術機保有数を誇る重戦術機甲軍団として改編され、たった1個軍団だけで中小国家を超える戦術機や機甲戦力を有する大軍団へと生まれ変わっている。これほどの規模の部隊が援軍に来れば戦況はだいぶ楽になる。
実際にその考え自体は間違いではない。
アメリカ合衆国にとっても、そして人類にとっても欧州の防衛よりも東アジアの防衛のほうが遥かに重要度が高いのは当然のことである。
何せ、東アジアはアメリカ合衆国とならんで人類防衛の中核として世界各地に戦力を派遣している大日本帝国の盾であり、もし仮に東アジアが陥落し、日本が本土防衛を優先して世界各地の軍を引き上げた場合、幾つかの戦線が崩壊しかねないのだから。
「馬鹿な!それでは欧州の米軍地上部隊がほぼ全ていなくなりますぞ。いくら感情的な対立が激しかろうと、明確な同盟国をまるきり見離せば、今後の外交に極めて大きな負の影響を与えかねない! 大統領と軍部はそれをわかっていいらっしゃるのか!?」
あまりの計画にパラヤ国務次官は席を立って怒鳴り声を上げてしまう。
彼の周囲に座るヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補と東アジア・太平洋担当国務次官補は唖然とした顔を浮かべたあと、パラヤの意見に賛同する。
脅威の迫る同盟国からの事実上の撤兵。それは合衆国外交政策を担当する彼等にとって、自分で自分の首を絞めるに等しい行為である。
少なくとも欧州連合と合衆国の関係は拗れに拗れるだろう事は確実だ。
102: ホワイトベアー :2022/05/15(日) 20:21:38 HOST:sp49-98-140-6.msd.spmode.ne.jp
「わかっている。とはいっても他の戦線も苦しいんだ。国務長官も合衆国は巨大だが、無尽蔵では無い事を十分に理解しているだろう?
欧州のように余裕のある場所に2個軍団も遊ばせておく余裕は合衆国軍には存在しないのだよ」
アイランズ長官はあくまでも冷静に答えていく。
対BETA戦が行われているのは欧州だけではない。中東や東アジアでも激しいBETAとの戦いが行われている。そして、アメリカ合衆国はこうした世界各地の戦場に大規模な兵力を派遣して人類の勢力圏の防衛を担っている。
アメリカ合衆国がいくら巨大な国家であると言っても、無限に兵力と兵器と物資と予算が湧き出てくる魔法の壷が存在するわけではない。
多くの戦場を抱え、さらに限られた兵力しかない以上、余裕の多い欧州にいつまでも大規模な兵力をおいておく余裕などアメリカ合衆国には存在しないのだ。
ゆえに米軍は在欧州米軍の中核を担う第5軍団をマシュハドハイの圧力を受ける中東の防衛を担う第3軍に、第7軍団をオリジナルハイブからの圧力を受ける東アジア戦線の防衛を担う第8軍に編入。アジアでの戦術機甲戦力密度の上昇を図ろうとしていた。無論、欧州から米軍を完全に撤退させるわけではないが。
ウィリアムス統合参謀本部議長が続く。
「無論、いくら安定化したと言ってもミンスクハイブの脅威が残っている以上、完全に兵力を撤兵させる事はしません。現在新規に編成している1個戦術機甲師団と第12戦闘航空旅団を第7軍直轄部隊として東ドイツに送り込みます 。」
とりあえずは完全に見捨てないと言う事がわかったので、不承不承といった態度ではあるが、パラヤ国務次官は声を抑えて席に戻る。
「ともかく、西欧諸国との関係悪化は確定事項だ。そこで、我々の新たな欧州戦線のパートナー候補として浮上している東欧の状況はどうなっている?」
ゴールドマンは沈黙が支配しそうになった執務室において、無理矢理に会議を進行させる。何せ、時間は有限であり、失ったら二度と戻ってくることはないのだ。
今の彼らに沈黙が支配する場を楽しむ暇は存在しない。
「はい。既にポーランドやウクライナ、チェコ、スロベキアなどでは消耗の激しい部隊を後方に下げて戦力の再編成を開始しております。」
「それだけではありません。セイバ・ジャンクション1984、そしてBETA着陸ユニットの入手によって、幾つかの東欧の国が東ドイツを仲介役として体制の転換も含めた今後の関係について協議を持ちたいとの打診が我が国と日本に届いております。」
アイランズ国防長官とパラオ外務長官の報告は
、セイバージャンクション1984に込められた日米諸国の思惑はその全てが達成できたと言っても過言ではないことを表していた。
東欧諸国では西側諸国の間引き作戦によって稼ぎだされた時間を活かして、疲弊した戦力の立て直しと防衛陣地 群の大幅な強化に取り掛かっており、西側諸国の東の盾こと東欧諸国はその大幅な延命に成功しつつある。
さらに、西側諸国が大量に持ち込んだ第2.5世代機や第2世代機、第1.5世代機などの強力な戦術機や圧倒的な物量に支えられた戦い方は、ミンスクハイブ誕生以降、常にギリギリの戦いを強いられてきた東欧諸国を西側諸国に靡かせるには十分なものであった。
実際にハンガリーやチェコなどの幾つかの国は水面下で西側諸国との接触を強めているなど、東ドイツに続けと言わんばかりにソ連を見限りをつけて日米に寝返ろうとする国も出始めていた。
「それは素晴らしい。しかし、良く共産主義者がこのような提案を行えたな。」
「それだけセイバージャンクション1984とBETA着陸ユニットの鹵獲が東側諸国にもたらした衝撃は大きかったのでしょう。また、ソ連はBETAに国土を分断されている状態で、なおかつ東ドイツの件で東欧諸国からの求心力を落としています。一部の東欧諸国からしたらもはや盟主足りえない国家と判断されてもおかしくはないかと」
「なるのど、確かにそうだな。しかし、傘下の国が寝返りを決めようとするのをソ連は黙って見ているのか?」
103: ホワイトベアー :2022/05/15(日) 20:25:48 HOST:sp49-98-140-6.msd.spmode.ne.jp
大統領の疑問はごく当然のものであった。
何せ、彼の視点ではソ連は秘密警察と粛清の恐怖で傘下国を支配する悪の帝国であり、ソ連の勢力下にある国々を支配する共産党はその手下たちである。東ドイツの国家保安省がそうであったように非人道的な手段の百や二百容易に取るであろう事は想像に難くない。
「戦略情報局からの未確定情報ですが、ソ連の方でも動きが活発化しているようす。しかし、直接武力や謀略でどうこうすると言うものではなく、どうやらMig-27の東欧諸国への輸出を解禁、及びMig-23の安価での提供などを実行するようです。」
幾つかの東欧諸国が西側諸国と水面下で接触している事は、東ドイツ革命以降、自国の傘下国の動きに特に気を払っていたソ連も把握していた。しかし、すでに国土を三分割(北欧・ウクライナ・ウラル以東)されてしまい、国家の中枢と軍の主力をウラル以東に移している上に対BETA戦を遂行するのに西側諸国からのレンドリースが必須なソ連にできることは極めて限られており、自国の最新鋭機であるMig-27の早期輸出やライセンス生産の許可などを行うことで少しでも影響力を保持しようとしていた。
「ありえないとは思うが、一応聞いておこう。日本は輸出を許可したのか」
「ソ連曰くMig-23とMig-27は国産戦術機であり、輸出をしても問題ないとのことです。これに対して日本政府は反発を強めております。しかし、これはあくまでも建前のようでして、実際には日本政府はこれを許容したとの事です。また、中国を経由してですが、少なくない量の物資が日本からソ連に供与されております」
大統領の顔に驚愕が浮かぶ。
あの共産党嫌いの日本が、知的財産権侵害を絶対許さないマンな日本が共産党に極秘とはいえ戦術機の輸出許可を出した挙げ句に供給物資を増やしただと・・・
「ソ連は何を対価とした?日本は何を得たんだ?」
「申し訳ありません。そこまでは今だ不明です・・・」
国家情報長官は申し訳無さそうに謝罪する。
もっとも、南北戦争時に日本人の手によって生み出された陸軍情報総局を母体とし、つい最近までは大統領や国家情報長官よりも先に在米日本軍参謀部第2部に情報を渡していたことから、日本国家安全保障局在米支部とまで言われていた戦略情報局や国防省保安局がここまでの情報を仕入れられた事を褒めるべきであろう。
「急ぎ追加の調査を行いたまえ。徹底的にだ。あの日本を、
夢幻会をソ連が動かしたのなるとそうとう大きな貢物をしたはずだ。」
「すでにそのように指示しております」
「よろしい。何かわかったら最優先で報告してくれ。」
その後もしばらく報告は続いていく。
しかし、それらはあまり重要なことではなく、ゴールドマンは注意はそこには向かなかった。
(ここに来て急なソ連への援助か・・・一見すればBETA着陸ユニットの地球侵入に対しての“工作”だとも考えられるが・・・。いや、それならここまでの支援は必要ないはずだ。なら・・・)
ゴールドマンの脳は急速に回転していき、様々な考えが浮かんでは消え浮かんでは消えていく。
ソ連の崩壊を願う日本がソ連に大規模な援助を行うというのは、最悪の場合は日本の国家戦略が変わった可能性すら示唆している。そうなれば、
アメリカの国家戦略にも大きく影響を及ぼすだろう。
変わった原因は何か、時期的に見れば着陸ユニットの鹵獲か?
わからない。いくら考えても答えは出なかった。
「いったい総研、いや、
夢幻会は何を考えているんだ?」
執務室から空を見上げたゴールドマンの口から溢れてた問いに答えられるものは、今はまだ、この場にはいない。
ただ、執務室の窓から見える空は雲ひとつない快晴であった。
104: ホワイトベアー :2022/05/15(日) 20:26:55 HOST:sp49-98-140-6.msd.spmode.ne.jp
以上になります。
アメリカからみた現状になります。
wikiへの転載はOKです
最終更新:2022年05月18日 20:43