358: 弥次郎 :2022/05/08(日) 23:32:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net



  • 星暦恒星系 星暦惑星 ヴァルト盟約同盟 北部第3仮設FOB


 星暦惑星現地時間 星暦2147年4月4日。
 ヴァルト盟約同盟の領土を抜けた先、レギオンとの交戦が行われる山岳地域の先の平野部に、そのFOBは用意されていた。
 最も、名目上こそヴァルト盟約同盟の保有するFOBであるが、その実態は地球連合軍の戦力が駐留するFOBであった。
駐留している無人機群が、この基地だけでもなんと500を軽く超える。小型も、大型も、あるいはそれ以上の超大型も含めて。
 他に展開しているFOBを含めれば3000以上。そして本隊には1000以上という大規模な戦力が用意されているというのだから驚きだ。
それらの母艦となる輸送艦---陸上艦艇や航空艦艇などもそれこそ百以上に及んでいる。
 かのギアーデ帝国の送り出したレギオンと同じか、それ以上のスペックと種類を持つ無人機とその後方支援体制。
 地球連合軍が「オペレーション・スカイフォール」に合わせヴァルト盟約同盟に降下させた戦力がそれらだ。

「大した物量だよ、全く。一方面に展開するだけでこれだけの規模と物量と後方支援体制。
 それをコクーンのいる四方に展開?驚くどころじゃないね……」

 それらは、このFOBからもよく見える。
 そう、オリヴィア・アイギスが今いる、軍人の宿舎には似つかわしくないホテルのような立派な部屋からも。
灯火管制が敷かれているため、見えているのは識別や位置を知らせる役目を果たすためのわずかな発光のみ。
だが、その数は遠くから見ても膨大で、まるで花が咲いているようにさえ見える。

(うちの国のフェルドレスは平野での戦闘を考慮しているとは言い難いから、マッスル・トレーサーの供与は願ったりだけど)

 実際、地球連合から供与されたMTはヴァルト盟約同盟のMk6 ストレンヴルムを超えるスペックを持っており、今回の平野部での戦闘には向いていた。
供与されているのは砲戦主体のナースホルンF234型および近接型のF237型。どちらもストレンヴルムを赤子の手をひねるがごとく倒せてしまう怪物。
山岳地域での運用が前提のストレンヴルムは、一方で平野部ではそのスペックを生かしきれないのというハンディキャップがあるのも確か。
機動力という面ではいいが、搭載火力の少なさや装甲の薄さ、居住性などはどうしても犠牲にされているためである。
 だが、それを差し引きしても、ナースホルンらが優れているというのは否定しようがないことだった。
 そういう意味で、地球連合からのMTの供与と教練を受けられたのは非常に大きい。慣熟も済ませてあるので戦力面では不安はない。

(そして……)

 そして、そんな驚異的な戦力であるMTをさらに超える人型兵器の集中運用により、標的たるコクーンを鹵獲するという、とんでもないプラン。
捕まえるための手段---マイクロマシンを利用したパラライズバレットに、物理粘着のトリモチランチャー---も潤沢に用意し、一切油断なく襲い掛かる。

(味方を、それもとても強力な味方を得られたことは喜ぶべきことなんだろうけど)

 それでも、思うのだ。今はレギオンに対して向けられているこの力。
 何かあれば、自分たちに向けられることになりかねない、と。
 考えすぎではないことだ。祖母からはそうなるかもしれないと、漏らされた。
 彼らが力だけでなく、対話を重視していることがとてつもない幸運であるとも。

(私は……)

 何ができるのか。
 オペレーション・スカイフォールの開始まで、2日を切った日のことであった。

359: 弥次郎 :2022/05/08(日) 23:32:33 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4FOB 食堂



 訓練が終れば、夕食の時間である。勉学と実機訓練、肉体作りの生身のトレーニング。彼らがこなすのは多岐にわたる。
 育ち盛りの10代半ばが多いということもあり、それらが終ったエイティシックス達は当然の如く食事を欲していた。
彼らの多くは人生の過半をプラスチック爆弾よりマシな程度の合成食によって占められてきたが、ここに来てからはそうではない。
星こそ違えども、類似した種類の天然食品をふんだんに使った食事にありつけるのだ。
そんなわけで、彼らはこれまでの人生経験の中でもトップランクの、それこそ夢のような食事を教授していた。
元より、肉体作りの一環として栄養を与えてしっかり休ませることが軍務として命じられているのである。

 だが、今日はそんな空気でもないようだ。そんな風に〈アンダーテイカー〉ことシンエイ・ノウゼンは、周囲を見渡しながら思う。
 今日の日付は星暦2147年4月5日。
 「オペレーション・スカイフォール」、レギオン支配地域の奥深くに存在する、巨大レギオンの捕獲を目的とする一大作戦。
その作戦に自分たちは参加する。あと1日と数時間足らずを以て。これまでの防衛ではなく、敵陣に侵攻しての戦闘という経験の浅いものだ。
噂に聞く特別偵察任務以外でグラン・ミュールから離れることになるとは思わなかったと、そう思うのだ。
 とはいえ、自分たちの行動はあくまでも陽動、レギオンの目を惹きつけるための行為にすぎない。
 本命は宇宙から直接該当のレギオンめがけて襲い掛かり、捕まえるということだ。

「よう、シン」
「失礼するよ」

 もくもくと食事をとるシンと同じテーブルに同じ部隊の〈ラフィングフォックス〉セオト・リッカ、〈ヴェアヴォルフ〉ライデン・シュガが現れた。
 それについてくる形で、〈ガンスリンガー〉クレナ・ククミラ、〈キルシュブリューテ〉カイエ・タニヤもいる。

「一人で食べたいんだけど…」
「いいじゃないか、同じ部隊の仲間だろう?」
「ちょっと空気がピリピリしてさ、ちょっと居心地悪くてね」
「……そうか」

 それを許可と受け取ったか、席に腰かけようとして、若干クレナが挙動不審になったが、結局カイエに押される形でシンの正面に座り、各々も座った。

「いやー、ほら?私たちも、こんないつものと違うのに向かうのでさ、調子狂っちゃうんだよね」
「うむ、いつも通り押し寄せてくるレギオン共を叩けばいい、というわけではないからな」

 シンの顔を見ようとして、しかしできないままに視線をさまよわせ、隣のカイエに小突かれながらも、クレナは言い訳のように言う。
そんな彼女も食事に手を伸ばしながらも、ちらりと、シンの方へと視線を送った。

「まあ、そうだよな。人間様に監視されながら戦うのとは、全然違うわけだし。
 というか、人間様がこいつで繋いでくることも減ったよな」
「静かになって助かる、正直な」

 ライデンは耳にインプラントされているパラレイドデバイスをつんつんとつつきながら言う。
 そう、地球連合軍に保護されてから、飼い主であるハンドラーはめっきり繋がなくなってきたのだ。
そこにどういう意図や状況の変化があったのか、エイティシックスたちの知るところではない。
どうせ壁の向こう側で安穏としている、いても助かるどころか、場合によってはこちらを殺しにかかるような監視者なのだから。

360: 弥次郎 :2022/05/08(日) 23:33:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 だが、シンは意に介さず食事を続けた。ライデンにもクレナにも。
 彼の耳の後ろには特徴的な器具が装備されており、ヘッドホンのように頭の上を通って固定されている。

「シンのそれ……やっぱへんなのだよね」
「だよね。ほとんどずっとつけているけど、何なの?」
「つけろって、言われたんだ。おかげで、とても静かだ」

 その言葉の意味は重たい。だから、誰もが口をつぐんでしまった。
 彼らは、同じ部隊で訓練を受けている。あるいはここに来る前から同じ隊にいた。
 だから、シンがもつその異能については実戦でも知ることになっていたのだ。
四六時中、寝ていても起きていても、何をしていても耳にレギオンの声が届き、動きがわかるという異能。
パラレイドデバイスを通じて同調すると、特に「黒羊」に接敵した時などは相当キツイ。叫び声が、頭の中で飽和するのだ。
 本人は慣れているというが、あんなものを常に聞いていて平気でいられるわけがないと、そう思える。

「ってことは、それで声を遮断しているのか?」
「そういうことらしい。これをつけていると、奴らの声は全然聞こえない」
「ふーん……」
「なんとも面妖な道具だな」

 興味深く眺める仲間たちにシンはそれを外して見せてやる。が、外した瞬間に顔をしかめた。

「……やっぱりうるさいな」
「それなら無理に外さなくてもいいんじゃないか。ずっとつけとけって言われてんだろ?」
「ああ。でも声を聞いた方がいい戦場では、こっちをつけろって言われている」

 そして、シンは鞄からやや小さめのヘッドホンを取り出して見せた。

「こっちだと、ある程度制限するだけで、あいつらの声は聞こえる。
 動きを捕らえて認識しやすくしてくれるんだってさ」
「ふーん。まあ、前から心配はしていたんだ。便利なだけじゃねぇってな。
 それが楽になっているならよかった」
「そうだな。ただ……」

 シンはそれを素直に喜べるものではない。言葉を区切った先、何を言いたいのかをライデンも察している。
 兄を探している---正確にはレギオンに取り込まれた兄を探しているシンにとって、その異能は唯一の判別手段であり、戦場に立つことは見つけるチャンスである。
いつ何時兄が現れるかわからず、どこにいるか、どんな声なのかもわからない中において、手掛かりは一つでも欲しい。
だからこうしてその異能を制限することは、歓迎しきれるものとは言えないのだ。

「こっそり外せばいいんじゃないか?」
「やったらモニターされているみたいで、厳重注意された」

 マジかよ、とライデンは目をむくしかない。

「それに、兄さんの事を話したら対応するといわれた。どこまで本気なのかは、わからないけど」
「そうか」

 それ以上は、二人は話さなかった。
 クレナがカイエ、セオ、そしてあとから来た〈スノウウィッチ〉アンジュ・エマにからかわれて、騒がしくなってきたからだ。
 重要な作戦の前でも、同じ部隊の仲間たちと戯れることができるのは、良いことかもしれない。

「明日か」
「ああ」

 あと24時間+αを以て、一大作戦にシン達は参加する。
 いつもと違うのは、最前線ではないこと。明日死ぬことはないこと。死なせないと、そう宣言され、守りと共に戦場に出ること。
ここ2か月余り嫌というほど言われた、誰かに死を望まれて戦場に行くのではないと、そういうことであった。

361: 弥次郎 :2022/05/08(日) 23:33:55 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • 星暦恒星系 星暦惑星 衛星軌道上 地球連合軍星暦恒星系派遣群 星暦惑星地上方面軍司令基地 ソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦


 星暦惑星現地時間 星暦2147年4月6日。
 オペレーション・スカイフォールの実施まで24時間を切り、すでにファントムビーイング号内の司令部は戦時の空気に満ちていた。
衛星軌道上から降下する部隊はすでにパイロットたちを含め待機状態にあり、メカニック班は整備やチェックに余念がない状況だ。
今作戦において重要な役目を果たすMS隊は特にそうだ。相手を殺すことなく鹵獲するのだから、その動きは繊細さが求められるのだ。

 作戦においてここファントムビーイング号で戦場となる司令部設備には、すでにスタッフやオペレーターが入っておりすでに稼働状態にある。
各戦線、コクーンの存在する地点の四方に存在する国々のFOBやFOSと密に連絡を取り合い、状況を確認し、打ち合わせなどを行っている。
膨大な情報が押し寄せてくることから、オペレーターの席には人間だけでなく、アンドロイドたちも多数動員されている。
人間を超えて情報処理や作戦状況の把握に努めることができるアンドロイドの、まさしく本懐と言える仕事の一つであるのだから、当然か。

 また、動かす戦力が膨大なだけに、どこか一か所で総括して指揮を執る必要があった。だからこそ、軌道上のファントムビーイング号が総指揮を執る。
作戦開始時には地上方面軍総司令官のアルビーナ・ベズディーチュコヴァー中将が入り、それを行う手はずとなっている。
彼女に付随する参謀や武官たちも招集を受けて何度もブリーフィングやシミュレーションを行っており、作戦決行に向けて抜かりはない。

 すでに画面に表示されている作戦開始までのカウントダウンは24時間を切り、着々と時間を刻んでいく。
 その作戦開始時刻に向けて、あらゆる問題やトラブルの種がないかのチェックは進み、万難を排しての決行が行えるように準備が進められている。
 だが、その余裕は数時間前に崩れ去っていた。それこそ、休息を行っていたアルビーナが呼び出されるくらいには。

「予想ができなかったわけじゃないとはいえ、まさかですね。星暦惑星各国への連絡は?」
「すでに完了しています」

 作戦開始まで24時間を切った時点で突如として判明した、予想外の事態。
 重力区画を駆け足で進むアルビーナは、参謀たちの言葉に同意しながらも苦虫を?み潰したような表情を浮かべる。
 予想が全くでなかった、というわけではないのは確かだ。レギオンの建造能力や生産能力などから考えると、不可能ではないこと。
しかし、これまでの観測の結果では確認できなかった事態が、急に確認されてしまったのだ。

「コクーンがもう一体……!」

 そう、これまで確認されていたコクーンとは別の同個体が、少し離れた地点へと出現したのが確認されたのだ。
無論のこと、完成しているわけではないのが確認されている。先に確認されたそれと比較して、明らかに艤装や装備などが完成していないのがわかる。
それでも、もう一つが形を成しつつあるということが、とてつもない脅威であったのだ。
 自動工場型や発電プラント型、回収輸送型などが集まっていることはこれまでの監視で明らかになっていた。
だが、そこからレギオンが出てくる様子から、あくまでも通常の生産行動と判断されていたのだ。

「レギオンの行動が予想以上に早かった……いえ、速くなったとみるべきかしら?」
「それについては、参謀本部の方で現在分析を行っております」
「任せるわ。最優先事項は……」
「はい、作戦への、オペレーション・スカイフォールへの影響ですね」
「分析と情報収集を急いで。2時間後には各国との緊急会議を行うわ」
「は」

 急ぎ足で去っていく副官を見送りながらも、アルビーナはつぶやく。

「予想外の事が起きた……レギオンも、我々の存在に対処するために動き出したと、そういうことなのかしらね」

 ともあれ、優先すべきは24時間を切った作戦にどう影響するかを調べ、どう行動するか、である。
 万が一の、このファントムビーイング号に打撃を与えうる地対衛星軌道砲という戦略砲への転換の可能性も含めて想定しなくてはならない。
 歴戦の中将はその事態に真っ向から立ち向かうことを避けなかった。

362: 弥次郎 :2022/05/08(日) 23:34:35 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
というわけで、作戦発動24時間前になってトラブルです。
何事もうまくいってはつまらないですしね。
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最終更新:2023年09月17日 17:06