464: 弥次郎 :2022/05/10(火) 00:02:59 HOST:softbank126041244105.bbtec.net



  • 星暦恒星系 星暦惑星 衛星軌道上 地球連合軍星暦恒星系派遣群 星暦惑星地上方面軍司令基地 ソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦


 モルフォ別個体の発見の報から2時間後。
 作戦開始まで20時間を切った中での非常呼集にもかかわらず、各国からの参加者はすぐにネットワーク上で対面することとなった。

「レギオンを甘く見ていたかもしれませんね」

 開口一番、アルビーナは重々しく言った。

「冷静に考えれば、レギオンとて何も考えず地上を闊歩するはずがなかったのですから」
『それはどういった意味なのでしょうか?』

 サンマグノリア共和国からの唯一の参加者であるレーナは、その言葉の真意を問うた。

「レギオンは攻撃衛星型……衛星軌道上から地上に落下することで対地攻撃を行う個体を送り込んでいました。
 そんなレギオンが、衛星軌道上に目を向けていない理由など、全く存在しないのです。そこを侮っていた……」
『つまり、レギオンは自分たちが衛星軌道上から監視されていることに気が付いた、と?』
「ええ。参謀本部はその可能性が高いとの結論に達しました」

 エルンストの指摘に、アルビーナはそれを認めた。

「攻撃衛星型が撃破された時点ですでに怪しんでいたのかもしれません。
 そして、地表からこちらを観測し、人工物であり、そこが人類の拠点であると、そう見なしたのかもしれません」

 そして、と合図を出して次の画像を共有させる。

「2体目のコクーン発見の後、間を置かず、阻電子攪乱型によると思われるコクーン上空の光学測距の妨害が始まりました。
 幸いにして、すでに観測されていたコクーン2体の居場所は把握済みで、地上に派遣されている偵察機などでも位置情報の補足は続けられております」
『我が国に対するレギオンの妨害と同じ原理、ということか』

 ロア=グレキア連合王国のザファルは当事国であるからこそ、その応用発展だとすぐに気が付いた。

「問題はそれを対空に意識していることです。
 光学や熱源探知を避けるためか、分厚い阻電子攪乱型の雲が、光学迷彩も含めて展開されているのです。
 今作戦においては大した支障とはなりません。この手の空間を焼き払うことも容易い。ただ…」
『問題は、今後レギオンが見える位置に戦力を置いてくれるわけではない、ということだな』

 コーネリアの指摘は、参謀本部が導き出した結論と同じだった。

「はい。位置さえ把握してしまえば、コクーンのような大型レギオンなどは恐ろしくありません。
 逆に言えば、阻電子攪乱型の雲の下や光学迷彩の下、あるいは地下などに籠られた場合、レギオンの動きを観測できなくなります。
 これらが有効とわかれば、即座にそれを採用し発展してくることは確実かと」
『発展、というと?」

 エルンストの問いは、ヴァルト盟約同盟のベル中将によって回答を出された。

『あなた方地球連合が戦ったことのあるBETAという異星生命体と同じく、地下侵攻という手段をとるということかしら?』
『なるほど、レギオンが地中を活動エリアとして、さらに活用するということか』
『地下は怖いぞ。いくらでも拡張でき、いくらでも隠せる』

 そう呟いたのはコーネリアだ。彼女も今となっては懐かしくも、同時に忌まわしい記憶があるからだ。

『今回はコクーンが屋外で建造されていたから補足ができた。
 だが、徹頭徹尾上からの視線を避けるために地下で建造されたら?砲撃の時以外は穴倉を決め込み、測距と発射の時のみ顔を出すような行動に出たら?
 あるいは、地下を掘り進めこちらの陣地や国家を強襲してきたら?地下の採掘や掘削などを主眼とするレギオンが開発されたら?
 パッと思いつくだけでも、既存の戦術や戦略はかなりの見直しを強いられる』
『……』

 武官であり、現役の指揮官であるコーネリアの言葉の影響力は大きい。
 参加している誰もが、口をつぐみ、想定される未来を考えたのだ。分かってはいたが、レギオンの厄介さが発揮されている。

「ただ、現状の所の救いはレギオンが太陽光発電を必要電力の確保の一つとしているということです。
 他の手段、核融合炉を用いている個体も確保されていますが、それでも彼らの大多数はそれに依存。いつまでも雲を展開できるわけではありません。
 今のところは、ですが」

465: 弥次郎 :2022/05/10(火) 00:03:29 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 ともあれ、とアルビーナは話題を変える。

「今後のレギオンへの対処策については追々行うとしましょう。
 今の優先事項はコクーンです。ルカーノ少佐」
「はい」

 アルビーナの指示を受け、参謀本部のアロルド・ルカーノ少佐が説明を引き継いだ。
 彼は一つ咳ばらいをし、手元のタブレットを操作して共有されている画面を4か国とコクーンを中心としたものに差し替えた。

「本作戦……オペレーション・スカイフォールにおける作戦行動は作戦決行までの時間を鑑みまして、大きな変化を加えておりません。
 ただし、これ以上にコクーンが存在する可能性を排除するため、そして迅速な鹵獲を行うため、二つの要素を付け加えます」

 まず一つ目に、と表示されるのがミサイルだ。
 ただ、明らかにそれは単なるミサイルではない、というのが星暦惑星各国の見立てだ。

「広域殲滅兵器---通称MAP兵器を投入します。使われるのは巡航ミサイル『ヘリオス』。
 これを、阻電子攪乱型の特に濃い地域へ投入し焼き払うことで、光学測距を可能とします。
 特に密度の濃いエリアには隠匿の可能性があるということもあり、ヘリオスを投射。同時に偵察機部隊を送り込み、精査を行います」
『その、ヘリオスというミサイルはそこまで強力なのですか?』
「はい。空域制圧・掃討兵器の一つで、高性能爆薬により、超高範囲を焼き払うものです。
 地表への被害を抑えるために意図的に炸薬量は減らしますが……シミュレーション上では阻電子攪乱型を焼き払うには十分と判断されています」
『戦略兵器に匹敵しますね……』
「元よりそういう兵器として開発されたものですからね。
 ついで、コクーンの配置を再度確認後、戦力の投下を行うこととなりますが、ここでも一つ戦力を追加で送り込みます」

 それは、と共有される画面に画像が表示された。
 表示されているのは、宇宙空間を飛翔する銀色の鋏のような何か。大小さまざまなそれに、星暦惑星各国の代表たちは目をむいた。

「地球連合と対話により協力関係にある異星人---地球連合ではELSと呼称しておりますが、彼らの力を借りることとなります」
『ELS……』
『そういえば、地球連合のこれまでの戦いに関する資料で、その異星人の名前が何度か出てきたけど、それのことかな?』
「はい。金属を体とし、個にして群、群にして個という特性を持ち、脳量子波により他者とコミュニケーションをとる異星人です。
 彼らは強力な同化吸収能力を持ち、とりつかれますと……こうなりますね」

 そして、表示されるのはELS戦役時の映像だった。巨大な戦艦が、それに匹敵するELSに組み付かれ、じわじわとつつまれていく様子が映っている。

「彼らの恐るべきところは、ただ同化吸収するのではなく、その能力を分析し、学習してしまうことです。
 つまり、極論言えば彼らと共生している兵器をタッチダウンさせてしまえば、鹵獲を完了させてしまえるのです。
 ただし、実機はやはりそのままで鹵獲したいところですので、既存の鹵獲作戦も実施されます」

 つまり、とアロルドは端末を操作し、作戦の変更点をまとめた画面を出す。。

「作戦前にMAP兵器による戦闘空域のクリアリング、そして、鹵獲に際してのELS共生戦力の投入が変更点となります。
 そして、確認されたコクーンあるいはコクーン類似レギオンへの強襲も追加されます。
 これらが、地球連合軍の作戦の変更点です」

 ここで一息入れるが、誰もがその先を待ち構えていた。
 そう、アロルドは地球連合軍の、と言ったのだ。つまり---

「そして、星暦惑星各国にやっていただくことにも、変更があります」

466: 弥次郎 :2022/05/10(火) 00:04:13 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 そう、複数のコクーンが確認されたことなどを鑑みて、地上での動きも必要となったのである。
 その動きとは非常にシンプルなものであった。

「陽動作戦の実施は予定通りでありますが、前線の押上げを行っていただく形となります」

 それの意味するところは、レギオン支配地域への侵攻であり、同時に奪還であった。
 これまでの戦力や国力だけでは不可能なことで、しかし、地球連合の援助がある現環境だからこそできることであった。
 そこから先は、再びアルビーナが受け持った。

「複数のコクーンが存在する可能性がある以上、最前線を前進させ、レギオン支配地域を狭めることは急務であります。
 万が一戦略攻撃をされても、標的が分散することにより、被害の低減を行うために。
 そして、その戦略攻撃に対する防衛システムを備えた前哨基地を構築することにより、より安全の確保を図ります」

 つまるところの、戦略的な行動だ。負担が発生することは覚悟のうえでの話。
 しかし、それを怠れば、どこからコクーンの---レールガンのような大火力が火を噴くかもわからないのだ。
レギオンが地下の活用を行ってくることも考えれば、縦深はいくら稼いでもいいというわけである。
無論のこと、そこの構築や維持管理には地球連合の支援が必須ということがある程度問題となりかねないが、背に腹は代えられぬのも確か。

『ありがたい話だ。今回の作戦、殆ど戦力の用意からお膳立てまでしてもらえたのは、我々ではできなかった』

 けれど、とエルンストはその場にいる星暦惑星各国の人々を代表して述べた。

『これは本来ならば我々が対処すべき案件でもある。
 レギオンの事だけじゃない。その後のことも、宇宙怪獣のことも。特に……』

 ぎらりと、一瞬眼光を鋭くして、エルンストは続ける。

『特に、サンマグノリア共和国、そして保護されたエイティシックス達のことも』

 すでに各国はサンマグノリア共和国が開戦以来やってきたこと、犯してきた利敵行為などについて共有している。
あるいは、各国に対して直接被害を与えたといっても過言ではないエイティシックスのことも。
エルンストとしては、そんな被害を受けた少年少女兵たちは保護司、DDRなどをすべきと考えていた。
 だが、予想に反して地球連合が彼らを雇用したというのは驚きであり、怒りさえも覚えることだった。
 地球連合は無人機を実現しており、あるいは十分な軍隊を揃えている。彼らに依存しなければならない理由など、全く存在しないのだ。

「その点は把握しております、ツィマーマン暫定大統領」

 しかし、とアルビーナも譲らない。

「彼らをただ戦場から引き離したところで、彼らは平和に適合できない可能性が高い。
 彼らにそれがふさわしいからと意志を無視して我々の主観的な『平和』を強制することは、共和国としたことと本質的に何ら変わりません」
『……それは』
「彼らは、彼らの意思を以て戦場にいることを望んだ。
 それに対して、我々は選択肢を提示しながら、歩み寄っていくしかない。
 いつか彼らが望んで平和を享受するまで、彼らを死なないように守りながら、辛抱強く」

 そして、アルビーナは参加者全員に向け、言葉を発した。

「どうか彼らの選択を信じてあげてほしいのです。彼らの意思を、そして彼らの力を」

 それはとても切実な願い。箱の底にある、わずかな希望を信じる言葉。
 幾多の敵と戦い、それ以上に、価値のある隣人を得てきた地球連合だからこそつむげる言葉だった。
 作戦開始まで、あと17時間余り---空前の作戦は、目の前であった。

467: 弥次郎 :2022/05/10(火) 00:04:44 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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いよいよ、作戦発動です。
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最終更新:2023年09月17日 17:08