594: 弥次郎 :2022/05/11(水) 19:04:58 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- 星暦恒星系 星暦惑星 衛星軌道上 地球連合軍星暦恒星系派遣群 星暦惑星地上方面軍司令基地 ソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦
星暦惑星現地時間 星暦2147年4月6日 星暦惑星標準時午後2時23分。
オペレーション・スカイフォール発動7分前。
ソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦「ファントムビーイング」の第一司令部施設は、緊張に満ちていた。
あと10分と経たず、星暦惑星の歴史に残るであろう大規模作戦が決行されるのである。いやでも緊張は高まろうというもの。
既に星暦惑星各国の地上のFOBおよびFOSの戦力は展開を終え、合図を待っている状況だ。
さらにファントムビーイング号の周辺や星暦惑星の軌道上には降下部隊やテレポーテーションアンカーなどが展開し、準備を整えている。
どれもがいつでも飛び込み、作戦領域にその戦力を解き放ち、戦えるようにと待ち構えているわけである。
地球連合からしてみればこの程度の作戦はすでに幾度となく経験を重ねている。
とはいえ、今作戦が星暦惑星におけるレギオンとの戦いにおいて非常に大きな意味を持つことは確定なのだ。
その巨体に見合う砲撃力を持つであろうレギオン「コクーン」。孵化する前に、活動を始めて各国に被害が出る前に対処しなくてはならない。
失敗すれば、レギオンは「コクーン」の完成を急ぎ、躊躇うことなく戦線投入を行うであろう。
それに加えて、地球連合からすれば、高々800㎜のレールガンを搭載した列車砲程度で手こずるなど論外という認識があった。
レギオン総体にしても、所詮は惑星内文明国家の開発した無人兵器群でしかないわけで、これまでの敵に比べればはっきり言えば雑魚である。
つまるところ、緊張感というのはどちらかと言えば失態を許せないという流れ故というべきであろうか。
総合的に見れば、楽観してしまいかねない相手ではあるが、同時に緊張感も維持されているというある種理想的な状態を維持できていたのだった。
そんな緊張感にあふれる司令部の中に設置された、塔や要塞を彷彿させる構造体の頂上にアルビーナの姿はあった。
今作戦における総指揮官の役目を担う彼女は、すでに自分の席に腰かけ、作戦開始までの短いようで長い時間を過ごしていた。
人事はつくし、あとは天命を待つのみ。作戦開始直前でレギオンが予想外の動きをしてきたが、それに対するアクションも手配済み。
(あとは……作戦開始までの時間でレギオンが一体どのように行動したかによるわね)
阻電攪乱型の雲が作戦予定エリア全域に厚く広がっていることで、レギオンの動きは衛星軌道上からは判別できなくなっている。
その状態となってから10時間以上が経過しているので、その雲の下での動きは、偵察機による断片的な情報しか判明していない。
正直なところ、作戦開始直後に打ち込まれるMAP兵器「ヘリオス」によってその雲が取り払われ、どのような状況にあるかが判明してから、即座に対応するしかない。
念のために予備戦力も配置してあるし、場合によっては鹵獲を諦め、さらなるMAP兵器の投入も選択肢として用意されている。
「中将、作戦五分前です」
思索にふけっていたところで、アロルドの耳打ちでアルビーナは現実に帰還する。
「わかったわ。回線をこっちに回して頂戴」
「承知しました」
アロルドに返事をしつつ、外していた指揮官用のヘッドセット一式を装着する。
待機状態にしていたそれを起動状態へ。各種回線や指揮所との通信ラインの構築を確認、さらにAR機能もオンにして、総指揮を執る準備を整えた。
そうしている間に、全軍への、星暦惑星地上および軌道上に展開している地球連合の戦力への回線がオンラインとなる。
「総員、傾注」
そして、アルビーナの鋭い声が通信に乗った。
通信越しでも、その先にいる人員が一斉に背筋を正すのが分かった。
それを感じ取りながらも、アルビーナは言葉を紡ぐ。
「まもなく、オペレーション・スカイフォールが開始されます。
これまで積み上げてきた星暦惑星との信頼・信用・交流が、構築してきた関係が、試される作戦となります。
我々地球連合が主体となるとはいえ、現地の国家との連携と協力抜きにはなし得ない作戦であることは間違いありません」
ここでいったん言葉を切り、一息入れた。
595: 弥次郎 :2022/05/11(水) 19:05:55 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
「まだ接触を持ってからまだ短い期間しか経っていません。
それでも、我々は敵対するのではなく、対話と理性とを以て分かり合う努力を重ね、共にレギオンという脅威に立ち向かうことができました。
そして、今作戦では、地上の国家にとっては脅威となるであろうレギオンの排除を目的として行動します。
この作戦の成否が、星暦惑星各国が存続し続けることができるかどうかさえも左右しかねない、それほどの重要性を持ちます」
時計を見れば、開始時間まで残り3分。
「アポカリプス---終末を迎えようとするかのような激戦が、戦争が続いています。
けれども、我々はその滅びに抗い、明日を勝ち取る。それが今を生き、明日に向かわんとする我々の意思です」
そして、〆の一言を発する。
「この星に、そして宇宙に未来と栄光あれ!各員、状況開始!」
そして、状況が開始された。
宇宙で、地上で、最前線や後方支援基地で、一斉に兵士たちが動き出したのだ。
MS、AC、あるいは地上艦艇のパイロットや操縦士。大量に配備されたMTやUNACのオペレーターやハンドラー。
あるいはそれら兵器群を送り出す整備士をはじめとしたメカニック班。
負傷者に備えたコメディカルスタッフを揃えた医療班。作戦中の栄養及び水分補給のためのものを糧食班。
そして、司令部施設においてそれらの動きを総覧し、管理・進行させる指揮官たち。
全てがおのれに定められた通りに動き出したのだ。
- 星暦惑星 地表 「オペレーション・スカイフォール」作戦エリア
作戦開始と同時に動いたのは、星暦惑星各国の戦力だった。
盾役となるバリアなどを有する大型MTを前面に押し立て、さらに続く形で無人機群を押し出し、レギオンの支配地域に踏み込んだのだ。
合わせる形で自走砲や砲撃型MT、あるいは陸上艦艇群やAFによる支援砲撃が開始され、その前方に展開しているレギオンへの事前砲撃を開始した。
そしてその砲撃は艦艇が前進を重ねることで大地を耕しながら前へ前へと進んでいく。
直接砲弾を送り込むだけではない。ロケットやミサイルなども次々と送り込まれていくのだ。
人類側の動きを見越し、配置されていたレギオンたちはいきなり出鼻をくじかれる形となった。
無論、迎撃なども行われはする。しかし、クラスターミサイルも含んだそれらは容赦なくレギオンの数を削る。何せ砲撃の量がこれまでの比ではないのだ。
しかし、レギオンも黙ってみているわけではない。長距離砲兵型の155ミリ榴弾砲や多連装ロケット砲、あるいは近接狩猟型のロケットでの反撃が始まった。
さらには本来ならば対空を主眼とする対空自走砲型さえもその射角を変更することで反撃を開始したのだった。
そこには従来の大型砲を備えたタイプだけでなく、砲身の数を増やした新型も混じっていることが確認された。
傍から見れば、それらはまさしく撃ち合いであったことだろう。空間が砲撃なども合わせてまとめて飽和しそうな有様だった。
そして、その砲撃の中でも斥候型と近接狩猟型は数えるのもうんざりしそうな物量で突撃を開始し、戦車型なども続けて行軍を開始する。
だが、ただぶつかり合うだけではない。
水平あるいは高高度からの光学測距により人類側はレギオンがその大戦力を一斉に動かし始めたのを観測したのだ。
『サンマグノリア方面、レギオン集団の移動を確認。送れ』
『こちらギアーデ連邦方面。同じくレギオン集団の大規模な移動を確認』
『こちらロア=グレキア連合王国前線。レギオンの集団が積極攻勢に出たと判断』
『こちら……』
そして、各方面軍に存在する観測主たちはその報告を次々とデータリンクにアップロードしていく。
一か所だけでなく、複数のポイントでの観測を行い、レギオンが確実に食いついたことを確認する必要があったのだ。
レギオンの集団が密集ではなくある程度分散し、こちらが飛び込んで突破するだけの隙間を生み出すその瞬間を待っていた。
ほどなくして、各方面軍からの報告がそろうこととなった。なれば、作戦は次の段階へと移行する。
『ベズディーチュコヴァー中将より各戦線司令部へ』
MOBのファントムビーイング号の司令部より、その命令が下された。
『作戦は第二段階へ移行。本作戦の指揮官権限により、各方面軍でのMAP兵器の使用を承認。
予定通り、ヘリオスを順次発射せよ。レギオンの雲を焼き払え』
それは太陽神の名を冠したMAP兵器の使用の許可。
阻電攪乱型を大規模に展開し、天空に浮かぶ多くの目から逃れてこそこそ動き回るレギオンの欺瞞を暴き立てる、灼熱の炎だった。
596: 弥次郎 :2022/05/11(水) 19:06:36 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
各所から発射されたそれは、圧倒的な広範囲に炸裂した。
ダミーとなるミサイルと合わせて投入されたそれらは、それぞれが定められた空域に飛び込み、一斉に起爆。
それこそ、サンマグノリア共和国-ヴァルト盟約同盟-ギアーデ連邦-ロア=グレキア連合王国が囲むエリアを覆う阻電攪乱型を丸ごと焼き尽くす如く。
炸裂により、蝶程度の大きさしかないそれらは、高性能炸薬の炸裂によって発生した熱量と圧力とに焼き尽くされ、吹き飛ばされ、瞬時に蒸発した。
如何に数を集めて妨害し、視線を遮ろうとも、所詮は小型の個体を大量に用いた欺瞞工作にすぎず、対抗しきれるものではなかったのだ。
入念に撃ち込まれたMAP兵器「ヘリオス」により空間が焼き払われ、その爆炎などが落ち着いたころには、作戦エリアの空に遮蔽物はなかった。
雲も霧も、あるいは阻電攪乱型もほとんど存在しない、まさしく綺麗な空白が生み出されて、太陽光が10数時間ぶりに降り注いでいた。
そして、そこに存在するものを悉く日の下に引きずり出したのだ。
- 星暦惑星 衛星軌道上 ソレスタルビーイング級コロニー型外宇宙航行母艦「ファントムビーイング」第一司令部施設
「レギオン個体『コクーン』を光学観測およびレーダーによりで捕捉!」
「地上走査完了しました、データリンク情報を更新します」
「! 追加で報告!コクーンに類似した個体が作戦エリア内に複数確認!」
「光学観測実行中!解析までしばらくお待ちください」
そして、掃われた雲の下のレギオンの動きを、一斉に観測する中で多くの事実が露わになる。
その最たるものは、各戦線に展開しているレギオンの中衛と呼べる位置に確認された「コクーン」に類似したレギオンであろう。
事前の、最終段階の光学測距などでは確認されていなかったことから、恐らく阻電攪乱型の雲を全域に広げてから展開したと考えられる。
「やはり、ただでは終わってはくれないようね」
つぶやいたアルビーナは、しかし思考を止めない。
類似している外見を持っているということは、本命たるコクーンから目をそらすための囮か、コクーンを囮とした本命の可能性がある。
外見だけでなく能力までもが同じであるならば、その個体をそのまま放置していることは危険である。
「確認されたコクーン類似のレギオンを現時刻を以て『コクーン・イミテーション』と呼称。
コクーン対処部隊は順次発進し予定通りの行動を開始せよ。また、予備部隊はイミテーションへの攻撃を開始、鹵獲もしくは破壊を。
やはりレギオンは動いていた。予想通りとはいえ、危険度も高まった。全軍に注意喚起!」
「了解!」
「地上のTMS部隊は前倒しで発進!周辺の確保が完了次第、降下部隊とテレポーテーションアンカーを投入。
ここからは時間勝負。レギオンが行動を映す前に排除して!」
「はっ!」
アルビーナの指示は素早く全軍へと通達された。
イミテーションと呼称されたコクーンの類似機。場合によっては能力まで類似しており、その能力を直近にでも開放するかもしれない。
レギオンは休みを知らない機械だ。あれから突貫工事で建造を推し進め、能力を発揮できるようになっている可能性だってある。
それは最前線の指揮官たちも理解しているだろう。レギオンも自らの偽装が暴かれたと分かれば、次の行動を急ぐのは当然。
「地上部隊、各方面よりTMS隊発進!目標接触まで最長で8分!」
「時間がかかるわね……牽制攻撃は?」
「一応、軌道上からの対地攻撃ならばTMS隊の到達前に可能ではありますが……」
「付随している発電プラント型や自動工場型を叩けば、動きは遅らせることができるかもしれないわ。
ある程度の裁量は現場の指揮官に任せる。あれに攻撃を許さないで!多少本体を傷つけても構わないわ!」
「は、はい!」
一分一秒が惜しい。
一射許しただけでどれほどの被害が出るか分かったものではないのだ。
コクーンにせよ、コクーン・イミテーションにせよ、その脅威は図り切れていないからこそ恐ろしい。
どうか間に合ってと、アルビーナは強く祈りながらこぶしを握り締めていた。
597: 弥次郎 :2022/05/11(水) 19:07:56 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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始まっていきなりの山場となりました。
ノゥフェイスさん渾身の「モルフォさえ囮」作戦。
なお、あっけなく全域で阻電攪乱型の雲が払われてしまって露呈した模様。
ここからは時間勝負となります。
最終更新:2023年09月17日 17:09