643: 弥次郎 :2022/05/11(水) 23:19:00 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- 星暦恒星系 星暦惑星 衛星軌道上 地球連合軍星暦恒星系星暦惑星派遣艦隊
地球連合軍が用いる外宇宙用の宇宙艦艇にとって、軌道上から大気圏内への攻撃などはそう難しいことではない。
殊更標的が街一個分という巨大なサイズを誇る発電プラント型や、それに準じて大きな自動工場型など軌道上から見れば大きすぎるほどに。
そしてこの星暦惑星の大気やその成分、層の厚さ、風の流れ、その他もろもろの要素をすでに測定し終えている。
そういう前提条件であるならば、衛星軌道上からの対地砲撃などいくらでも手段がある。
そして、地球連合軍の艦艇はその船体に搭載している巨砲を回頭させ、その力を解き放とうとしていた。
その行動の理由はごく単純。一分一秒さえも惜しいほどに、その力が欲されたからだ。
コクーン・イミテーション。列車砲型のレギオン「コクーン」の模倣と思われる個体の複数同時確認と動きが確認されたためだ。
その能力が不明なことが、逆に地球連合軍の行動を急がした。その能力が弱いものだった場合はまだマシであろう。
とはいえ、最悪の可能性も考慮しなくてはならないのもまた事実であったのだ。たとえ一射でも許せば---その対価が高くついては溜まったものではない。
とはいえ、衛星軌道上にいた艦隊が即座に動けたのも、策定されていた予備プラン---艦艇を軌道上から降下させての強襲---を検討していたためだった。
つまり、指示一つあれば動ける状態であり、主機関等はすでに戦闘出力で、いつでも戦闘に耐えうる状況にあったのである。
その結果、指示が飛んでから2,3分と経つことなく実行に移されたのだった。
『船体、回頭完了!』
『砲塔旋回終了』
『自転速度、相対速度合わせ!』
『出力、大気圏突破出力に上昇!』
『射線軸固定、誤差修正マイナス8!』
『標的、発電プラント型および自動工場型レギオン』
『発射!』
そして、ビームが地表へ放たれた。
決してそれは一条だけではない、展開していた各艦が間に合うだけの砲塔を向け、一斉に放ったのだ。
地上を無造作なまでに力で焼き払うのとは違う、精密で繊細な、そして大胆な砲撃。
天上からの裁きの光が、レギオンを焼き払ったのだった。
- 星暦惑星 地表 「オペレーション・スカイフォール」作戦エリア
レギオンには衛星軌道上からの攻撃を防ぐ手段はない。
そも、衛星軌道上からの視線を防ぐために阻電攪乱型の雲を展開したとはいっても、それは決して防御ではなかった。
光学測距やレーダーなどを欺瞞することによる照準を合わせることができなくさせるという間接防御でしかない。
極論を言えば、地表の被害を鑑みなければ、地球連合は該当地域のレギオンを衛星軌道上からの釣る瓶打ちで殲滅もできただろう。
それをやらなかったのは、偏に新型のレギオンの能力を調べるためであり、地表の国家の仕事を奪いすぎないためであった。
逆に言えば、それくらいしかやらない理由はなかったのだ。
『おい、シン!あれを見ろ!』
『上から光……?』
『さっきの爆発といい、次は何を繰り出してきた!?』
そしてその光景は、MT隊に交じり交戦していたエイティシックス達の目にも映っていた。
MAP兵器であるヘリオスの群れの炸裂で強制的に快晴にされた戦場に、次は天空から降り注ぐ光の柱だ。
一応作戦内容を通達されている彼らにとっても、それは予想外であった。そんな中にあって、シンだけは冷静だった。
『軌道上からの援護砲撃……予定にはなかったけど、何か別なことが起きたんだな』
シンの異能は、唐突に増えた「声」を捕らえていた。
ヘリオスによって阻電攪乱型の雲が払われた直後から、静かだったレギオンが一斉に騒ぎ出したのだ。
まるで、予想外の事が起きて混乱してしまったかのように。これまで従軍してきたシンをして、初めての経験だった。
『多分戦局が動くぞ』
そして、シンの予測は当たった。
快晴の空を、多くの機影が駆け抜けていったのだ。
644: 弥次郎 :2022/05/11(水) 23:19:40 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
結論から言えば、コクーン・イミテーションの周辺にいた発電プラント型および自動工場型は次々と大破炎上した。
艤装工事を行っていたり、あるいは稼働に必要な電力供給を行う個体を喪失したことにより、イミテーションはその動きをほぼ止めざるを得なかった。
加えて、着弾の際に生じた破壊、さらにはビームの保有する膨大な熱量により炸裂した空気と大地と震動が、レギオンを等しく襲った。
それらは致命的な一撃にはならなかった。それでも、動きを止めざるを得ず、あるいは軽微ながらも損傷をもたらしたのだった。
さらには、狙撃された発電プラント型と自動工場型が被害を受けて破壊されたことで、それらがまるで破片効果をもたらす爆弾となったのも大きい。
ただでさえ多種多様な機材を詰め込んでいる個体が爆発したのだ、その効果は非常に大きなものとなった。
それらはレギオンにとっては被害ではあっても、致命的なモノとはならなかった。
元より交戦を想定し、頑丈に作られているのがコクーン(モルフォ)であり、そのイミテーションなのだから。
即座に自機の状態のチェックを行い、被害状況を確かめ、自らができることを探り始める。
人間ではない、機械的な制御であるからこその混乱や錯乱などがなく、感情的になることなく講堂で斬るのはAIの強みであった。
だが、少なくはない時間が稼がれてしまい、その間に接近を許すこととなったのだ。
即ち、直前になって標的が変更され、さらには緊急発進となったものの、駆けつけたTMSの編隊であった。
それは、かつてヴァン・セイバーと呼ばれたハイエンドTMSをベースとしたTMSのセイバー・ガスト。
大西洋連邦の航空機型TMSのパイロットのエースが満足したそれを量産化し、協同で採用しているMSであった。
『よーし、イミテーション07を補足!』
『まだ生きていますね!』
『生きていてよかったもんだぜ……エリス・リーダーより各機へ。このまま鹵獲へ移行する。
2,3,4は俺に続け、イミテーションの武装の破壊と動きの抑制にかかる。パラライズバレットとトリモチを用意しておけ!』
『イエッサー!』
『残りは周辺のレギオン共を排除だ。ジャミングも張って、「中身」を逃がすなよ!』
『任せてください』
『ようし、各機、かかれぇ!』
そして、8機の編隊の内半分は周辺のレギオンへ、残りがMS形態に瞬時に変形するとイミテーション07へと取り付く。
周辺のレギオンも、当然ながら現れた敵機に対して攻撃を仕掛けようとしたが、相手が悪かった。
カタパルトから射出されて、その速度を保ったまま速力をさらに叩き込み、戦闘エリアに入ってきたのだから。
当然相対速度は余りにも酷く、展開していた強化対空自走砲型や対空レーザー自走砲型などの攻撃をあっという間に振り切ってしまった。
来るということは分かっていても、旋回や砲弾の速度が追い付かないならば、全く意味がないのだ。
加えて、セイバー・ガストはそれぞれがテスラドライブによって形成されたブレイクフィールドを展開して、躊躇なくレギオンに吶喊したのだ。
それはもはや衝突ではなく、一瞬の切断であった。動きの遅いレギオンたちが、反応さえ許されることなく次々と破壊されていく。
『-----』
イミテーション07の中央処理装置は、即座に自衛に移った。
搭載されている近接防御用にも使える火器である、40㎜ガトリングキャノンとロケット弾を周囲の味方への誤射も気にせずに全て解放。
さらに発電プラント型から制御を受け取った射撃子機型を多数展開し、敵を追従させて攻撃を開始。
とどめとばかりに近寄ってくる機体めがけて近接格闘用導電ワイヤーを飛ばし、動きを止めようとした。
イミテーション---モルフォの試作型(プロトタイプ)として開発されているがゆえに、その火力や能力は劣る。
しかしながらも、その殺意は決して劣るものではなく、危険であっただろう。MSが相手でなければ。
『コイツ、レーザーを撃つ子機まで!?』
『落ち着け、ビット兵器みたいなもんだ!この低出力じゃあ抜かれるほど弱くない!』
そう、相手が強すぎた。MSという兵器は、レギオンの想定以上に強い兵器だったのだ。
レーザーの出力は装甲やEフィールドを貫通するには足りなさ過ぎたし、その手の攻撃は慣れっこ。
ガトリングにしてもたかだか40㎜というものでしかなく、MSの防御力を破るにはあまりにも貧弱すぎたのだ。
645: 弥次郎 :2022/05/11(水) 23:20:38 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
そこからはもはや鳥葬の有様だった。
ガトリングを回避し、射撃子機型の射撃を回避して逆に撃墜。抵抗のように放たれる導電ワイヤーはビームサーベルによってあっさりと切断される。
懐に入れば、一番の懸念であるレールガンの砲身が半ばからビームサーベルで切断され、必死に抵抗するガトリング砲も沈黙させられる。
あるいは、離脱を選ぼうとして足を動かそうとすれば、即座にビームサーベルかトリモチランチャーで切断されるか動きを阻害され、擱座を余儀なくされる。
『-----』
だが、それでもイミテーション07の中央処理装置は、羊飼いはあきらめない。
距離があるものの、残存している味方への救援を飛ばしたのだ。相手のジャミングはきついとしても短い信号くらいならば飛ばせる。
それに応え、近くに潜伏していた子機輸送型(ネスト)の集団が動き出した。その腹の中から、大量の子機を飛ばしたのだ。
即ち阻電攪乱型や射撃子機型を展開し、一斉に襲い掛からせた。これだけの数ならば、と。
そして、無事な脚部を動員することで動きを継続しようとしたのだ。
『諦めの悪いやつだな……!』
だが、それは状況の打破には至らない。
装甲がはぎとられ、砕かれ、次々と武器を奪われ、トリモチを叩き込まれていくことで、動きがどんどん鈍化していくのだ。
そして、必死に集めた子機輸送型や戦車型などもあっけないほど簡単に蹴散らされていく。そのビーム兵器の火力は容易く焼き払ってしまうのである。
『隊長!解析結果、来ました!』
『よくやった!各機、パラライズバレットをぶち込んでやれ!』
そして、本命の武装が顔を出す。
シールドに懸架されたMSのライフルによく似たそれ。
装甲を貫通するための鋭い先端部とカードリッジを搭載したそれこそが、マイクロマシンをたっぷり搭載したパラライズバレットだ。
『-----』
羊飼いは本能的に、それから逃げようとする。何故だか自分にとって致命的とわかったから。
だが、残酷なまでに、もはやどうしようもなかった。
最悪の手段---自爆も考えたが、そのコマンドを実行しようとするよりも相手が速い。
『-----?』
その武器が自分の体に突き刺さったのが分かった。
だが、それがどこか遠いことのように感じる。突き刺さった箇所はわかるのに、そこから情報が届かないのだ。
『ほらよ、もう一発!』
さらにセイバー・ガスト達によってパラライズバレットが撃ち込まれていく。
それは着実にイミテーション07の機体に張り巡らされたマイクロマシンによる電子回路や中央処理装置に侵入し、役割を果たしていく。
即ち、行動の鈍化と信号伝達の阻害、さらには強制停止信号の打ち込みであった。撃ち込まれるたび、身体がマヒしていく。
思考も定まらず、動きができなくなる。それでも足掻こうとして----ついには停止した。生きたまま、眠ってしまうように。
『-----』
やがてイミテーション07の羊飼い---元々はエイティシックスだったその中央処理装置は、ついにすべての処理を停止させた。
機械の体に押し込められ、ずっと眠ることなく戦い続けるようになってから、初めての安らぎさえ覚えて。
意識が暗闇へと深く深く、落ちていくのを感じた。
斯くしてイミテーション07は、地球連合の目論見通り、大した行動を起こすことさえ許されず、鹵獲されることとなったのだ。
646: 弥次郎 :2022/05/11(水) 23:21:31 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
筆が乗ったので。
細かい設定は追々。
最終更新:2023年09月17日 17:11